14話
チョウシは急いで防御を厚くした。トウキョウとジョセイの陣がなくなった今、チョウシが一人で燕軍を受けなければならなかった。
オウモウから二万の援軍を得たものの、それではとても燕軍と渡り合うことはできない。
トウキョウは数里後退したところに陣を移し、動く気配がなかった。チョウシは使者を送ったが、トウキョウは昼から酒を飲んでいるという。
チョウシは昼夜を徹して、土魔法による防御を厚くした。短期間で、中規模の城のようになった。
ボヨウスイはそれを見て、チョウシの能力に舌を巻いた。普通の攻撃では落とせないであろう。洛陽に使者を送り、攻城兵器を取り寄せることにした。
オウモウはフケンに、ジョセイのことや、トウキョウの態度を報告した。
「我が理想とする国は、まだ遠いか……」
フケンは大きくため息をつく。彼の理想は、どの民族も手を取り合う国であった。だが、騎馬民族には彼らなりの誇りがあり、中央の、これまで支配してきた民族とは、折り合いがつかないことも多かった。
ボヨウスイの攻撃は熾烈を極めた。投石車から大きな石が飛び、ズドンと防壁を揺るがした。防壁にぶつかる石が破裂する。チョウシが築いた防壁は揺るがなかったが、大きな振動が陣全体に伝わってきた。
時折、投石車の石は防壁を越えて陣の中に落ちてくる。兵がグシャリと潰され、被害が出た。
投石車では落とせないと見たボヨウスイは、トクに命じ、梯子車を出させた。いくつもの梯子車が並び、防壁に迫る。
梯子は防壁にかかり、燕兵が渡ってくる。秦軍は弓矢を放ったり、槍を突き出したりして、燕軍を落とした。
「俺がいく!続け!」
ヨウチョウが梯子車に登り、駆ける。秦軍は弓矢を集中させるが、ヨウチョウは大きな盾を持った兵を先行させ、防壁の上まで登り切った。
「ウオオオオオー!」
ヨウチョウは盾兵を乗り越えて、防壁の上に降り立つ。ヨウチョウを突き落とそうと、秦軍が集まる。ヨウチョウは矛を振り回し、秦軍を薙ぎ倒していく。
「まずい……」
チョウシは焦った。防壁の上に拠点を作られては、防壁の利がなくなる。
「やむを得ない……」
チョウシは防壁のシン軍に、退去の命を下す。秦軍が急いで防壁を降りる。
ヨウチョウは、その動きを不審に感じた。その時、防壁がガラガラと崩れ落ちた。
「なに!?」
ヨウチョウは、突如足場が崩れ落ちていく。燕軍だけでなく、秦軍も、退去が遅れた者は巻き添え《まきぞえ》になっていた。
防壁は内側にもあり、外側が崩れたことで露になった。ボヨウスイは急いで、救出隊を出した。
秦軍はそれに向けて矢を浴びせる。ヨウチョウを救おうとする燕軍は、少なからず犠牲を出したが、なんとか瓦礫の下からヨウチョウを救うことができた。
「やってくれたな!」
ボヨウスイは、持っていた指揮棒をバキッとへし折る。再び投石車を前面に出す。
防壁は一枚薄くなったことで、防壁内に届く石が増えた。秦軍の被害が大きくなっていく。
チョウシは兵を守るために、土魔法で塹壕を掘った。血を吐く。手が震えていた。すでに、防壁を厚くするために魔力を振り絞っていた。ここを守らなければ、撤退を余儀なくされる。チョウシは孤軍奮闘だった。
オウモウは焦っていた。何度もトウキョウに、戦場に出るよう使者を送るが、追い返された。
フケンに報告しても、ため息をつくだけで、明確な指示を得られなかった。晋の小役人から、一国の宰相として成り上がったのだ。しかも、フケンの信任を一身に集めている。少し浮かれていたのであろうか。騎馬民族出身者の気持ちを、考えたことなどなかった。
「致し方ない」
オウモウは折れざるを得なかった。ここで負けると、洛陽攻略が断たれるだけでなく、場合によっては、秦国内にまで攻め込まれる可能性もある。
オウモウは、トウキョウに再び使者を送る。
「ジョセイは千人将とし、トウキョウ将軍の下につける」
と書状に押印し、使者に持たせた。
「ふん。これでよしとするか……」
トウキョウは書状を見て妥協した。ジョセイの死罪は免れた。本来ならば、死罪で当たり前なのだ。それをトウキョウが意地を張って庇ったのだ。これくらいで妥協しなくては、フケンに申し訳ない。
チョウシは、連日の攻めに疲弊していた。指揮棒を持つ手にも力が入らない。防壁は、崩される寸前であった。
「者ども! ジョセイの仇だ! 暴れろ!」
トウキョウ軍が、チョウシの防壁を囲む燕軍に突撃する。トクの軍が真っ先に受け、そして崩されていく。エイゲツの軍が、トクを助けようと、トウキョウ軍の横腹を突く。
エイゲツ軍の前に、ジョセイが立ちはだかる。
「もう遅れは取らん!」
ジョセイが叫び、エイゲツに向けて礫を飛ばす。
「雑魚は下がっとれ!」
エイゲツもジョセイに向けて礫を飛ばす。空中でぶつかり合う。まったくの互角であった。
ジョセイとエイゲツが交錯する。ジョセイの剣が、エイゲツの肩当てを飛ばす。
「くそっ……雑魚のくせに!」
ジョセイは、冷静なときは強い将軍だ。エイゲツは肩を押さえながら、離脱する。
トウキョウの軍が、トクの軍の中で暴れ回った。トウキョウは、本来なら陣で守るより、野戦で暴れ回るほうが得意なのだ。騎馬を縦横無尽に操り、トクの陣を切り刻んでいく。
ボヨウスイは、トクの窮地を見て駆ける。トウキョウを視界にとらえ、火の虎を放つ。トウキョウは、それに応じて火の龍を放った。
虎と龍がぶつかり合う。激しく火花が散った。それは互角で、ともに消滅した。火の欠片が地面に落ち草を焦がす。
「ほう……我が魔法と互角とは、やりおる……」
トウキョウとボヨウスイが馳せ違う。お互いの肩当てを飛ばす。そして、お互いにニヤリと笑い、再び交錯する。
トウキョウは矛をひたすら振るった。ボヨウスイも剣をひたすら振るう。ガキン!ガキン!と金属がぶつかり合う音が響く。その一騎打ちは、何合、何十合に及ぶが、お互いに引くことはなかった。
「秦に、貴様のような勇者がいるとは驚きだ!」
ボヨウスイが言う。
「さすが燕の英雄。楽しませてくれる!」
トウキョウが言う。
二人のぶつかり合いは、さらに何十合も積み重なる。二人とも武器に炎を纏わせる。それがぶつかり合う度に、あたりの熱気が増していき空気が揺らいだ。二人とも体から湯気が出ているが、どちらも体力も魔力も衰える様子は無かった。
ついには日が落ちはじめ、両軍は篝火を焚き、一騎打ちを見守った。
唐突に、トウキョウがボヨウスイに言う。
「腹が減ってきた。今日はおしまいにしないか?」
ボヨウスイは、トウキョウの言葉に笑う。敵であるが、ボヨウスイはトウキョウのことを好きになった。
「よいであろう。決着は次の機会でつけてやる」
トウキョウとボヨウスイは、互いに笑い合って矛を収めた。
戦況は、トウキョウが戦線復帰したことで、秦軍が押し返し、互角となった。燕側は、ヨウチョウが重傷でもあり、無理攻めはできなかった。戦況は再び膠着する。




