初恋
市ですらない田舎に、Yという少年がいた。
少年は、小学校で虐められていた。
彼は、まるでジャイアンに正論を主張するのび太のようだった。
毎日、泣いていた。
Yは、小学5年生の途中で進学塾に入った。
そこで初めて人生が幸福になった。
成績で泣いた日もあった。
しかし彼は、そこで恋をした。仮に相手をKとしよう。
Kは背が高く、乱暴で、明るかった。それでも女の子である。
女の子とも男の子とも仲が良かった。
Yにも気軽に話しかけてきた。
YがKを好きだという噂は、クラス中の話題になった。
その日からYは、毎日からかわれ続けた。
Kは、そんなYを遠くから見ていた。
「Yのことどう思う?」と聞かれたときは、ニュートラルな答え方をした。それは話題にならなかった。
一年もしないうちに、Kは県内の遠くの市に引っ越した。
しかし週に一度Kに会ってくる女の子がいて、その子がKの話をするたびにYはまたいじられ、またKが言ったと伝えられる一言一言にYは一喜一憂するのであった。
Kはその様子を女友達からの手紙で知り、面白がったり心配したりした。
結局エスカレートしたからかいは、いじめのようになり、校長が介入して終わった。
それからまた一年が経ち、YとKは遠く離れた中学に進学した。
Yは、まだKが好きだったので、何とか伝手を辿って手紙を出そうとしたが、挫折した。
一方Kも、「どうしてそんなに遠くに……」と時々Yを思い出した。
二人が再会したのは、十年後である。
Kの名前を同窓会参加者リストに見つけ、Yの心臓は高鳴った。
Kは、その日遅れてきた。
遅れてくるのがKだけだったのでKだと分かったものの、誰もが「変わった」と思った。
Kは、同窓会の席で楽しそうに過去の恋愛の話をした。
Yは、彼女に六人の元カレがいると聞いて、七人目にはなりたくないと思った。
しかしKの誘いにより、二人は京都でデートする約束をした。
当日、二人はどこに行くか決めるためにYの部屋にいた。
しかし、何故かYが買い込んだ飲めないお酒に酔いつぶれ、Kはその日帰れなかった。
それでもYとKの間に肉体関係は発生しなかった。
Kの服ははだけていた。しかしYは過ちを犯すわけにはなかった。
YはKを妊娠させるわけにはいかなかった。Yは先達の失敗を胸に、涙を飲んだ。
Kは、結婚した今でも思い出すことがある。
Yに背を向けて寝ていた自分にYが「ねぇ」と声をかけ、ふり向くとキスされたことだ。
そのキスが、Kにとって生涯最高のキスだった。
Yは、その時Kのことがずっと好きだったことを告白した。
「知っていたでしょう?」
と言われてもそれはKにとって驚きだったが、そんなに衝撃的でもなかった。毎晩妄想していたとおりで、嬉しかった。
そして二人は、下の名前で呼び合うようになった。
Kは、寂しがり屋だったので、月に一度は京都に来た。
方向音痴なのに、Yの部屋の位置を覚えた。
しかし、二人の蜜月は長続きしなかった。
ある日訪れたKの様子はおかしかった。
言っていることが分からなかったYは、「分からない」「Kちゃんは天才だよ」と繰り返した。
そして、就職活動中だったKを、翌日には東京に帰した。
Kは、「理解されない」と悲しみに暮れ、他の男の下に走った。
翌日もKは京都に来て、Yに電話をした。
非通知でかかってきた電話に、親からかと思ったYはそっけない態度をとった。
Kは、京都の地で見放されたと思って目の前が真っ暗になった。
Kの中で、Yとの恋人関係が終わった瞬間だった。
それでも、Yには未練があった。
後日メッセンジャーで徹夜のやりとりがありKは疲れ果て新しい彼氏はストーカーを心配したが、その必要はなかった。
しかし数年は毎年Kの誕生日とクリスマスと正月に近況報告のメールをし、Kに
「早く結婚しなさい」
とからかわれるとYは
「結婚の仕方がわかりません。むしろ結婚してください」
と返した。
たまにはKの気まぐれで顔を見て電話すらした。
約二十年間好きでいてくれたYを、Kは夫とは違う形で思っている。
YとKは、今でもたまに連絡を取る。
YもKも、好きだ何だとは言わない。
きっかけがあればそっけなくも少しユーモアのある話をするだけである。
でも今何をしているか気になる、それが今のYとKの関係である。
これが今後どうなるか分からない。
Yからのメールも減ってきた。
Kは、共通の友人に、「もう自由にしてやれ」と言われている。
縛り付けているつもりはない。
永遠の愛を他の男と誓ったKに、Yの愛を求める資格などないのだ。
ただ、少し期待しているKがいる。




