表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/44

勇者の思い

「なんでお前がここに――――――」

「そういうお約束な反応はいい」


 王城の高性能魔導車乗り場において、雪人は遭遇した似非勇者翔也の激昂を軽く流す。流された側はそちらを見ることもしない雪人の態度に苛立ちを覚えプルプルと腕を振るわせていたが、どうやらここに雪人がいる理由について思い当ったらしく雪人から距離をとって歩み去っていく。もともとは雪人と冬音の訓練であったため、勇者という立場から優先順位的にはあちらの方が上でも、筋の上ではこちらが上ということに気付いた後は、あちらもわざわざからんでくることもなかった。


 翔也はいくつかある魔導車の中でも一番大きく設計されている車に近づく、彼の右隣には異世界人を召喚した中心人物の一人であり、魔法学六百年の歴史の中の天才、「知啓姫ちけいひめ」ファルミー第一王女が、左隣には火属性の勇者、その性格の苛烈さからまるで天に戦いを挑むようだと「灼天炎姫しゃくてんえんき」との異名のつく嘉納喜咲がそれぞれ陣取っている。

 彼女たちはそれぞれ光の勇者として「神聖剣しんせいけん」の二つ名もちの翔也に好意を抱いていることがまるわかりなのに、その当人の翔也はそれに気づいた様子もなく二人に話しかけている。

 そのせいか、二人の少女の八つ当たり気味の殺気が雪人の方に飛んできたので雪人もそちらを確認する。


 その様子をみて、「これがご都合主義勇者のハーレムか」と深く納得する様子を見せる雪人。何度も頷く彼の近くに忍び寄ってきた一つの影が。

 

「雪人君。そろそろ出発なので準備をしていただけると助かるんですが」

 

 誰あろうここ最近雪人との付き合いが最も深い日輪である。話して二週間弱の人物が最も親しいという事で雪人のボッチが強調されたが、そんなことを気にするほど彼の神経は細くない。

 そんなことを気にするよりも、自分の興味の赴くままにしか動かない雪人としては一体何故日輪がこちらに来たのかについて疑問を持った。確か彼女は、自分の乗る旧式の魔導車とは違い、勇者たちと同じ高級魔導車に乗る予定だったはずである。


「あれ? Bがなんでここにいるんだ? 痛い名前の勇者はあっちだぞ」

「それは私のことを言っているんですか? それとも翔也君のことを言ってるんですか? 前者なら戦いを挑みます」

「勿論あのハーレム男のことだ」

「それを聞いて安心しました」


 日輪がこんな風に話したことには訳がある。彼女が雪人と一緒に魔法の勉強をしたことで、他の異世界人、後から勇者となることを承諾した者でさえもが、まだ中級魔法で苦労しているというのに、勇者の中で一人、上級魔法を行使することすらも可能になったので、他の勇者二人と同じく「水月みなつき魔導姫まどうひめ」という痛い称号を得てしまったのだ。

 他の勇者二人よりも明らかに痛さが上がっているその二つ名を聞いて、日輪がショックにその日の夕食を食べきれなかったほどのトラウマである。あまり思い出したくない。

 

「……というかそんなことじゃないんですよ! 私が言いたかったのは! さっさと移動しようとしてください!」

「え~」


 雪人は、これで自分が動かないことを上手く誤魔化したと思ったのに、と不満げな表情で日輪の話を聞いている。

 そんな様子をみて、ますますヒートアップした日輪。


「いいですか! 王城の噂の的になっている貴方がそんな風にやる気も皆無、面倒くさいことは嫌だとばかりに周りに人を寄せ付けない空気を纏ったせいで、少しは貴方にも耐性があるだろうと思われている私にお鉢が回ってきたんですよ! いつまでも人の呼び方変えてくれないし、素直に言うこと聞いてくださいよ!」

「ああうん、分かった分かった。だから騒ぐな。視線を集める」

「……兄さん。何の騒ぎ?」


 雪人が声の方向を向くと、そこにはちょこんとまた一人の少女が。

 冬音である。


「おお冬音。いいところに来た。Bを止めてくれ」

「またBって!」

「……とりあえず日輪さんは落ち着いて」

「ひゃう!!」


 冬音の氷魔法てきかくなはんだんで首筋に冷たい氷を押し付けられた日輪は一時ストップする。その隙に彼女は状況を把握、収束に向かって解決策を考え出す。

 彼女の出した回答は、じっと雪人の顔を見つめて質問するという事だった。


「兄さん。約束、守ってくれますよね?」


 何を、とは言わない。それは雪人にも分かっていることだったから。


「……はあ。仕方ないな」


 冬音の言葉にようやく動く気配を見せる雪人。それを見て自分の発言力の何と小さいことかと嘆く日輪。 

 とりあえず雪人は自分の乗る魔導車のことを知らなかったので、冬音に教えてもらいついていく。


「……そういやあさっきBが言ってた俺に関しての噂って何だ?」


 雪人は一部、自分の知らないことを言っていた日輪のセリフに関し疑問を呈する。ただ魔導車に向かうのも暇なので少々の暇つぶしにでもなればと思って深く考えもせずに発した言葉だった。

 しかし、その言葉が彼にもたらした被害は甚大だった。


「ふふん、よく聞いておくといいですよ。最近王宮の図書館の本の虫が魔法の簡易習得技術を餌にして二人目の女の子を引っ掛けてハーレムをつくろうとしているという噂があるんですよ。いやー全く誰のことでしょうね」

「……は?」


 雪人はそれが高い確率で自分を差すという事に気付き、救いを求めるかのように冬音の方を見る。

 みられた冬音は長い沈黙の後、「……噂と真実は違うことを私は知ってる」とだけ言った。

 それがさすところつまり、自分は魔法の技術を私利私欲のために使っている外道だと認識されているという事。


「何故だ……」


 いくら彼の神経が頑丈でもこれは無い。落ち込んだ雪人はそのまま到着した自分の乗る予定の魔導車の中に入り、椅子に座って深く落ち込む。

 そんな彼を心配して、慰める二人の少女の姿を見れば、彼の悪評は仕方のないことなのかもしれない。

















 白く輝く鎧が魔獣の放った燃え盛る火の玉を弾く。火の粉が散るのに合わせ、火の熱が鎧という金属の塊の内部に侵入しようとしたが、それを許すほど鎧は無能ではなかった。

 完全に不意打ちであった火の玉が直撃した熱を、装備者に全く伝えず完全に守り切ったことで、火の玉を喰らった少年は直前まで気づかなかった魔物の下にそのままダメージなしで突進できた。 


 そして、その右手にこれまた神々しく光る剣を持ち、左手に装備した円盾を体の前に構えて近距離まで肉薄、剣の間合いに達したところで右手の剣を思いっ切り突き入れる。腰を捻ってからの全力の突き技は、かつて彼がとある男に先手を取られた後に、必死に自分もその技を使えるようにと、教導騎士に頼み込んで直剣でのアレンジを加えた技を作ってもらい会得したものだ。


 魔導車で移動中に襲ってきた魔物たちとの実戦でも、練習時とほぼ変わらない動きを再現できたことにそれなりに満足を覚えた少年。しかし、突いてみた手ごたえから、まだまだ自分の剣の勢いを突きの威力に変換できていないことが伝わってきて「こんなところで満足していてはあいつに勝てない」と更に気を引き締める。


 そんな少年の視線の先、彼の雪辱を願う相手は魔物たちに全て手に持つ棍棒で対応している。

 防具も直前に用意されたという少々耐久性の厚い革製の服。ともすれば普段着にも見えなくもない、そんな格好で、地面にもぐりその上を通った生物を襲うミミズのような魔物ハイディングワームの攻撃を容易く躱してその胴体に棍棒を薙いだ一撃を加えている。


 いったいどうやって打てばああなるのか、いきなり地面から出て襲ってくる体長五メートルはありそうなミミズの胴体を殴っては地面から無理矢理全身を引きずり出し、そうして地上に出てきたところを他の勇者に攻撃させている。その光景には危うげというものが一切なく、ハイディングの名の通り、地面にいる間は自分たちにはまったく感知できないはずのミミズの奇襲を、まるで見ているかのように躱しては攻撃を加えていっている。


 自分も勇者として二週間遊んでいたわけではない。しっかりと訓練を積んできて、装備も一流のものを身に着けている。今や中堅の騎士であったならば相手取っても確実に勝てると言い切るほどの実力を身に着けているというのに、それでもなお、視線の先の少年には及ぶ気がしない。


「どうしたの翔也? 動きが止まっているけど?」

「そうですよ。こんなところで戦闘以外のことを考えてうわの空では危険です。もっと集中してください」

「低級の魔物相手でも油断をして負傷した人物の枚挙に暇はありません。翔也様、油断は禁物です」


 彼の一番信頼の置ける仲間の三人、喜咲、日輪、ファルミーが意識がどこかへ行っている翔也を心配して声をかけてくる。

 一応、周辺の魔物はすべて駆逐したと判断できたので、こっちにやってきたのだ。

 だがどうやら三人は自分が何に意識を盗られていたのか気づいたようで、こちらの視線を追ってすぐに納得したような表情になった。


「あら……ああ。あいつを見てたのね。確かにあいつ魔力も無い無能とか言って、戦おうとしない癖に随分と強いわよね。やっぱり戦わせた方がいいんじゃない? 日輪は彼を知ってるんでしょう? どう思う?」


「いや……彼は実際この世界では無能という弱者の分類ですよ? しかも魔力もないという無能の中でも最弱者です。彼が今強いのは前の世界で人知れず血のにじむ努力をしていたからで、なのにこちらの世界では無条件で弱者に分類されてしまう彼を戦わせようなんて言うのは流石にどうかと思いますよ。それにもともと戦うかどうかは自由意思だったでしょう? 効率的だと考えると相手の事を考えないのは貴女の悪い癖ですよ、喜咲」


「随分と肩を持つわね……やっぱりあの噂って本当なの? 魔法を教える代わりにあんたともう一人をハーレムに加えようとしているって話」


「はあ、そんな訳ないでしょう。図書館でも私が魔法について研究する間も特に変わったことはしてないですよ。ただ、自分の魔法の悪いところとかを完璧に修正されて、魔法を使うときのイメージで今まで考えたこともないような発想をさせられているだけです。その精度が信じられないくらい彼は高いというだけで特に特別な訓練はまったくしていないのですが……全く誰も信じてくれませんし。それに彼の研究に参加する対価として魔法を使えない彼の代わりに私たちが魔法を使っているだけで、彼としては魔法の研究以外に興味はなさそうでした」


「日輪様。それは一体どのようなイメージなのですか? 魔導を極めんとする一人の魔導士としてはとても興味があるのですが」


「王女様。私が彼から習った技術を勝手に教えることはできませんし、もともと貴方は光の適性でしょう? 私は自分の適性しか聞いていないので教えることはできません」


「そうですか……残念です」


 三人の少女が話していく声を軽く聞き流しながら、翔也は彼女たちの話の焦点となっている少年について考えていく。


 初めは根暗で陰気ないけ好かない奴だと思っていた。向こうの世界でもいつも一人きり、本を読むか何かを勉強するかしていない姿ばかり見ていた気がする。

 空気よりも薄い存在感で、教室にいる時はひたすら自分一人で何かをしているただのオブジェ。翔也から見てのかつての雪人はそんな認識しかなかった。

 たまにそんな姿を見て、友人もいて部活も充実している自分の境遇と比べ、あいつの一人は何と淋しいのか、ああはなりたくないと拒絶感を覚えることもあった。

 要するに、翔也は雪人を「あいつは大したこともできないモブキャラだ」とひどく自分勝手に判断し、馬鹿にしていたのだ。そんなことあるわけもないはずなのに。


 だから、最初に召喚された後に勇者になることを承諾した自分が、色々と自分の思い至らなかったことを、王様に意見していく姿を見て筋違いな怒りを感じた。

 そうして彼に理不尽な敵意を持ったまま、後から色々なところで突っかかって絡んでいったが、最後に本気になって戦った決闘で、先手を躱された雪人はあっさりと木刀を手放した。

 まるでこれ以上続けることに意味は無いとでもいうように。

 

 あまりにもあっさりと自分の勝ちを諦め過ぎている。興味のないことには関心など湧かないとでもいうような恐ろしく冷めた目を見て、俺は恐怖から自分の冷静さを取り戻し、ようやく雪人が自分の人生のモブキャラなんかじゃないという事に気づいた。

 あんな冷めた目をしたモブキャラがいていいわけがない。一度見てしまえば、二度と忘れられないような、身体に震えのくる目だった。


 そうして落ち着いて考え直してみると、あちらの方が、自分のように「勇者」という役に踊らされずに、いかに冷静に行動していたかというのがよく分かった。

 というよりも、自分がいかに浮かれていたのかという事か。


 たまに自分の聞いているところでは「少女をかっさらった」という言葉も聞こえてくることがあったがそれも日輪に尋ねても見ると、事実ではなく、自分の肉親との関係を今からでも修復しようとしていたことが判明する。


 何が勇者だ。翔也は自分の行動を顧みてそう思った。自分は勇者という響きに乗せられて、ファンタジーの世界で目覚めた魔法という新しい力とともに、ひたすら自分を鍛えたりするだけだった。そこに世界のことを自分で知ろうとする意識は無く、自分の仲間たちとともに冒険したいという思いしかなかった。 


 対して雪人はどうか。自分が魔法を使えないというのに、今後魔法を学ばないと対処できない状況もあるだろうとただでさえ難解な魔法を学び、自分のこじれた人間関係に正面から解決しようとしていく。そんな風に自分の過去と向き合う雪人の姿は臆病とそしることはできなかった。確かに、彼が最初に魔王と戦う事を選ばなかったのは、戦う力がないから無理だというひどく利己的な理由だったが、翔也もこの世界に来てから二週間、その意見が間違いではないことをまざまざと見せられていた。


 ――――――色持ちの国民に、奴隷として酷使させられている魔法に適性がないの人々の姿。こんな光景がまかり通ってしまうほどに無能と色持ちには実力差がある。城下町に広がっている、日本で育った自分には受け入れがたい景色から、否応なく翔也はそのことを実感させられた。これでは雪人が仮に戦うといっても素直に了承してもらえたかどうか怪しいとすら考え始めた。


 あの時の彼の推察力、思考力、そして判断力と度胸。それらは確かに翔也のそれよりもはるかに上の次元に存在していたのだ。


 悔しい、と思った。自分が、奴はモブだと自分は勇者だと選民思想に浸っている間に、同じく召喚されて、自分よりも不利な立場だった雪人はいつの間にか手の届かない高みに登っていたのだ。


 故に、今は彼に追いつく。そのことを目標に頑張ることにした。自分の今までの所業は勇者のそれではなかった事に気づいてからは、一度決定したことを突き進む性格であった翔也は、勇者らしくなるために一度立ち止まって再び自分の行動を見直すことを決意する。今でも魔王を倒すという願いを叶える意思は存在していたが、まずは自分の突っかかったことを雪人に謝罪に行きたいと思った。しかし、今の雪人の取り付く島もない様子に、まともに話すこともままならない。


 いつか自分がしてしまった間違いを清算し、彼に謝ってそののち自分は真の勇者を目指して魔王を討伐する。今の翔也はそのことを胸に抱いてこれからの修行に挑もうとしていたのだった。


 そうして何かを悟ったかのようなすっきりした表情で、自分の魔導車に戻っていく翔也。三人の少女たちもそれについていく。


 そうして乗り込んだ車が出発し、翔也が今後、自分がどうしていけばいいのか。そういうことを考えている内に、三日間の旅路は終了し、目的地であった魔の森との国境線に到着した。



勇者翔也の勘違い~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ