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応答せよ。キミノセカイへ。

作者: 幸京
掲載日:2026/02/01

「田瀬君、元気ですか?あの子はとても絵が上手でね。美大への進路を薦めましたけど、あまり興味を示さなかったのが残念ですよ。教師になって30年、初めてなんですよ、生徒の才能に嫉妬して本当に天才だと思ったのは」

「田瀬か、あいつはクソだったぜ。ただでさえザコなのに、自分より弱い奴、例えば低学年相手にいきがっていたからな。嗤えたぜ、ガキ相手にいきっている時に俺と会うと黙り込む様子はよ。大体、俺はすぐに泣くような奴が昔から嫌いなんだよ]

「田瀬君、もちろん覚えていますよ。彼のお陰で私は今も生きているんですから。散歩中に心筋梗塞で倒れた私に駆け寄り、すぐに救急車を呼んでくれたんですよ。おまけにお見舞いにも来てくれてね。優しい命の恩人ですよ」

「学校でイジメられていた俺と遊んで喋ってくれたのは田瀬君だけだったな。ある日突然、田瀬君以外のクラス全員から無視されて怖かった。一体何が起きたんだって子供のながらにパニックだよ。今はもう笑えるけどね、あいつらとは二度と会わないし、田瀬君のお陰だな」

「なぜ、父がパワハラで退職されなければいけないんですか?許せないですよ、あの動画を撮ったのは田瀬でしょ。レギュラーをとれなかった逆恨みでね、分かっているんですよ。父はあれからうつ病になりました。仇は必ず取りますよ」

「田瀬さんは僕の憧れなんですよ。上司のパワハラから唯一庇ってくれて。ただ上司に諫言するだけじゃなくて証拠集めて会社に直訴してくれて。それでも田瀬さんは僕に何も言わなくて。あんな人になりたいと頑張っています」

「え、田瀬?いや、うん、本当に分からないな。人の事を覚えるのは得意なんだけどな。まぁ特に何でもない人だったんじゃないのかな。同窓会の幹事はほとんどやってるし、出来るだけ皆に参加してもらって楽しんでもらっているけど分からないな」

「田瀬ね、はいはい。あいつ本当に顔が気持ち悪かったよ。不細工なくせに喋んなよってずっと思っていたわ。あんな顔で生きてて悲しくならないのかな。見たことあるでしょ?あれは整形しても絶対無理。滲み出ているよ、不細工オーラが」

「あー、田瀬君ね、はい覚えていますよ。勉強が本当に不得意でね、私の歴代教え子のなかでもまぁワースト3には入りました。信じられなかったですよ。たった今、教えたことを忘れるんですから。なかなかのまぁねぇ、おバカというかね」

「あ、はい。田瀬さんですよね。実は初恋だったんです。デビュー当初、恋をする役を与えられたんですけど人を好きになったことがなくて。でもまぁ何となくこなしたんですけど、田瀬さんと出逢えて、それで。演技がすごく良くなったって、監督から褒められたんです」


私が彼の事を聞いた人達はもうこの世界にはいない。

出来れば彼に関わった人達、全てから話を聞きたかったけど、敵にバレると面倒だからあまり大きな動きはとれなかった。彼は誰かにとって、仇でもあったし、憧れでもあったし、凡人でもあったし、イケメンでもあったし、命の恩人でもあったし、天才でもあったし、嫌な人でもあったし、バカでもあったし、良い人でもあったし、不細工でもあった。彼は人によっては良くも悪くも忘れられない存在だった。

私の横で気持ち良さそうに眠るその彼は、やがてこの世界に多大な影響を与える可能性がとても高い。その世界が誰かにとって良くなるかもしれないし、誰かにとって悪くなるかもしれないが、そんなこと私にとってどうでもいいのに。彼をどうすればいいのか、もう何度も何度も考えても答えが出ない問いに私が膝を抱えていると、寝ぼけながら「どうしたの?大丈夫?」と、自分のこれからの言動次第で世界がどうとでも傾く彼が言う。


「その人にとってどうなのかだと思う。例えば俺がその宗教がインチキだと言っても、その人にとって信じられる信仰で救われていたらそれは何も間違っていないから俺が間違っていて。余計なお世話で。戦争にしても自分が食べていくのに必要な人にはなくてはならないもので。それぞれにとって何が必要なのかはその人次第だから。当たり前だけど何が良くて悪いかはその人によると思うよ。え?俺が決められるとしたら?どんな世界にするか?アハハハ、夢見るデスノートじゃん。わ、わ、分かった、分かったよ、真剣に考えるよ、そんなに本気で怒らないでよ、せっかくの初デートなのに。うーん、世界をか、まぁ、俺が優しいと思った人が悲しい思いをせずに、許せないと思ったやつがいなくなってほしい。ただ難しいけど感情的にならずに決めないと。誰かにとって優しい人も誰かにとって悪人で、許せないやつも誰かにとってだから。こんな感じでどうですか?いやいやため息は止めてよ、そうだよ、当たり前の事しか言えないよ。大体世界をどうこうするなんて神様じゃないんだから。・・・うわっ、急に立ち止まらないでよ。どうしたの?・・・いや俺はいいけど、凄く何か思いつめた感じだったから。・・・あ、じゃ、最愛の彼女が常に笑顔で何も心配事がない、そんな世界にするよ」


そして世界はあなたの思うようになりました。


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