77:代表的中ボス
扉を開けると、目の前にはRPGの代表とも言わんばかりの翼竜が現れた。
全身真っ赤で尻尾にも火が生えている。身体の二倍ほどある翼は大きく自己主張していた。口から吹き出す炎はこれ見よがしにアピールを繰り返していた。
とにかく六階は数百本もの触手やロボットと戦わなくてよかったと思う。
今阿鼻叫喚の生物が現れたのなら半狂乱でリョウヤは剣を振り回していたであろう。
とりあえず人知の入り込める隙がある敵で他のメンバーも少し安心したようだ。
そのドラゴンのデータを見る限り容易くではないが、死なないで倒せる相手ではあるようだ。
そいつはもう待ちきれないとばかりに臨戦の姿をとった。
もう某アニメのようにドラゴンの頭上に剣を掲げつつ一撃で突き刺すなどという作戦は一度たりとも考えてはいなかった。
いつもの陣でアヤが特攻、リョウヤとアリアは中距離攻撃、他サポート、それで安定だ。
普通ではボスの周りに雑魚が湧くものだが、六階ではその心配がない。
いわば最上階の腕試しと言ったところだ(彼らにとっては)。
最前線に向けて肩ならし気分で討伐するのであり、反撃しかえされるなどもってのほか。
TKHプレーヤーではそんなルールが出回っていた。
アヤは身体の大きさよりも大きい大剣を振りかぶり、向かってくるドラゴンの足目掛けて切り裂いた。
そいつは一瞬だけでも怯んだが、常に突進はやめることはしなかった。
アヤの攻撃が余計に闘争心をかりたたせてしまったのか次は突進をしつつ口の中の炎を左右交互に撃ち始めた。
そのせいでリョウヤ達の回避の場所がどんどん炎で無くなっていく。
応急処置にもならないが、長剣を振り風を起こして火を消していく。
一方ドラゴンは最初に攻撃したアヤをターゲットし、集中的に放火している。
まるで他四人の事が眼中にもないように。
アヤはすかさず納刀し、紙一重でありながらも着実にドラゴンの攻撃をかわしている。
そいつは広範囲攻撃が得意のはずなのだが、利点の有り余る広範囲攻撃を繰り出すにはクールタイムと発動時間が必ずしもかかるもの。
その間に間合いを取らされてしまうと判断したドラゴンは予定を急遽変更して、接触しながらの爪で引っかく攻撃に変えたようだ。
しかもアヤだけをターゲティングしているせいで完全に隙だらけとなっている。
リョウヤはいつ爪の攻撃がアヤにあたるかヒヤヒヤもしていた。だが、勝ちという単語は揺ぎ無かったが。
ひらり、ひらりと、蝶のように舞うアヤは美麗であった。背中にトンデモなく重い剣を背負っているにも関わらず疲れを感じさせない軽やかなステップである。
逃げる蝶を必死に捕まえようと網を振り回す子供と同じ状況に見えた。まるで童心に戻ったように獲物を追いかけるドラゴンの様はまさに滑稽であった。
「……なんだこれ……ふざけてるのか…?」
仕組まれたようにスムーズに勝利の指針が向き始めた時、ハクは怪訝な表情を見せた。
絶対に何かトラップがあるかもしれない。そんな表情だ。
だが、そこまで今後に思いつめてもアヤがいずれ訪れる危機に達するだけだ。
行動するしか選択はない。
そうリョウヤが伝えるとハクもようやく納得したように頷いた。
間髪入れず補助魔法を唱える。その後、カナが毒塗りのダガーをドラゴンに撃ち、こちらを振り向かせた。
一瞬止んだ攻撃の嵐にアヤは安堵の表情を見せる。
人間ならば致死量の毒がドラゴンには聞かないらしく、首筋に刺さったダガーを痒そうに見ている。間抜けな面がこちらを見やった瞬間にはもう、長剣組は飛び出していた。
さすがに一撃必殺とはならないもので、首と口に突き刺さった長剣は浅かった。
データ上にある残り体力はすでに80%を切っていて、少し望みの見えた瞬間だった。
散々舐められていたドラゴンが突然大きく咆哮した。
「……瀕死にも到達していないのに…!?」
そんな……なんで…、とも言いたげにリョウヤを見やる。
当然彼も分からない。
「ひょっとしたら…逆鱗に触れたんじゃ…」
「だとしてもどうして…!」
カナとリョウヤがオロオロしている間にもドラゴンの激高は続く。
ひとたび咆哮をあげるたびに地面から火柱が激しい勢いで出現する。
まだ体力は八割以上ある。これをどうやって攻略すべきか。
リョウヤは脳内をフル回転させた。




