78:対ドラゴン
リョウヤは暫しの数巡の後、作戦を練り始めた。
大体モンスターの覚醒、いわば逆鱗に触れた状態は体力が十分に削られた状態で起こるものだ。
これが中ボスの本性なのか。未だに体力は80%残っている覚醒状態のモンスターをどう倒せばいいのだ。
――……ドラゴンの弱点は複数あるじゃないか……! 頭部、目、腹の中心、尻尾の先の結晶! どれかを集中的に叩けば覚醒が収まるか、体力を大幅に削ることができる!
これが、ドラゴンの猛攻から逃れながら瞬時に出した作戦基盤であった。だがまだ未熟な作戦である。
未だに完全マークされているのは大剣所持者のアヤ。ドラゴンから見ればしぶとく生き残っている彼女もようやく体力の限界が近づいていた。まずはどうにかターゲティングを自分達に引き寄せなければ……!
あるのはアヤの救出だけであった。ああ、俺は仲間を見捨てる事なんて絶対に出来なさそうだ……。
「――カナ………!」
即興で浮かんだばかりの布石を頭に入れる。唯一状態異常をあたえられるのは短剣テクニシャンのカナだけだ。眠り、毒、麻痺、どれもダガーでだけ引き起こせるスイッチなのだ。
その分攻撃力はカットされているが、大型の敵相手だと最大限に力が発揮される。
「出来るか…!」
「はい…!」
その一言だけを聞くと、リョウヤは安心しきったようにドラゴンの方向へ走り出した。
目の前の戦いに備え、長剣は抜刀したまま、攻撃力倍増ポーションも飲んだ。
――任せたぞ…! カナ!
そのころ、リョウヤの作戦を聞いた途端に閃いたダガーの特性。
ダガーを使いこなすどころか、触った事さえもない彼がこの作戦を思いついた。
暴れきっているドラゴンに夢中で撃退する方法なんて一切頭の中に無かったのに。
カナはそう思い、バッグに入っていたビン入りの睡眠薬(液体)をダガーに塗りたくった。
この睡眠薬は人間が触れただけで倒れたように眠ってしまうほどの効力だ。
ちまちまヘラで塗るのもじれったくなってきて、ついにはダガーごとビンに入れ込んでしまった。取り出すと、ダガーの剣先からドロリと透明の液体が下に落ちる。
絶対に触れてはいけない。触れてしまえば、眠ってしまうから。
垂れて無駄になるまえにもう一本のダガーをビンに入れ込む。すぐさま取り出し、間髪入れず、野球選手顔負けの速さでダガーを正面に投げた。
目標はもちろんあの覚醒ドラゴン。あの巨躯に最恐睡眠薬が効くのかどうかは分からない。とにかくダガーが深く入れば、こちらのものだ。
もう少し先に、リョウヤが走っている。ダガーはドラゴンを追いかける彼の背中を簡単に超え、ドラゴンへ向かっていった。
完全にアヤに夢中のドラゴンは背後から迫っている二本の短剣に気づかなかった。
そして着弾する。一本は側部、一本は尻尾の真ん中に刺さった。
ダガーはドラゴンの動きにぶれることなく深く刺さったようだ。
ちなみにあの睡眠薬は即効性。あと数秒で効果が…!
その瞬間、ドラゴンの尻尾が力なく地面に落ちた。ビリビリと麻痺をすることもなく、叫び声をあげて倒れるということもなく、その巨躯は地に伏せていった。
尻尾から動きが止まって、身体全体に神経が麻痺していったようだ。
そして、大きな音を立てて、頭が垂れていった…………。
これで波状攻撃を繰り出せば…
とメンバー全員がそう思った瞬間、パカパカパーンと鳴り響くファンファーレの音に続いて五人の目の前にパネルが現れた。
『六階クリア! 条件達成:モンスターの捕獲/討伐』
「討伐しなくてもOKっていう初期ルール忘れてた……」
達成はしたものの、彼らからは溜め息しか漏れなかった。
「疲れた……」
「マジで疲れた……」
メンバー全員が完全にグロッキーであった。これで最終戦に持ち込めるのか、という程に。




