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水色の境界線


十色の町 3

 シーンとした空間を壊したのは、彼の方だった。


ずれたサングラスを直しながら、彼は笑いながら言う。


「……なーんて、冗談ですよ。俺だって、町の外に出るのは初めてなので、自分の町が大事かどうか何て言いにくいですよ。知識でいいなら言えますけど」


 人当たりのいい笑顔でそう言った彼から、少しだけ視線を逸らす。


彼は左手の親指と人差し指を擦り合わせながら、此方が何か言うのを待っている。


彼の言葉を鵜呑みにするほど馬鹿ではないが、今はその言葉を信じている振りをしておこう、と彼を見ながら思う。


足を組みながら、返事を返す。


「……君も町の外に出るのは初めてなのか? 初めてならどうして、紫の町の住人と一緒にいる?」


 その言葉に彼は視線を上に向けてから、少し黙り、私の疑問に答えた。


「……間違いました。紫の町も行ったことはあります。見て回ったことはありませんけど。マザーの兄がアズレトの父親なんですよ。つまり、いとこですね。マザーが面白がって紫の町に遊びに連れて行くので当然のことのように思っていました。それに、紫の町と言うより黒の町に近い場所でしたから紫の町と思ってなかったので、初めてと言ってしまったのも仕方ないことだと思ってください」


 右側に少し首を傾げながら言葉を紡いだ彼は、少ししてから何かに気づいたように笑いながら言う。


その表情は、まだ幼い子どもの様に見えるが、強か者だ。油断してはいけない。


何を考えているのか分からないのが、この嫌なガキだ。


「そう言えば、自己紹介をちゃんとしていなかったですね。黒の町出身のマキラです。一応、学生で司書のアルバイトしていました。荒事の経験もあります。なので、泊めて貰った分の仕事に荒事含んでも大丈夫ですよ。紫の奴はアズレト。あいつができることは……育成ゲームとかパズルとか得意だったと思います。貴方よりは年下だと思います、多分」


 普通に会話をしていたけど、確かに名前を聞いていなかった気がする。


カヨさんの息子とその友達と言う認識でしかなかった。


それでいいとも思っていた。


彼の言葉に頷きながら、何を任せていいのかも聞いておこうかと考える。


仕事を任せるといっても、それをうまくこなせるのかは分からない。


そう考えながら、どれから言うべきか迷っていると、タイミングよく時計が鳴った。


その時計が、六時五十分をさしている。


この話はここまでにしないといけないかもしれない。


そう考え、彼を見る。


彼は、私が急に黙りこんだからか、退屈そうに彼は欠伸をしつつ、指を組んで遊んでいた。


既に眠りについている彼の友と同じく彼も疲れているのだろう。


そう思うと、本当に話はここまでにしないといけない。


私は立ち上がり、彼を見下ろして言った。


「……仕事の話はまたでいい。お前も友と同じ時間、船に乗ってきたのだろう。部屋を用意している。もう日の出の時間だが、此方と秋の国では日の出と日の入りの時間は違うと聞く」


 その言葉に彼はおとなしく頷き、眠りに沈んでいるアズレトの体を持ち上げる。


細い体の様だが、力はあるらしい。


「二階の一番奥とその隣を使ってくれればいい」


 その言葉にも黙って頷き、荷物とアズレトを持ったまま、二回の階段を上がって行った。


どうやら、言葉数が多かったのも笑顔が多かったのも限界が近かったからのようだ。


サングラスで見えなかったから予想でしかないが、彼の目の下には隈があったのかもしれない。


カヨさんが一定のことに集中すると寝ない悪い癖があると言っていた。


そう思いながら、下の階から彼が部屋に着くまで見届ける。


倒れたりしたら怪我をするどころではないからな。


それでは、カヨさんに怒られてしまうだろう。


彼女は、大げさなほど子どもを大事にしている。


彼がアズレトを部屋に運び、その隣の部屋に入るまで見届けてから、今日の仕事の用意をする。


まだ、時間はあるが遅れて行くわけにはいかない。


 自分の部屋で仕事着に着替え、父に貰った鞘に収まっている愛用の剣を手に取る。


それを腰に差してから、机に飾ってある父と母が写っている写真が入った写真立てを倒して、部屋から出た。


「行ってきます、父さん」


 その言葉に返事は無い。


当たり前だ。もう、母も父もここにはいない。


母が父の下を去った理由は知らないが、どうして私を連れて行かなかったのかという疑問はある。


それでも、思い出や感謝の気持ちは母に抱くのは難しいことだ。


だから、私はここにいる。


昔の話だ。白に身を包めば自分も同じ色になれると思っていた。


青が嫌いだった。


昔の話。


「そう思っていたのだが、な。あのガキの言葉に動揺するなんて私らしくない」


 靴を履き、玄関の扉を開ける。風は吹いていないらしく、雪も降っている様子は無い。


今日は仕事がしやすそうだ。


視力のある目を髪で隠し、仕事着と同じ白い帽子を深くかぶる。


住人はまだ目を覚ましていないのか、誰にも会うことなく仕事場に着く。


騎士団の建物だと分かるように一部だけ茶色で塗られた壁に手を当てながら、少しだけ足を止める。

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