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一か月間

 魔法に適性のある人を色持ち。魔法に適性のない人を色無し。魔法に適性がなく、魔力もない人のことを無能。という具合に変更しようと思います。分かりにくくてすみません。雪人は無能のままです。

 どうやらこの樹には意思があるらしい。


「というかそんなことくらい最初っからわかってたことだろうに」


 雪人は見上げても先端の見えない巨大な木の麓で一人つぶやいた。

 魔物の肉を食べてひと眠りしてから三日が過ぎ、取り敢えずそこいらの魔物の皮を剥ぎ取って服代わりにしていた雪人が最初に行ったのは、自分を救ってくれた恩樹? のイービル・テイターンについてひたすら調べることだった。


 理由は単純、雪人がこの樹に興味を持ったから。彼は研究所にあった資料からこの樹の存在を知って森の中を特攻してきたのだし、そうである以上ある程度の資料は研究所に存在したのだが、今日は何匹の魔物を食べたといった内容しかなく、研究資料というよりも観察日記という方が正しい代物だった。


 まあ、近くに魔力のある生き物が来たら問答無用で根っこを伸ばして捕食しようとしてくる樹である。遠くから観察するくらいしかできなかったのだろう。周りも魔力濃度の高く、魔物も強い危険な森であることで、観測器具も容易にはおけそうになかったし。


 そう言うわけで彼は自分を助けてくれた樹に関して全くと言っていいほど知らないのだ。知っていることはせいぜいが「魔力のみを喰らう」という性質位である。


 故にこの三日間で、この樹がどのような基準で獲物を選んでいるのかという事や魔力をどのように捕食して循環しているのかという事を熱心に調べていたのである。

 

 分かったことをまとめていくと、次のようになる。


 一つ、この樹はある程度自分の根っこや枝葉を動かすことで外界の魔物に対抗したり、魔物を捕食できるという事。その時に、うまく魔物を罠にはめるように枝を動かしたりしていたことから高い知能を有しているか、自立意識があると思われる。


 二つ、この樹は魔力しか吸収しない。一体何故、生命力の余剰分である疑似生命力の魔力を吸収できて、生命力の根本である栄養素を吸収しないのかは分からないが、この樹につかまった魔物はすべて魔力以外を吸収されている様子はない。雪人は自分の魔力知覚能力でそれを把握していた。


 三つ、魔力を吸収できる範囲は自分の根っこが伸びた範囲までである。大気中の魔力も、大体イービル・テイターンの根っこの張っている地面のところ辺りから異常な魔力密度に戻っていた。どうやらこの樹は自分の根っこを張った範囲の上空までの魔力を吸収し続けているらしい。それは幹に近づくほど吸収率が増加しているためか、根元周辺はまったく魔力が存在しない。

 お蔭で、この森の異常な魔力に当てられなくて雪人としては万々歳である。 


 そして四つ、この樹が魔力を吸収しているのは成長の為だけではないという事。周辺に魔力がないお蔭で回復した雪人の魔力感知能力で樹の内部の魔力の流れを調べていった結果、魔力の流れが途中で明らかに不自然になっているところがあった。

 周囲の普通の木と同じように、根っこから吸収した水分を葉から蒸発させるように魔力を循環しなくてはいけないはず。なのにこの樹は自分の幹の中枢のあたりにひたすらに魔力を蓄えて、圧縮し続けているのだ。雪人の魔力感知で樹の内部を調べられたのは、ひとえにこの異常な密度の蓄積があったことで、樹の内部の魔力密度がそこまで高くなかったからだ。

 しかしその分内部の魔力の芯は、感知するにも雪人の能力を振り切れてしまうことになり、今の彼にはどうにもできなかった。


 雪人はそう言って疑問に思ったことや分かったことを、樹の根っこの張っていない地面の上に書いていく。ちなみにこの森では仮に雨が降っても、この樹の葉っぱに阻まれて根元周辺には雨が地面に落ちてこない。

 よって彼が使っている地面ノートは今のところ安全である。


「こんなところか……」


 雪人は書くために使っていたカマキリの鎌を放り投げ、地面に倒れ込んで両腕を後方の地面について、空を見上げるような感じで樹の上の方を見上げる。


 一体何年前から生えていればこんな巨大な樹になるというのだろう。崖が高いせいであまり樹の大きさを正しく認識できなかったが、よく見るとこの樹は相当な大きさだ。樹の上に小屋を作ろうとか言っても余裕で入る。

 雪人が昔よく行っていた図書館の本館と同じくらいの大きさかもしれない。


 彼が見ている間にも、樹の近くの上空を飛んでいる魔物がまた一匹枝に絡まって魔力を吸われている。手慣れた様子で翼竜のような姿の魔物を捕え、魔力を吸ったらポイ捨てする。未だに森を漂う異常な魔力に慣れていない為、自力で森の中に食料を取りに行けない雪人にとってはありがたいが、魔物にとっては悲惨だろう。


 せめて食ってやれよと思ったが、意外というべきかこの樹は肥料としても魔物の体を吸収しないのだ。ここまで一貫した魔力至上主義へんしょくかだといっそ清々しい。そう思いつつ新たに降ってきた翼竜の皮を剥いで、今度は自分の新しい防具と服を作ることにした。

















「はあ、はあ、はあ」


 なんか最近はこんな風に息切ればっかりだ。雪人は地面に仰向けに倒れ込んでそんなことを考えていた。

 およそ森の中に入り込んで二週間が経過していたころ、雪人はいまだに自分を鍛えることに終始していた。

 今の彼の体は、つい一週間前に完成した魔物の素材を加工して作った真新しい防具によって包まれている。通常、魔物の素材から装備を作る時にはタンパク質や油などの余分なものを取り除いて耐久性を上げたりするいわゆる「なめす」過程などが必要になったりするが、勿論そんなことをできるような道具は無い。なので、樹に食べられて捨てられていた魔物の素材の山から、強靭な魔物の蜘蛛の糸やら何のものかわからない真っ白い固い甲殻などをはぎ取って、糸から布を作る要領でつくった絹糸のような布の服に、いくつかの魔物の素材をくっつける感じのとても原始的な防具を作り、それを身につけることにした。


 何故ここまで彼が頑張って防具を作ったのかというと、やはり服がなかったからだ。

 スライムにとかされてしまった服は既に使い物にならず、身に纏うものは魔物の毛皮。いくらなんでもこの状態では魔物と戦うのは厳しいだろうと考えた雪人がしばらくの間使うための防具を作ることにしたのだ。

 魔物自体の能力が高かったことで、素材そのままでもそれなりの強度があったし、服も素人の初めて作った作品にしては結構見ることができる作品になった。

 

 そうして実用に耐えうるだろうと思った防具を身に纏った雪人が森に入るために初めに克服しなくてはいけなかったのが、この森の大気の異常な魔力濃度に慣れることだ。


 通常、この世界には魔力の無い存在というのはいない。


 何故いないのかというと、生まれた時点で魔力を持っていない赤子や生き物の赤ちゃんというのは、この世界を流れている魔力に対する抵抗が弱すぎて生きていくことが非常に困難であるからだ。


 例えるならば、体力がなくて免疫力の低い赤子のようなものかもしれない。そう例えることが可能なほどに、自分に魔力がないことで周囲を流れる魔力の影響をもろに受けるというのは危険な事なのだ。運良く生命力が強くて生き残った子供も、三歳になる前に魔力由来の病気になって死んでしまうというパターンをなぞる事になる方が多い。

 例外は、親が裕福な貴族で、子供に魔力の影響のない環境を用意できた時くらいだろうか。


 ここで話の焦点を雪人に合わせてみる。


 彼は言わずと知れた色無しである。さらに稀に見る無能でもあった。故に彼もこの世界にいた他の無能と同様に、数年内に死んでしまう可能性の方が高かった。

 しかし、そんな彼が唯一他の無能と違った事がある。それは、この世界に来た時点でしっかりとした体力と精神を持っていたという事だ。


 成長期の途中であったものの、彼の体は幼いころから鍛えていたことで、既にこの世界の魔力の流れの影響に耐え切れるだけの頑強さを保持していた。

 そして苦痛に鍛え上げられていた精神は、世界を流れる魔力の中の意思に耐え切れるほどに頑丈であった。

 この二つの幸運が、彼に「世界の魔力の流れに耐えることのできる無能」という奇妙な立場をもたらしたのだ。


 しかし、そんな幸運に恵まれた彼でさえ、色持ちの実力者すらも魔力酔いをおこす森の中ではいつもと同じように動くことができるとはいかなかった。

 森の中に出たら、すぐに魔力酔いで体がまともに動かなくなる。


 魔法による超重力やら低酸素などといった極限状況というのは想像していたが、まさか単純に魔力が多いという事だけで自分の体が負傷していくような環境があるとは思わなかった。森に入って一分もたたないうちにまるで強心剤を打たれた時のようなひどい症状に見舞われたのだ。まずはこれをどうにか克服しないことには森の中を歩くこともままならない。


 恐らくは、自分に魔力がないという事で、周囲の魔力の影響を受けやすい体なのだろう。魔力というのは元は生命力だから、過剰に魔力の影響を受ければ、その分体の機能が活性化して、最終的には自分の体で手が負えないほどに暴走する。

 自分の心拍数の異常な上昇、血圧の上昇からの血管の破損など自分の自覚した負傷だけでいくつもあった。

 とりあえず今は、そんな魔力への抵抗が少ない状態を改善するために、森の中に行っては安全地帯に戻ってくるという訓練を行っているのだ。


 城の魔法についての研究資料にあったのだが、魔法への抵抗力というのは日頃過ごしている環境でどれだけ魔力に晒されているかによって明確な個人差があるという記述があった。

 これはつまり、肉体の魔力への抵抗力は実際に魔力に身体を晒すことで鍛えることができるという事実に他ならない。


 なので、今の雪人は自分の抵抗力を上げるために、魔力過剰な森の中と魔力の無い安全地帯を行き来しているのだ。


「ぐ、そろそろ時間か……」


 雪人はそう呟くと、再び森の中に入る準備をする。

 彼は体が魔力抵抗を上げる理屈を、一種の筋肉トレーニングと同じものだと認識していた。要は、「強い負荷」を「短い時間」で「何度か繰り返す」といった方法が最も抵抗力を上げるのに適しているだろうと。

 実際にそれは正しく、雪人は確実に森の中にいられる時間が増えていた。今では、一時間は軽くいられる。


 毎日毎日、森の中に入れば、魔物に襲われることもある。


 それらのアクシデントを上手く流しながら、雪人は今日も修行を続けるのだった。

















 ヒュンヒュンヒュンと風を切る音が耳元で聞こえ、頬にはいくつかの赤い線が刻まれる。雪人の頬に赤く線を刻んだのは、魔物の大きく発達した二つの大きな鋏。

 まるで疾風。視認も難しい速さと鋭さで繰り出された腕の鋏は、一瞬の内に四回の割断を行っていた。この戦闘が始まって既に二分。間合いに入った瞬間にこちらに飛んでくる攻撃を掻い潜れたことは一度もない。


「はあ……流石にこいつは戦うのが早すぎたかな?」 


 雪人は血を拭う事すらせずに、全神経を集中して眼前の蟹型の巨大魔物を睨みつけている。森の中を探検して木々の茂みの深いところにいた、足が八本うち二本に大きな鋏をもつ、まさに蟹のような魔物。雪人は最初にこれを見て絶対に美味しいに違いないと安易に戦闘を挑んだことを、今では深く反省していた。


 森の中で、安全地帯の魔樹の周囲に拠点を置くようになってから一か月。雪人はようやく森の中を普通に動くことができるようになった。


 彼のつらい修行もすぐに身を結び、今では彼の体には中級までの魔法にも耐え切れるような抵抗力が備わっていた。


 中級魔法を無傷で耐え切れるというのは、戦場で無数の上級攻撃呪文に晒され続けた人族の上位の実力者の魔力抵抗でやっと出来ることである。それを雪人の場合は魔力がないというハンデを利用して、他の魔力持ちよりも周囲の魔力を強い負荷とすることができたため、肉体の魔力の抵抗を急成長させることに成功したのだ。これは彼の無能という事実を利用した異常な成長の一つだったが、逆に言うとそこまで成長しないと移動すらもままならないというこの森の異常さを強調する事実でもある。

 

 初めは三分も持たなかったのが、次第に五分、八分、十二分、……、六十分、……と増えていき、今では三時間ほどなら安全地帯を離れて行動することもできるようになった。プチひきこもりだった雪人は、ようやく森の中の様子を把握することができると今日初めて安全地帯を完全に離れたのだ。


 とは言えそれがすぐにこの森で一人で生きていけるほどの急成長かと聞くと、答えは否である。

 もともと彼は魔力無しなので魔力で身体能力を強化することはできないし、そもそもこの森にはそんな魔力濃度に耐え切れた上で強化も魔法も使える魔物ばかりである。

 故に、鈍重そうに見えた蟹の魔物ですら攻撃は雪人よりも速く、その目に動きを捉えられていないのだ。


(と言っても、攻撃を予測することくらいはできるようになってはいるが……)


 雪人はそう考えて、再び自分に向けられた攻撃を魔力感知を利用した先読みで回避していく。彼がこの森の魔力濃度に体の魔力抵抗を適応させたのと同時に、魔力感知の感覚も彼の下に戻ってきたのだ。

 今の雪人ならそれ以外に相手の攻撃の動きだしを捉えるなどの技術を使えば、蟹の次の攻撃を予測して避けるくらいの芸当はできる。

 右と左の大バサミに高速で魔力を循環させ、こちらに息もつかせぬ連撃を放ってくる蟹型魔物。それを雪人は魔力感知の予測に従って全力で回避していくが、身体にはいくつも傷がついていく。


 これは決して攻撃の来る場所を読み間違えているのではなく、予測して動いた後にくる攻撃があまりにも早いため攻撃を躱しきれていないのだ。

 同格の相手なら負けることは無い雪人の魔力感知も、身体能力の圧倒的に違う相手には通じない。

 蟹と雪人にはそれほどの身体能力の差があった。

 

 だからと言って絶対に勝てないわけでもない。雪人は鋏の攻撃をよけながらそこいらに落ちていた石を拾っていく。


 「――――――――――――りゃ!!」


 雪人は裂ぱくの気迫とともに、森の中にあった石を一斉に投げ放つ。狙いは蟹の飛び出した眼球。しかし雪人の放った礫はすべて蟹の自慢の鋏ですべて撃ち落とされてしまう。

 まるで紙屑のように、クシャっと潰れていく石。そうして蟹が全ての攻撃を潰した時には眼前に雪人の姿は無かった。

 そして蟹の目には、自分の真上の木から右鋏の方に飛び降りてくる雪人が見えた。自分の甲殻ならばどんな打撃にも耐え切れると思い、蟹は回避をしようとはしなかった。

 そんな蟹の予想に反して、右鋏にとりついた雪人は丁度細くなっている上腕部の部分に全身で絡みつくように関節技をかけ、右腕を捻じり取った。



「――――――!?」


 蟹は慌てて左の側方に移動した。蟹の体の構造上側方の移動の方が前方への移動よりも早かったし、何よりも自分の最大の武器は目にもとまらぬ速さの鋏の一撃。攻撃のためにそちらを向く判断は間違いではない。

 ただ、惜しむらくは雪人の目的が蟹の右腕だったことに気付かなかったことか。


「このうまそうな右腕はもらっていくぞ!」


 雪人はこちらを警戒して攻撃をして来ようとする蟹をしり目に、蟹からもぎ取った右バサミを抱えて全力で逃走を始める。

 機動力に劣る蟹は、その雪人の逃走に追いつくことはできなかった。

















「やった! やった! ようやくまともな飯にありつける!」


 雪人ははしゃぎながら森の中を魔樹イービル・テイターンの作る安全地帯に向かっていた。


 彼のはしゃぎようも無理はない。なにせ今まで彼の得られた食料は、魔樹に魔力を吸い取られ切ってしなびた魔物ばかりだったのだから。

 恐らくは魔力という生命力の余剰分をイービル・テイターンに吸われたことで素材にあった旨みも一緒に逃げたのではないかと雪人は推測していたが、どちらにしても味気ない食べ物ばかりの生活には変わりない。いくら食事にウエイトをそこまで置いていない雪人であっても、食べられる食料が美味しくないという事態は相当にきついものだった。


 それでも初期の頃は、空腹に死にそうになっていたこともあり、そこまで気にしていなかったし文句も無かったのだが……長く続けていくと、どうしても堪えてくるものがあった。

 故に、最近の彼にとっての最大の急務は、魔物の肉を自力で捕獲して料理したものを食べることだった。なので偶然見つけた蟹との戦いの最中に目的を、勝てそうもない魔物と真正面から戦って命を奪うことから、美味しそうな腕を一本もらうことに変更したのだ。


 幸いにして、蟹の鋏は胴体につながっている部分にいくにしたがって細くなっており、先端の重量を利用して全身で捻りを加えれば簡単に捻じ切ることが可能だった。直前の目くらましと木に登った上空からの襲撃もうまく決まったし、雪人としてはいう事なしだ。

 どんなに速く攻撃ができても、同時に正面と自分の上方の二方向からの攻撃に対応できるほどのスペックは蟹にはなかったようで、想像よりもあっさりと右腕の捕獲は出来たのである。


 そうして雪人は上機嫌でこの蟹の腕をどう料理しようか悩んでいた。と言っても器具も機材もない今の状況ではどうせ彼にできるのは単純に肉を焼くくらい、特に手の込んだ料理をするというわけでもない。


 イービル・テイターンの近くではこちらのとった魔物の肉を奪われる可能性があったので、その根っこが及ばない範囲、ちょうど安全地帯から十メートルくらいの距離をとって火を起こす。


 蟹の肉をじっくりと焼いていく雪人。寄生虫などの危険を考慮して火はしっかり通しておくに越したことは無い。そうして焼いた肉は、とても香ばしいにおいを放ち始める。


「……っくう! 長かった!」


 およそ一か月。味気の無い食事を続けていた雪人にとって、この香ばしい匂いですら嗅ぐことはなかった。期待感に口の中の唾液が大量に分泌される。


 ホクホクと焼けた蟹の肉を初日にとっておいたカマキリの鎌で突き刺して、口元に運び一口。それは一か月間の不遇を涙を流して許すことのできる美味しさと旨みがあり――――――――――――雪人は倒れた。


「―――――――あ?」


 体がマヒして動かない。正確には麻酔を全身に喰らったかのように感覚がすごく希薄なのだ。地面に倒れたというのに接触している感覚もない。

 そして続く体の激痛。自分は毒にでも当たったのかと思ったが、すぐに自分の不調の原因に思い至る。


(しまった! そういや魔物って魔力が大量に含まれてるじゃないか!)


 蟹は勿論この森の中に生息している生き物である。なので、この森の大気中を漂う魔力濃度に耐え切れる魔力を体に保持していた。それを食べてしまうという事は、森の大気中にある以上の魔力を体内に取り込むことに等しい。つまり雪人は過度の魔力酔いと同じ症状に陥っていたのだ。


 匍匐前進で安全地帯に向かう雪人。彼のその行動は、森の中で無防備になるのは危険であると思っての判断だった。


 しかし、それは間違いだった。


 なぜか安全地帯に入った雪人にイービル・テイターンの根っこがするすると近づいてくる。魔力の無い雪人に何故根っこを伸ばしてきたのか……と考えてハッと気づく。


(まさかコイツ、俺の食った蟹肉の魔力を狙ってる!?)


 雪人が今しがた食べた蟹の肉を狙って、こちらに触手みたいな根っこを伸ばしているという最悪の想像に、雪人は全力で逃げを選択しようとした。

 しかし伸びてきた根っこに腕と足を拘束され、うねうねと伸びてくる根っこが彼の周囲を漂い始める。


 それはまるでおいしそうなご飯を前にした時のような反応であった。


(あ、絶対これやばい、というかもうなんか不味いってこれ、おい、近づくな、っていうか顔に来るなって――――――)


 その後の雪人の姿を知る者はいない。


 雪人本人も、すぐに記憶を完全抹消し、二度とその記憶を掘り起こすことは無かった。


 ただこの後彼が樹の近くで、自分が捕まえた魔物を料理して食べることは無くなり、森の中で魔物の肉にも耐性ができるまで消化器官を鍛えなおしたという事だけは付記しておく。




 二つの話をつなげて作ったので、ところどころあらがあるかもしれません。

そういう時はそっと教えて下さい。

 これが大体森に入って一か月までの雪人の日常ですね。

 最後どうなったかって?怖くて言えません。


 最後に豆知識を一つ、実は蜘蛛の糸というのは粘性のある糸と、粘性の無い糸があるそうなんです。なんでも獲物捕獲用と自分が巣で動く用の二種類が。なので雪人が使ったのは粘ってしてない糸ですね。

 ……何と蜘蛛のお腹の中には科学的な液体が詰まっていて、それを使用用途で変えるだけとのことです。今着た感想で初めて知りました。

 でも糸の性質が違うというのは多分本当です……もう最悪そういう蜘蛛がいたというご都合主義に走りたい…… 

 少なくとも、巣を張っていた蜘蛛が食べられたというご都合は許してください。 その内蜘蛛と雪人が戦うのでそこいらで勘弁してください。


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