嫌われ者の過去(一)
どうにかして、父親と兄に好かれなければならない。
俺がこんなんだと、いつまでも剣を向けられる。
悪い奴じゃなく、良い奴だとわかってもらわないと。
ユウリに俺の部屋を聞いてから、外に出る。いまだに僕に剣を向けていた。
「お父様、お兄様。俺は、これから変わります。なので、様子を見てくれませんか」
地面に頭を下げ、謝るが返ってきたのはぁ頭に乗っかる足の重さと「死ね」という暴言だけだった。
二人に、好かれるのは骨が折れそうだな。
仲良く作戦はとりあえず置いとくとして、お金を稼がなきゃ何も始まらない。
行動力だけが取り柄の俺は、邸の外へと繰り出した。
前世? との街並みとは違い、同じような色合いの家が所せましと建っている。
足元はレンガで埋め尽くされ、ゲームの中の世界観に興奮が抑えられない。
「おー、すっげえー」
街を抜けた先にあったのは、清潔感のある白い壁に、青い屋根をした教会だった。
太陽の光が反射して、輝いている。
ここまで来るのに、冷えた目線で見られていたが、気にせずに仕事を探す。
「あの、この辺で仕事ありませんか?」
「すまん、他を当たってくれ」
「あの――」
「ごめんなさい」
「あ」
「ひっ、ごめんなさい」
声をかける前に逃げられてしまう。
怖い顔なんてしてないのに、一応貴族だから恐れているのか?
だが、あの怯え方は……。
しばらく、考え込み。思い当たる節を探す。
悪役令息のユウラは七歳のころ、ある事件を起こしていた。
これをきっかけに、家族はユウラを嫌い、暗殺の計画を立て始める。
「誤解なんだけどな……」
ユウラ誘拐事件。俺の名前が入ってしまった辛い事件だ。
ことの始まりは、平民の女の子が誘拐されたことだ。僕はたまたま、ユウリのために家族で買い物に来ていた。
「父様、兄様。誰か誘拐されたみたいです」
「そうだな」
「まぁ、俺達には関係ないから、ほっとけ」
二人の返事は、自分が求めるものと違った。
「なんで? 助けを求めてるのに行かないの?」
「平民だからな」
兄様の一言に、胸の奥が痛んだ。身分が違えば助けないの?
父様と繋いでいた手を離し、誘拐されている子どもを追う。
裏路地に入ったとこで、止まった。
「その子を離して、誘拐は悪いことだよ」
「うるせぇな、クソガキ」
ナイフを持った男が、俺の方に向き直る。
「おい、ちょっと待て」
「ああ?」
「こいつ、貴族じゃねえか?」
ナイフの行き先は俺から女の子の方へと戻る。
ゆっくりと近づいてきたもう一人の男が、僕を担ぎあげ小屋に閉じ込めた。
小さな作業部屋のような場所に二人、身を縮めてお互いをあっためた。
「僕の名前は、ユウラ・アイジェント。君は?」
「……ミーユです」
小さな声で答えてくれた。僕は、ミーユを守ると決めて安心できるように少しの嘘をついた。
「僕がいるから大丈夫だよ。すぐに、助けが来る」
彼女に笑いかけた時、扉が開いた。
「なーに、こそこそ話してんだ」
ナイフを持った男が僕たちに近づく。首元に刃物を突き付けて、少しでも動けば傷がついてしまう。
「大人しくしてろ。助けを呼ばれると困るからな。おい、お前」
呼ばれたミーユは震えながらも男に近づく。
「もし、逃げるそぶりをしたらこいつの命はねぇ」
彼女は干し草に投げ捨てられ、先ほどナイフが触れていた頬から血が流れた。
「ミーユっ」
「ふんっ、わかったか?」
立ち去る男を睨みつけ、僕は汚れていないシャツを切り裂いて、彼女の怪我を抑えた。
「痛いよね、本当にごめん。絶対に助けるから」
「っ、うん」
その時、去ったはずの男が扉を蹴破り中に入ってきた。
「クソガキ。お前、助け呼んだな?」
ナイフが眼前で光る。「ひっ」喉が引きつく。
「お前のせいで、こいつは死ぬ」
「っや、やめて、助けて」
ミーユに向けてナイフが向かう。
――その瞬間、身体は勝手に動いていた。
彼女の前に立ちはだかると、男は少し躊躇したのち刺そうとしてきた。
僕は、目をつぶり覚悟を決めた。だが、一向に刺される気配がない。
固く閉じていた目を開くと、目の前の光景に絶句した。




