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マズいっ!

 俺は、あるものの状況を確認すべく、すっかり頭からふき飛んでいた『視界左上の表示』を探した。


 突如『むぎゃあああ』という謎の声をあげながらベッドから跳ね起きた俺を見て、のっちゃんと山田は驚き、不思議そうな様子であった。


 視界左上には依然として《幼馴染 雪原 氷を攻略せよ》を筆頭に《気温》や《好感度》などの表示がある。


 しかし、今重要なのはそれらのうちのどれでもない。

 視界左上の表示で確認することに慣れてしまったーーー


「今の《時間》は......」


 そう、時間である。


 俺と氷が、視界左上の文字が突如黄色に変化し、クリア不可能とも思えるサブミッション(氷としっかりめのチュー)とともに現れた残り時間の存在に気づいたのが、大体十二時三十分くらい。その時に、残り時間がゼロになるタイミングをあらかじめ計算しておいたのを思い出した。


「頼む......まだ十六時にはなっていないでくれ......」


 ちらりと確認した、右手にある保健室の窓から見える外の景色は、冬の空ということもあってややオレンジにくすみはじめているが、日は落ちていない。

今の季節の日没は、十七時前後。

 外の色合いからして、まだギリギリ時間が残されているとは思うが......


 いやそもそも、もし時間を確認して《十六時五十五分》とか表示されてたらどうすんだ。それこそ、死亡の文字がチラつく数分を過ごさなくちゃならねーんだぞ。


 もうここは、俺たちの心配(残り時間切れイコールゲーム同様の死)が杞憂であることを願ってもう一度ベッドに潜り込んでしまおうか。


 ーーーいや、そんなことをしても意味はない。

それよりも、もういっそのこと視界左上の《時間》を確認してしまった方が......それに、そもそももう氷と《結構しっかりめのチュー》をすることなど不可能に近いのですから。紳士として。


「十六時......? そ、その時間になると何かあるの? 綾瀬君」

「い、いや。こっちの話だ。気にしないでくれ......」


 よ、よし。見るぞ《時間》。

 俺の決意と同時に、山田の大きな目が不思議そうに俺の顔色を窺う。


「綾瀬君なんか最近変じゃない? 授業中も、ずっとあらぬ方向をちらちら見てる時あるし、最近寝不足っぽいし......」


 見慣れた視界左上をちらりと見るのが、こんなに恐ろしくなる時が来るとは......


「教室に遊びに来た氷ちゃんと戦国武将の話ばっかりしてるし......あっ。氷ちゃんと言えばね......」


 ごめん山田。今はお前の話が何も頭に入ってきてない! 無視してしまうことを許してくれ。ご飯三回奢る約束は果たすから! いやここで死んだら果たせないのだけれども。


「ーーーあの子も、心配してたよ。急にぶっ倒れた綾瀬君の様子、授業抜け出してまで見にきてたんだ」


 俺は《時間》を見た。


 ーーー十六時。

 ーーー三分。


 ん?

 十六時?

 あれ? 時間オーバーじゃないか?


 ーーーも、もしかして本当に杞憂だった?

 あれだけ怯えて熱まで出して、保健室に運ばれた(しかも女子の手によってお姫様抱っこされて)ってのに?


 ーーーでも、じゃああの残り時間表示は何だったんだ?

 何の意味もなく、ただ出現しただけとは思えない。これまでだって、この《恋愛ゲーの攻略アシスト》みたいなこの表示は、氷のプレイしていた恋愛ゲーと基本的に同じことわりを持って動いていたはずだ。


 ーーーこれが杞憂ではなかったと考えるならーーー


 どうして俺は、残り時間がゼロになってしまった今、まだ死んでいないんだ?

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