25話
ジュンカンは千人のうち半分を馬から下ろした。
太い丸太を持たせ、周囲の兵に盾を持たせて構える。
砦の門が開いたら騎馬が突撃する、正攻法を取った。
「俺が火の矢で焼こうか?」
ケイがジュンカンに言う。
ジュンカンは首を振った。
「いや、あなたの出番はまだよ。これから砦を立て続けに抜く必要がある。ここより大きな砦まで来たらお願い」
ケイはうなずいた。
周囲は、ケイが身分の上であるジュンカンにタメ口をきいていること、そしてそれをジュンカンが自然に受け止めていることに驚いた。
だがそれは、ケイがモクラン直属の隊長であるからだろうと納得した。
ケイの百人隊の副官となったサクだけは、女の勘なのか、ケイとジュンカンとの関係に薄々《うすうす》気づいていた。
――モクラン様は、戦以外のことは鈍感ね……。
サクは心の中でモクランのことを思い、クスリと笑った。
「はじめよ!」
ジュンカンが指揮棒を振ると、丸太を持った兵たちが砦の門に向かって突進する。
砦から矢が降ってくる。それを盾兵が、丸太を守るように動いて防いだ。
丸太が門に衝突する。
ずごーん、という衝撃音が鳴り響く。
だが門は開かない。
丸太部隊が下がり、入れ替わりで別の丸太部隊が突進する。
再び衝撃音が鳴る。
砦は大きく揺れるが、門は開かない。
「何度でも繰り返せ!」
ジュンカンの指示で、丸太部隊は入れ替わり立ち替わり、連続して門にぶつかる。
十度目の突進で、ついに門は開いた。
「いまだ! 突撃せよ!」
ジュンカン率いる騎馬五百が、門に向かって突撃する。
ケイの百人隊も続いた。
ジュンカンは門を抜け、中へと入る。
目の前に、守将と思われる燕の千人将がいた。
礫を放つ。
それは拳ほどの大きさで、目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
千人将の顔を、兜ごと粉々《こなごな》にした。
砦はあっという間に占拠された。
ケイは、ジュンカンの電撃的な攻撃に驚いた。
先の戦いで歩兵だった頃と、明らかに動きが違う。
ケイはこの戦で、ジュンカンと並ぶ千人将を目指していた。
だが、どうやらジュンカンは、その先へ行きそうであった。
ケイの目から見ても、ジュンカンは千人将の器に収まる力量ではなかった。
「駆けるぞ!」
千人全員が乗馬し、走り出す。
丸太は馬にくくりつけている。
ジュンカンは一気に、次の砦も抜くつもりであった。
砦を抜けると、再び道が狭くなる。
だがジュンカン隊はまったく意に介さず、速度を落とすことなく駆け抜けた。
次の砦が見える。
一つ目の砦と同じような構えであった。
今度は馬に丸太をくくりつけたまま、門にぶつけた。
丸太は人が引くよりもはるかに速く、ものすごい勢いで門に飛んでいく。
丸太が門に突き刺さった。
砦の守兵は、その速さに対処できず、慌てふためいた。
丸太によって開いた穴に向け、ジュンカンは無数の礫の散弾を浴びせる。
門は衝撃で脆くなっており、礫で蜂の巣のようにボロボロになった。
ジュンカン隊は、ボロボロの門を騎馬に乗ったまま突き破った。
守将はそれを見て恐れをなし、逃げ出した。
サクが矢を放つ。
守将は背中から深々《ふかぶか》と射抜かれ、絶命した。
二つ目の砦も、あっさりと落ちた。
モクランの本隊は、まだ姿を見せていなかった。
ジュンカンは小休止を取らせた。
「すごいな、ジュンカン。前より強くなっているね」
ケイが話しかける。
「当たり前だ。どれだけきつい訓練をしたと思っている」
「それより……ケイの隊の副官は女なのか?」
ジュンカンはサクに目を向けた。
最初は長身で男かと思ったが、所作が女のものだった。
「あんな薄い胸の女が好きとはねえ……」
ジュンカンはケイを冷たい目で見る。
内心では、強い嫉妬を抱いていた。
百人将は部下と寝食を共にする。
幕舎を持つ千人将とは違うのだ。
「違う! サクは優秀なんだよ!」
ケイは慌てて言い訳した。
サクをそのような目で見たことはない。
確かに中性的な顔立ちで整っており、肌も綺麗だ。
それに、モクランにサクを副官にすると言ったとき、「よい選択だ」と言ってくれた。
サクは弓手らしく視野が広く、遠くの敵の動きも、ケイより早く捉えていた。
「冗談はここまでだ。出るぞ」
ジュンカンは、モクラン本隊の旗を見ると立ち上がり、出発の指示を出した。
三つ目の砦は、これまでの二つより一回り《ひとまわり》大きかった。
逃げてきた兵を収容したのだろう。
砦の中に千人、外にも千人が展開していた。
「貴様らの進撃も、ここまでだ!」
外にいた千人将らしき男が叫ぶ。
砦の前は、ぶつかり合うには狭い地形である。
突撃すれば、すぐに乱戦になる。
「ケイ、出番だ」
ジュンカンの声に、ケイは一歩前へ出た。
乗馬したまま弓を構える。
敵将はそれを見て、前面に盾を並べた。
すでに矢が届く距離である。
「いいか……わたしが礫を放ったら、即座に撃て」
ケイは頷き、ジュンカンの動きを見逃すまいと、端目で見ていた。
ジュンカンが拳大の礫を放つ。
同時に、ケイが火の矢を射る。
矢は火の魔法をまとっていた。
これまでの火の矢よりも、実体の矢を使うことで、速度も精度も格段に上がっていた。
礫が敵将の盾を弾き飛ばす。
そこへ火の矢が突き立ち、敵将は炎に包まれた。
燕軍は大混乱に陥る。
「いまだ! かかれー!」
ジュンカン軍が突撃すると、燕軍は完全に崩れた。
外の兵を助けようと、砦の門が開く。
だがそれは裏目だった。
ジュンカン軍は一気に敵軍を割り、砦の中へ突撃する。
砦内は乱戦となったが、勢いに勝る秦軍が、次々と燕軍を討ち散らかした。
武器を捨て、降伏する者たちが後を絶たなかった。
秦軍は、三つ目の砦も瞬く間に落としたのであった。




