やっぱりまともに旅立てない日
世の中というものは、何故か一難去った後にまた一難来たがるもので。
「なんでこんなことになったんだ?」
雪人の独白にいつものように答えるものがいない、という事は無く、つい最近に自分の相棒兼武器として変化した樹刀イータの新しい能力「小人化」でイータの意思を反映した木人形が雪人の肩に乗ったまま「さあね?」とでもいうように肩をすくめた。
彼の目の前にいるのは、一人の少女。
姿かたちとしては恐らく世間一般的に見て美少女といえるであろう容姿をもつ十三、四歳くらいで大人に入りかけといった少女。
種族は獣人なのか、頭には猫耳が、そして臀部のあたりには尻尾が生えており、この異世界で初めて見る獣人に対して雪人は好奇心の高鳴ることを抑えられない。
ついでに言うと、恐らくこの少女と知己を持てたならば十人に十人の男が喝采を叫ぶんじゃないかなあ、と客観的に雪人でも認識できるような優れた容姿をしている。
その容姿を見れば、朴念仁を自認する雪人であっても少々の動揺を感じるであろう、美しいというよりも可愛いといった方が似合っている少女を前にして、しかし雪人は好奇心やら好意やらを感じる前に、困惑を隠せない。
何故なら今の彼女は、気絶して地面に俯せに突っ伏し、上からイータの根っこに押さえ付けられていたからである。
遭遇してから、二、三言葉を交わしただけで襲い掛かってきた結果である。
雪人は最近はこういう手合いが増えてきていることに頭痛を感じながら、撃退した少女について最初の邂逅の時点から考え始めるのだった。
イータが生きていると分かり、冷静に戻った雪人がまず第一に決定したのは「そろそろ森の外に出よう」という事だった。
もともとは四年後に始まるという戦争の前に、突然何も言わずに失踪した自分を心配しているであろう冬音や日輪に会いに行くことができるようになるための三年間の修業だったが、森の魔力を集めて要となっていた魔樹は消えてしまったし、魔王というよく分からない存在もちょっかいを出してきた。魔樹がなくなり調和が乱れるこの森での二十四時間修業は雪人にはきついものになるし、何より第三者に場所を知られたまま逃げ出さないでいるとまた厄介ごとに巻き込まれそうだったのだ。
ついでに動くことのできるようになったイータを連れて世界を見て回るのもいい。ずっと一人でこんな変わり映えしないところにいたのだ、退屈に暇しているイータに刺激溢れる外の世界を見せたいと思ってもいる。
そして雪人自身もそろそろ森の中で魔力の研究とか、植物の生態を観察するのに飽きてきたのもあった。空を飛ぶ人の乗れる鳥とか、空中都市とか、海底遺跡とか、ファンタジー世界ならではの物も見てみたい。
そうと決まれば行動は早かった。まずは吹き飛んで行ってほとんどの装備がなくなったのでいくつか魔物を狩猟。素材から魔物性の暗器と短剣各種を作り出し、身に着ける防具に仕込んでいく。服は壊れたり破れたりしているところを縫い直して修復し、自分の体に合わせて仕立て直す。
体にぴったりと密着した服を作ると、雪人の技術では素材の柔軟性を活かしきれない問題で、どちらかというと動きの阻害になってしまった。仕方なくぴったりとしたある程度薄い素材で腕や体を覆い、その上にゆったりとして生地の厚い服を羽織る。
パッと見、なんか奇抜な着物を着た人間に見えなくもないが、イータの一票が入ったのでそれでよしとする。
そして装備を整えるのと同時並行で、自分の訓練とイータの能力の把握を始めた。
何よりもまず、雪人が外の世界を見に行く以上、最低限の強さというものは必要になる。
一応、森の中で半年ほど鍛えまくった時期もあったので、魔力を使える人間にも劣らないレベルで体は動くようになっているが、魔法で強化した他種族と比べてしまえば未だ実力としてはかなり不足しているのは魔王との戦いで明白だ。なにせ、魔王はほとんど本気ではなかったのにも関わらず、自分は蹴り一つで吹き飛んでしまったのだから。
本来の形としては周りの魔力に少量の自分の魔力で干渉して激甚の効果を発揮する魔闘技からヒントを得て、周囲の魔力の流れに物理衝撃でうまく干渉して発動する似たような技「疑似魔闘技」も開発した。
だが、いくら魔力に物理的衝撃を加えられるといっても、干渉するにはやはり魔力の方が効率がいい。故に雪人の肉体の攻撃では威力が半分も伝わればいい方だ。今なんとか形になっているのは、魔力に高い効率で衝撃を伝えられるイータがいるからでしかない。
そのイータといえど魔王との一戦の後は、魔樹の時の膨大な魔力量を失い、以前の十分の一ほどの魔力しか保有しておらず、魔樹の頃の実力は見る影もない。
あの後、雪人がイータのことを調べていくつか分かった刀になった変化の一つに「魔力を吸収できるのは触手か刀身で切ったものだけ」というよく分からない性質があった。これは恐らく刀が魔樹の時の「枝」の部位で構成され、柄頭の紐の緒は「根」の部位で構成されているからだと考えている。
他にも刀になったことや封印を維持しなくなったことで一日に消費するエネルギーも魔樹の頃と比べて随分少なくなったが、それでも毎日魔物を一体はその刀で切っておかないと自分の魔力の維持が出来ないらしい。
後、何故刀の姿になったのかについて問うてみたが返答がなかった。イータの触手がうねうねと逃げるように蠢いたのをガシッと掴んで、しばらく聞いてみたが何の返答も無かったのでは仕方ない。また諦めていつか聞こうと思う。
そんな感じで、今後外の世界に出ても命の危険をなくすためにも、イータの失った魔力を補てんしたり、自分の魔力の無いという弱点を補う為の方法を行うことが先決だった。
そう言った意味では対魔王戦は、雪人にとって一つの指標になる。
あの時、雪人は自分の体を全力で動かしたがそれでも魔力を使えば普通に対応された。
つまりそれは、自分がいくら鍛えても、魔力を使える存在と同じ土俵で身体能力を比べても勝ち目は薄いという事だ。
であるならば、魔力の使えない身体能力の欠如という弱点の補強ではなく、無能ゆえの魔力に関する敏感な感性を磨いていくという長所を伸ばすことが、自身の実力を確立するのに最も重要であろうと雪人は判断。未だ極め切っていない魔力感知の精度を上げるための瞑想を始めたり、 魔力感知自体に相手の感情を読んでの未来予測以外の可能性がないかを模索し始めた。
自分の装備の充実、イータの能力の確認と連携の把握、自分の長所を伸ばした新しい実力を身に着ける訓練。おおよそ三つの事柄について雪人はできる限り早い段階で準備していき、魔王襲撃からおよそ十日で装備の充実については完遂した。
そうしてようやく森の外に出ようかという十一日目の朝に、事件は起こった。
その日も雪人は自分の能力の把握のために、朝から瞑想を始めていた。
この瞑想というのは実に簡潔な代物で、自分の視覚を閉ざし、息の量を極端に減らし、体を動かない様に座禅を組むというだけである。ただ、その内実は少々普通の瞑想とは異なるが。
何が違うのかというと、瞑想に並行して魔力感知を行っているという点が普通の瞑想とは異なっていた。
世界を関数化して認識を一旦鈍化。周囲の動きを個々で捉えるのではなく、「自然の動き」という群体として認識し、その動きの奥にある規則性を探っていく。
それと同時に、魔力感知の範囲を極端に殺し代わりに感知の精度と解像度を極限まで上げた認識点を複数生成。それを利用して、土粒の一つ一つ、細胞一個一個の動きを認識していこうと意識を鎮める。
これらは魔力感知の精度、範囲、深度、並列操作の四項目を更に極めようとして行っている。
雪人の能力「魔力感知」の発展した更なる可能性には、未だに雪人は思いついていることは無い。
だが仮に何らかの可能性を見つけた時に自分の魔力感知に高い能力がなかったら、その発想を使えないという事は十分に考えうることである。
故に、今の雪人は基本に忠実に自分の魔力感知能力を鍛えているのだ。
初日から始めた複数魔力感知という訓練は、まるで十本の腕を持ち、一つの腕では絵を描いて、一つの腕では手紙を書いて、一つの腕では壁にペンキを塗って……というような超高等複雑技術であったため、しばらくの間は頭痛が止まない日々が続いた。しかしある日を境にコツをつかんだように脳が適応してきたお蔭で、日常の中でも自分の意識しないうちに周囲の状況を把握できるようになった。
周囲約半径二十メートル。精度は木の葉が地面落ちたことを正確に感知できるレベルで、深度は自分の周囲一メートル以内だったら三秒先くらいまでは九十パーセントを超える確率で予測できるのが今の雪人だった。
この能力の内の周囲の空間魔力把握には、人体や魔物といった物理的な障害をものともせずに感知することができるという想像以上のポテンシャルが含まれていた。
雪人の感覚で言えば、透明な世界に大気の濃度が空間の揺らぎとして存在する三百六十度の視覚を得たような感じ。
そしてその視覚というのは、なんと雪人の体内にも及んだのだ。
自分の体内の動きを客観的に認識できる能力。それはつまり、自分の体の動かし方でどこら辺が動いていないのかをしっかりと認識できるという事だ。
転じて、今まで扱い切れていなかった筋肉や体の組織に気付いて、それらを扱うように意識することもできる。
この能力のおかげで、自分の体を伝わる筋線維の動きや衝撃を伝わる感触すらも目で確認できたのは意外な副産物だろう。
そうやって雪人はこのことを利用した新たな技を作り出すため、自分の体内を知覚できる視界を磨き続けていた。
ちなみに、座禅を組む彼の横ではイータが触手で作った小人が、雪人と全く一緒の姿勢をとって瞑想している。
なんでも、人間の形を維持して生活するというのは触手の操作能力を上昇させる訓練に持ってこいという事らしく、触手を絡み合わせて作った木製人形で雪人の体術訓練の真似をすることにしたらしい。
雪人との会話でも、大まかな感情については魔力感知を使用することでお互いに理解し合えるが、細かい機微――――呆れや皮肉――――についてはどうしても誤差が生じる。
特に、複数の感情が混ざっているときは感情を読みとるのに相当の誤差が出る。
なので、ある程度ジェスチャーでこちらに感情を伝えてくれる人形はミスリードの可能性を減らせるため、雪人にとってもありがたかった。
とは言っても、顔はのっぺらぼうになっていて、特に表情が浮かんでいるわけでもないから気休め程度だったが。
他にも地面に文字を書いて筆談という方法も考えたのだが、イータは魔国の文字しか習得していなかったことと雪人が召喚された時にかけられた自動翻訳魔法はどうやら人間国言語限定という事で、口語はともかく筆記は意思疎通ができなかった。なので、雪人が魔族の言語を理解するまでは筆談はお預けである。
というわけで、その朝も仲良く修業をしていたのだった。
そうして修行していると、自分の作った極小の代わりに精度を重視した認識点の一つに何かが動く気配があった。
ざわざわと森の木々を風が揺らす。
その自然音の中に風が揺らしたのではありえない人工音が混じったことを、空気を振動させて音を伝える聴覚、それに周囲を透視できる魔力知覚によって認識する。それは葉がこすれ合う音ではなく、地面を何かがこっそり歩くようなそんな音。
こちらの様子を窺うように近づいて何かが来た。それを認識した雪人とイータはお互いに目配せしあう。この場合、イータは人形の顔のような部分を雪人に向けただけだが意図は通じた。
イータの木人形はシュルシュルと解けていき刀についているの紐に戻っていく。雪人は刀の柄を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
先ほどからこちらを窺うように動いている方向に、自分の作り出した細かな動きも感知できる認識点を集中し、魔力の荒れる森の中でも相手を詳しく感知できる解析力を作り出す。周囲に最低限の警戒を残しながら、そちらから攻撃が飛んできてもすぐに対応するために、相手にばれない様に慎重に体の筋肉を緊張状態に持っていく。
呼吸二つほど待ったところで、相手も更に近づいてくる。藪と藪、木と木の間を慎重に進んでくる様子には魔物とは違い高い知能と隠密能力を感じられる。こちらを襲おうという敵意よりも、何者なのかわからないというような警戒心の棘を感じたことから、この相手は来るかもしれないと思っていた森の外の世界から来たの調査員辺りだろう。
魔樹を焼き尽くす大きな炎が上がったり、魔樹が壊れたことで森の魔力の平衡が乱れて暴走を始めたら、何かしらの存在がここに調べに来ることは予想がついていた。
とは言え、そういった調査員に対してどのように対処するのが正解なのか分からなかったせいで、今の雪人は結構困っているのだが。
「あ~。取り敢えずそこにいるのは誰だ? 魔物じゃないことは分かってる。出来れば姿を見せて対話に応じてくれないか?」
よく言えば緊張感のない、悪く言えばやる気なさげに草薮に声をかけてみる雪人。彼が声を上げた瞬間に接近者の動きも止まったので、多分聞こえて入るのだと思う。ただ、こちらに姿を見せる気配はない。
自分は武器を所持したままだしそれも当然か、と思った雪人は戦意の無いことを示すために一旦イータを地面に突き刺して距離をとった。およそ十歩。雪人の身体能力と操身能力であれば一足飛びに行ける範囲ではあるが、それでも魔力を併用した高速戦闘ではすぐに近づけない距離。
「このように俺は敵対の意思がない。あんたがこちらを襲う気がないのなら、一体どういった存在なのかによらず俺からは攻撃しないことを約束する。だから出来れば姿を現してほしい」
自分の態度見て一定の信頼を置けると見たのか、はたまた武器を捨てたのなら簡単に制圧できると考えたのか定かではないが、正体不明の接近者はようやく姿を現してくれた。
十三、四ほどの猫系の獣人の少女だった。
「対話に応じてほしいってことだったけど、一体何を話そうというの?」
未だ幼さを残す少女らしく声は高いソプラノ。森の中に入ってから魔王くらいしか対話したことが無かった雪人にとっては、久しぶりに聞く高音の響く声に懐かしさを感じる。さりとて、魔力感知すら使わずともわかる声に含まれる疑念の感情は、ここで雪人が回答を誤ればすぐにでも攻撃する意思が垣間見えた。
単身、この森の中に入ってこれる実力を見ただけでもこの少女の強さがうかがい知れる。戦闘になれば、こちらの世界での対人戦等経験の少ない雪人の勝率はかなり低いだろう。そのことを深く承知している雪人は彼女の感情をできる限り荒だてない様に話を持っていく。
「そりゃあ勿論こんな辺鄙な森の奥深くに来た理由とかだな。今のこの森は、森の中でも有数の大樹が砕け散ったことで魔力が荒れて危険度が増してる。そんな中を突っ切ってまでここまで来るには相当の理由があると思ったからな」
雪人はできる限り相手の警戒心を刺激しない様に自然な話口調を意識したのだが、それをなれなれしいと感じたらしく、少女は眉間に皺を寄せて不快の感情を感じているようだ。
それを証明するように、返ってくる彼女の言葉は堅い。
「私がこんな森の奥深くまで来たのは、まさにその大樹が砕けた理由を調べるためよ。もしあなたが何か知っているというのなら今ここで吐いてもらうわ」
まともに会話するのは久しぶりすぎて口調のチョイスを失敗したなあと反省しながら、最初よりも低くなった声に対して「まあそうツンケンしないでも話すから落ち着いてくれ」と告げる。
すると少女は急に怒り出した。
「ちょっと! 誰がツンケンしてるっていうのよ!」
「え!? そこか!? 気にするの!?」
予想したとは全く違う反応に、雪人も動揺を隠せない。
てっきり、「じゃあさっさと話しなさいよ」とでも言われてからこちらの事情説明にいけると思ったのに、こんなところで怒るとか予想外である。
というか彼自身、そこまでコミュニケーション能力に長けているわけでは無い。本から得た会話術というのを初めて実行しているような状態であり、意識しない限り彼の会話のほとんどは、本音十割か、建前十割のどちらかにしかなっていないのである。
そのことを未だに自覚していない雪人は、自分の本音が日頃から「怒りっぽい」と周りに言われて気にしていた少女の繊細な感性を刺激したというのがよく分かっていなかった。
「ええっと、スマン。だから話を聞いてもらえると助かるんだが……」
「そんな謝罪で誤魔化せるほど私は甘くないわよ! もっとちゃんと謝罪しなさい!」
「ええ……」
話を開始して早々にめんどくさくなってきた雪人である。この少女の負けん気の強さというか、気の強さというのは正直やりにくい。
魔力感知に伝わる魔力のぎこちない動きから、どうやら極度の緊張状態にあるせいで、無意識の内に高圧的な態度をとっているみたいである。この状態の人間はすぐに暴発するかもしれないので対応を間違えてはいけない、という処世術を知識としては知っていても実践したことの無かった雪人はやる気のない態度で応じてしまう。
それが悪かった。
「!! その態度……どうやら交渉決裂のようね。やっぱりあんたを捕縛してから話をゆっくり聞いた方が早そうね」
「あれ~?」
そもそもまだ交渉自体始まっていないのに、この視野狭窄はどうしたものか。
傲慢とか以前に、話を聞く余裕がなさそうに見える。これは自分の手に負える人間じゃないと雪人がようやっと自分の交渉能力不足を自覚したときに、少女が一瞬で間合いを詰めて襲い掛かってくる。
「――――――っは!」
「おわっと!?」
警戒している相手と対話するという日頃やり慣れない苦手分野に集中して、結果的に油断のような意識の隙があった雪人は、ギリギリまで迫ってきた少女の持つ剣の刃を紙一重で避ける。とは言え、最初の一撃は自分とイータを分断するためにあえて躱す余地を残した攻撃のようで、雪人は自分とイータの間に立つ、剣を構えた少女と徒手空拳で向かい合うことになった。
「ちょっと待った! 落ち着け! お前は慣れない体験に焦ってるだけだ!」
「アンタに私の何が分かってるっていうのよ! というかそもそもこんなとこに一人でいた時点で怪しさ満点じゃない!! こうなったからには問答無用!!」
「その理屈だとお前もだろう! 人の話を聞け!」
百九十近い身長を持つ雪人と比べれば、頭二つ分小さい少女の剣による連撃を先読みし、素手のまま躱していく雪人。体の成長の関係で、どうやら自分の身体能力と相手の強化した身体能力は互角か少々上といったところらしく、普通に躱していくことができる。やろうと思えばすぐに反撃も可能だったが、少女が捕縛を目的にしてこちらを殺す意図がないことと、この後森の外の世界を旅するときに町の方向も貨幣の価値も知らない自分にとって情報源になってほしいという願望から、もう少し説得を続けることにした。
「落ち着け! 俺は無能だから魔力は無いし、魔法は使えないんだ! だからあえて捕縛しなくてもすぐに俺のことくらい捕まえられる!」
「あんたの魔力隠蔽能力が私の感知能力を超えていない保証はないわ! それに仮に無能であったとしたら、この森で生存できていることを考えると危険度が跳ねあがるわよ!!」
少女は体格の関係から雪人よりも敏捷性に優れてるはずなのに、今もってまったく攻撃を当てられない状況にますます焦りが加速していた。
自分の剣術ではどうやら目の前の不審な男を捕えられないと分かった以上、ここは少々の消耗には目を瞑って魔闘技を発動する必要がある。そう確信した少女は一旦大きく距離をとり、ひときわ大きく剣を振りかぶった。
発動しようとしたのは、魔闘技「山下ろし」 上段からの一撃に全てを込めて一直線に斬撃を放つ上級者向けの技の一つだったのだが、それが攻撃として形になることは無かった。
なぜなら少女が後ろに跳んだところには、丁度イータが触手をくねらせて待ち構えていたからだ。
「え!? 何――――――」
攻撃を放とうとしたところで突然何かに魔力を吸われ、拘束されてしまった少女。彼女はそのまま死なない程度にイータに魔力を吸われて気絶。地面に突っ伏しそのまま御用となった。
後に残ったのは、よく分かんないうちに戦闘が終わり困惑した雪人の引き攣った笑いだけだった。




