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買い物

「十月三十一日。


死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が来たりすると信じられていた日。


そう、ハロウィンと言う日。


だけど、今では魔女も精霊も死者も空想のものだと考えられているね。


魔女や精霊や死者等から身を守るために始まった仮装も、今では楽しむためのものになっている。


だけど、仮装してお菓子を貰いに来る子ども達は本当に人間だけなのかな。


空想だと思っている彼等がお菓子を求めて、紛れ込んでいるかもしれない。


だから、彼等に拐われないように気をつけて行って来るのだよ」


 道端で偶然拾った何かの本のページを読みながら、クスクスと笑う。


僕が急に笑いだしたことに不審を抱いたのか、前を歩いていた白のレースワンピースに黒のカーディガン

を羽織ったジュリが振り返る。


彼女が持っている新しい赤がついたコンビニの袋が音をたてながら、彼女の黒のレギンスを穿いた足に当たった。


随分と嬉々として集めていた食事だったから、何時もより多めに入った袋の中は赤いというより赤黒い色をしていた気がする。


自分の持っている袋の中身とは大違いだ。


そんなことを思って彼女が持っている袋を見ていると、彼女は袋を持った手に力を込めながら口を開く。


「何、笑っていたのよ。普段から気持ち悪いのに、さらに気持ち悪かったわ」


コンビニ袋が当たった部分が汚れていないか横目に確認してから、べネットが気に入っている栗色のセミ

ロングの癖毛を空いた手で掻き揚げ、彼女は僕に向かって辛辣な言葉を吐いた。


その言葉に、僕は彼女に嫌われていたかと心配になったが、辛辣な言葉とは逆で眠そうな目が顔色を窺うように此方を見ているに気付き、頬が緩みそうになる。


あんな辛辣な言葉でしか、心配していると伝えられない彼女の不器用さが可愛いと思った。


彼女の不器用な優しさにべネットは心を引かれたと話していたが、その言葉を漸く理解する。


だけど、それは僕のようにその他の大勢ではなく、何にも興味を持たない彼女が自分だけを親しいものとして心配してくれるのが嬉しいのだろう。


礼儀正しくて常識人のくせに、どこかひねくれた考えを持つべネットらしい。


また今度からかいに行こうと、考えながら彼女の言葉に返事を返す。


「……今更なことを考える人間がいるんだなって思っただけだよ」


彼女は僕の言葉の意味を理解できなかったらしく首を傾げたが、説明するのが面倒で、有耶無耶にしてしまうことにした。


「気にしなくていいよ。独り言、独り言。ほら、早くしないと怒られちゃうよ?」


 彼女が一番、気にする話題を出して会話を終了する。


案の定、彼女は「確かに、少し遅くなったかもしれない」と肯定して、慌てたように前を向き歩き出す。


そんな彼女の後を追いかけながら、僕は手に持っていた本のページを砂利道に捨てた。


偶然、手に取っただけのそれは読んでしまえば興味も無くなる。


だけど、何故か音も無く落ちたそれに振り返り意味が無いと分かっていながら僕は言った。


「ハロウィンの日以外にも遊びに来るから、せいぜい気をつけなよ」


本のページは風に吹かれ、すぐに目の前から消えていく。


勿論、さっきの言葉を聞いている人もいない。


なのに、僕はそう言ったことに満足していた。


心の何処かで、本の文章が気に食わなかったのかもしれない。


そう自分の心の中を考えながら、今度は止まることなく彼女の後ろを追いかけることにした。


町で待っている彼等のためにも、速く帰らなければいけない。


「さあ、早く帰って食事にしましょう。グレン」


此方を見ることなく言った彼女の言葉に頷きながら、僕に買い物を頼んでくることが多いオレンジの髪色をした兄弟を思い浮かべる。


彼らは今、何をしているのだろうか。

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