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その頃の勇者たち(後)

え~ なんか暗い感じになりましたがこの話は「主人公が好奇心のままに突き進む異世界コメデイ」です。……そのうち。

 高速で剣を打ち合い時折蹴りや拳といった打撃技も加えての応酬は、とても一か月半前に剣を握った少年の動きとは思えないものだ。

 特に、自分の動きの中で隙となる動作をすぐにフォローして次撃につなげる動作には天性のセンスというものが感じられる。


 最も、それでも自分が剣を握って数十年という経験を凌駕しうるような才能でもアドバンテージでもない。的確に攻撃を捌き、相手の斬撃の軌道上に存在する歪みのような誤差を正確に弾くことで、勇者の握った力を込めた剣はあっさりと勢いを失う。


 相手の動きの流れが止まったところで自分の持つ長剣「グルゥの牙」の腹を思いっ切り勇者にぶつけた。その一撃で、しっかり地面を掴んでいた翔也の両脚があっさりと浮かび、後方の壁に撃突する。


「がはっ!!」


 翔也は頭を少々打ったようで、すぐに起きてこれなかった。


「まだまだ攻撃に意識が向き過ぎている。もっと相手の攻撃を流したり、逸らしたり、いったん退くといった技術を重視しろ」


「う、はい!!」


 そうして何とか頭の不調に耐え、再び立ち上がった翔也に今度はこちらから向かっていくガイル。

 本来ならば、ここで休憩の一つや二つをいれるべきなのだろうが、今回翔也を鍛えようと思っているのは、技術ではなく根性といった部分だ。


 戦場では、負傷しても誰も待ってくれることはしない。それを自分の身でしっかりと理解してもらうために、ガイルは鬼のような訓練を容赦なく続けるのだった。
















「ぅぅ……痛てててててて」

「大丈夫ですか? 勇者様」


 翔也はファルミーから光魔法ライアップという、光で照らした者の体の自己治癒力を上げる初級治癒魔法を使うことで、翔也の訓練中にできた細かい打ち傷や、痣といったものを治していく。


 これは水魔法のキュアと原理的には同じであり、外部から治癒を促進するか、身体の内部の水分の流れを集めて治癒を促進するかの違いがあるだけだ。一応、光は上級属性という事もあり、どちらかというと個人に魔力で干渉しない分、光魔法のライアップの方が負担は少なかった。


 だから王宮の回復魔導士として常任している回復職ヒーラーではなく、珍しい光の属性を持つ王女が回復を行っているというわけではないが。

 彼女が翔也を癒しているのは、単純に二人の距離が今までの戦闘訓練で縮まっていたからだ。


「しかし、いくらガイルが序列騎士の一位で、勇者様に剣をお教えするのが最も適任だからと言ってここまで過酷な訓練を行うとは……」

「いや、ファルミー。これも当然なんだ。自分で今まで磨いてきた技術を相手に教えようという事は、その分相手も覚悟をみせなくてはいけない。とは言えまあ気絶しても攻撃を加えられたのには少々驚いたけど、きっとその位の気合というものが今後は必要になると思ってやっているんだよ」


 ファルミーが、自分の心配故に少々過激な意見というか否定的な意見をこぼしたのでしっかりと翔也は訂正しておくことにする。

 彼は、雪人に自分の思い込みを破壊されて、その後、そんな風に現実を認識していた彼が居なくなったことで自分なりに考えたことがある。


 それは、この世界がとてつもなく過酷で残酷だという事。


 初めは義憤に駆られ、特別な力があると言われ、まるでゲームの主人公にでもなったようにこの国で勇者になることを即答した自分であった。


 しかし、色無しが迫害されていること、自分に新たに身についた力を適応させるために限りない努力を必要とすること、魔物という脅威に怯えなくてはいけないこと、いくつもこの世界での真実が明らかになっていくうちに、自然とそんな幻想も思い込みも破壊されていった。


 最も大きな思い込みは最近行方が分からなくなった雪人という異世界人に破壊されていたが、もっと小さなところで日常的に自分の幻想を跡形もなく粉々にしていったのはそう言った周りに溢れている世界の常識だった。


 初めに召喚されてから自分が世界のことを知ろうとせずにただ王様の話という一方的な情報だけでこの世界の善と悪を判断しようとしていると、かつて雪人に糾弾された意味がようやく分かった。そして分かったことをようやく受けいれ、自分で世界について情報を集めようと前向きに動くことができたのは決闘の後だった。


 メイドたちの質素な生活や貴族の贅沢な暮らしぶり。騎士と兵士の待遇の差、潜在的に潜む優秀な他種族への恐れ、魔力至上主義の人間集団や国内にはびこる盗賊に宗教的敵対関係。はっきり言って、自分の想像できない数の勢力がこの世界ではしのぎを削っていた。


 そうして、自分がこの国の社会について学ぶ間に、自分が即答してしまったことの責任の重さも実感した。


――――――ありがたや、これで私らも魔物に襲われる生活を心配をしなくて済む

――――――助けてくれてありがとうございます!! いつかこの御恩をお返しします勇者様!!

――――――お父さんが帰ってきたのはお兄ちゃんのおかげってお母さんが言ってた! ありがとう! 


 訓練の道中で、魔物を倒すことで得られたこの国の弱者たちの感謝。それがただの義憤だけで勇者を選択したという自分だけが知る事実に重くのしかかった。


 もっと考える時間をおくべきではなかったか? 自分が背負うものの大きさも知らないでどうして勇者になろうと思ったのか。訓練が終わり、雪人も見つからずに王宮に戻ってきた時、翔也は内心そんな思いにとらわれていた。


 そうしてうじうじ悩んでいたら、それを見破った幼馴染の喜咲に色々と励ましか説教か分からない強制召集を受けた。

 そして、その時言われたセリフの一つが今も彼の頭の中に残っている。


――――――あんたは時間をおいて考えてもどうせ同じ道を通ったでしょ


 確かに自分は初期に王様の提示した選択の内、勇者になることを即答したことを後悔している。

 だが、それでもできる限り。せめて自分の手の届く範囲で誰かを助けたいと思ってしまうのは、あの時自分が冷静に考える時間をもらえたとしても変わらなかっただろう。

 

 翔也は、自分がどうしても誰かを助けたいという「勇者願望」というものがあったことを初めて自覚した。そしてそれは何となく気恥ずかしい物であったし、幼馴染とは言え、他人である喜咲にそれを見破られているのには猛烈な羞恥心が働いたけれど、よくよく考えると感情と直感のみで動いている彼女であったら自分のそんな思いにも昔から気づいていただろうし、今更であると諦めたものだ。


 だから、今度こそ迷わない。雪人が居なくなってしまえば、初期に考えていた自分が謝罪をしてまた新しく仕切りなおすという事は出来ないけれど、それでも進まないといけない、自分の言葉に責任を持たなくてはいけないことが十分に分かった。


 故に、今は剣を習う。何よりもまず自分の約束とこの訓練の内に守りたいと思った人々を守るためにも。

 そこに甘さなんてものが存在してはいけない。だから自分はファルミーの気遣いにも甘えてはいけないのだ。


「そうなんでしょうか……」

「ああ。少なくとも俺は着実に強くなっている。「魔闘技」だってもうすぐ発動できるようになるさ」


 どことなく疑問を感じた様子のファルミーに力強くうなずく翔也。

 だが、そのせいでまるで翔也の内心を見透かすかのようにファルミーがこちらを見ていたことに気付かなかった。


「頑張ってください勇者様!」

「ああ。ありがとうファルミー」


 翔也は回復した身体で再び訓練に戻るのだった。

















「というような具合で、勇者翔也に関してはもう何も言う必要も無いほどに魔王と戦うという事を決意しています。実力に関してももうそろそろ魔闘技を身に着けるという事でした」

「そうか。ご苦労だった」


 王の間。その背後にある誰も知らない一室で、王と王女、そして複数の重要人物が密談を交わす。

 室内は暗いわけでもなく、しっかりと灯りがともっているというのに何故かそこを漂う空気は陰気なもので誰一人として軽々と口を開こうとはしない。

 重苦しい雰囲気がまるで現実の光量に影響を及ぼしたかのように室内を見通すことは困難であった。


 それは実際に錯覚ではなく、三百年は昔に発明され今も技術を秘匿されている”幻惑の法衣”を全員が纏っていることで、室内の人間を認識しにくくなっているのだ。

 それが同時にこの部屋の空間の明るさを認識しづらくしていた。


「首輪をつけた勇者の方はどうなった?」

「はい。幾人かの暴挙に及んだ異世界人の方や冒険者として独り立ちするか明言をしてこなかった異世界人に関しては既に「隷属の首輪」を取り付けました。自分たちはここでわれわれの為に勇者として戦わなくてはいけないという脅迫観念を植えつけておりますが、自由意思を奪ったわけでもないので他の異世界人には気取られないかと」


 王の質問に対し、これが「首輪をつけた者のリストです」と一枚の書類を手渡す人影。

 その中には、初日に帰れないことに文句を言って、後日メイドに対し不埒な行いをした太った少年や、王様の話に割り込んだ委員長風女子の香林の名前もあった。


 王様はそれにさしたる興味も見せずに次の人間に他の勇者について尋ねる。


「水月や雪精といった無能に距離が近い勇者の方はどうなった」

「彼女たちは無能を探すために協力をしてくれれば勇者という責務から離れることは無いという事です。無能はあの竜人国の森シューリー・ロームにある研究所に転送されています。その後、研究所の結界が何らかの要因で壊れたようで魔物に転送陣を破壊され状況を探ることはできませんでしたが、序列騎士ですら「連絡石」で連絡がつかないところを見ると、まず間違いなく無能は死んでいると思われます。なので実質、二人が勇者を放棄することは無いかと」

「ならいい」


 王様はその後もいくつか配下の者から情報を受け取った後に、最後に締めの一言をその場の全員に告げる。


「よいか。この戦いは人族の存亡がかかっているといっても過言ではない。できる限り勇者たちの疑心を集めないように行動せよ。特に、戦闘力の高い勇者にこのことがばれてしまえば問題になる。流石に洗脳した後も戦闘力が高いままとはいかんからな。慎重に行動し、悟られることは絶対にするな。では解散!」


 そうして室内からは不気味な認識不可能の影の身を残して幾人もの人物が消えていく。そんな中、ファルミーは王にどうしても言いたいことがあって残っていた。


「父上……いえ、国王様。どうか勇者様に真実をお告げになる気はありませんか? このままでは戦争の過程で真実を知った翔也様が暴走する危険も……」

「ならんファルミー。どうせ今告げても暴走の危険はあるのだ。であるならこのままいずれ使う”捨て駒”として成長してもらおうではないか」

「ですが……」

「くどい。聞き分けよ。これ以上は問答する気は無い」


 ファルミーの必死の嘆願にも、王は省みる様子もない。

 そのまま背を向け、拒絶の意を翻すことの無いままに部屋から出ていく王。ファルミーにはそれを止めるような術は無かった。


 仕方なく、部屋から出て自室をめざし、廊下を歩いて行くファルミー。月明りに照らされて一人歩く少女は胸の内で一体いつからこんなことになってしまったのか、答えの出ない理由を考え続ける。


 ファルミーは初め、彼女達が立てていた魔法で騙す形で魔王討伐を協力させる作戦が、たった一人の無能に阻止されたことを内心安心していた。


 いくら危機的状況の自分たちを助けてもらうためとはいえ、異世界人の方を突然召喚し、戦わせるなど正気の沙汰ではない。しかもその危機の理由が身から出た錆であり、なのに思考誘導という軽い洗脳の一種で半強制的に異世界人を勇者として戦わせようなんて尚更だ。


 だから彼女は勇者になってもらうことに反対だったし、それを嫌がった無能がいたことで異世界人たちが勇者になることをためらったことに歓喜したのだ。


 だが、現実は非情。異世界人全員を洗脳できなかったことに気付いた王は、すぐにいくつかのグループに異世界人を分類して、戦闘では一律の動きしかできず少々戦力に劣る洗脳組と自由意思をもたせ、それゆえに能力を上げておく捨て駒組を作ったのだ。


 王の言葉は絶対と幼いころから言われ続けたファルミーにとって、そんな愚挙を止めたくても止められるものではなかった。辛うじて、勇者となることを最初に承諾した翔也に完全な奴隷の首輪をつけられることを阻止するために、自分が洗脳役を買って出ることのみ。


 故に、ファルミーはまだ翔也のことを名前で呼ぶことは無い。なぜなら、自分が裏切っているというのに何を呑気に名前を呼べるのかと思っていたから。


 それは他の異世界人に対しても思っていたことだが、特にそう言う思いが強かったのは翔也に対してだ。

 多分それは、この世界に来てしばらく話すうちに、少々間違っていたり、現実を見なかったりした欠点をもつ翔也が、それでも本当に心に本当の勇者と呼ばれるべき性質を持った人間であると気づいたことが関係しているのだと思っている。

 彼が幾度も信頼した笑みを向けてくる度に、自責の念から、自分が彼も彼の仲間も裏切っているのだと何度も懺悔したくなった。

 だが、今懺悔すれば自分の浅はかな罪悪感の消滅の代わりに、翔也の身の安全が失われてしまうだろう


 疑念を持った勇者を使い続ける判断をするほどに王は暗愚でも情に強くもない。


「翔也様……」


 翔也には決して言えない呼び方で、この後のことをどうすればいいのか。無意識に自分が翔也に救いを求めている事実に気付かずに、ファルミーは頭を悩ませるのだった。





 翔也が何か勇者っぽくなってる……あれ? ただの噛ませ犬だったはずなのに

 ついでに言うと洗脳とか嫌ですよね。作者的に一番嫌い。


 他の勇者がどうなったかとか、異世界人で勇者を選ばなかった奴はどうなったのかとかについてはそのうち雪人の旅の途中にでも出していきたいと思ってます。

 ……洗脳枠以外にもそういう人たちはいますよ。いつか作品の中でまとめます。

 なので質問にはお答えできませんのでご了承を

 一応サブ扱いでもここは最初に勇者を選択した三人について焦点を当てときたかったので。

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