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暗躍する影

 今回は短いです。ついでにもしかするとグロかもしれません。といっても作者的にはこれはまだグロじゃないと思うんですが

「原因、ねえ……魔王の攻撃でイータが崩壊したという点のみを考えたら魔力が暴れまくることは予想がつくんだが、それが逆に一気に沈静化したっていうのなら心当たりは無いな……」

「むむ、やはりそうか……」


 いくら原因について話そうと思っても、そもそも異常のこと自体、知らない雪人からすれば話せることは何もない。真剣そうなロウロウの質問にお答えして、それなりに真剣に答えてはみたが、真面目に答える気もない。その返答に途端に肩を落として、柱を落とすロウロウ。尻尾が力なく垂れているところを見ると何か悪い気もしたが普通に気落ちしてもらった方が気分的にも清々する。

 とは言え、作業が滞るのも面倒なのですぐに代案を出した。


「ただ、予想でいいんだったらいくつか考えはある」

「というと?」

「一つ、何かの生き物が爆発的に発生する前兆。二つ、何かの存在が森の中に細工した可能性。三つ、研究所の奴らの内の誰かがこっそりと様子を見に来た可能性。まあここら辺が一番ありそうなところだな。まあ、俺の言葉を信じていいのかどうかも結構問題になるだろうし、明確な情報が無い以上は何も言えないが」

「ううむ……。やはりそうなるか。となると是非とも森の中を良く知る人物の協力が欲しいのだが……」

「俺はやらんぞ。ここまでのことをやっといて協力しろといわれても従う義理が無い。精々自分の短慮を反省しておけ」

「ぐ……分かった」


 ここにきて、雪人に援助を強制することはできないということは流石に悟っていたらしい。まあ、筋肉馬鹿にも筋の通った話は通じるということだろう。


 というかこの町の竜人たちは普通に理知的に話ができるのに、なんでこの劉術のところだけこんなに馬鹿が多いのだろう。町へ行くと挨拶を普通に返してくれる老人とか、八百屋で野菜を打っている店主の息子の若者とかまともな人たちも結構いるのに、一部の竜人のせいで台無しである。


 聞きたかったことも聞いたし、あとは手伝う義理もない。柱も丁度二十は地面に突き立てておいたのでここらで切り上げてもいいだろうと、別れを告げて雪人は帰ることにした。


「おーい、シャルク。そこの犯人はほっといてそろそろ戻らないか? そういえば飯を食べてなくてお腹も空いたんだが」

「犯人ってあんまりな言い草だ!」

「それもそうか……じゃあ師匠、次に話し合う前に喧嘩したら今度は一か月食事炊事洗濯当番なので覚えといてね」

「ええ!?」

「増やしたい?」

「……いいえ」


 二人の話し合いも終わったようなので、三人で流術の道場に歩いて戻ることにした。


 後日、髪の毛を剃って土下座しに来た阿呆二人とロウロウを見て、あまりの態度の変化にシャルクが微妙な表情になったのはまた別の話。

















 シュール・ロームの中でも深く深い奥の場所。

 峡谷の間の日の当たらない場所において、ひたひたと裸足であるくローブを纏った一人の人間がいた。

 体は酷く小さく、年齢的に見ても未だに幼いという形容がぴったりな人物だったが、口元に刻まれた酷薄な笑みが妙に目立ち、それが子供ではあり得ないような妙なずれを感じさせた。


 その人物はつっと足を止める。その足元には特大の魔石が転がっており、それを白い手袋をはめてゆっくりと拾い上げる。


 それは最近になって開発された、本来は魔力が圧縮することでできるといった既存の魔石とは違う、魔力を自発的・・・に空中から引き寄せ、蓄積する特殊魔石。


 とある一人の天才異世界人が開発した自然の理を歪める代物。


「――――っとふう。全くよくもまあこんな仕事を増やしてくれたものだよ」


 あの魔王とかいうイレギュラーは。と悪態をついて口から出た声はその外見相応に高い声だ。しかし、その口調、アクセント、その他声を構成する複数の要素が言葉から子供っぽさや、無邪気さというものを失わせていた。


 そのまま子供は森を歩き、一方向のみを向いてどことも知れない場所を目指す。迷いは無く、道中襲い掛かってくる魔物は空中に円錐上の巨大な棘を構成して瞬殺する。

 そして、廃墟になった研究所にたどり着いた。

 

 研究所はところどころ壁や天井が壊れており、半分以上が露出している。外に撃ち捨てられたようになっている騎士や魔導士の死体の多くは白骨化しているものや一部が何かに齧られたような跡のあるものが多かったが、その中でも一体だけ、顔まで判別できる状態で地面に倒れている騎士がいた。

 子供はその顔を見て、ひとりごちる。


「ふうむ……元序列騎士第八位ヴァロア・シューゼン……一体どうしてこんなところで死んでいるのかな? それよりも死んでいるのに鎧のおかげで魔物に食われ切っていない事を驚くべきか。いやはや」


 死体の散乱する凄惨な光景を見ても、その声には怯えや悼むといった気持ちは一切感じられない。むしろ興味深いとでもいうようなひどく独善的な感情しか読み取れない。


 仕方ない、と言いたげにそこらへんに白い紙を人型を切り抜いて作った紙人形をばら撒いた。ばら撒かれた紙人形は、すぐにその薄い二本足ですっくと立ち上がり、辺りの地面に沈んでいく。


 しばらくして、地面からはボコッととでも形容すべき音とともに白い腕がいくつも飛び出してきた。それが土をかき分けて、出てきたのは土塊を集めてできた白人形。


 成人男性に似た体格をして、しかし顔の存在しないのっぺらぼうを周りに侍らせる子供の様子は異様の一言に尽きたが、それを見るのはこの場には死体しかいない。


 のっぺらぼうはまちまちに子供の方によっていき、皆頭を下げて恭順の姿勢を示す。


「おお、ご苦労」


 子供はそう呟いた後、手元から細い光の発光体を蛇のようにくねらせてのっぺらぼうの頭の耳に当たる部分に通していく。人間でいえば脳に当たる場所を蛇が貫通していくたびに、その個体は体を痙攣させ倒れ込むが子供は意に介した様子を見せない。


「ふむふむ」「ああ、なるほど」「ここはこうなって……」


 そんな言葉を呟きながら、蛇を休ませること無くのっぺらぼうの頭を貫いていく。約十体に及ぶ白人形を蛇で刺した後は蛇を逆方向に進行させ、ずるっと音を立てて引き抜いた。

 そして片手間に作った棘を繰り出して白人形を粉々に砕き、土に穴をあけてそこの中に埋め込んだ。


「大体は分かったね。ここでいったい何が起こったのか」


 大した手間じゃないとでもいうように手をパンパンと叩いた後は、今度は倒れ込んでいるヴァロアの死体の前まで歩いて行った。


「ヴァロアく~ん。君は一体何を油断して死んでいるのかな? 栄光あるウェイン神聖王国第八序列騎士としての誇りを欠片も持っていなかったようだね。残念でたまらないよ」


 死者を鞭打つような罵倒をしても、勿論反応があるわけがない。しかし子供はそんな当然の分かり切ったことに興味など持たない様に、次の道具を懐から取り出した。

 それは、生まれたての精霊の涙とそれを使用する存在と同じ種族の百人の命を使って作られる、冥府に行った魂と体とを強制的に結び付ける大陸では第一級禁制を掛けられた薬。

 主に、子供の属する組織への反逆者や犯罪者を生贄にして作られた下法の品。


「というわけでお仕置きね」


 そんな見るのも聞くのも憚られる危険な薬を、一切の躊躇いなくヴァロアの上に振りかけた。ヴァロアだった死体には、その肉体に最も相応しく、相性のいい魂が再び宿りなおす。

 強引に生の世界に引き戻した激痛と一緒に。


「があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

「あ――――っはっはっはっはっはっはっは!! いい声で啼くねえ!!!」


 一度死の世界に戻った死人の魂は、生の世界に定着することはない。それを強引に引き寄せてかつての肉体へと結びつける以上、薬を受けた者は、世界の理に魂を削られる激痛を味わうことになる。


 しかも、戻ってくる肉体は既に死んだ腐りかけのものだ。体を激痛に動かすたびに腐り落ちて体内が崩壊していく。腕を動かせば上腕の筋肉が断裂し、足を動かせば太ももの筋肉がちぎれてしまう。身じろぎひとつで体を複数のナイフで切られるような激痛にヴァロアは叫び続けた。


 ややもすれば唐突に声は聞こえなくなった。腐りかけの声帯と舌が、突然の絶叫に耐えられなくなり、腐り落ちたからだ。


 もう悲鳴を聞くこともできないと分かった子供は、このままもう一度死んでもらっても困るので影と肉体の統合性を利用して、影と同じ形を物質に反映する闇属性の回復魔法シャドウ・リジェネレーションを掛ける。


 子供の足元から影が不自然に伸びてヴァロアを包み込み……影がヴァロアから離れると、そこには四肢の欠損のないヴァロアが五体満足で倒れていた。

 そのまま身を起こしたヴァロアは、自分に魔法をかけた子供の方を向いて、疑問を覚え、自分が一体どうしてここにいるのかを思い出そうとする。


「貴様は、一体……俺はそう言えばどうし……ひっ!! く、くるな死神」

「死神?」


 もうすでに苦しむ姿を十分に堪能した後はまともに会話が出来るように痛覚をマヒさせるようにして闇魔法パラライズをかけていたので、彼の反応は一部正しい。だがヴァロアが意味のある言葉を話せたのかと思えば、すぐに彼は錯乱したかのようにどことも知れない虚無を見据えて怯えて地面を後ずさっていく。


 子供は、その言葉にあった意味の分からない死神という単語に興味を惹かれたが、ヴァロアが一切の反応を返さずに自分の言葉を無視する形になったことが気に障ったようだ。

 

 再び足元の影が伸び、今度はヴァロアの耳から頭の中にグネグネと侵入した。ビクンっと一度だけ大きく体を痙攣させ、彼は虚無を見て怯えていた瞳からまさしく虚無そのものの瞳へと成り下がる。


「いやあ是非ともその死神君のことを、いや、死神ちゃんなのかな? 聞いてみたいなあ。これはめ、い、れ、い、だよん」

「はい、わかりました」


 無機質な声。仮初めとは言え、先ほどまで人間らしい意思を持っていたヴァロアの精神が崩壊し、完全な洗脳化に置かれたことで起こった変化である。洗脳された時に恐怖や欲望といった一切の感情を感じる部分を上書きし、子供に対する忠誠心のみを植え付けたことで、今のヴァロアは子供の望むように行動し、子供の利益になるようにしか行動しない人形と化した。そして変化した彼は、子供の望む通りに自分の死の瞬間の記憶を話し始めた。


 時間にしてはさして長くも無い邂逅であったが、ヴァロアの体感としては永遠を思わせるほどに長い戦い。最初に彼が油断して魔法を完全に使わなかったことや、冷静さを欠かされて判断力が鈍り、最終的に敗北したことまでを事細かに話していく。


「ふうん。大体は分かったよ。その無能の異常性も、君の無様さが増していたことも」

「申し訳ありません」


 話を聞き終えた子供は酷薄な笑みをますます歪め、いたぶるようにヴァロアに感想を漏らす。それを聞いたヴァロアは生前の傲慢さはどこへやら、謝罪をする必要も無いのに素直に謝罪して、騎士の礼儀に則って頭を下げている。


 ヴァロアの仕草に満足したように子供はにたりともう一つ嗤った後に、跪くヴァロアの周囲をてくてく歩きだした。


「ただまあ使えないわけじゃない。竜人国への楔代わりに我々の主の真の敵である古龍神の先兵を削るための手駒の一つにはなれるだろう。奴らはこの世界に同化した存在。恐らくは色を媒体にして繋がっているはずだから、光と闇系統の魔法じゃないと使役までは出来ないね。ということは僕が作り出す新しい人形はそれを特性にした奴にするかな? 誘い出しを行っているから時間もないし、さっさと魔法陣も描いておこう」

「了解しました」


 ポンポンと騎士の肩をたたいて、「頼んだよ」と告げた子供。

 そして騎士は一陣の風を起こして森の中へと向かい、次の瞬間に姿を消す。


 残った子供は、自分が何もしなくても後始末をやってくれるちょうどいい手駒に残りの仕事を任せ、地面に転がって眠ることにした。


 子供の使う魔法の中で、棘を出す魔法はまだ秘密です。「この魔法だけ説明してないよ」といわれても、計算した結果なので入れ忘れというわけではありません。


 そしてしばらく不定期です。

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