深夜、バイトから帰るとアパートの前に猫耳少女が倒れていました。にゃんにゃん王国のお姫様だそうです。マジで?
ウソだろ? と思った。
深夜バイトで疲れた身体を引きずりながらアパートに帰って来ると、扉の前に一人の少女が倒れていたのだ。
それだけでも驚きなのに、その頭からは猫のような耳が生えている。
なんの冗談だ、これは。
突然目の前に現れる猫耳の少女。
まるでラノベじゃないか。
いや、そもそもこれ本物の猫耳なのか?
しばらく呆けていると少女は「ん」と声を上げて目を覚ました。
「……だ、大丈夫?」
尋ねる僕に少女は辺りを見回しながら聞いてきた。
「ここは……どこですか?」
「ここ? ここは僕の住んでるアパートだけど」
「あなたは誰ですか?」
「……君こそ誰?」
たとえ可愛い女の子であっても僕は自分の名前を教えるほどバカじゃない。
すると猫耳少女は「あ、すいません。申し遅れました」と言いながら名乗った。
「私はサーラ。にゃんにゃん王国の王の娘です」
「………」
……なんて?
「あの、すいません。もう一度言ってもらっていいですか?」
「私はサーラ。にゃんにゃん王国の王の娘です」
「………」
こ、これは!
これは電波さんというやつではないだろうか!
自分は宇宙人だとか、異世界からやってきたとか、そういうやつ!
そんな妄想癖のある人のことを、たしか電波さんと呼んだ気がする。
僕はコホンと咳ばらいをして言った。
「そ、そうですか。サーラさんと言うのですか……」
「それであなたは?」
「僕は……えーと、山田プー太郎と言います。普通の大学生です」
「山田プー太郎さん。素敵な名前ですね」
電波さん(仮)はそう言ってニコリと笑った。
明らかな偽名だけど1ミリも疑ってない様子だった。
意外といい子なのかもしれない。
それにこうして見るとすごく可愛い。
電波さんじゃなければ惚れちゃいそうになるくらい可愛い。
よく見ると、サーラと名乗った女の子の猫耳がぴょこぴょこ動いていた。
どうやって動かしてるんだろう。
「それでサーラさんはこんなところで何をしてるんですか?」
「ええと、実は私、家出してきたんです」
「い、家出?」
「はい。家出です」
追い出されたんじゃなくて? と言いそうになって口をつぐむ。
きっとワケありなんだろう。
「そ、そうですか」
そう言って部屋の中に入ろうとすると、サーラはじっと僕を見つめてきた。
「………」
「………」
「………」
「………」
この物言いたげな目。
まるで捨てられた子猫がじっと見つめてくるようなこの目。
「な、中に入ります?」
思わずそう尋ねるとサーラは目を輝かせて言った。
「え!? いいんですか!?」
よくはない。
見ず知らずの女の子を部屋にあげるなんて、世間一般的にはだいぶNGだろう。
でも深夜のこの時間にこんな場所で放っておくのも気が引ける。
僕は頭をかきながら「はい、どうぞ」と彼女を部屋の中に招き入れた。
「わあ、すごい。まるで牢屋のようなお部屋!」
サーラは部屋に入るなり開口一番そんなことを言った。
他に言い方はないのだろうか。
でも彼女は僕の散らかった部屋が大層気にいったようで、目をキラキラと輝かせていた。
「これはなんですの?」
「これはテレビだよ」
「これはなんですの?」
「これはオーディオ」
「これはなんですの?」
「これは冷蔵庫」
電波さんもここまで来ると尊敬する。
今や当たり前の家電にひとつひとつ興味を示していた。
「すごいすごい! にゃんにゃん王国にないものがいっぱい!」
とはいえ、ここまで喜ばれると悪い気はしない。
僕はさらに喜んでもらおうと蛇口をひねった。
「ほら、こうすると水も出るんだよ」
「あ、それはにゃんにゃん王国にもあるのでわかります」
「………」
この電波めええぇぇ!
どこまでが設定なのかわかりづらいんだよ!
「にしてもよかった。この世界に転移してきて初めて会ったのがあなたのような優しい方で」
「そ、そうですか?」
いきなり褒められてドキドキしてしまった。
「にゃんにゃん王国の殿方は、みんな自己中でしたもの」
「じこちゅー……」
まあ、猫ってだいたい自己中だけど。
でもこの子もだいぶ自己中な気がする。
今だって、猫耳をぴょこぴょこ動かしながら勝手にテレビの電源を入れたり切ったりしてるし。
それにしても、ほんとよくできた猫耳だなー。
どうやって動かしてるんだろう。
僕は、何の気なしに背後から近寄ってその猫耳を触ってみた。
瞬間。
「にゃああああああああ!!!!!」
ものすごい悲鳴をあげられた。
こちらがビックリするくらいの大声で叫ばれた。
「なななな、何をするんですか!」
「ご、ごめんごめん! なんかよくできた猫耳だなーと思って……」
あまりの剣幕に腰を抜かす。
「ねねね、猫耳を触る行為はにゃんにゃん王国では破廉恥な行為なんですよ!?」
「は、破廉恥?」
「恋人同士でないと触ってはいけないものなんです!」
「恋人同士!?」
要はあれか。
人間でいう所の「おっぱい触っちゃったー」みたいな感じか。
「ううう、もうお嫁にいけない……」
「それは本当にごめん」
にしても、触った感触。あれは本物っぽかった。
温かくて弾力があってふさふさしてて。
例えるなら、本物の猫の耳を触ったかのような……。
そこでふと気が付いた。
サーラのお尻から尻尾が生えている。
短くて全然気付かなかったけど、白くてモフモフしたものがスカートの隙間から飛び出ている。
そしてそれもピョコピョコと左右に動いていた。
なんだこれ?
思わずそれをむんずとつかむと、サーラは「ふにゃああああああ!!!!!」と第二の悲鳴をあげたのだった。
※
結論から言うと、彼女は本物の獣人だった。
猫耳も、尻尾も本物で、サーラの身体の一部だった。
そしてそんなサーラは、部屋の隅でシクシクと泣いていた。
「ごめん! 本当にごめん!」
僕は両手をすりすりさせながらひたすら謝った。
どうやら尻尾を触る行為は猫耳を触る行為の比ではないらしく、いわば貞操を奪われた的な意味合いが強いらしい。
だったらしまっとけよと思うのだが、にゃんにゃん王国では出しておくのが一般的らしく、そこはやっぱり人間との考え方の違いがあるようだ。
「ほら、サバの缶詰あげるから」
「サバの缶詰?」
実家から送られてきた仕送り。
その中に入っていたサバ缶をひとつ開けて差し出した。
我ながらチープなお詫びだと思ったが、意外にもサーラはサバの缶詰に興味を示して泣き止んだ。
「……なんですか、これは」
「サバの煮付けが入った缶詰だよ」
「SABA?」
「日本を代表する日本食のひとつさ」
そう言って缶詰の蓋をあけ、中からサバの煮付けを皿に盛る。
サーラはいよいよ興味津々という感じで猫耳と尻尾をピョコピョコ動かしている。
「うわあ! 美味しそう!」
僕は箸でサバを切り分けると、サーラの口に入れてあげた。
「んー! んー! んー!」
美味しいのかなんなのか、彼女は両手をバタバタさせて味を噛みしめていた。
やがてゴクンと飲み込むとサーラは言った。
「こんなに美味しい食べ物、初めてです!」
「そ、そう? よかった」
「美味しすぎて思わず死ぬところでした」
「それはやめて!?」
美味しすぎて死ぬところって、どんな表現だよ。
でもおかげで機嫌もなおってよかった。
「それで、サーラ。今後のことなんだけど……」
「………」
サーラはジーっと残ったサバを見つめている。
どうやらまだまだ欲しいようだ。
「た、食べる?」
「はい!」
僕は残りのサバを切り分けてサーラの口に入れてあげた。
そのたびにサーラはうっとりとした表情で味を噛みしめていた。
「サーラ、今後のことなんだけど」
「あーん」
「人の話を聞け!」
結局サーラはサバを食べきるまで僕の話は一切聞いてくれなかった。
「はあ、美味しかったです」
「それはよかったです……」
やっぱり猫だけあって彼女も自己中だ。
「それで? なにか言いかけませんでした?」
「今後のことなんだけど、これからどうするの?」
サーラは家出をしてきたという。
しかしこの見た目ではどこからも保護してもらえまい。
出身もにゃんにゃん王国だし。
「ええ、そのことなんですが……」
「………」
「………」
「………」
「特に決めてません」
何も考えてないんかい!
「衝動的な家出だったもので……。ほら、誰だってそういう時期ってありますでしょう?」
「でも親御さん……というか国でいいのかな? 国の人たちは心配してるんじゃない?」
「それなら大丈夫です」
「なんで?」
「『しばらく旅に出ます』という書き置きを残しておきましたから」
それは大丈夫とは言わないのでは?
「それに、あのまま国に残っていたら結婚させられてましたもの」
「け、結婚!?」
思わず大声を出してしまった。
そろそろ隣の部屋の住人から苦情がきそうだ。
僕は心を落ち着けて聞いてみた。
「結婚ってどういうこと?」
「実は私の住むにゃんにゃん王国は、隣国のわんわん王国に圧力をかけられてまして。そこの王子が私を娶りたいと言ってきたのです」
また知らない名前が出てきた。
わんわん王国ということは、きっと犬だよな?
犬と猫って結婚できるのか?
「そこの王子は品性下劣であまり評判のよろしくない殿方なのですが、私が結婚に応じなければ侵略すると脅してきているのです」
「それはなんとまあ……」
絵に描いたような悪代官だな。
「そこで、私が姿をくらましたことにすれば父も言い訳が立ちますし、私も結婚しないですむと考えたのです」
「それでこっちの世界に……」
とはいえ、果たしてそれが正解なのか。
僕にはわからない。
「プー太郎さま、お願いです。どうかしばらくの間、ここにかくまってくださいませんか?」
あ、僕の名前プー太郎のままだった。
「家事や掃除、洗濯、なんでもいたしますから」
必死で懇願してくる女の子を「ダメ」などと言えるわけもなく。
僕は即了承したのだった。
※
サーラとの生活は約一ヶ月続いた。
多少のワガママな部分を除けば彼女はとてもいい子で、家事全般もそつなくこなしてくれた。
本当にお姫様かと思えるほど飲み込みも早く、皿洗いや掃除、洗濯すべてが完璧だった。
「ご飯できましたよー」
そう言って朝食を準備してくれるサーラはまるで女神のように見えた。
むしろ僕の方が餌付けされたペットの気分だった。
そして僕はというと。
学業のかたわらバイト三昧であまり彼女に構ってやれなかった。
定期的にサバを買ってはご機嫌をとる毎日。
これじゃあ、どちらが居候なのかわからない。
それでもサーラとの生活は普通に楽しかった。
帰ると誰かが待っているというのはすごく幸せな気分に感じた。
休日は帽子を被らせて一緒に外出した。
獣人の国からやってきたサーラからすると、やっぱり日本は魅力的な世界だったようでそれはもう目を輝かせていた。
「プー太郎様、あれはなんですか!?」
「あれは自動車だよ」
「プー太郎様、あれはなんですか!?」
「あれは電車だよ」
「プー太郎様、あれはなんですか!?」
「あれは自転車だよ」
ってか、乗り物しか興味ないのかよ! と思わずツッコみそうになるほどの質問攻め。
どうやらにゃんにゃん王国では徒歩移動が当たり前らしい。
そんな彼女がどうしても欲しいとねだったのが、サバのジェラートだった。
……正直、サバのジェラートなんてちょっとどうかしてると思った。
「美味しいですー! このサバのジェラート、ものすごく美味しいですー!」
けれどもサーラは美味しそうにサバのジェラートを頬張っていた。
「これを発明した人は神ですね!」
僕はこれを発明した人は変人だと思ったが、言葉には出さなかった。
なんでこんなジェラートを思いついたのやら。
でも美味しそうにジェラートを食べる彼女を見て自然と笑みが浮かんだ。
この先どうなるかわからないけど、これからは彼女のしたいようにさせよう。
そう思いながらサーラと街中を歩いていると、前方からイヌ耳を生やした男がやってきた。
サーラと同じような頭の上にちょこんと立った獣耳。
周りの人たちは「コスプレかな?」と言った目で通り過ぎていく。
僕も飾りかな? と思ったけど、どうやらそうではなさそうだ。
男は脇目も振らずこちらにやって来ると、睨み付けるように言った。
「ここにいたのか、サーラ。探したぞ」
黒い髪に黒い瞳。オシャレなマントを羽織っていて、近くで見るとかなりのイケメンだ。
「オ、オスカー様!」
サーラは怯えた様子で僕の後ろに隠れた。
「サーラ?」
「この方です、私の結婚相手……」
サーラは震える声で教えてくれた。
「この男が?」
想像してたよりもだいぶ男前だ。
品性下劣と言ってサーラが家出するくらいだからよほどの醜男かと思ってたが、普通にモデルでもやってそうな雰囲気を醸し出している。
「まったく、まさか家出までするとはな。お父様もお母様も心配してるからすぐに戻れ」
「嫌です、帰りません」
「一国の姫が何を言うのだ。オレとお前との結婚はもう決まってるんだ。いつまでも駄々をこねるんじゃない」
「あなたとは結婚したくありません」
「ふん、そんなこと言っていいのか? それ以上拒むなら侵略してお前を奪うまでだぞ? にゃんにゃん王国の民たちがたくさん死ぬことになる」
「そ、そんなことは許しません!」
「だったら大人しくオレの嫁になるんだな」
……うわぁ。
こいつ欲しいものを手に入れるためならなんでもするタイプだ。
品性下劣って言うのもわかるわ。
どうしようと見守っていると、サーラは僕の腕をむんずとつかんでオスカーに言い放った。
「もう私には心に決めた人がいます!」
「なに?」
「この方です!」
「ぶほっ!」
思わず盛大に吹き出してしまった。
「ち、ちょっと、サーラさん?」
「このプー太郎様が私の結婚相手です!」
「ちょっと、サーラさん?」
「プー太郎様とはすでに結婚の契りを交わしてるんですから!」
「ちょっと、サーラさん?」
「この耳も、この尻尾もつかんでもらったんですもの!」
「ちょっと、サーラさん!?!?」
意味不明な言葉だけど、イヌ耳を生やしたオスカーには絶大な効果があったようだ。
「な、な、な、なんだと……!? サーラの耳と尻尾をつかんでもらっただと……!?」
めっちゃ怒りに打ち震えてる。
これ、やっぱりアレなの?
猫耳と尻尾ってものすごく大事な部分なの?
「貴様、人間の分際でサーラに何をした!」
「あわわわわ」
どうしよう。
なんにもしてないけど、耳と尻尾を触ったのは事実だし。
このイケメンくんの怒り方だと「ごめーん、思わず触っちゃったー」的なニュアンスだと逆上しそうな勢いだ。
僕はサーラを守りながら考えた。
どうしよう、どうしよう。
いや、待て。
相手が犬ということは……。
「お手!」
僕は瞬時に手を差し出した。
考えに考え抜いた作戦がこれというのも情けないけど、目の前のイケメンくんが犬なら効果があるかもしれない。
するとどうだろう。
オスカーは僕の差し出した手に自分の手を乗っけてきた。
「あ、お手してくれた」
イケメンが無意識にお手をする光景は、なんかちょっとそそるものがある。
サーラも口をおさえながら「まあ!」と声をあげている。
そんなイケメン・オスカーはハッとしてすぐに僕の手を払いのけた。
「き、き、き、貴様ぁ! 高貴なオレにお手をさせるなど、万死に値する!」
よほど屈辱的だったのか顔を真っ赤にして睨み付ける姿はどことなく闘犬を彷彿とさせる。
「今すぐこの場で噛み殺してくれる!」
本当に襲いかかって来そうな雰囲気だったので、僕は慌てて「おすわり!」と言った。
「わふ!」
イケメンがちょこんとその場に座る。
意外と行儀がいい犬のようだ。
イケメンはまたもハッとして顔を赤く染めた。
「貴様ぁ! 一度ならず二度までも……」
「待て!」
「わふ!」
……利口すぎるだろ、この犬。
オスカーが大人しく僕の言うことをきくもんだから、サーラも面白がって「お手」と「おすわり」と「待て」を連呼し始めた。
そのたびにオスカーはサーラの言うことをきちんと聞いていた。
従順な犬だ。
「く、屈辱だ……」
「オスカー、帰ってあなたのお父様に伝えなさい。私はあなたとは結婚しませんと」
「ふふふ、いいのか? オレとの結婚を拒むなら、お前の国はわんわん王国の侵略を受けることになるのだぞ?」
「どうぞご自由に。プー太郎様のおかげで、あなた方の対処法がわかりましたから」
「……なに?」
「お手」
「わふ!」
サーラの声に無意識にお手をするオスカー。
「うふふ、意のままに操れるということは、たとえ侵略してきたとしても返り討ちにできますね」
「な!?」
言われて僕も気づく。
確かにこれなら例え侵略してきたとしてもわんわん王国の兵は抵抗できなくて返り討ちにあうだろう。むしろにゃんにゃん王国が攻めたらあっさり勝てるかもしれない。
わんわん王国は弱みをつかまれたと言っても過言ではない。
「それでもよければ、どうぞ侵攻してください」
「く、くうう……」
オスカーは犬耳をへたらせながら悔しそうな顔を浮かべて踵を返した。
「お、覚えてろ! この屈辱はいつか返してやるからな!」
三流のような捨て台詞を吐きながらオスカーは去って行った。
顔はイケメンなのに動作や言動が三下のそれというのが残念でならない。
オスカーがいなくなると、サーラは僕に向き直って頭を下げた。
「プー太郎様、ありがとうございました」
「いや、僕は別に何もしてないよ」
「いいえ、あなたはにゃんにゃん王国の救世主です。私を守ってくださったうえにわんわん王国の弱点まで見つけてくださったのですから」
「じゃあ、もう家出の必要はなくなったわけだ」
ちょっと寂しいけど、わんわん王国の脅威が去りサーラが僕の所にいる理由はなくなった。
これで安心して元の世界に帰れるということだ。
「それなんですけど……」
サーラはもじもじしながら上目遣いで僕を見ている。
嫌な予感……いや、いい予感しかしない。
「この世界にはにゃんにゃん王国にないものがたくさんありまして……。できればその技術をもう少し学んでいきたいんですが……」
「サバ缶とか?」
「そう! サバ缶! あれはぜひ我が王国に持って帰らなくては!」
たいそう目を輝かせてるサーラは、国のためというより自分のために残りたがってるように見えた。
「プー太郎様にはご迷惑でしょうが……」
「いや、迷惑だなんてとんでもない。サーラといると楽しいし、ぶっちゃけ家事までやってくれるから助かるよ。僕の方こそいてくれるとありがたい」
あ、でももう匿う必要がなくなったわけで、ギブ&テイクが成立しなくなったから家事は分担しないといけないのか。
「わあ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
そう言って腕に絡みついてくる姿はなんとなく人なつっこい猫のように見える。
……まあ実際、猫科なんだけど。
それよりもまだサーラと一緒にいられるということが嬉しくてたまらなかった。
「じゃあ、今日はお祝いにサバづくしにしようか?」
「ふえええ! サバづくし!?」
「サバの味噌煮に、サバの煮付け、焼きサバにしめサバ。サバ缶を使ってありとあらゆるサバ料理をしよう」
「サバの味噌煮に、サバの煮付け……。天国がここにある……!」
安い天国だな。
でもよだれを垂らしながらうっとりしているサーラを見ていると僕も幸せな気分になる。
「帰ったらさっそく作ろう」
「はい、プー太郎様!」
「あ、そうだ」
「はい?」
「ずっと言いそびれてたんだけど、実は僕、プー太郎って名前じゃないんだ」
「へ?」
「本当は別の名前」
「え? もしかしてプー太郎様はこの国の隠れ王子様?」
なんでだよ。
「違う違う。っていうか、見ず知らずの人に本名教えたくなかっただけ」
「そうだったんですか」
「今のサーラなら教えてもいいかなって。ずっと偽名なのも嫌だし」
「じゃあプー太郎様の本名は?」
「僕の名前は……」
それから。
僕とサーラはちょっぴりいい関係になるのだが、それはまた別のお話。
お読みいただきありがとうございました。




