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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
北部攻略編

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19/40

19話

 戦が終わり、軍は一時解散となった。ケイは久しぶりに、レイの待つ家に帰ってきた。


 だが、そこはすでにもぬけのからで、レイの姿もなかった。ケイは動転どうてんした。


 「レイ!レイ!どこにいるんだ!」


 だがケイの声に反応する者は居なかった。


 ――いったい、何が起きたのだ……。


 ケイは隣人りんじんに、何があったのか聞いた。


「ああ、あんたタクゲン様のところの奴隷どれいだね。主人が死んだのに、奴隷だけ帰ってきてどうするのさ」


 隣人はそう言い捨てると、ケイに向かってつばを吐きかけた。


「レイは? レイはどこへ行ったのですか?」


 ケイは食い下がるが、隣人は手振りであっちへ行けと追い払った。


 ケイは悲嘆ひたんに暮れ、酒場で酒をあおった。戦争で活躍かつやくし、百人将になったのだ。真っ先にレイに報告したかった。


 店の主人は、奴隷のケイを冷ややかな目で見ている。


「あんた、金払えるのかい?」


 ケイは金の入った袋を、机の上にドスンと置いた。


「なんだ、この大金たいきんは!? あんた、盗みでも働いたのか!」


 主人は、ケイが戦で手柄てがらを立て、貰った報奨金ほうしょうきんだと言っても、「負け戦でどうして報奨金が出るんだ」と取り合わなかった。そして、ついには役所に駆け込み、けいら隊を呼んできた。


「こいつです! この泥棒を捕まえてください!」


 主人がまくし立てると、警ら隊がケイに詰め寄る。


「待て! 待つんだ!」


 警ら隊の中の一人が制止せいしした。ケイの前に出てくる。


「ケイさん、私です! あなたも、ここの出身でしたか!」


 男は笑顔でケイに話しかける。ケイは男の顔に見覚えがなかった。いや、どこかで見た気もする。


「まさか、私のことを覚えていないのですか! あなたの百人隊で伍長ごちょうをやっていたハンですよ!」


 そういえば見覚えがある。名前は知らなかったが。ケイは百人将になっても、ほとんどジュンカンしか見ておらず、部下に目を向けていなかった。


「ああ、ハンさんだったね。これは失礼した。ちょっと、この人に説明してよ。泥棒扱いされて困ってるんだよ」


 ハンは見るからに年上であったが、ケイの方が身分みぶんが上なのだ。つとめてタメ口で話した。


「おい! ここのケイさんは、先の戦で敵の五千人将を討ち取った英雄えいゆうなんだぞ! 無礼を働くな!」


 ハンの怒鳴り声に、店の主人はかしこまり、「お許しください」と平伏へいふくした。


「いやいや、頭上げてよ。それより酒を持ってきてよ。この人たちの分もさ」


 ケイは主人に、じゃんじゃん酒や肉を持ってくるように言った。


「いいのですか! ご相伴しょうばんにあずかって」


 ハンが喜ぶ。


「もうすぐ定時だろ。いいよ、いいよ」


 ケイが言うと、ハンや警ら隊たちは椅子に座り、酒を飲み出した。ハンがケイの武勇伝ぶゆうでんを語る。


「火の矢を撃ってさくを焼いたときは、それはもう驚いたね! そのおかげで、俺たちは丘を落としたんだ!」


「恐ろしい戦車が出てきたときはさー、一人で立ち向かい、火の矢で焼き払ったんだ!」


 多少誇張こちょうされている。だが、ケイの活躍はハンにはそう見えたらしい。


「そこにモクラン様の、あの美しさときたら、たまらんねー。天女てんにょとは、あの人のことを言うんだね」


 話がモクランのことになると、みんな一段いちだんと盛り上がった。モクランは、この国の誰もが憧れる存在なのだ。国民的こくみんてきアイドルみたいなものかと、ケイは思った。


「それに比べて、ジュンカン千人将といったら、言葉は汚いし、男の股間こかんは蹴り飛ばすし、最悪だね! もっとモクラン様を見習えっていうんだ!」


 みんな爆笑した。どうやら、ここの警ら隊の隊員は、一度はジュンカンの指導を受けたことがあるようだ。


「いや、ジュンカンにも可愛いところあるぞ」


 ケイがそう言うと、みんな黙ってしまった。そして、「そんなもの無いよ」だの、「ケイさんは面白いこと言うねえ」など、口々に言いながら、再び爆笑のうずに包まれた。


 こうして、みんなと飲む酒は美味かった。かつて学園祭がくえんさいの際に、学生たちとふざけ合いながら酒を飲んだ記憶がよみがえる。


 ――あの頃にも、楽しいことはあったのか……。


 やがて、警ら隊たちは飲み潰れ、だらしなく寝落ちする者も出てきた。ケイの体は、酒に強いようだった。結構飲んだつもりだが、酔うことはなかった。


 ケイは用を足しに外に出ると、ハンも付いてきた。一緒に小便をする。ハンのものをちらっとのぞくと、ケイのそれより小さかった。


「ケイさん! すごい良いもの持ってるねー」


 ハンもケイのものを覗き込み、驚きのあまり、どうしようもないことを口走る。


 ケイは用を足し終え、真面目な目でハンに聞いた。


「タクゲンさんが死んだあと、家はどうなったんだ? レイという女性がいたはずなんだが……」


 ハンは酔って、多少呂律ろれつが回っていなかったが、衝撃的しょうげきてきなことを言った。


「ああ、あの子は売られたよ」


 ケイは思わず、「どういうことだ」とハンにつかみかかったが、ハンは酔い潰れて寝てしまった。


 ケイは呆然ぼうぜんとして、立ちすくんだ。時が止まったような気がした。

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