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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
洛陽争奪編

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37/40

37話

 モクランは、エイゲツをどうしてよいか分からなかった。あの時の森での光景は、今も忘れていない。ケイに対して行ったことを思えば、気持ちとしては処断(しょだん)したかった。


 だが、燕の将軍だったのだ。慎重(しんちょう)に対処する必要がある。長安に護送(ごそう)することも考えたが、今のオウモウなら公開処刑(こうかいしょけい)する可能性もあった。


 燕北部を焼き払ったことで、秦の悪名(あくめい)はすでに広まっている。これ以上、傷を広げるのは得策(とくさく)とは言えなかった。


 ――あのようなことがなければ、味方になるよう説得(せっとく)できたのに。


 秦の人材不足は深刻(しんこく)だった。あのチョウシが戦死したのだ。だがモクランは、エイゲツに会えば自分を抑えられる自信がなかった。


 トウキョウが大将軍になった。モクランも、いつかは大将軍になりたいと思っている。女性でも戦闘向けの魔法が使えれば出世(しゅっせ)できる。だが、かつての代のように、未だに男尊女卑(だんそんじょひ)の国もあるし、秦でも全体的に女性の地位は低い。


 モクランは、そんな世を変えたかった。大将軍になり、自分の姿を見て立ち上がってくれる女性が、たくさん現れてくれたらと考えていた。


 だからこそ、エイゲツを斬らないのだとも言えた。女性で将軍という存在は、ある意味で同志(どうし)なのだ。


 ジュンカンは牢獄に向かった。エイゲツに会うためだ。緊張で心臓が高鳴っていた。


 ――はたして、私の話を聞いてくれるのだろうか。


「何をしに来た……小娘……」


 エイゲツは、見覚えがあると思った。そうだ、あの時に肩を砕いた千人将だ。北部駐屯軍を迎えるため、合流地点(ごうりゅうちてん)に向かっていた際に遭遇(そうぐう)した相手である。あの時、横道にそれていなければ、今こうして捕虜の()き目に遭うこともなかっただろう。


「小娘じゃない。ジュンカンという名がある」


 ジュンカンは緊張で声がやや上擦(うわず)っていたが、構わず名乗った。


「ふっ……で、小娘の千人将が何をしに来た? まさか、肩を砕いた私に仕返しに来たのか?」


 エイゲツはジュンカンの緊張を見て取り、鼻で笑った。


「そんなことをして、何の意味があるの? あなたのように捕虜を(いじ)める趣味はないわ」


 その言い方に、エイゲツは内心苛立(いらだ)った。捕らえた男を弄んだばかりに、捕虜になったのだ。


「では、何をしに来たというのだ。お前と無駄話をする気などない」


 エイゲツは、ジュンカンを睨みつけて言った。


「私は、強くなりたい……」


「……?」


 エイゲツは、その言葉の意味が分からなかった。


 突然、ジュンカンが膝をつき、エイゲツに向かって頭を下げた。


「お願い! あなたの魔法を承継(しょうけい)させてほしいの!」


 エイゲツは驚き、言葉を失った。


「お前……何を言っているのか分かっているのか?」


「分かっているわ! 私は強くなりたいの!」


 ジュンカンは、真っ直ぐエイゲツの目を見て言った。


「お前は千人将で、私は将軍だ。それだけの身分差(みぶんさ)があって魔法を承継するとは、どうなるか知っているのか?」


 その言葉に、ジュンカンはうなずいた。


 魔法の承継方法には二通りある。一つは、自分と同等、もしくは一つ上の身分の敵を倒すことだ。運が良ければ、倒した相手の魔法を奪えることがあった。だが、それは非常に(まれ)で、エイゲツ自身も見たことがない。


 もう一つは、互いの同意がある場合だ。しかし、身分差が大きい相手に承継した場合、魔力の膨張(ぼうちょう)に耐えきれず死んでしまう可能性が高かった。


 かつては試みられたこともあったようだが、成功例はなく、今では誰も試そうとしない。同意による承継など、都市伝説(としでんせつ)のようなものだ。


「どうなっても、後悔はしない」


 ジュンカンの決意に、エイゲツは問いかけた。


「なぜ、そこまで強くなりたいのだ?」


「ケイを守るためよ!」


 ――ケイ……。


 エイゲツは心の中でその名を反芻(はんすう)した。


「分かった……そこまで言うなら、承継してやろう」


 エイゲツは、ついに折れた。


「礼を言うわ。では、どうすればいいの?」


 エイゲツはジュンカンに近づき、顔に手をかけた。魔法の承継に明確な手順はない。身体の一部が触れていれば、魔力の道を通じて行われるだけだ。


「魔力を注入するのと同じだ……一番効率のいいやり方は、知っているだろう?」


 そう言って、エイゲツはジュンカンに唇を重ねた。


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