67:地龍
――突き破ったのは。
背景と床に同化した、
「――小さな…龍…?」
小さいとはいってみても通常の翼竜の2分の1といったところだ。
常人から見てすればそれは巨大であった。
だが、この龍は空を滑空しているわけではない。
実に真っ白な背景と同じ色をした『地を這う龍』であった。
身体中にトゲトゲの装甲をまとい、全身を伸縮させて長いリーチでなぎ払う。
これは確か…
「クリープドラゴンです…!遠距離攻撃に留意して下さい!」
地を這うドラゴン。
龍が咆哮したときにはもうリョウヤ以外の四人は動きだしていた。
まずはカナが無力ながらもダガーで敵の視線を泳がせる。
その間に近距離中距離専門のアヤとアリアが素早いタップで翻弄させる。
すぐさま魔方陣を起動させ攻撃力増加の詠唱を始めたのはハク。
「尻尾のなぎ払い!来ます!」
カナが前線の二人へ叫ぶ。
龍が狙ったのは空中で闊歩しているアリアだった。
的確にアリアの頭上へ狙われた尻尾は見事に当たらなかった。
「まだ…遅いわね…!」
アリアは長剣の先をその巨躯に突き刺し、その反動で身体ごと地面に急降下させたのだ。
ブンッと無駄足にすぎなかった龍の尻尾振り攻撃が失敗する。
そのスキを見てアヤが得意の大剣で連撃を魅せた。
普通大剣ではその重さゆえ、動きが大分制限されるものだが、
ハクの攻撃速度増加支援でその心配も今や必要の無い事であった。
リョウヤは遅れてられないとばかりにスキルを唱えた。
「――深遠からの襲撃……っ!」
このスキルは懐かしの筋肉プリンへのトドメの攻撃だ。
無数のダガーが敵を囲み、残酷かつ残虐に突き刺さる。
大体の雑魚敵はこれで潰してきた。
初期モーションであるエリュンケラーの振りかぶり。
降ろした瞬間、目の前に巨大な鏡のような魔方陣が現れる。
決して凡人には解読出来ないような文字列がそこに浮かび。
大量の小剣が飛び出した。
それに被弾したら元も子も無いとばかりにアヤとアリアは左右へ跳ぶ。
ダガーは撃つたびに使用した主のMPが削れていく。
一応自動回復は出来るが、あまり大した量は回復しないため、途中でこのスキルを止めなくてはならない。
それは回避に使うMPまでも削って撃ちだすべきか。
その最良を問うのはスキルであり。
問われるのはあくまで使用している本人だ。
残りMPがリョウヤの30%を切った。
今だにダガーは撃ち続けられている。
ヒュンヒュンヒュンヒュン。
追尾機能までついたそれは一つたりとも外れずに龍の巨体に突き刺さっていく。
龍はその数の暴力に反抗できずに仰け反ってばかりいる。
後ろで攻撃力上限開放と増加支援をしてくれているため、心強い。
減っていく彼のMPに比例して龍の体力は徐々に減っていく。
背景と同化しているからってどうって事はなかった。
普通だとこんなにも非常識なスキルなど存在しないはずなので、
アクティブスキルと通常攻撃を多用しながらHPを削っていくのがセオリー。
それを阻止するように身体を背景と同じにし、プレイヤーを混乱させるのもセオリー。
だが、常識を打ち壊す男リョウヤ。
いきなり究極スキルを撃ち出し、もう瀕死状態にまで陥らせていた。
彼の残りMPが10%以下になったときに魔方陣が自動的に閉じた。
ヒューンという音を鳴らし魔方陣が小さくなっていく。
そうなることによって目の前がより一層クリアになった。
目の前には大量の刃物に突き刺され、行き絶え絶えとしている龍がいた。
その無駄なデカさを誇る地龍も残りHPは4%以下。
多分アヤの大剣を4、5振りしたら消し飛ぶと思う。
「――ああ~!意外と一階は楽だったなぁ」
「そりゃそうですよ、あんなチートまがいのスキル使って何が楽しいんですか」
「いいじゃねぇか、簡単に終わったんだからよ」
「それもそうだな、無駄に通常攻撃を組み合わせて倒すより全然良い」
「それにいつ反撃されるかひやひやしてSAN値が削られるより全然良いわ」
こうして一行(半ば一人チーター)は二階の扉へ手をかけた。
一階に来たときと同じようにあの強い風が顔に当たりまくるのは少し不満ではあったが。




