6:最高の修羅場。恐怖に慄く。
……もぞっ。
「………!?」
ドキッ!
としたが、彼女が寝返りしただけだった。
にしても俺この子の名前知らないもんな……
彼女、彼女、それで称してきたけど。
今では寝返りして俺の肩に頭を乗せてきた。
俺の肩が心地よいのだろうか。
俺の腕に胸をくっつけてる事を知ったら……。
『わ、私の純潔が……貴方に……
そうよ!貴方ちゃんと責任取ってよね!?
まずは付き合いなさい!』
とかになるかも……?
グフフ………!
いやいやいや、無い無い無い!
断じてそれは無い!
あんたとか言ってる時点でそれは無い!
しかも『純潔が……』
とか絶対言わないぜ。
死ぬまで殺す!
とか。
死ね!変態!
とか言うんだろうな絶対。
あとで、俺が一回殺されてから名前聞けるかな。
そんな期待を胸に俺は冤罪から避けるためベッドの上にある自分の毛布を彼女にかけ、
上半身だけ起き上がった。
その時だった。
俺の幸福はつかの間だった。
胸の感触。いわば天国を味わった瞬間は。
うぅぅーん………
という可愛い呻きでは無く。
彼女の朝の目覚めはいつも悪いのだろうか。
「ウゥゥ……コロス………」
という攻撃的な一言から始まった。
「ひぃっ!」
俺このTKH初めて悲鳴しか上げてなくね……?
神速行動というのだろう。
ベッドから出ようとした俺の目の前にまで彼女は接近した。
――――ズバッ
と一瞬の速さで俺の胸倉を掴むと
ガァァァァァァン
という音で俺は床に叩きつけられた。
エフェクトが大げさなのか地面にヒビが入り始めた。
床に叩きつけるだけじゃ飽き足らず、彼女はうつ伏せに倒れた俺の頭を
思いっきり『本気殴り』を始めた。
「ぶっ、ふがっ、ごぼっ」
声にならない悲鳴で俺は殴られ続ける。
「死ね…………死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネ……!
…………あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!
あんたの顔が潰れていくわ!」
もう一緒のベッドに寝てる事に怒ってない。
【俺を殴る事に快楽を覚えている】!
こいつ………狂ってやがる……。
ガン、ガン、ガン、ガン!
どこかの父親が日曜大工を始めたかのように
釘をさす、金槌を彷彿させる音量で殴り続ける。
ちなみにこの宿屋はリスポーン地点なのでHPは減らないように
セッティングされているようだ。
したがって、俺は死なずに殴り続けられているわけだが。
また、
痛覚は設定されないようになっている。
デスゲーム、すなわち痛さが法律で禁止されているからだ。
だが、何故か殴られると
「ぐふぅ」
「ごはぁ」
とか言う設定になってるらしい。
彼女のS心を引きつける設定だ。
と俺は恨みがましく運営を呪った。
彼女は闇雲に顔面を殴りまくっても俺は痛くもかゆくもない。
ただ、心が痛い。
こんな美少女にボコられているという現実が辛い。
と、口から赤い液体が流れてきた。
血が。
喀血していた。
「ごほっごほっ」
それを冷え切った目で彼女は見ると、
椅子に座って、アイテム欄をおもむろに開いた。
プシュー……
という炭酸水特有の美味そうな効果音が聞こえた。
彼女の手にはTKH人気のジュース
『ミヅヤ・サイダー』
が握られていた。
……ゴクッゴクッゴクッ。
彼女の喉が働いている。
俺が物欲しそうな目で見ているのを気づいてか、
彼女はペットボトルを目の前に持っていき、
「……飲みたい?」
と甘い声で囁いてきた。
「……………うん。」
なんか奴隷に格下げしたみたいだ。
「あっははっ。犬みたいだね。
はい、私との間接キス楽しみなさい。」
なんて変態行為をしようとしてるんだこの子は!
いや俺が言えた事じゃないけど。
俺を殴りまくって気が治まったのだろう。
怒りの表情は完全に消えていた。
ペットボトルが俺の手に触れた――――。
その時―――!
「―――――あげるわけ、無いでしょっ!!!」
フンッ!
という怒号と共に俺はもう一回床に叩き付け&ぶん殴られた。
「あははははっ!無様なやつね!」
彼女の暗黒な表情が俺の脳裏に焼きついたまま、
俺は気絶した。
リョウヤ君かわいそう(笑
彼女はドS質なのでリョウヤ君は引っ張られてばっかりになってしまいますね(笑
次回もお楽しみに!




