クソな人生の別れ、そして、はじまり
人生は碌なもんじゃねぇ。俺は、生まれた時からそう思っていた。
俺に与えられていたのはお金だけ。愛情はお金で買うものだと無関心な親に教わった。
それでも、人を笑顔にしたくてお笑い芸人を目指し、小さい箱の中、日々を割と楽しく過ごしている。
劇場に来てくれたお客さんの中で俺を推している子に声をかけ、ベッドの上で一夜を過ごす。
男女問わず、俺を「好き」「愛している」というものを抱いてきた。
俺には、それでしか〝愛〟を確かめられない。
だけど、心はいつも空っぽだった。
「お兄さん。このゲームいる?」
金髪で鼻から耳にチェーンが繋がっていた男に声をかけられた。
「大丈夫っす。用件はそれだけっすか?」
喧嘩をふっかけられたと思った。だが男は、俺の腕の中にゲームを押し付け去ってしまう。
「はっ? おい、これ!」
声をかけたが、もうそこに男の姿はなかった。
仕方なく家に戻ると、貰ったゲームを見てみる。
表紙には、『愛される人と共に』というタイトル。そして、たくさんのイケメンと中心にヒロイン? と思われる美少女。隅の方に目つきの悪い男女が映っていた。
なんだか自分を客観的に見ているようで、嫌になる。
仕事用のフリップを書き終わり、もう一度ゲームを手に取ってみる。
「初めてやるゲームがこんな恋愛みたいなのとは思わなかったな」
ふっと鼻で笑いながらも帰り際に買ったゲーム機に入れた。
♪♬♪♪♬♪♪♬♬
途端に、甘い雰囲気の音楽が流れてきた。
画面に映る攻略対象者と言われるイケメンたちに、ルール説明をスキップしてしまった自分を呪う。
初めてやるのに、めんどくさくて飛ばしちまった。
とりあえず、王道っぽい子にしとくか。
赤髪、赤い瞳、ガタイのいい身体。名前はモダン。
俺が憧れていたアニメキャラみたいだ。
モダンは、シェリーシア王国の第二王子で、騎士団にも所属している。
第二王子なのに、王位継承権は一位。それに、第一王子は姿を現さない。
ゲームを始めてから、二か月。スマホで攻略方法や、実況動画を見て隠しキャラなる存在を知った。
「第一王子は婚外子の平民?」
この世界にかかわりがある平民って、主人公しかいないけど、兄弟の話は聞いたことないな。
「よし、今日はモダンルートを進めるぞ!」
意気込んでゲームのスタート画面を開き、スタートボタンを押した……はずだった。
画面に突如として、現れたリセットボタンを押してしまい。
今までのゲームデータが失われていく。
テレビを掴み、「ウソだろっ」と絶望していた時だった。
視界が歪み、意識を失った。
「お前、人の話を聞け」
「早く謝れ」
頭を押さえながら開いた視界の向こうで、鋭い剣が俺の方を向いている。
「何をしている。さっさと頭を下げろ」
何が起こっているのかわからずに、後ずさるがその先にも剣があった。
「一体なに? これはなんですか」
身体を縮こまらせて、当たらないようにする。
「逃げるな!」
怒鳴る男に、見覚えがある。目の端がつりあがった鋭い目元に、茶色の髪の毛。
その隣に立っている若めの男は、細いメガネをかけている。
この悪役みたいな顔って――。
俺は、刃に反射する自身の顔を見て目を疑った。
「こ、これは、ま、じか」
口が開きっぱなしになるくらいの衝撃を受けた。
ツリ目で、短い茶髪、見下すような紫の瞳。これは、もしかしなくても、悪役令息のユウラ・アイジェント。
「ユウラ、変な真似はするな。動くな、しゃべるな」
散々な言われように、自分の意志とは別に涙がこぼれそうになる。
「父様、兄様。ユウラを虐めないでください」
優しい声で、この状況を止めたのはユウラとうり二つの顔をしたユウリだった。
咳き込み、ふらついた足取りで俺のところまで寄ってくる。
「大丈夫ですか? こんなに震えて。僕の部屋においで」
差し出された手に自分の手を重ねるとそっと包み込まれた。
「ユウラは僕と一心同体なんです。これ以上、傷つけないで」
この世界に来てしまって初めて救われた。俺に向いていた剣は地面に下ろされ、敵意は感じるが手出しはしてこなかった。
ユウリの部屋に着くと、真っ白な空間が広がっていた。空気中に広がる消毒液の香り、前の世界の病院のようだ。
「僕とお話ししてよ。しばらくメイドさんしか見てなかったから話し相手になって」
「それくらいなら、いつでもいいぞ」
さっきまでの身体の震えは消え、目の前にいるユウリに目を奪われる。
なんで同じ顔なのに、性格が違うんだろう。それに、悪役令息に双子の弟なんていたっけ?
「僕ね、ここからでられないから外の世界がわからないんだ。体調いい時でも、家の中しか歩かせてもらえない」
「そうなのか。ユウリってそんなに、悪いのか?」
ユウリは目を見開き、俺に対して複雑そうな顔をする。
まずいことを言ってしまったのではないか。口を塞ぐがもう遅い、ユウリは無理やり笑顔を浮かべて話してくれた。
「僕は、……余命八年。生きていても十五歳で死んでしまう。魔力が正常に体を回らない『魔力詰まり症』なんだ」
その病名に聞き覚えがあった。ユウラに双子の弟はいなかったと思ったのは、不治の病で弟は亡くなっていたからだ。
「本当に、どうにかならないのか?」
「うん。治し方は未だに見つかっていない。永く生きた人でも二十歳で亡くなっている」
「そんな」
「もう、いいんだよ。僕には、ユウラがいる。僕の分まで長生きしてほしいの」
初めて優しくしてくれた家族が、病気で亡くなるなんて嫌だ。
お金じゃない、愛がほしい。
「俺が見つけてやる。ユウリの治療薬」
「でも、そんなことできないよ。どうして発症するかさえ知られてないんだよ」
「大丈夫。地道に調べれば解決する。魔力が詰まったら、マッサージでもすればいいじゃないか」
ユウリは、「ふふっ」とおかしそうに笑う。
その横で、俺は決意を固めていた。




