12話
ボヨウスイは三人の副将たちに、平凡な戦いを繰り返すよう伝えた。弟のトクだけが不満そうであったが、ボヨウスイは命令だと抑えつけた。
チョウシもトウキョウも、燕軍の平凡な攻撃に何かあると警戒していた。だが、ジョセイは違う反応であった。エイゲツの攻撃を、口ほどにもないと完全に舐め切っていた。
燕軍の手を抜いた攻撃は、四日ほど繰り返された。五日目に、エイゲツはジョセイに使者を送った。手紙を見て、ジョセイは怒り狂った。
―――いつまでも引きこもって出てこないとは、お前は本当はか弱い女なんだろう。だったら、これを着て震えていろ。
手紙とともに、女物の、なんとも破廉恥な下着が添えられていた。ジョセイは手紙をビリビリ破り捨て、使者の首を刎ねた。
「あの女め! 馬鹿にしやがって!」
ジョセイは全軍二万に出撃を命じた。チョウシは、ジョセイの陣の旗が揺らめき、攻撃に出ようとしている気配を感じると、急いで防御の合図を送る。だが、ジョセイは無視した。
「あのクソアマの首を捻じ切ってやる!」
ジョセイは二万の軍を率いて撃って出た。エイゲツ軍と衝突する。
「貴様!許さんぞ!死ね!」
ジョセイは先頭に立ち、石礫を繰り出す。将軍ともなれば、一度に数百の礫を飛ばすことができる。
「ふふ、まんまと出てきたか」
エイゲツも応じた。やはり数百の礫を飛ばす。
ガツ、ガツっと空中で礫と礫がぶつかり合う。数十の礫が粉々になり、地に落ちる。だが、勢いはジョセイの方が上回った。
エイゲツは飛んでくる礫を剣で払いのけたが、周囲の兵たちは打たれ、落とされていく。エイゲツは馬首を返し、下がった。
「待て!このくそアマ!ぶっ殺すぞ!」
ジョセイは追い、エイゲツ軍を後ろから叩く。エイゲツは全軍に退却の笛を吹いた。すると、ビッーっという音を聞いたエイゲツ軍は算を乱して散り散りに逃げ始めた。殿も何もない。それぞれが思い思いの方向に走り出した。
「なんと情けない! 所詮は盗賊か!」
ジョセイは、エイゲツ軍のあまりの無様な逃げっぷりに爆笑し、追いかけ回し、その背中を討ちに討った。
チョウシは、その光景を見て焦った。ジョセイが追う先には、明らかに伏兵がいるであろう森が見える。何度も合図を送ったが、ジョセイは見ていなかった。
トウキョウも、ジョセイが撃って出たと聞き、舌打ちする。
「あの馬鹿! やりやがった」
ジョセイは、かつてトウキョウの部下であった。数多くの戦で手柄を立てたため、将軍に推挙したのだ。ジョセイはまだ若く、血気盛んなところもあり、今回は悪いところが出たようであった。
トウキョウは援軍を送ろうとするが、ヨウチョウの軍が押し寄せてきて、援軍を出す余裕がなかった。
ジョセイの軍が森まで差し掛かる。
「待っていたぞ。小僧」
「ボヨウスイか!」
ボヨウスイ率いる伏兵が、ジョセイ軍を横撃する。ジョセイは敵大将の首欲しさに、ボヨウスイの方へ向く。だが、伸び切ったジョセイ軍の横腹に、ボヨウスイの突撃が来る。ジョセイ軍の中団は、抵抗する間もなく壊滅した。
「なんだと!まさか罠か!」
ジョセイは、後続が崩れたことを見て焦る。必死にボヨウスイめがけて礫を撃つ。だが、ボヨウスイが剣を振ると、大きな火の虎が現れ、礫の群れをすべて飲み込んだ。
「馬鹿な……!なんだあれは!」
火の虎は、そのままジョセイの前衛に向かってくる。ジョセイの目の前で、火の虎はパーンと弾ける。無数の火の玉に分かれ、兵たちに襲いかかった。
「ぐわー!熱い!焼ける!」
ジョセイの兵たちは、火の玉に焼かれ燃え上がる。のたうち回る者、必死に火を消そうとする者、阿鼻叫喚の大混乱であった。
ジョセイ自身も、何とか火を払いのけ、恐怖のあまり一目散に逃げた。
「あんな化け物相手では、命がいくつあっても足りん……」
エイゲツの軍は散り散りになったはずであったが、散ったと見せかけて一つにまとまり、ジョセイを追った。
「待て! 将が背を向けて逃げるな!」
「くそ! あのアマめ!」
ジョセイは振り向きざまに礫を放つ。だが、焦って狙いが大きく外れ、エイゲツの頭上を飛んでいく。
「死ね!」
エイゲツが礫を放つ。
「な!? 速い!」
ジョセイは礫を避けきれず、額にまともに受けてしまった。バキンと兜が割れ、飛び散る。ジョセイの額から血が流れる。馬から落ちそうになるが、なんとかしがみつき、駆けた。
「あのような弱い将の首など必要ない! 残った者を蹂躙せよ!」
エイゲツの檄で、燕軍は、逃げ遅れたり、火に焼かれて倒れている秦軍を徹底的に討っていった。
一方的な殺戮であった。
ジョセイは数騎を連れたのみで、命からがらトウキョウの陣に駆け込んだ。トウキョウは騎兵を率い、ジョセイを救うべく討って出た。ヨウチョウの軍を切り開く。その間を、ジョセイは駆け抜け、何とか陣の中に入った。
二万いたジョセイ軍は、ほぼ全滅であった。
無人となったジョセイの陣を、エイゲツが占拠する。チョウシは正面のトクの軍と、二方向から攻撃を受ける体勢になってしまった。
チョウシは腹が立ち、近くにあった椅子を蹴り飛ばした。洛陽攻略が、大きく遠のいてしまったのを感じた。




