56:愛の努力(仮)
「最近は宿屋にも通ってないし……カナの所にでも泊まってみようかなぁ」
「!?」
「何でそんなに嫌そうな顔するのよ」
「い、いや、なんでもない」
「そう、じゃあ、決定ね」
場所忘れちゃったから案内お願いするわ
と話はとんとん拍子に進んでいった。
⇔
「はーっくしょん!ふええっ………なんで私がこんな目に……」
「ボウル一杯の水で『状態異常:風邪』って……防止パラメーターに一つも振っていないだろう」
「だ、だって!私は宿屋の仕事さえ出来れば……はーっくしょん!」
アヤは一度上の階に移動し、大量のタオルを持ってカナの全身に巻きまくった。
「どうだ、これで温かいだろう」
「グルグル巻きすぎて動けませんが……ありがとうございます…」
「残念だな、カラメル作りは私に渡してもらおう!はっはっは」
「アヤさんまだ諦めてなかったんですか……、まあいいです、私の負けでいいですよ!もう!」
砂糖は100グラムですからねー!と背中にカナの注意を聞き流しながら、キッチンに再度立った。
威勢良く腕まくりをし、鍋を取り出した。
「ええっと…?水と砂糖を鍋に入れるのか……」
レシピどおり中火でそこにある砂糖を溶かし始める。
少し経つと全体が茶色に染まってきた。
「私の料理テクは凄いのだぞ!ははははははは!」
と自画自賛しながら砂糖が溶かしやすくなるように鍋を揺らす。
――カラメルが色づき始めたら手早く行わないとダメなんだな……
「めんどうくさいやつめ……これが愛の努力という物か……」
自分で言って気づく。
「なな、何を言ってるんだ私は!誰に愛を注ぐというんだ!」
どれだけ打ち消してもあの黒茶色の髪型が浮かぶ。
背中に宝剣を背負ったあの姿が。
「やっ、やめろやめろ!私の脳よ、静まれ!」
しまいには自分の頭をポカポカ叩き始める始末。
――ピンポーン!
玄関チャイムの音で現実に引き戻された。
「かっ、カナ!」
「無理です~!」
――そうか、縛られてたんだった、あと風邪気味…
アヤは急いでチャイムの方向へ走る。
ドアノブを勢い良く回して、開けると、
「おっ、アヤか、ただいま」
「な、にゃ、りょうにゃ!」
「――なんだその歯を無くした老人みたいな喋り方は」
「う、うるさい!あと、『アヤか』とは何だ!まさかカナが裸エプロンでお迎えなんて想像してなかっただろうな!近づくな変態!」
「悪かったって、ってあれ?」
「ん?どうした?」
「………なんかコゲ臭くないか?」
「あっ!」
リョウヤの言葉を聞いた途端、アヤは踵を返してキッチンに大ダッシュした。
「――あ、ああ……私の努力が……」
アヤの目の前は真っ暗だった。
ついでに鍋の中も真っ黒だった。
「…あちゃあ…、こりゃ焦げてるな…」
後ろからリョウヤの残念そうな声が聞こえる。
「うっ、うるさい!私にだってミスはあるものだ!いちいち弄くるな!貧弱男子め!」
「やめてくれ…それ以上罵倒するな……泣く…」
「ふっ、ふんっ!」