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02

 梓の病気が可能性から花咲病だと断定された。


左目に傷が発見されたらしい。


詳しく聞こうと思い、小林さんに声をかけたが、嫌そうに顔を歪めながら言われた。


「なんで俺がしーやんやすーやんに好かれてるお前に教えないと駄目なのかな」


 しーやんこと白河真奈美さんとすーやんこと鈴木美月さんのお気に入りらしい俺と秋は、鈴木さんに惚れている小林さんと白河さんに惚れている長原さんに嫌われていることは分かっている。


だが、興味だけで聞いたわけでもないのに、この対応は少し苛ついた。


仕事とプライベートくらい別けることが出来ないのだろうか。


「……分かりました。患者のことを一通り把握している鈴木さんに聞いてきます」


嫌がらせのように鈴木さんの名前を強調して、そう言えば小林さんはさっと顔色を変えて怒鳴るように俺に言った。


「すーやんを、どうでもいいことに、巻き込まないで!」


鈴木さんが関係することになると急に態度を変える彼が面白くて、つい笑ってしまう。


そんな俺の態度が気に入らなかったらしく、小林さんはちっと舌打ちをした。


そんな今にも殴りかかりそうな雰囲気の彼に、俺は笑いながら言ってやる。


「なら、教えてください。貴方が」





 結局、小林さんに一発殴られたが梓のことは教えてもらうことができた。


思い切り殴られたせいで口の中が切れたようで、渡された小林さんが書いたメモのコピーを自室の床に座って読む間、ずっと血の味がしたが、それすらも気にならないほど夢中で読む。


その間、遊びに来ていた秋が退屈そうにしていたが、仕方ないことだったと思っておく。


「三一〇号室、梓。病棟に保護が決定した時、九。病気発祥を確認した時、十。左目の角膜に傷ができ、水晶体を苗にした花の芽が肉眼で確認できた。


痛みは針で指を刺した程度しか感じないらしい。


進行するたびに強い痛みに変わっていくことは、まだ教えることは許されていない。


芽の太さから四から五センチほどの長さになると上は予測したが確かではない。


紫の花咲病は、桃の花咲病よりもあまり見かけられないためか、あまり危害を加えないようにと上の連中から言われた」


カルテほど正確ではないが、知りたいことは大体書いてあった。


さすが小林さんと言えばいいのか。


そんなことを思っていると、メモを読み終えたことに気づいた秋に手に持っていたメモを奪い取られた。


文句を言おうと思って秋の方を見るが、文句を言うその前にメモを読み終えた秋にメモを返される。


目を通しただけだと言われたが、内容を把握しているあたり、流石だと思う。


「相変わらず悪趣味だよな、上の連中」


嫌そうに言った秋に俺は、苦笑した気がする。


彼は基本的に上の連中も後輩も大嫌いだ。


この病棟の中で友人や患者にしか進んで話しかけている様子は見たことがない。


なのに、先輩にも後輩にも好かれているから何とも言えない。


「患者のことをモルモットだとでも思ってるんだ、きっと」


苛々した様に呟いて、床の上に置いてあった、俺が鈴木さんの妹から貰った縫いぐるみの一つを蹴飛ばす秋に、俺は机の上に置いてある飴玉を一つ投げ渡してやる。


「……まあ、それは今更だからいいんだよ。それよりも」


その飴玉を受け取りながら、秋は真剣な顔で此方を見る。


不自然に途切れた言葉の続きは、言われなくても分かった。


「梓のこと、だよね」

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