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3

 美術室に近づくほど人通りは少なくなっていき、美術室の近くに来た時には既に周りに人は見当たらなかった。


美術室の隣にある美術準備室の扉を開けてから、部活の時に使っているスケッチブックを手にした安藤は慣れた手つきで準備室の隣にある部室の鍵を開けて、俺に中に入って座っているように言うと、奥にあるダンボールの中を探り始める。


何かを探しているのか、ダンボールの中に入っている物を手に抱えながらダンボールの中を探っている。


部室に置いてあるパイプ椅子に座って、そんな彼の様子を眺めた。


部室の中は静かで落ち着くが、このまま放置されるのも嫌だな。


そう思いながらも、何もする気にはなれない。


結局、ただ彼の背中を眺めていた。


「……あった」


小さくそう呟いた安藤はダンボールの中からトランプが入っているような小さな箱を手にして、此方を振り返った。


漸く、目当ての物が見つかって安藤は嬉しいのか微笑みながら此方に近づいて、俺の前に置いてあったパイプ椅子に座る。


スケッチブックを足の上に置いてから手提げバックの中から弁当箱を取り出し、その上にダンボールの中から取り出した物を置いてから両手で俺に差し出す。


「これ、雪ちゃんに」


紺色の箱は何が入っているのかは分からないが、弁当は正直助かる。


親の都合で昼はいつも食堂だったから余計に。


「ありがとう」


そうお礼を言ってから、それを受け取った。


それを確認した安藤は嬉しそうに笑った後、恥ずかしさを隠すように顔を伏せた。


その表情に悪戯心が刺激される。


弁当と紺色の箱を足の上に置いて両手を開けてから、目の前の安藤の頬を両手で挟んで顔を自分と同じ位置に固定した。


安藤は戸惑っているのと恥ずかしさで顔を真っ赤にさせながら、目を彷徨わせている。


その困っている顔を見て頬が緩みそうになるが、我慢して真剣な顔で彼を見た。


「立夏」


できるだけ甘い声を意識しながら、彼の名前を呼ぶ。


安藤はさっきより顔を真っ赤にさせ、金魚の様に口をパクパクと開けて開いて、何も言えずにいた。


その様子に笑いを我慢できず、つい笑ってしまう。


「ふふ」


俺が笑ったことでからかっていると分かったのか、安藤は顔を真っ赤にしたまま俺の手を解き、「雪ちゃんの馬鹿」と両手で顔を覆いながら顔を伏せてしまった。




 昼休みは結局、安藤と美術部の部室で過ごすことになったが、からかったせいかしばらく顔を合わせてくれず、教室を後にする時にも早足で俺の前を歩いて行ってしまう。


だけど俺が自分の教室に入ろうとした時、安藤は俺の服の袖を引っ張ってから言うのを少し躊躇った後、「今度から名前で呼んで……」と早口で言うと走って自分の教室に帰って行ってしまった。


その行動が予想外だったせいか、俺は自分の顔に笑みが浮かんでいるのに気づく。


「……可愛いな」


だけど、その気持ちは恋人に向けるというより歳の離れた弟に向けるような親愛だと自分で気づいていた。


それを彼が気づいた時どう思うのかは考えることはせず、今は友人以上の関係を楽しもうと考える。


くすくす、と笑いながら自分の教室に入って次の授業の準備をしようと自分の席に近づくことにした。

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