泣き女
雨が降り続いている。ただ冷たく、どこか寂しい雨だ。
有希はその日、母親に買って貰ったばかりの赤い長靴を履いて、黄色いレインコートを着て外に出た。
特に目的が有るわけでもなく、ただ、ぴしゃぴしゃと跳ねる水の感触を楽しみたかったのだった。
有希はしばらく水溜まりを歩き、ぴしゃぴしゃとと水を跳ねさせて遊んでいた。
そんなときだった。
家の前に知らない女が居たのだ。
妙な女だった。
白い衣の翠の長い髪の女は真っ赤に目を腫らして泣いているのだ。
すすり泣くわけではない。時折奇声を発しながら泣いているのだ。
有希は不思議に女を見上げるが、女は有希に気付く様子を見せなかった。
ただ、有希に解るのは、女は客人ではないことだけだった。なにせ女はインターフォンを押す気配さえないのだ。
有希はしばらく女を見つめていた。
何となく、女がこちらのものではない気がした。
女はあちらから来たんだ。
けれども、有希にはあちらがなにか解らなかった。ただ、女が嫌なものを運んで来るような気がしていた。
怖くなった有希は慌てて家の中に駆け込んだ。
ここには母親がいる。何も怖いことはない。そう信じて。
有希が家の中で母親を見つけた時、母親は寝ていた。
どうして床で寝ているのだろうと不思議に思いながらも母親を起こす。
けれども、母親が起きることはなかった。
母親は冷たかった。
不思議に思いながら有希が窓の外を見ると、女の姿は無かった。