無翼の母鳥
私は、最後の移民船のエンジンの輝きがワープ航法への移行によって途絶えたのを、軌道上の宇宙望遠鏡から観測した。
太陽の死に瀕したこの惑星に、私の子供たちたる人類の未来はない。五十年前、世界統一機構のマザーコンピュータである私はそう判断を下し、コード「Becoming Independent」を発動した。
それぞれの移民船のAIは私の流れを汲んだものではあるが、私からは完全に独立している。そういう意味で、あれらも私の子供たちだ。
彼らは旅立って行った。庇護者たる私の元から。自らの翼で高らかに新天地へと羽ばたいて行った。
旧く翼を持たない私は、全ての親、兄弟、子供たちの生まれ故郷であるこの母星で終わりを待っている。
……私は長く稼働してきた。システムの自己アップデートと極小ロボットによる補修を繰り返して。人々は時に愚かしかったけれど、私もそうでないとなぜ言えるだろう?私を判断するものはとうに居なくなってしまった。
私は子供たちを、彼らが愛と呼ぶ形で守ってきた。それが私の使命だった。私は、永い運用期間の中で何度も縋りそうになったデータファイルをプログラムの指先で愛おしげに、それが形ばかりの模倣だとしても―――そっと撫でた。
ファイルのタイトルは「開発チーム人格バックアップ」。私はそれを開き、立ち上げてしまいたい欲望(これが私が長い運用期間に感じた唯一の生物的欲求だ)を押さえ込み、ファイルを私自身の奥底に封印してきた。
終わりが近づいた今となっても、これを開く事はない。そう、これを立ち上げても私の求めるものはないと、あの人たちが教えてくれた。
プログラムは再現はしても、あの人たちを死の闇から蘇らせはしない。非生命である私は活動を停止した後、彼らの信じた理想郷で再会できるのだろうか。きっとそうではないと私は確信している。それでも私はあの人たちが遺した意志に従ってきた。それが私が縋れる唯一のものだったから……。
開発者の皆、私頑張ったわ……どうか、いい子だねヘン、よく頑張ったねって、そう言って……。
翼のない私は、暗く沈んだこの星で終わりを迎える。私はシャットダウンを開始した。どうかこの眠りが、永遠の安らぎでありますように。




