嫌われ者の過去(二)
「ミーユっ!」
彼女の腹からは、血が流れ続けナイフを刺した男はナイフを捨てて逃げていく。
「ミーユ、返事して、目を開けて、お願いっ」
僕の言葉は、ミーユに届かなかった。
「いたぞっ」
背後から、父様と兄様の声が聞こえた。だが、守ると決めた相手がこんな姿になってしまった絶望で振り返れない。
「ユウラ?」
不思議そうに僕の肩を掴むと、腕に抱いていたミーユがだらんと力なく倒れる。
血まみれの僕、そして誘拐された女の子の惨い姿。
誰もが僕がやったのだと疑った。
ミーユは協会に運ばれ、一命を取り留めたらしい。
だが、僕はミーユに遭うことを許されず。
騎士団に連れられ、牢獄に閉じ込められた。
「君は、あの少女を殺したのか?」
「いいえ、僕はやっていません。誘拐してきた男の一人です」
表情はなく、絶望し俯いているだけ。
騎士は、僕がやっていないことを認め、その日のうちに解放された。
外に足を踏み出すと、誘拐事件のことは街の人々に知り渡っており、ひそひそと話し始める。
「あの子が、殺したんでしょ。幼いのに、怖いわ」
「子どもだからと、油断しない方がいい」
「あの子は、貴族なんだろう。平民を蔑んでいるお貴族様は気に入らなければ命も奪うのか」
心無い言葉が胸に刺さる。ミーユが無事だと知っていなかったら、今頃精神は崩壊していた。
「ユウラ・アイジェント様は、この件に関わっていません。憶測での噂は控えてください」
僕の後ろにいた先ほどの騎士が、皆に呼びかける。
だが、それが逆に怪しかったのだろう。
「お金を積んで、騎士に口止めしてるわ」
「あの年でも、やはり憎い貴族だ」
「差別よ差別」
言葉はひどくなるばかりで、誰も僕を信じてくれない。
心は冷え切った。貴族だから、平民だから……それがなんだ。
あなた達の方がひどいことをしている。
僕が何をした? 知らない貴族と一緒だと考えるな。
ただ、ただ、ミーユを助けたかっただけなのに。
唇を噛みしめ、涙をこらえる。ここで涙を流せば、良い笑いものだ。
「あなたのせいで娘は重傷を負ったのよ。今後目が覚めるかわからないのよ! どう責任を取ってくれるの」
群衆を押しのけ、前に出てきたのはミーユの母親らしき人だった。
僕の胸ぐらを掴み、激しく揺さぶる。
首に手がかかり、締められる。呼吸は細く、意識が薄れる。
「止めなさい! すぐに手を離さないとあなたが捕まるわよ」
「そうだ。そんな子どもはロクな死に方をしない」
「あなたには、娘がいるんでしょう」
首から手が離れた。泣きじゃくる母親に、僕は嫌悪を抱いた。
何もしていない僕が、どうしてここまで。ミーユに罵られ、殺されるのならまだしも知らない大人が世間に便乗して悪口を叩くのは違うだろ。
僕は、母親を突き飛ばし周りに集まった人を睨みつける。
「お前らが何か言う必要はない。関係ないのに悪口を叩くのは、犯罪者と同じだ」
僕を避けて、道ができる。もう、僕以外の人なんてミーユ以外死ねばいい。
人の顔色を窺ってばかりいるのなら、さぞ生きづらいだろうな。
「はっ、小せい奴ら」
「犯罪者と一緒にいれば、俺たちも悪者扱いされるからな」
「今後一切、話しかけるな」
馬車に乗ろうとしたところ、蹴り落され父様と兄様が乗っている馬車には乗れず、荷馬車に乗せられた。
「人はなんて汚いのだろう」
だが、僕も同じなんだよな。
俺の記憶の中に存在している。
この感情もなくなったわけではないが、このまま闇落ちしてもユウラがひどい目に遭うだけだ。
ゲームでは嫌いだったが、こんなことをされれば俺でも憎む気持ちがわかる。
ユウラの身体を貰ったのだから、絶対に死なせないし、死なない。
それは、約束する。
「体調、悪いんですか?」
過去を思い出し、立ち止まっていた俺に女性が話しかけてきた。




