29:彼の名は、
彼の座っている椅子はさながら玉座のように見えた。
脚の組み方は偉そうに踏ん反りかえる傾国の王のよう。
顔を晒したわけではない。
ムダに暑そうにフードを脱いだのだ。
おまえら熱すぎるんだよ、もうちょっと冷静にな。
と言いたげに鬱々(うつうつ)しく。
「本気でダガー投げるまえに確認しようね―――、」
いかにも日光を吸収しそうな被り物を脱ぐ。
カナの表情があからさまに変化する。
「―――カナ君、僕だよ、博だよ…?
もしかして忘れてしまったのかい?」
戦闘中には見えなかった薄いフレームのシルバー色眼鏡がキラリと光る。
ハクというやつはよもや自分の部屋のように脱いだフード付きジャケットをハンガーに掛けた。
未だ俺たちは床に這いつくばったままだ。
俺個人はまだ信用しちゃいない。
彼は鬱陶しそうに俺とアヤを一瞥し、
「なんだ?このゴミ共は。」
こう言い放った。
カナをじっくりと見据えて。
冷たい言葉を平然と口から吐き出した。
「一瞬僕の情報下には無い武器が出てきたらと思えばただの雑魚じゃないか、」
彼は身体を重そうに動かし、カナに近づいた。
「君も君だよ、僕の防御スキルを使用しなくてはいけない手間が増えたじゃないか。
なんとめんどくさい事を持って来てくれた事か……!」
彼はワザとらしく腕をガッカリしたようにダランと下げる。
「それで?」
「はい?」
「それで!
何のためにここに来たんだ!?
こんな偏狭な地に来るのは盗み目的の糞トレジャーハンターか、
ネットゲームで道に迷った救いようもないアホだけだと思うがな!」
「え、えっと…、私が宿主クエストをしたいとこのお2人方にお願いしたもので…。
そのために予備としてここのポーションを買おうと思いまして…。」
「…ここのポーションを……買う?」
彼の半ギレしたような表情に無理矢理笑みが写る。
まるでどぎつい絵の具の色にピュアな白を足したようだ。
相変わらずカナは可愛い笑みを崩さない。
「は、はんっ、ここのポーションは上質で天才的な物ばっかりだが、
雑魚の貴様等に使いこなせるのか!?
絶対無理…………」
彼の余裕な表情が歪む。
「?」
「本当に購入してくれるのか……?」
「そのために来たんですよ!?」
「んむ………………」
彼はまた無駄に装飾が施されている椅子に座る。
脚を組み、指をパチンとならす。
「おっ…!?」
一気に身体が軽くなる。
全身が動かせるようになったのだ。
まるで全身の錘であった枷を外されたよう。
俺とアヤは周りの物を掴みながら身体を立たせた。
俺は彼のほうを見やると、
営業スマイルで、
「では、ポーションを見ていきましょうか!」
とポーション棚のほうを指差した。
引きつった笑みは未だ染みとして残っていたが。
30話突破です!
ここまで長かった!(笑
そろそろPV一万突破とお気に入り登録数20件突破を記念して新作予告を出しますか…!
楽しみにしていてくださいね!




