ドワーフの鍛冶屋3
伸びてしまった……こんな予定では無かったのに……
ドガァァァン!!!
「げほっげほっ。これ自分の魔力を使わないで発動できる攻撃力としてはおかしくないか?」
「それを振り回せたお前もお前だろう」
「……もう私、雪人のことで何があっても驚かないわ」
三者三様の会話をしながら、雪人は寄ってきたイータ人形の頭を撫でてやる。
イータとのすれ違いを多様な会話と熱心な土下座の敢行によって克服した後、雪人とシャルクとイータの三人で、劣化型魔剣という武器の性能を確かめるために奥の方で作業していたミルの協力を得て、広い庭で藁で作った人形に向かって、土の魔剣”砂塵”を使った固有の魔剣技である”礫槍”を自分の物理衝撃と地中を伝う魔力を利用して疑似的に発動し、威力を確かめる実験を行った。
結果は、前方の藁人形に剣を突き刺したところからいくつかの土で出来た槍がいくつか飛んでいき、藁人形をあっさりと貫いて、その後地面と衝突して見えなくなるほどの土煙を起こす攻撃を発動することに成功。ただ、威力がありすぎたせいで辺り一帯に土煙が立ち込める。
「やっぱりもう少し収束とかをうまくコントロールできるようにしないと駄目か。それに発動に時間がかかりすぎる」
雪人は今しがた長剣の各所を自分の手の甲と指の骨を使って衝撃を与え、それによって魔剣の魔力を活性化させた後にうまい具合に地中に流れていた魔力の流れの淀みとなるところに斬撃をぶっ放して剣の魔力を解放したのだ。発動の前準備として魔剣の活性化に使った時間が二十秒。威力をもう少し抑えたならば、更に半分くらいの時間で礫槍を発動することも出来そうだったが、
「それだけじゃないだろ? 多分魔剣に宿っている魔力も随分と消費しているはずだ。久しぶりの攻撃でこんだけの威力のある攻撃をぶっ放させられればな」
そう言ったミルが雪人に確認しろとでもいうように顎をしゃくる。無論、雪人とてそれくらいのことは言われなくともしっかりと認識していた。今の一撃は魔剣のおおよそ三分の一の魔力を消費していたのだ。しばらく鞘の中で休ませていれば周囲を流れる魔力を自分の魔力として還元する効果も持たせているらしいが、回復には一晩は必要だろう。
一方で魔剣の状態を認識できていなかったのはシャルクだ。獣人は、種族的特徴として保有する魔力量が少なく、感知機能には優れているということだったが、まだ幼い彼女にとって、物質の内部に宿る魔力を遠距離から感知するといった高等技術はまだまだ難易度が高いのだろう。
ちなみにイータは魔力を大量に保有しているが、魔力を食べるという性癖上、魔力の匂いには敏感なので感知を失敗することもない。まさに、矛盾の権化といえるだろう。
「というか、魔剣の魔力を解放しただけでここまで派手な威力が出るものなの? さっき近くで見せてもらった魔剣は確かに魔力がそれなりに籠っていたけれど、今の威力を出すんだったら少しばかり魔力量が足りないと思ったわ」
二人が魔剣の攻撃についての長所と短所を論じている間に、シャルクが今の威力に疑問を呈する。確かに彼女の言うように、魔剣に込められていただけの魔力であれば通常はここまでの威力になることは無い。
これを説明するには、雪人の開発した疑似魔闘技について話す必要があるのだが――――まあいいだろう。聞いたところですぐに真似できる技術でもないし、ミルの方に顔を向けると彼女は既に種が分かっているようだ。態々隠す必要性もない。
そこで雪人は、自分の開発した疑似的な魔闘技について説明する。本来は自分の魔力を武器に宿らせて、それを空間に存在している魔力と共鳴反応を起こすことで超常的な威力を発揮する攻撃方法”魔闘技”。それを自分の魔力がない代わりに、周囲の魔力の流れを注意深く読んで予測し、魔力そのものに伝える物理衝撃一つで魔闘技に似たような事象を引き起こす疑似魔闘技。性能的には勿論、魔闘技の遥か下に位置する技になるので別にばれても問題はない。
その説明を聞いた二人は、それぞれ納得と不満を顔に出した。
「なるほど……雪人がたまに信じられない威力の攻撃を放ってたのはそういうことだったんだ。そういえば、故郷で魔闘技を極めている人の中には、自分の魔力をほとんど消費しない癖に威力だけは信じられないほど強いっていう人を見たことがあったわ……」
「というか雪人。その技に名前つけてないのかよ。これだけのことができるんだったら。もうこれは一つの技術として確立できると思うんだが」
シャルクの話は後でじっくり聞かせてもらうとして、先に苦々しげな口調で不満を垂らしたミルの方をどうにかしておくことにした雪人。ぶうぶう文句をたれている方を先にどうにかしないと落ち着いて思考もできないからだ。
「名前って、もうあるんじゃないのか? シャルクが言っていたように、同じような方法で威力を強化している奴だっているようだし」
「アホ言え。自分の魔力を使って周囲の魔力を引き込むのと、魔力無しで周囲の魔力を増幅するのは根幹からして違うじゃねえか。そういった新しい技術っていうのは、名前をつけて自分でそれを強く認識しておかないと威力を発揮できないんだよ」
「なんだそのこじつけ」
やれ決めろ、さっさと決めろ。そんな風にせかされて雪人の頭に登るのは「無剣術」だの「零剣」だの自分でもないなと思う名前ばかり。彼にネーミングセンスを期待してはいけないのは、かつて自分に寄ってきた猫に「氷砂糖」とあだ名をつけた時から決まっていたことだ。イータという名前でさえ、彼からすれば奇跡である。
そんな困っていた雪人に助けの手を差し伸べてくれたのは、今の今まで一人思考に没頭していたシャルクだった。
「だったら「奇剣術」とかどう? 魔力も使わないのに、奇術みたいに魔闘技を発動して敵を翻弄するから奇剣術」
「お、それいいな」
「採用だな」
なかなかのネーミングに一も二もなく飛びついた雪人とミル。どうやらこの瞬間、疑似魔闘技は奇剣術として名前を残すことになったようだ。
「え、ええ!? ちょっと早すぎない?」
あまりの飛びつきっぷりにシャルクもちょっと動揺していたが気にしない。素でスルーしたミルと、次なる問題を考えて悩み始める雪人。今度の彼は、この魔剣を結局どうするかということだった。
「奇襲の時に使うか、火力が特に必要な時だけ使うか……後者はともかく、前者は先に魔力で感知されて意味がないな……使いどころも難しいな」
そもそも、空間中に存在している魔力の流れの集合点に、魔力に高い割合で物理衝撃を伝えることのできるイータを振るって発動する疑似魔剣技――――奇剣術がある限り、火力不足ということも早々ない。
試してみて分かったが、劣化型魔剣というのは思ったよりも使いづらい武器だった。
ただでもらえる以上、雪人としてはもらっておきたい。しかも、使える人間がおらず倉庫に眠りっぱなしというのだったら尚更だ。だが、そのために自分に必要のない武器を携行するのは戦力的な観点からも戦術的な観点からも非常に危険である。いっそのこと予備として持っておこうか、しかし邪魔になるだろうし、そんな悩みにとりつかれて再び立ち尽くす雪人。
「まあ、他にもいろいろ武器はあるし、全部試してからいいのだけを選ぶっていうのもありなんじゃないの?」
「そうだな。幸い時間はまだあるんだ。錆び落としついでに全部試していけ」
「……それでもいいか」
こうして雪人は、他にもあった武器、全二百六十三の魔剣を一日ですべて振るうことにしたのだった。
シャン、シャン、キンッ、カンッ……断続的に、硬質な音が辺りに響き続ける。
音の正体は、度重なる訓練の結果硬質化した雪人の体の拳や膝といった部位と持っているハルバートとでもいうような斧槍がぶつかり合うことで発生する衝撃音。
両手で斧槍を支え、動かし、回し、しならせる。その要所要所で、自分の膝や拳といった堅い部位で斧の腹の部分や柄の部分に的確な打撃を加えていく。
まるで優雅に舞うように踊り、動き続けたことで出た汗をあたりに散らしながら、一心不乱に斧槍との舞を広げていく姿には、極限の集中力によって発揮される力強さと野生の本能が見え隠れする。一年にわたる森の生活によって肩ほどに伸びていた髪は汗を吸って更に長く見え、それを振り乱して踊る姿は見る物に鬼気迫るものを感じさせる。
現に、それを見ていたシャルクの体には鳥肌が立ち、尻尾の毛が逆立っているし、イータの方は最初の方は木人形の腕をぱちぱちと鳴らしていたのに、今では両手を合わせて拝んだような姿勢のまま動くことを忘れている。
彼女たちの見ている前で、次第に舞の速度は上がっていく。
多少しなったかな、と思うレベルから、見るものが迷いなく歪んでいると判断できるほどに斧槍が曲がった時、雪人はそれを自分の後方に水平に構え、一息に前方に振りぬいた。
振れれば宙を舞う木の葉でさえ真っ二つになるであろう豪快な横薙ぎ一閃。左から右に振りぬかれた斧槍を右手一本で最後に構えて残心する。
そして残心する雪人の十メートル先、中級土魔法ガイアウォールによって地中の土を極端に固めて作った岩の防壁の高さ一メートルほどのところで左の方から右の方にかけて一筋の線が刻まれて――――土の防壁は、上下にスッパリと分かれてしまった。落ちると同時に地面に突き刺さる壁の上部を見れば、ガイアウォールの強度も窺い知れる。
そんな風に岩の壁を真っ二つにした雪人の方は、対してそのことに胸を張ることもなく、今の威力で納得がいかなかったのか首をかしげて何度か先ほどの動きを繰り返していた。
「雪人~。今度は一体何が気に入らなかったの?」
先ほどから、自分の想定道理の威力や効果範囲を出せなかった時は雪人が何回も繰り返して動きのトレースをするので、今度は何だろうとシャルクが疑問に思って尋ねてみる。
最初の魔剣発動にかかる”舞”の間は、極端な集中によってこちらの声も聞こえていなかったが、一旦舞が終われば話を聞くくらいの余裕は出てくる。雪人は、斧槍を両手を使って重心を確かめるように振り回しながらそちらを見ずに答えた。
「最後の振り抜きの悪さと、その前の発動準備で手間取りすぎた。慣れてないとはいえ、これじゃ使えない」
感想を交えない端的な返答は、その分彼が集中している証である。意識のほとんどは今の動きの修正と改善に向かっており、その集中力は目を見張るものがある。
ただ、今のが夕方から続く劣化魔剣のお試し会の二百六十本目であり、辺りも暗いし、夕ご飯も食べていないので、待っている二人は退屈である。イータなどはそこらへんの地面をゴロゴロ転がっている。
「ねえ。そろそろ帰らない? お腹空いたでしょ?」
「ああ。後三本終わったらな」
「駄目だ。聞く耳持ってないし」
イータがせがむように雪人の方にジェスチャーしても、「後でな」といってやんわりと戻してしまう雪人の頭の中には、もうすでに残り三本の武器をどのように振るうかということしか頭にないのだろう。
スタスタと木箱の方に近づいて、残りの武器を確認する雪人。残っているのは、先端が信じられない重量に達する鎖つきの鉄球と、両端が口を開けた竜をかたどっている漆黒の棍、そして魔力の流れも魔力の貯蓄も感じられない一本の刀である。
鉄球、棍棒、刀の順番で、怪怒、龍顎、薄晶というらしい。入れてある箱に名前が書いてあった。
取り敢えず一番楽そうな刀を手に取って抜いてみようとして――――刀を鞘から出せなかった。
がっちりと、錆びているんじゃないかと思うようなほどの強さで刀と鞘は一緒のままだった。魔力か何かで封印でもされたのかと思って確認したが、そういう様子もない。刀も鞘も、魔力の無い普通の武器にしか見えない。
何で抜けないんだ? しばらく考えながら挑戦を続けたが、一向に抜ける気配はない。
「お~い。来たぞ。飯作ったから食っていけ」
「あ、ミルさん。ありがとうございます」
「ほれ、お前にはこの使えないレベルで魔力の残った屑魔石をやる。魔力であればこれでも十分に栄養になるんだろう?」
ミルさんの渡した木箱の中身に大量に詰まっていた魔石を見て、飛び跳ねて喜ぶイータ。魔石も魔石でなかなかの美味しさということらしい。
そのままミルさんはこちらを見て、「中に入れ」と手招きをしてきた。断る理由もないのでそちらに行く。
「すまないな。俺たちだけじゃなくてイータの食事まで面倒見てもらって」
「気にすんな。どうせいつも一人で寂しく食べてんだ。たまにはこういうのもいいだろう」
そんな会話をしながら、狂喜乱舞して魔石を食べていたイータをおいて、三人で店のカウンターテーブルの方に向かう。鍛冶屋なのに、客が来るスペースで食べたりしててもいいのかと聞いてみたが、どうせ人は来ないと返されてしまえば何も返すことはできない。
「うわぁ……」
「まともな食事とか久しぶりに見たな」
そこに並んでいるのは、猪肉を香草と合わせてこんがりと焼いた丸焼きにキャベツのような野菜を千切って彩を加えた大皿。でかい鍋に具材は何をいれたのか、とろっとろになるまで煮込んで原型を辛うじてとどめてはいる素晴らしくおいしそうな白いスープ。新鮮な魚を包丁によって薄くスライスして一枚一枚丁寧に皿に並べてある刺身。よく分からない形状だが何とも香ばしい匂いを放つ揚げ物。はっきり言って作りすぎじゃないかと思うほどの大量の御馳走に、我知らず二人の若者はごくりと唾をのみ込む。
特に、先ほどまで激しい運動をしていた雪人の方は、今にも飛びかからんばかりに御馳走に目が釘づけだ。
「おいおい、まずは座れよ。二人とも落ち着け」
そう言って勧められた椅子に素直に座る二人。重ねて言うが、目線はご馳走に釘付けである。
ミルはそれを見て、このまま待てを一体何時間できるのかという悪戯心に駆られたが、ご飯が冷めるのは拙い。なので、その極悪非道な所業を行うことなく早々に号令をかけた
「それじゃあ食うか」
「「はい!!」」
祈りにも似た合掌の後、三人は獣になった。
「これ美味いな! いったい何を揚げてるんだ?」
「それはスライムの亜種の、フライムっていう魔物を捕まえて、核を解体した物を約百八十度の植物性の油で長時間揚げたものだ。美味いだろ?」
「ああ。全くうますぎて手が止まらない」
「あ! ちょっとそれ私も食べる!!」
ワイワイ、ガヤガヤ。三人は時に互いに分けあい、時に同じ食料を奪い合いながら、愉しく食事に従事していた。
時折話していた内容は、料理の材料や調理方法であり、時に本当に食べられるのかというようなものを調理しているのを聞いたときは、雪人も過度のリアクションをとって驚きを表現した。実際は、高まりすぎた高揚が彼の反応を無意識下で大げさにしていたのだが。
そうして料理の話が終わると、自然と話題は今日試した武器について到着していく。
「そういやどうだった。気にいった武器はあったか?」
酒をしこたま飲んで、既に顔が真っ赤になっているミルを見て倫理観が一瞬心の奥底にもたげたのを努めて無視する雪人。彼よりも年上の女性に対し、見た目が幼いから酒を飲むな、なんて言えばどうなるかなんてある方面では極端に鈍い雪人でさえも知っていることだった。
なので、雪人は腕組みをして、一旦考える様子を見せてから答えることにした。
「う~ん。個人的には悪くないものがなくもなかったんだが、やっぱり使い方が俺の戦闘スタイルと合わない武器が多いしなあ……そういや、最後に試していた薄晶って刀を抜くことができなかったんだが、あれはなんでなんだ?」
ミルの武器はかなり強力なものが多かったが、それでも十全に武器の性能を使い切れるのは十分の一にも満たない数だった。さらにその中でも雪人の特性に合った武器というのは極端に少ない。
なので適当に話を誤魔化しつつ、先ほど抜けなくて四苦八苦した刀について尋ねてみると、ミルは「お前でも駄目だったか……」と悔しそうな、残念そうなよく分からない表情になる。
「どうしたんだ?」と雪人が尋ねると、渋い顔でミルは話し始めた。
「いや、あれはなあ……昔、俺の友人で俺よりもはるかに刀鍛冶の上手い天才的な獣人の刀鍛冶がいてな。そいつが生涯をかけて打ち上げた至高の名刀、極上の一振りということで託された刀なんだが……今に至って誰一人抜くことができていないんだ。あれ。当人曰く「この刀を扱いきれる技量がある奴だけに引き抜けるように細工しておいたから、ちなみに魔法とか使っての呪いとかじゃないから安心してね」ということだったんだが……刀が本領といっていた雪人でも抜けないとなると、いよいよ剣聖とかそこらへんに頼まないとダメかねえ……でも確か七年前は今の剣聖にも抜けなかったんだよなぁ……」
「ん? そんなすごい業物だったのか?」
「というか剣聖って、あの獣人国第二十四代剣聖、国王サトラウス・サーヴァ様ですか!?」
「誰だそれ?」
雪人はシャルクの発言の方に興味を惹かれて、質問の矛先を変更した。するとシャルクは、大興奮といった様子で、白い体を薄桃色に上気させて、
「獣人国は、第十四代剣聖までは無条件で剣聖になった獣人が国王を兼任していたのよ。でも第十四代目様の御発言で、剣聖と国王は分けたほうがいいということになって、今では剣聖というのは獣人国において最も魔闘技が優れている者という意味のみが残ったの。そして現獣人国国王サトラウス・サーヴァ様は、長らく続いた剣聖でない国王の中で排出された、久しぶりの剣聖の国王なの。確か三年前の戦争の折に、弱腰外交がたたって巻き込まれていた先王に隠居させて即位したはずよ」
「なんとまあ……」
複雑かつ意味不明なシステムである。剣聖と国王をわざわざ兼任させる意味がないような気がするが、それを言ったら目の前のシャルクに色々文句を言われそうで黙っておいた。
幸いにして、彼女の長口上を止めてくれそうな人物はすぐそばにやってきている。
「つまり、現獣人国の王は数代にわたって続いた王家の中でもきっての武闘派!! 私はまだご尊顔を拝謁したことは無いけれどきっと国王様なら最強種として知られている龍であろうと――――」
「龍であろうと、何だい? シャルク」
その声が聞こえた瞬間、ピシッとシャルクの動きは固まった。先ほどまでの上気した肌は瞬時に青ざめ、ガタガタと震えだした体には熱さではない理由で汗がにじんできている。
そのシャルクの後ろで、何も感じられない無表情だというのに、見る者の警戒心を呼び起こさずにはいられない迫力を放って、カシャがしっかりと立っていた。
「あ~悪いカシャ。そういえば遅くなるとかの連絡してなかったな」
「何? そうなのか。というか引き留めたのは俺なんだ。連絡も忘れていたわけだし不満は俺の方にぶつけてくれ」
「……いや、心配になってきてみたけれど、無事だったんならいいさ。それよりも問題は……」
と言葉を区切ってシャルクの方を見るカシャ。その視線を受けて、後ろに目がないはずなのにビクッと体を震わせるシャルク。
「この町に習熟していて、遅くなるならば連絡を取るという初歩の初歩すらも忘れ、挙句の果てに私の前で龍様の強さを疑うような発言……いい度胸だシャルク」
「ち、違います。こ、これには深いわけがありまして……」
「言ってみろ」
「う、うううう……」
涙目になって猫耳をペタンと頭に着けた状態で、無表情の妙齢の女性を上目遣いに見るシャルク。しかし、そんな憐れな彼女に慈悲は与えられることもない。
あまりにも憐れみを誘うその仕草に、雪人もミルも爆笑してしまった。腹を抱えてヒィヒィ笑う二人の様子に、カシャも毒気を抜かれて呆れた表情でこちらを見る。
笑っている足元に、イータの触手らしき影が伸びてきたのを感じた雪人は、そのまま部屋の外でこちらを除いているイータを手招きして呼び寄せる。
トコトコトコとやってきたイータの木人形と人形が引き摺っている刀をまとめて膝の上に載せてやる。
機能的に見れば、かつては大樹の枝の部分であった刀の方が本体であるイータの根っこの方よりもはるかに大きくなっており、そのことに奇妙なおかしさを感じながらカシャにも声を掛けた。
「なあ、カシャ。あんたが来たんだったらここで飯を食べていけよ。どうせ俺たちを待ってて何も食べていないんだろう?」
「お、それいいな雪人。というわけで食ってけ食ってけ」
「……はああ、怒る気力も失せたよ。では私もいただこうか」
その後、すべての料理を平らげた一行は、ミルも連れた全員でカシャの道場に戻って、作ってあった豪勢なご馳走もすべて平らげたのであった。
ちなみにシャルクのお仕置きは、後日執行された
次からは時系列がもうちょっと進みます。テンポがいきなり遅くなった自覚はあるので、もうちょいペースを戻そうかと。
ちなみにシャルクのお仕置きは、カシャと時間無制限の組手の相手です。




