27話
一方の戦場。
ボヨウスイの副将であるトクとヨウチョウは、それぞれ一万の騎馬を率いて鄴へ向かった。
馬を替えながら、昼夜を問わず飛ばした。
二人は秦軍より先に到着することができた。
鄴の周辺はほぼ平坦である。だが、完全な平地ではない。
窪みや、わずかに斜面になっている地形を確認しながら、少し高所になっている場所に布陣した。
チョウシは物見の報告により、すでに洛陽のボヨウスイ軍の一部が鄴に到着していることを知り、驚いた。
今回の戦いの目的は、燕北部を荒らすことである。
チョウシ軍の役割は、あくまで鄴を攻めると見せかけ、洛陽の軍が北部救援に向かわないよう足止めすることだった。
また、皇太子フコウに戦の経験を積ませる意図もある。
土の魔法で防御を構築し、燕軍と適度に矛を交える程度でよい。
決して急いでいたわけではなかった。
しかし、ボヨウスイ軍が先に現れたことで、焦りを感じた。
トクとヨウチョウの軍は、秦軍を認めるや否や、突撃を開始した。
「ちっ! こちらに陣を組む時間を与えないつもりか!」
チョウシは急いで歩兵を前に出し、槍を突き出させる。
そして土魔法を展開し、皇太子を守る防御陣を構築しようとした。
トクとヨウチョウの軍は錐型となる。
先頭に立つのはヨウチョウだ。
両軍は激突した。
ヨウチョウは矛で突き出された槍を弾き飛ばし、歩兵の壁に割って入った。
鋭い攻撃で、秦軍の前衛は真っ二つに割れる。
そこへトクの軍が突入してくる。
秦軍の前衛は崩れ始めた。
チョウシは旗を振り、中衛の軍を広げる。
そして前衛に伝令を飛ばし、割れた陣を閉じよと指示した。
秦軍に入り込んだヨウチョウとトクは暴れ回り、前衛を討ちに討った。
だが次第に、割れ目は元に戻り、包囲され始める。
「まずい! 囲まれているぞ!」
ヨウチョウは狭まる包囲を抜けようと、左右に軍を動かす。
だが、秦軍の中衛が広がって包み込んできたため、包囲はどんどん厚くなっていった。
「ふん。二万で十万に突っ込めば、囲まれるのも当然だ」
チョウシは馬に乗り、ヨウチョウとトクを討ち取るために動いた。
「くそ! 出口が見えん!」
トクも左右に動き、何とか突破口を開こうともがく。
先の戦いでのチョウシは、土魔法で作り上げた防御陣の中で戦っていた。
このような変幻自在の陣を使うとは、予想外であった。
二人は、秦軍が囲みに来ても突破できる自信があった。
離脱と突撃を繰り返し、翻弄しながら削っていくつもりだったのだ。
だが、チョウシの巧みな用兵の前に、あっさりと包囲されてしまった。
「お前! まだ生きていたのか! この死に損ないが!」
ヨウチョウの前に、チョウシが矛を構えて現れる。
ヨウチョウは先の戦いで、壁に登ったところをチョウシに崩され、重傷を負っていた。
「この間の借り、返させてもらうぞ!」
ヨウチョウは叫び、チョウシに打ちかかる。
だが、その矛は弾き飛ばされた。
「舐めるな! 小僧!」
チョウシの矛は石魔法によって巨大な鎚となり、ヨウチョウを叩き潰そうと襲いかかる。
「くっ!」
ヨウチョウは馬から飛び退いた。
次の瞬間、馬の首から頭が、チョウシの石鎚で叩き潰された。
「とどめだ!」
チョウシが石鎚を振りかぶる。
ヨウチョウは木魔法を使い、蔦でチョウシの体を締め上げた。
ヨウチョウは馬を乗り換え、蔦ごとチョウシを突き刺そうとする。
だが、チョウシが念じると石の壁が現れ、矛を防いだ。
チョウシとヨウチョウの一騎打ちが続く間も、秦軍の包囲は進み、燕軍は次々と倒れていく。
その時、角笛の音が戦場に鳴り響いた。
ボヨウスイの本隊が到着したのだ。
「チョウシを侮ったか……」
ボヨウスイは、トクとヨウチョウが窮地に陥っているのを見ると、即座に突撃を命じた。
騎馬隊二万が、地鳴りを上げて秦軍に襲いかかる。
「命拾いしたな! 小僧!」
チョウシは蔦をすべて払いのけ、ヨウチョウから離れた。
そして旗を振り、軍を散開させる。
ボヨウスイの突撃をいなし、正面衝突を避けた。
駆け抜けたボヨウスイが反転する。
だが、すでにチョウシは後衛に合図を送り、横腹を突くよう動かしていた。
前衛と中衛はまとまり、方陣を形成する。
だが後衛は新兵が多く、ボヨウスイの動きについていけず、横腹を突くことができなかった。
トクとヨウチョウは包囲が解けた隙に抜け出し、再び高所の本陣に戻って体勢を整える。
そして勢いをつけ、チョウシの方陣の蓋を割らんと突撃した。
ボヨウスイもまた、方陣の蓋を狙い、火の虎の魔法を放つ。
巨大な火の虎が、秦軍に襲いかかった。
チョウシは急いで土魔法による防壁を作り出す。
だが即席の防壁は、先の戦で作り出したものほど堅牢ではなく、火の虎を受けるとボロボロに崩れ去った。
蓋として構えていた秦軍は、少なからず燃え上がった。
そこへトクとヨウチョウの軍が勢いよく突撃してくる。
方陣は蓋が割れれば終わりである。
チョウシは左右からそれぞれ五千の騎馬を繰り出し、トクとヨウチョウの側面を打とうとした。
さらに、方陣の外でもたついていた後衛に合図を送り、背後から打てと指示する。
トクとヨウチョウが方陣の蓋にぶつかる。
兵と騎馬が激突し、大きな衝撃が陣全体を揺らした。
完全には割れなかったが、半分ほどが突撃で倒れた。
トクとヨウチョウの側も、馬ごと倒れる者が多かった。
二人は反転する。
そこへ左右から秦軍の騎馬が迫る。
だが後衛の動きはやはり遅れ、チョウシの思惑通りにはならなかった。
騎馬隊同士が交錯する。
双方に犠牲が出たのち、トクとヨウチョウは元の位置へ、秦軍の騎馬も引き返した。
秦軍の後衛がようやく方陣に合流する。
チョウシはそれを、そのまま蓋の補充とした。
動かず槍を突き出すだけなら、できるだろう。
そこへ、再び火の虎が襲いかかる。
チョウシは完全に虚を突かれ、対応が遅れた。
あれほどの大魔法が、二発も来るとは思っていなかったのだ。
補充したはずの蓋は焼かれ、兵たちは炎に包まれた。
チョウシは必死に土魔法を使う。
土は砂となり、燃え上がる兵たちに降り注ぎ、火をある程度抑えた。
チョウシは方陣を維持したまま、数里後退した。
皇太子の軍は戦闘に介入することができず、そのまま共に後退する。
ボヨウスイも大技を二発放ち、疲弊していたため、これ以上の攻撃は行わず、陣をまとめた。
チョウシは、思いがけず初日から激戦となった戦況に、頭を抱えた。




