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初恋

作者: みるく
掲載日:2012/05/03

市ですらない田舎に、Yという少年がいた。

少年は、小学校で虐められていた。

彼は、まるでジャイアンに正論を主張するのび太のようだった。

毎日、泣いていた。


Yは、小学5年生の途中で進学塾に入った。

そこで初めて人生が幸福になった。

成績で泣いた日もあった。

しかし彼は、そこで恋をした。仮に相手をKとしよう。


Kは背が高く、乱暴で、明るかった。それでも女の子である。

女の子とも男の子とも仲が良かった。

Yにも気軽に話しかけてきた。


YがKを好きだという噂は、クラス中の話題になった。

その日からYは、毎日からかわれ続けた。

Kは、そんなYを遠くから見ていた。

「Yのことどう思う?」と聞かれたときは、ニュートラルな答え方をした。それは話題にならなかった。


一年もしないうちに、Kは県内の遠くの市に引っ越した。

しかし週に一度Kに会ってくる女の子がいて、その子がKの話をするたびにYはまたいじられ、またKが言ったと伝えられる一言一言にYは一喜一憂するのであった。

Kはその様子を女友達からの手紙で知り、面白がったり心配したりした。

結局エスカレートしたからかいは、いじめのようになり、校長が介入して終わった。

それからまた一年が経ち、YとKは遠く離れた中学に進学した。

Yは、まだKが好きだったので、何とか伝手を辿って手紙を出そうとしたが、挫折した。

一方Kも、「どうしてそんなに遠くに……」と時々Yを思い出した。


二人が再会したのは、十年後である。

Kの名前を同窓会参加者リストに見つけ、Yの心臓は高鳴った。

Kは、その日遅れてきた。

遅れてくるのがKだけだったのでKだと分かったものの、誰もが「変わった」と思った。


Kは、同窓会の席で楽しそうに過去の恋愛の話をした。

Yは、彼女に六人の元カレがいると聞いて、七人目にはなりたくないと思った。

しかしKの誘いにより、二人は京都でデートする約束をした。


当日、二人はどこに行くか決めるためにYの部屋にいた。

しかし、何故かYが買い込んだ飲めないお酒に酔いつぶれ、Kはその日帰れなかった。

それでもYとKの間に肉体関係は発生しなかった。

Kの服ははだけていた。しかしYは過ちを犯すわけにはなかった。

YはKを妊娠させるわけにはいかなかった。Yは先達の失敗を胸に、涙を飲んだ。


Kは、結婚した今でも思い出すことがある。

Yに背を向けて寝ていた自分にYが「ねぇ」と声をかけ、ふり向くとキスされたことだ。

そのキスが、Kにとって生涯最高のキスだった。


Yは、その時Kのことがずっと好きだったことを告白した。

「知っていたでしょう?」

と言われてもそれはKにとって驚きだったが、そんなに衝撃的でもなかった。毎晩妄想していたとおりで、嬉しかった。

そして二人は、下の名前で呼び合うようになった。


Kは、寂しがり屋だったので、月に一度は京都に来た。

方向音痴なのに、Yの部屋の位置を覚えた。


しかし、二人の蜜月は長続きしなかった。


ある日訪れたKの様子はおかしかった。

言っていることが分からなかったYは、「分からない」「Kちゃんは天才だよ」と繰り返した。

そして、就職活動中だったKを、翌日には東京に帰した。

Kは、「理解されない」と悲しみに暮れ、他の男の下に走った。


翌日もKは京都に来て、Yに電話をした。

非通知でかかってきた電話に、親からかと思ったYはそっけない態度をとった。

Kは、京都の地で見放されたと思って目の前が真っ暗になった。

Kの中で、Yとの恋人関係が終わった瞬間だった。


それでも、Yには未練があった。

後日メッセンジャーで徹夜のやりとりがありKは疲れ果て新しい彼氏はストーカーを心配したが、その必要はなかった。

しかし数年は毎年Kの誕生日とクリスマスと正月に近況報告のメールをし、Kに

「早く結婚しなさい」

とからかわれるとYは

「結婚の仕方がわかりません。むしろ結婚してください」

と返した。

たまにはKの気まぐれで顔を見て電話すらした。


約二十年間好きでいてくれたYを、Kは夫とは違う形で思っている。


YとKは、今でもたまに連絡を取る。

YもKも、好きだ何だとは言わない。

きっかけがあればそっけなくも少しユーモアのある話をするだけである。

でも今何をしているか気になる、それが今のYとKの関係である。


これが今後どうなるか分からない。

Yからのメールも減ってきた。


Kは、共通の友人に、「もう自由にしてやれ」と言われている。

縛り付けているつもりはない。


永遠の愛を他の男と誓ったKに、Yの愛を求める資格などないのだ。

ただ、少し期待しているKがいる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少年期に抱いた想いに縛りつけられた二人。 淡い想いは錯綜しても、心の手はつながっていなかった。 残念ながら経験していないことですが、友人の話に似たようなことがあったことを思い出します。 …
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