30:薬屋店員ハク。
「で、ではっ、
どのポーションがいいですかねっ!?」
未だハクは引きつった笑みのままだ。
「いやっ、ポーションはもう見た。」
アヤが言い放つ。
「ッ!?」
より引きつり、口裂け女にしか形容出来ない姿になり始めたハク。
よほど短気なのかもうキレる寸前らしい。
「じゃ、じゃあ何が欲しいんです?」
声が若干震えてるのは怒りからであろう。
「ではっ、リンゴ味30%HP回復ポーションと、
メロン味50%MP回復ポーションくださいっ!」
カナが可愛い声で注文する。
普通の男子ならば少しは顔を赤くするのが健全のはずだが、
ハクはカナのはち切れんばかりの可愛い笑顔に目さえ向けない。
神経は俺のほうに。
もちろん『ソッチ系』のハクでは無い。
敵対してる、という意味の俺への観察なのだ。
もちろん俺はカナの笑顔に一瞬でメロメロになってしまってはいたが。
彼が棚の中から必死に探しまくって見つけた2つのポーションを取り出す。
その時に1つのポーションが棚から落ちてしまった。
どれだけ硬いガラスを使っているのか割れていなかった。
「これは………。」
ハクが襲撃に現れる前に要チェックしていた
濃すぎるピンク色をした薬品であった。
もちろん表紙には『Danger!』の印が。
俺の頭の隅に追いやっていた第6感が目を覚ます。
「―――待て。」
ハクは白衣を翻し俺の手からそれを奪い取った。
彼は基本的に無愛想なのか、
それが彼の愛情表現なのか。
それは定かではない。
「…ハクさん?」
「―――ッッ!?」
カナが不安そうに彼の顔を覗き見ると
彼はハリウッドの俳優よろしくとんでもなくビックリした様子で後ずさる。
「い、いや、なんでもない。」
「前から気になってはいたんですが…
その薬品は?
データにも出てきていないようですし……」
なんというトーク術。
カナは話し相手の口を割らせるプロなのだろうか。
単刀直入に切り込んだと思えば、笑顔で引き下がる。
ここまでの話術が出来る人はそういないだろう。
顔が引きつり、含み笑いが見える。
何を隠してるんだ彼は。
「こ、これか?
び……び…び、」
「「「び?」」」
び?
びから始まるピンク色の液体?
まさかとは思うが、俺の嫌われ続けていた必要の無い知識がここで生かされるのか。
ただ友達受けを狙って覚えただけの空っぽの知識を今ここで。
もしかしてという勘はほとんど当たる事が多いそうだ。
俺は青少年育成の妨げになるやもしれないその液体をしかと見つめた。
「び…媚y」
「――――だぁらっしゃぁいッッッ!!」
俺は意味の分からない掛け声を放ってハクを裸絞した。
「ふんっ!」
歯を食いしばり、2人の少女に真顔で大変な事を言い出した彼の首に制裁を加える。
「……うがっ、………く、苦しい……!」
「ふ、ふんっ、思い知ったか……!」
この時ハクの顔が少し楽しそうにしているように見えたのは俺の気のせいだったのだろうか。




