DESUCHEN
シャンの生まれた場所は木々が生い茂る森の中だった。
巨大な山の麓にあるその森は、寒い気候が続く地域で、母と少しの兄弟と身を寄せ合いながらその場所で暮らしていた。
シャンは、冬になれば寒さに身を震わしては母にすがりつき、夏になってようやく温かくなれば外ではしゃぐ普通の子どもだった。
兄弟もシャンにはとことん甘く、自分のご飯をシャンに分け与えることもよくあった。
それは、シャンが甘えん坊だったが横暴な性格をしているわけでもなく、頓珍漢なことを言うことはあっても空気を読めないわけでもない。
そんな性格だったからだが、兄弟たちがシャンを甘やかす理由を彼だけがいまだにわかっていない。
ある夏の木々を緑が彩り、草花が芽を出し始めて間もない日のことだった。その日、シャンは初めて自分だけで外の世界に足を踏み出していた。
兄弟たちと十以上歳が離れているせいか、兄弟たちはシャンが家の外に出るときは必ずついてきていた。
それは、過保護と言う言葉では片付けられないくらい甘やかされていたせいでもあった。
だが、その日に限って兄弟たちは自分のご飯を取りに行くことになったり、母親も新しい子を身ごもっていたりということが重なり、初めてシャンは自分だけで外に出ることになった。
「家にいたほうがいい。お前にはまだ、危ないんだ」
一番上の兄がそう言っても、
「お前はとろいとこがあんだからよ、おとなしく家にいろよ」
五番目の兄がそう言っても、
「シャン、いい子だから母さんと一緒にいなよ。お前が皆、心配なんだ」
一番仲の良かった七番目の兄がそう言ってもシャンは首を縦に振ろうとはしなかった。
それは、初めて自分だけで外の世界に行けることだけでなく、兄弟たちにもう自分を甘やかさなくて良いと分かって欲しいからでもあったが、兄弟たちはシャンのその心を分かることはなかった。
兄弟たちがシャンを心配する言葉をかけるのは、彼らが出かけるまで続いた。
シャンは拗ねた顔をしながら彼らを見送る。
一番目の兄と二番目の兄はシャンのその顔を見て優しそうに笑い、四番目と五番目の兄は呆れたような顔をして背を向けた。
だんだん、兄たちが去っていく中で動こうとしない兄がいた。
シャンがその兄のそばに駆け寄ると兄はシャンの頬と自分の頬を近づけて、本当に心配そうな顔をする。
「行ってくるけど、本当に気をつけろよ」
最後まで心配そうにシャンに声を掛けていたのは、あまりシャンと面識のない三番目の兄だった。
「大丈夫だよ、兄さん」
シャンは何時までも子ども扱いしてくる兄の言葉に冷たく言い返し、彼らのその言葉を聞きたくないと耳を塞いで、彼を見送った。
彼らの姿が見えなくなるとシャンも外の世界に足を踏み出す。
「……兄さんたちの、ばーか」
何時までも子ども扱いしてくる兄たちにそんな言葉を投げ捨てながら。
シャンが足を踏み入れた場所は、普段兄たちといったことが無い場所だった。
緑に茂る草の中に何か光るものがある不思議な場所だった。
「何だろ?」
首を傾げながら、光っているものに近づいて行くシャン。
きらきら、と太陽の光に反射するそれは、シャンの好奇心を刺激するものだった。
「ちょっとくらい、いいよね」
誰に言うわけでもなく、そう呟き、そろそろと右手を伸ばす。
ガシャンッ!
右手に走る痛みにシャンは、何が起こったのか理解できなかった。
ずきずき、と痛む右手をそれから取り戻そうと何度も何度も引っ張るが、逆にそれはシャンの右手をくわえ込んでいった。
「ぁ、あああっあ、ああぁぁ」
痛みでパニックになったシャンは言葉になっていない何かを叫び続けた。
暴れるたびに、それはシャンの腕に食い込んでいくことに彼は気付けなかった。
ただ、ひたすら怖い。
その感情だけで行動していた。
正常な思考など、もうどこにも無かった。
引っ張り、叩き、振り回し、いろんな行動を繰り返すシャンの姿は本能のみで行動している獣のように見えただろう。
どれくらいの時間がたったのか、シャンには分からないくらい時間だけが過ぎ、とうとうシャンはその場に倒れこんでしまった。草や土の匂いがやけに近く感じることを認識して、自分が倒れこんでいるんだと分かる。
血を流しすぎたせいか、だんだんとぼやけていく視界の向こうで何かが動いた気がした。
だが、黒く染まっていく視界ではもう確かめることもできなかった。
「これが竜だと? まだ、子どもじゃないか」
最後に優しい誰かの声が聞こえたのを認識すると、シャンの意識は深い闇に沈みはじめる。
その後に続く、会話でいつも聞いている誰かの声が聞こえたのは、空耳だったのだろうか。
そう思いながらシャンの意識は途切れた。
目を開けるとシャンは、自分の右手に会った痛みが和らいでいることに気付いた。
勢いよく体を起こすと、すぐに体が傾く。
まるで、何日も動かなかったときのような疲労感が自分を襲う。
それに、シャンは疑問を抱いたが、すぐに忘れることにした。
「……あ、れ?」
ずきずき、とかすかな痛みがある右手が気になり、倒れたままの姿勢で怪我をしているはずの右手を見る。
「何、これ」
右手は真っ赤に染まっていると思っていたシャンの目の前に映りこんだのは青い布だった。
シャンでも知っている騎士団の模様がそれに描かれているのに気付く。
「助けてくれたんだ」
兄たちの注意を無視した自分を助けてくれる存在がいたことを嬉しく思い、その布に頬を摺り寄せる。
例え、その存在が自分たちを殺そうとしている存在だと、兄たちから言われていてもシャンは助けてくれた人にお礼を言いたかった。
自分が例え、人が恐れる竜人の血を引いている存在だったとしても、きっとその人なら分かってくれると、そう信じて。
部活で書いたやつ




