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81:決着

ダークエルフは何も語らず、にやりと笑んだ。

口の端からだらしなく涎が垂れる。奥の犬歯は恐ろしく輝いてきた。

背後には魔王が絡んでいるという事実を知っていても、先ほどまで美しかったエルフの姿を思ってしまう。

落下し続ける俺達を『もう少しでお前等も殺してやる』と見やって、カナにトドメを刺すべく矢を取り出した。弓で射殺すのもつまらないと一つ思いついた表情をし、矢を逆手に持った。

矢の鋭利な先が反射し、カナの顔を青白く照らす。

少しも躊躇ためらわず、『魔王』はカナの頭目掛けて矢を突き刺した。

――ダークエルフは気づかなかった。カナの表情が強張こわばっていないことに。

キーン! と一つ金属がぶつかり合う音がした。何事かとダークエルフがカナの全身を細部まで見たとき。

背筋が凍った。



「――カナ!」

リョウヤは我を忘れ、今すぐにでも彼女の方へと走り去ってしまいそうだった。

「リョウヤ! しっかりしろ! 向こうの着地ダメージを受けないところへ行かないとこのまま落ちて死ぬぞ! いっかい安置に移動するんだ!」

「だ、だけど……!」

「――ぐずぐずするな! 今、カナがターゲットにされているときに移動するしかない!」

正直、ハクがここまで顔を赤くして指示しているのを見るのは始めてだった。

いつも自分のことだけを優先に考える人だと思っていた自分を殴ってやりたい。

一度だけじっくりとカナの姿を凝視して急いでこの場を離れた。



ダークエルフは想定外の出来事に呆然としていた。

具体的に表すのならば、先ほどまでほくそ笑んでいた立場が交代したということだ。

カナは両方に一本ずつダガーを隠し持っていた。一本は矢の先を止め、もう一本はダークエルフの腹部に見事に刺さっていた。

そしてその両方のダガーの先からは紫色の明らかに強力な毒が塗りたくられていた。

毒の回る速さと予想が裏切られたショックで目が回る。

腹部に刺さったダガーを両手で押し深く入れ込む。

そのたびにダークエルフの身体が跳ねる。動かないほどダガーが深く入るとカナはすかさず傍にあった物陰に隠れる。やっとプリンの役目が来た。

ゲームルールに則ってプリンは一瞬でカナに吸い込まれた。HPは完全に回復し、カナの肩口に入った切り傷も元通りになっていた。

ダークエルフは視線こそはカナを追っていたものの即効性の毒で身動きが取れない。

かろうじて立ってはいるが、身もだえ、苦しんでるのが物陰でも感じられる。

ダークエルフは足を腹部を抑え、苦しそうにカナとは反対の方向へ逃げようとした。

「――待て!」

彼の声が虚空を引き裂いて、こちらに届いた。アヤに至っては指をポキポキ鳴らしている。

ダークエルフは声の方向へ首だけを曲げて確認する。

するとだ。先ほどまで強力な爆発であらぬ方向へ飛ばしたはずなのに。

まさに『ピンピン』していたのだ。

まずいと思った彼女はすぅっ、と息を吐き、あらん限りの力で走り始めた。

腹部からは時々黒紫のオーラが抜け出している。

「逃げるんじゃねぇ!」

ハクはすかさず加速魔法を行い、リョウヤのステータスを底上げした。

リョウヤはなりふり構わず走った。全力で。一瞬で遠くに見えたダークエルフの姿が目の前に変わる。これで終わりか、と淡い期待を残しながら長剣を背中に突き立てるが。

傷を負っているモンスターとは思えない俊敏さで長剣は見事かわされてしまった。

振り向きざまにダークエルフの矢先がリョウヤの頬をかすめる。

静かに流れる血。それを見てびびる事はもうしなかった。すかさずダークエルフは鋼鉄の矢で対抗する。

矢を小さな両刃剣として扱う事にリョウヤは感嘆した。

だが、所詮矢。リョウヤの持っている長剣に勝てる見込みはない。

普通モンスターが所持しない弓矢を持っているからか小型剣さえも所持していない。

長剣と矢の攻防が続く。

片手は苦しそうに腹部を押さえていて、やっとこさリョウヤの攻撃を防いでいるという状況だ。

形勢逆転。とはこのこと。遠くでMP回復魔法を行ってくれるハクが居る限りどんなスキルも多様できる。

先ほどまであざ笑うようにバック転回避した姿はどこへやら。紙一重で身体を曲げながらリョウヤの猛攻に耐えている。

リョウヤはあえて油断させるために右なぎ払い、左突き、正面斬りを何回も繰り返していた。

あまりに単純すぎる攻撃方法だが、これにも裏がある。

これを何回もバカみたいに繰り返すことによってダークエルフの動きを固定化するのだ。

つまり、回避行動に癖をつける。

この攻撃パターンを十数回ほどしたところか。リョウヤは気を奮い立たせ、全力で正面突きを繰り出した。毒の入り込まれた腹部に長剣が突き刺さる。

「ぐふっ」

身体が曲がった。動きが一時的に止まる。

その瞬間を見逃すことはもちろん無かった。

右、左、斜め、左斜め、突き、切り上げ。なんどもなんどもダークエルフの肢体に傷をつける。

頭上のHPをみるともう体力は10%を切っていた。

勝負は決まったも同然。最後にリョウヤは宝剣、エリュンケラーを逆手に持ち。

尋常じゃない高さまで飛び上がった。

ダークエルフは諦めたように空を飛ぶリョウヤを眺めた。

次の瞬間、頭に強い衝撃を受け、身体の動きが止まった。

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