73:アヤ&アリア 翼竜討伐
「――ここから脱出すればいいんだな…?」
「まあそうなるわね」
ご親切にも最初居た場所から数メートル先に看板が書かれていた。
特に何をしろとまでは指定はされていない。
存分に探検をし、扉を見つけてくれ。という事らしい。
「私とアリアは近接専門なのでな、中々相性がいいのかもしれない」
アヤが得意気に言った。
「まあ二人だけで戦った事も無いしね、一回試してみたいっていう気持ちもあるけど…」
「そうかそうか! 戦ってみたいか! 早く敵出現しないかな!」
「あたしてきにはモンスターなんて出ない方がいいんだけど……」
「そうか! じゃあモンスターは出ない方がいいな! うん!」
アヤはなんだかピクニック気分で楽しそうだ。
納刀したまま散歩感覚で数分道なりに歩いていると、端に何やら人を見つけた。
「ご老人…か…?」
「そうみたいだけど……人間では無さそうね」
「というと……?」
「獣人俗って部類ね、狼かしら、その面影は無いけど」
「杖突いてるな、もしかして」
「杖の中に長剣を隠していたりしていないか……? とか考えたでしょ
そんなサイコスティックなNPC居たかな」
「まあ話し掛けるに限る……」
「さっきまで疑ってたのはどこに……」
「おいそこの爺よ! なにか悩みがあるのだろう! 言うがよい!」
案の定その老人はアヤの方を見向きもしない。
「おじいちゃん? お願いがあったら聞いてあげましょうか?」
「待て!」
アヤが小声でアリアに耳打ちする。
「『わしの所有物になれ』なんて言われたらどうするんだ! 危ないだろう!」
「アヤちゃん、現実とゲームの区別はつけようね」
「――ふぉふぉっ、お願いとな、この使えない爺の願いを聞いてくれたら嬉しいのぉ……」
「『嬉しいのぉ……』じゃない! なんで貴様の願いをただで聞かなきゃならんのだ! なんか装備とかプレゼントするものならいくらでもあるだろう!!」
「そうじゃ、あそこにいる翼竜を倒してくれんかのぉ……、この老体じゃ無理と気づいての……お願い出来るかの?」
「………どうやらアヤの罵声を聞くつもりは無いようね」
「憤慨した! さっさと空飛ぶドラゴンなど討伐してこの階をクリアするのだ!」
「そんな簡単に……」
しばらくして二人の眼前に『住民クエストを受託しますか?』と現れた。
さすがに断る事は出来なかったのでアヤも渋々了解ボタンを押した。
その瞬間、老人の背後で突風が起こった。
木々が大きく揺れる。
シナリオ通り? に老人が、
「おや! 現れおったぞい!」
ぴゅ~っ!
老人は軽やかな足取りで逃げていった。
「さすがNPC、しっかりしているな」
「気を緩めないで! 来るわ!」
その翼竜は全身黄色く、怪しい色をしている。
体長は象の二倍分くらいの巨体だ。
毎回巨体を相手にしてきたがデクノボーでない巨体を見たのは久し振りだ。
アヤの手が震え、一筋の汗が流れる。
「アヤ……やっぱり怖いんじゃ……」
「違う、これは武者震いというやつだ、負ける気が余計しなくなってきたぞ」
「そう言ってもらえると、嬉しいわね……ッ!」
言葉を言い切ったと同時にアリアが飛び出した。
首をもたげて休息を取っていた翼竜の頭を狙い長剣を突き出す。
とっさに気づかれかわされてしまった。
それを狙っていたとばかりに、翼竜は全身を1回転させた。
その遠心力で動かされた尻尾がアリアの身体に命中する。
「……うっ…!」
だが流石のアリアだ。
空中で身体を安定させ、綺麗に着地してみせた。
実質ダメージはあまり受けていない。
「素晴らしい……! だが私の火力に耐えられてこそ私の打倒な相手だ!」
素早く近づき納刀を解除して抜刀斬りを翼竜の足に食らわせる。
「キイェェェェェェェ」
奇声をあげながら切った足とは反対の向きへ翼竜は派手に転んだ。
「貧弱! 今すぐ終わらせてあげる!」
アリアがすかさずスキルを使用した。
ワイヤーのような物を繰り出し、翼竜の首の部分に突き刺すと超高速でアリアごとそこに飛んでいった。
そこからは手馴れたもので翼竜の首より大きい長剣を振り回し頭を八つ裂きにする。
アヤもコンボに則りスキルを使う。
空高くジャンプして身体ごと大回転しながら連続で切り裂く上級の大剣スキルだ。
それを待機時間無しに素早く発動させたのはアヤの技術の一つでもある。
大剣は強引に翼竜の頭を切り裂いている。
いや、かち割っている。
もうすでに効果音は『ざくっ』ではなく『がりっ』に変わっていた。
そして二人は倒れた翼竜が立ち上がってもまた転ばせ、切り裂きまくった。
「…………」
二人の超火力に圧倒され、わずか数分で翼竜は地に平伏した。
女性とは思えない斬撃の深さに呆れたのか翼竜は静かに倒れていった。
「ふーっ、意外と楽だったね~」
「なかなかいいコンボも出来たし、このタッグが一番最強かもしれないな!」
「そうだね!」
あははははと談笑している二人の目の前に見覚えのある扉がドンと現れた。
「よし、この階も攻略したな」
「あれ……老人は……」
「もう攻略したんだからどうでもいい」
「………それもそうだね」
そしてゲートは動き出す。




