04
三一〇と書かれたプレートが付いた扉の前で、漸く秋と会う。
先に行っていることは分かっていたが、本当に待つことなく梓の病室の前にいられると少しくらい待っていてくれればいいのに、と思わなくもない。
「遅かったね」
悪気なく、そう言われれば文句を言えなくなる。
俺は「ごめん」と謝ってから、秋の隣に立った。秋は、俺が隣に立ったのを確認すると病室の扉の前から声をかけ始めた。
「梓君? 起きてる?」
秋の声が聞こえたからか分からないが、中から何かが落ちる音が聞こえた。
ごん、と重い物が落ちる音だったから、何が落ちたのか心配になる。扉を開けるべきか考えている俺とは違い、その音を聞いて秋はすぐに扉を開いた。
その行動に俺が驚く。
「梓君、出ておいで」
秋は怒っているのか、いつもより厳しい口調でそう言った。
その言葉に、ベッドの近くの床にある白い塊がびく、と動くのが見えた。その白い塊は、ベッドの布団に包まった梓なのだと気づく。
「梓君?」
その白い塊に近づいていく秋の様子を黙って見送る。
何だか、今止めると酷い目にあいそうだと思ったからだ。
秋は、白い塊の前まで近づくと、つんつんとその塊を突きながら、優しく声をかけ始めた。
「梓君、怒ってないから出ておいで」
さっきまで怒っていた秋が急に優しく声をかけたからか、さらに布団を引き寄せて、閉じこもろうとしていた梓は恐る恐ると顔を布団から出した。
「怒ってない? 本当に?」
涙目になりながら秋に聞く梓の様子は、何だか小動物のようにも見える。
「大丈夫だよ。本当に、怒ってないよ」
そう言いながら、頭を撫でようとする秋の手から逃れるように梓は身を少しだけ引いた。
秋は、その行動に慣れているのか、手をすぐに下ろして、話題を変えた。
「今日は、紹介したい奴がいるんだ」
くすくす、と笑いながら秋が言った言葉を聞き、梓は何を言われたのか分からないという表情をしてから、言葉を理解して、さっと顔を青ざめた。
その様子を見て、秋の笑みは苦笑に変わる。
「大丈夫だから、落ち着きな」
秋の言葉に安心しようと深呼吸をする梓だが、安心できなかったようで、顔を青ざめさせたまま、秋を見つめる。
また布団に顔を埋めようと行動しそうだな、と思いながら俺は彼らに近づいていった。
梓にばれない様に死角から近づいたのは、ほんの少し悪戯したいと思ってしまったからだ。
秋は、俺の行動に気づいて何かを言おうとしたが、何かを言われるより前に行動する。
「初めまして」
後ろから肩を叩き、声をかけた。
その行動に、梓は予想したとおりに、悲鳴を上げたのだった。
それが、梓と俺の出会いだった。
後から聞いたが、あの出会いは長い間、トラウマだったらしい。
それを聞いて、悪戯も程々にしようと思った。




