事情説明
王女の名前の順番変えときました
今の雪人たちがいるのは、石の煉瓦でつくられた見知らぬ建造物の内部の一室。 地震が起きた時の耐久性というものはどうなっているのかと壁の様子を見ていくと、耐震構造何それとでもいうようなとても不安なつくりであったことを確認した雪人は眉間にしわを寄せる。こんな危険な場所は一刻も早く去ってしまいたい衝動に襲われたが、自分がそんな不用意な動きをするには今の状況が把握し切れていない。
取り敢えずこの状況を知っている者がいるかもしれないと周囲の生徒たちの様子を窺うことにする。いきなり見知らぬ場所に立っていて、しかも前方に先ほどまではいなかったはずの人がいるという事実を正しく認識すれば、今の状況は雪人にとって危機感を覚えるものでしかない。若干好奇心がうずくことがなくもなかったが、それよりも自分たちを誘拐したに等しいこの状況が、彼にちりちりとした危険を訴える。なのでできる限りの情報を拾っておこうと思ったのだ。
そうして見渡した先にいた周りの生徒たちは、危機感を感じた様子もなくただ困惑したような顔を浮かべている者たちが多数、何らかの喜びに近い表情を浮かべているものが少数、ごくまれに自分の状況を把握しようと動いていた生徒がいたくらいだ。期待していなかったとはいえ、誰もこの状況を知ってそうに無いので、仕方なく雪人は前方の不審集団を観察する。
目の前には、自分たちとそんなに変わらない十五、六くらいの異国風の白いドレスを纏った金髪の美少女が何人もの人間を後ろに控えさせて立っている。体にはいくつも玉のような汗をかき、疲労の為か息が荒い。こちらを「勇者様方」と呼んできたことを説明してくれないかと思ったが、どうやらこちらの質問待ちの姿勢らしい。
まあ、同じように先ほどの発言に疑問を持った人間はほかにもいたので、雪人はそこで目立つような真似をする気は無かった。
「あの、貴女は一体何者なんですか……? そして勇者というのは一体……?」
状況を確認していたごくまれな集団の一人、確か名前は大寺という男子生徒だったかが勇者と呼んできた少女に質問を行う。彼は中学三年生に見合わぬ体躯を誇り、百九十センチの身長と高ルックス、そしてサッカーの高い実力でクラスの人気を集める中心人物の一人だ。
思い込みが激しく、雪人のことをどう考えていた分かる様な、何らかの優越感を感じていることが丸分かりな視線をいつも向けてきていた。せいぜいが、雪人が孤立しているのは何か悪いことをしたからとかいう根も葉もない噂を信じていた一人だろう。性格は正義感の強い奴だったような気がする。
彼がその両腕と体を使って、さりげなく彼の近くにいた二人の少女を後ろに庇って話している姿をみて、突然の状況に警戒を怠っていないのだと判断。少なくとも自分が何らかの発言を行う必要も無く、最低限知っておきたいことを聞きだしてくれるだろう。
彼の丁寧な口調に美少女の方もハッとしたような顔になって、「申し訳ありません!!」と頭を下げると、
「私はウェイン神聖王国第一王女ファルミー・ウェインと申します。以後お見知りおきを勇者様方」
そう自己紹介をしてきた。ご丁寧にぺこりと九十度のお辞儀もつけてある。
その言葉を聞いて幾人かの生徒は沸き立ったようにどよめきの声を上げ、大部分の生徒たちが困惑しながらも口々に近くにいる生徒と話したり、とりあえず怒らせては不味いと思ったのか流されただけなのかよく分からないような返礼を返したりする。
雪人はというと、そんな集団にまぎれて礼を返すふりをして、今度は周辺で自分たちを囲う人物たちの足元に注目する。
王女とかいう少女の後ろに控えている人たちの中には、本の中でしか見たことの無いような金属の鎧で武装した騎士風の人物が複数、黒いローブを身に纏った杖を手に持つ怪しい人物が何人か、さらには豪奢な成金趣味の衣装を身に纏って卑しい顔に豚のような表情を浮かべた貴族? らしき人も少しいる。
念の為、そういった人物たちの戦闘能力を測って、仮にここから逃げ出したら逃げられるかという事を一応確認しておこうと思ったのだ。
警戒しながらその面々の足元をさっと盗み見た結果、どうやら動きやすそうな軽い靴を履いているのはローブを着ている謎の人物複数のみ。彼らはローブから見える限りの情報ではいかにも引きこもりですといった体つきで、速度にモノを言わせて全力で逃げればこの場は逃げられそうであると考えたが、土地勘も無く、何より黒ローブのあまりの得体の知れない気配に彼はこの場でそれは悪手であると判断する。
先ほどの勇者発言と合わせて、この場にいる黒ローブらしき人物たちがどうも見た目通りのもやしには見えない。何か名状しがたい危険な雰囲気を身に纏っているのがビンビンと感じられる。
勘ともまた違うような不思議な感覚を明確に感じている自分の体に疑問を感じたが、現状は抵抗はしないでしばらくおとなしくしたがっておくことで保留。その内に調べようと判断して王女とやらと話している大寺の方に意識を戻す。
どうやらこちらのざわめきの混乱が収まるのを待って王女が話そうと思っていたらしく、話は先ほどから進んでいなかったのですぐに内容についていけた。
「私どもが今回、勇者様方をお呼びした理由は我々人族の存亡の危機を救っていただきたいと考えたからです。詳しい説明はこのような無機質な石の上ではなく、我々の最高責任者である我が父、国王ファルシオン・ウェインから説明の方をさせていただきたいと思います。どうか今はこちらを信じてついてきてください」
そう言って頭を下げる王女。大寺が近くにいた奴の友人らしき人物たちと目を合わせて、彼以外の生徒たちに声をかけてきた。
「皆! 俺たちには今俺たちの置かれているこの状況がどんなものかわからない! ここは素直に王女様の言うことを信じてみようと思う! 異論はないか!」
まるで断られることがないことが前提にある様な呼びかけの口調は、少なくとも雪人の好みではなかったが現状自分が特に反抗したいわけでも無いし、何よりこの状況ではその行動の是非を判断できない。
結局、その場は全員が大寺の言葉に従い、薄暗い石の部屋から王女について王の間とやらに出ていくことになった。
雪人の第六感は、それが危険であるといった警報を鳴らしてきたが、虎穴に入らずんば虎子を得ずとの格言通り、ここはリスクをある程度無視して戦うべき場面というところであろう。
金色が眩しい。それが雪人が自称王女に連れられてやってきた「王の間」という部屋に入った時の一番初めに感じた感想だった。
あの後、四十人前後のほぼ一クラス分の生徒たちの前を、たった一人の王女が先行して、その周りを幾人もの兵士や騎士らしき人物に囲まれたどこの重要犯罪者の連行だといいたくなる厳重な警備体制の廊下を歩かされた。
たったこれだけの生徒たちに厳重すぎる対応を受けた後、無駄に大きく凝った意匠の重厚な扉の前に到着すると、その前にいた門番らしい人物が何かを唱えるしぐさに反応し、大人五人は必要そうな扉が開いていく。
誰も何もしていないのに開いていく扉というのは結構不思議なものだったが、日本でも自動ドアくらいはある。何もここまで機能性を無視した扉をつくらなくてもいいのにと思ったが、素直に感嘆の声を上げる周りに同調し、部屋の中にゆっくりと入っていく。
そして一面の金色を見たのだ。
床は一直線に赤のカーペットの様な絨毯が敷かれていて、それが部屋の入り口から見て奥に当たる場所にあった数段床が高くなっている階段の上まで掛けられている。そのカーペットの終点辺りに、上から下までキンキラキンな背もたれの高い椅子が鎮座して、いかにも偉い人がここに座りますといった雰囲気が出ている。天井は見上げるほどに高く、そこに何やら芸術的な絵の額縁も飾られ、壁のところは一面金色におおわれている。それが地面にまで続いていることで、部屋に金色以外の色調が赤とその不思議な絵くらいしかないのが妙に悪趣味に感じ、雪人の好奇心はそこまでそそられなかった。
この部屋の様子を見て、呑まれた様に呆けた十数人の生徒たち。こんな状況でも意識を他に逸らすという彼らの様子に、雪人は本当に非常時だと理解しているのかとため息を吐いた。別に心配の感情があったわけではなく、今の一蓮托生に近い状態で勝手に呆けられてしまっては困るからだ。
まるで凄い博物館を見て感動に動けないといった様子に、緊張感が持続しなくなる雪人。確かに金の部屋というのはそうそうみられるものではないが、だからと言ってここでそこに注目するのもおかしいだろう……とまで思ってからこの部屋の違和感に気付いた。部屋の壁を見ていると、まるで金がうねってこちらを幻惑するように光を反射していくのが見えたのだ。見ていると目が離せなくなり、段々頭がぼーっとして眠くなってくる気がした。もしかすると幻惑作用もあるかもしれない。不味いと思ってとっさに目を逸らし、壁に並んでいる騎士たちに視線を向ける。
そちらの姿はこちらの能天気連中と違って、いつでも動き出すことのできるように筋肉を緊張させ、こちらを警戒して一切の隙を感じない。さきほどまでの緩んだ思考が、騎士たちの強い意思に触発され、急速に冷えていくのを感じる。
眼前にいる十人ほどの人物は確実に数々の修羅場を潜り抜けてきた実力者たちだ。戦場を経験したという師匠と同じか、それ以上の濃密な殺気。幻惑作用のある部屋に、幾人もの騎士たち。本当にこの状況は不味いなと苦笑を漏らす雪人。
部屋の仕掛けに意識を囚われて、微動だにしない生徒たちの中で、おそらく彼のみが状況を理解したが故の緊張の中に置かれていたが、それは唐突に鳴った大きな銅鑼の音と辺りに響く間抜けな声に霧散した。
「国王陛下のおな~り~」
それは時代が違うんじゃないか? 雪人がそう考えて思わずずっこけかけたのを全力で修正する。その後、何やら動きのあった前方を凝視していると、王座と呼んで似つかわしい椅子のある床と同じ高さに、まるで舞台袖のように作られている側面の通路のところから一人の壮年の男性が姿を現した。
男の身に纏っている物は遠くに立っている雪人が一目見て、質の違うものということがよく分かった。服の作り自体は中世の王族の着ているような豪奢なものを、嫌味に感じられない刺繍や紋章といったものが縫い付けてあり、背中に着けてある赤のマントにはなにやら獅子の様な紋章が図案されているだけの、一見してただひたすらに贅沢な服なだけに見ることができなくもないが、明らかに何かが違った。いったい何が違うのかというとその服から感じられる圧迫感が違った。
普通、服を着ている人物から圧迫感という形で存在感の強さを感じることはあるが、それが身に纏っている服そのものから感じられるなどということは明らかに異常である。雪人も今までそんな服を見たことは無かったが、別の、しかし、同系統の物体は見たことがあった。
師匠の家が代々と継承してきた何人もの人を切り殺し続けてきたという禍々しい妖刀。
一人、夜の山の中にほっぽりだされた時に遭遇した、月の光を反射する不思議な狼。
何人もの手に渡っても一人として一年以上所有できた前例の無い、呪われた本。
それらと同じ匂いを感じる明らかに人知の及ぶ範囲にあるものではない服を着て、国王と呼ばれた男は服に飲み込まれないほどの存在感を保ったまま歩いている。
つまり、この国の国王というのも結構な化け物でありそうだ。
「まずは一言、高い場所からではあるが突然あなた方を御呼びたてしてしまったことに深い陳謝の意を込めて、ウェイン神聖王国第二十三代国王ファルシオン・ウェインとして謝罪申し上げさせていただきたい。この度は真に勝手な理由で”こちらの世界”に召喚してしまったことはいかなる理由にしても許される行為ではないと思う。本当にすまない。しかし、どうか今はこちらの事情をきいて頂きたい」
生徒の集団の遠方約二十メートルから発生された国王の第一声は、国王と名乗るに相応しい威厳と趣に満ちた謝罪と共に発せられた。その声には力があり、「すまない」というのと同時に下げられた頭は嘘というわけではなさそうだ。現に、その低姿勢に周りの騎士っぽい人物や官僚のような集団は王が頭を下げるという行為への動揺から声を上げている。
生徒の方でも、王様の謝罪の様子を見て「一体どんな事情あったのか」と怒りよりも前に疑問の波が広がっていくが、無論雪人油断しない。
見る限り、この部屋の効果で生徒たちが怒りを感じるという事を抑制されていたようだったし、そのような部屋に誘っておいた人間が、そんな殊勝なことを素直に思っているわけがない。例え、本心から謝っているという事を信じたとしても、この状況ではあちらが言っていることは、こちらを誘拐したという事に他ならないのだ。
「分かりました。ぜひとも俺たちに貴方たちの事情というものを聴かせていただきたい。そう思ってここに来ました」
「分かった。では初めから話そう。少々長くなるがよろしいだろうか?」
何処か気の抜けたような大寺の返事に王様はそう尋ねてから、どこからともなく現れた使用人たちに人数分の椅子を持って来させた。日本のどこかの町のように露出過多ではない、きっちりとした服装のメイドが椅子を持ってきてくれたのだが、彼女たちが皆、染めた結果ではなく自然な配色で髪の色が様々で目の色もバラバラであったことを確認して、雪人はここがずいぶんと日本からかけ離れた場所であることを否応なく実感させられる。
「まずはこの世界がどこにあるのかということを説明させていただこう。この世界は貴方達のいた世界とは大きく異なる、次元位相の違う世界、つまりは異世界だ。詳しい理論は説明しても一回や二回で理解できる代物ではないので簡潔にまとめると、我の治める国、ウェイン神聖王国の村々や町に住んでいるすべての国民の魔力を集め、それを私と百人の宮廷魔導士たち、そしてそこにいる王女が中心となって魔法を編み上げて世界の壁を部分的に突破し、この世界にとっては異物となる異世界人を召喚したのだ」
「国王様、少々お待ち下さい。今あなたは魔法とおっしゃられましたがこの世界には魔法といったものが存在しているのですか?」
国王の話は始まりからしてあまりにも雪人たちには奇想天外なものだった。そのため話の腰を折るとしても堪らず口をはさむ者が一人。綺麗に挙手をしてから腰を椅子から上げ、背筋をピンと伸ばして質問したのは眼鏡をかけた秀才風の女生徒。確か名前は香林といった去年の雪人のクラスの委員長だったはずだ。雪人への無視を止めさせようとして、何度か彼女とも話したことがあったので覚えていた。
たとえ相手が一国の王であろうとも毅然とした態度を変えない。かつて見た彼女の姿はこの異常な状況でもそのままだったようだ。しかし、それはいささか軽率だったようだ。王様の話の腰を折ったことで、騎士の中の何人かが殺気をこちらにぶつけてくる。それを一身に受けることになった香林は目に見えて顔から血の気が引いて、恐怖に今にも倒れそうになったが、すぐに王様の「やめろ」という一言で騎士たちが殺気をおさめたことで彼女は顔色を取り戻した。
王様の方は特段自分の話が止められたことを気にした風もなく、香林の方に視線を戻して向き合う。
少しの間何かを考えるしぐさをした後、王様がこちらに質問をしてきた。
「今の言葉は貴女方の世界には魔法または魔法に類似した技術が存在せず、それがこの世界には存在するということに対しての質問ととってよろしいだろうか?」
「は、はい」
随分と声は震えていたがしっかりと返事をした香林。一方の雪人としてはそんな肯定をした香林に怒りの言葉をぶつけたい気持ちでいっぱいだった。
何故わざわざこちらから「魔法という技術がない」などといったことを話してしまうのか。現状、状況はこちらに不利であり、全く事態を把握できないときにこちらの手札の少なさを見せるのは悪手でしかない。
召喚された王女という少女から聞いた「勇者様方」という発言と今までの城の中を歩いたときに確認した状況、そして王様の話の様子から雪人はある程度、事情の推察を行っている。
恐らくこれは、昨今の風潮の異世界召喚ファンタジーというものだろうと。
まず根拠として挙げられるのがここに来る光に突然包まれたという経緯だ。あの時の自分は視覚を封じられていたとはいえ、一瞬たりとも周りの状況の把握に失敗していたわけではない。自分の鍛えてきた聴覚や嗅覚、触覚といった感覚が自分は突然ここに来ていたということを教えてくれている。
そしてこの部屋に入る時に通った大きな扉は、引き戸ではなく、廊下側に門が来るようにして開くタイプの扉だった。その扉の詳細を雪人は知らないが、壁との留め具あたりに機械で動かしているような様子は見ることができなかった。
もしかしたら手の込んだ手品ではないかと疑ったのだが、だとしても自分たちをわざわざ誘拐してまでこんなことをしなくても他に色々な有用方法があるだろう。ここら辺の事情を汲んで、雪人はここがファンタジー的な世界の可能性を感じていた。
というかそうでも考えないと、自分に新しく出来た何かの動きを感じられるような感覚の説明がつきそうにない。
そして、もしそうなったなら何らかの面倒な騒動に巻き込まれる可能性を考えていた。
仮に、ここがファンタジーな世界だったとしたら自分たちをそんなところへ呼んだのは何故だ?
単なる実験の結果? それにしては先ほど言っていた労力の規模に合わない
異世界からの知識? そんなものその世界の個人の知識だけではなく、知識の具現化である器具なども一緒に召喚しないと役に立たないことくらい推察がつくだろう。なのに王女はそう言ったものを全く持っていない自分たちに嬉しそうにしていた、辻褄が合わない。
財政上の問題? この金の部屋をみて何を言えと?
こうして考えていくと、問題が「異世界人の武力に頼る」や「国家的な権力争いの道具となる」という何とも面倒なことを頼もうとするということが選択肢の一つとして収束していくことは予想がつく。
他に思い付く選択肢としては、「何かの生贄にする」とか「実験動物にする」とかだろうか。
どれにしても、わざわざこちらを多大な労力を払って召喚するという事は、まともな理由はあちらにあるまい。
そしてそんな事を頼もうとする相手に「こちらが弱い」という隙を見せればあちらも対処の方法を考え直すだろう。もしかするとこのまま殺処分の可能性もある。
状況が読めない中の雪人の最悪の想像は留まるところを知らない。これがデッドラインだったなどということになれば洒落にならないのだ。最大限の緊張を体に命じ、いつでもここから逃げられるように準備しておく。
幸いにして、王様はこちらの肯定に深く考え込む様子もなく話を再開してくれた。
「ふむ……。魔法が存在しない世界というのは中々に想像しがたいものがあるが貴女方が魔法の無い世界から来たのだとしたら、一体どのようにして文明を維持してきたのかをお聞かせ願いたいものだが……」
「王様。説明が途中です」
「む……。そうだったな。さて、ファルミーの言った通り、今はこちらの説明の途中であったな。では先ほどの質問には「是」とお答えしておこう。この世界には魔法という技術が存在する。このことに関しては後ほど説明することでよろしいだろうか?」
「はい」
先ほどよりは血色の戻った顔つきで話す香林。その返事を受けて王もうなずき、事情説明の続きに戻る
「話を戻そう。我々はそのように多大な労力を払った末に異世界人である貴方たちを召喚した。これは貴方たちにぜひとも頼みたいことがあったからだ」
「その頼みたいことというのは?」
国王の重々しい語りにつられて大寺が声を発する。今度はタイミングをちゃんと読めていたことが功をそうしたのか騎士たちに睨まれることは無かった。
生徒たち全員の視線の集中する中で、国王は一度閉じた口を再び開いた。
「あらゆる魔を総べる魔物たちの頂点、魔王の討伐だ」
その声は広い王の間によく響いた。
突然召喚して戦ってほしいっていうときには、ばれないように洗脳の一つや二つするんじゃないかなあという作者の偏見です。このことからわかるように、王様たちはまともじゃないです。