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保健室で

俺はどういうわけか、地獄というにふさわしい悪夢を見ていた。もちろん、当時はこれが夢だなどと毛頭気づいていないので、迫り来る『戦国武将』にただ恐怖した。


多分これは、俺の視界左上ーーー氷は《エンタイス・スクエア》と気取った名前まで付けていたーーーに現れた、日常生活に邪魔な恋愛ゲーみたいな対象攻略表示を消し去るために、氷の好きだという戦国武将を攻略するゲームをプレイしすぎたがゆえの弊害であると思われる。


悪夢の内容はこうだ。


俺はヒロインたる豊臣秀吉といっしょに天下を統一した。すると好感度が一気に上がり、ひーちゃん(好感度が上がると、わしの前だけではそう呼べと言われるようになる。何なんだ)からキスを迫られるというものでした。恐ろしい。


豊臣秀吉の大きな城の最上階......

俺たちはそこにいた。


『綾瀬殿......お主のおかげで天下を統一できた。礼と言ってはなんだが、わしと熱いキスを』

『い、いいえあなたにそんなことをするわけには』


俺は大きくかぶりを振ってそう言った。


『遠慮せずともよい。お主は謙遜しすぎる節がある。それは時に災いを引き起こす、悪しきものじゃさあ遠慮なくわしとキスを』


や、やめてっっっ!


『いやいいですって!』

『減るもんじゃあるまいし!』


俺が豊臣秀吉にキスされそうになり、何とか抵抗する最中、視界の端に見慣れたやつの姿が見えた。


『.........こ、氷......?』




***




「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぎゃああああああああああ!」

「きゃああああああああああ!」


三人分の悲鳴がこだました。一人は俺、一人は俺のうるさすぎる悲鳴に驚いて生じた山田のさらにうるさすぎるそれ。

ーーーそして、もう一人は......


「ちょ、ちょっと二人とも急に大声出さないでよぅ!」


保健室の先生こと、のっちゃん(野口)であった。


後ろで柔らかく結んだ黒髪が非常に似合う二十七歳(独身)の彼女は、生徒たちから異様なほどの人気を誇っている。それもそのはず、彼女の溢れんばかりのーーーこんな定型文的な言葉では言い表せようもない(クラスの男たち談)らしい魅力がフェロモンのように漂っていることがその理由だろう。


しかし、何でここにのっちゃんが?

そもそも今は体育の授業中のはずだろ?

どうして山田とのっちゃんという滅多に交わらないであろうジャンルの二人が、顔を突き合わせて俺を見下しているんだ?


「百々瀬ちゃん。彼はひどく混乱しているようだ。説明を頼むよ」


黒髪のポニーテールと、実験でもしようかと言わんばかりに白い白衣をなびかせたのっちゃんが、山田の顔をびしっと指差した。山田は、のっちゃんの仕草を真似っこするように、まるで豪放磊落とでも言ったような雰囲気を漂わせながら、のっちゃんを流し目で見た。


「のっちゃん先生? 説明が面倒くさいだけですよね? 職務放棄はマズイですよ」


のっちゃんは核心を突かれたみたいな顔の演技をしてから、ふうっと息を吐いて、俺に向き直った。何か二人に見下されてる(物理的に)と感じていたのは、俺がベッドに寝そべっているからか。よく考えれば、ここは保健室じゃないか。何故気づかなかったのだろうか。


「あの......俺、さっきまでの記憶がいまいちハッキリしないんですが......どうしてここに? あと戦国武将は? 天下統一は?」

「こりゃ重症だ」

「こりゃ重症だね」


それを聞いたのっちゃんが、大きく一度息を吐いてからこう答えた。


「本当に覚えてないの? 綾瀬っち」

「綾瀬っち?」


この人、生徒のことをこんな呼び方するの? フレンドリーだとは聞いているけど......


「君は体育の授業中に急にぶっ倒れたんだよ」

「え? そ、そんな......」

「しかもそれを百々瀬ちゃんが何故か綾瀬君を......」

「ぶわああああああああああっ!」


突然、パイプイスから立ち上がり変なダンスを踊り出す山田。こいつ俺に何したんだよ。


「何よ百々瀬ちゃん」

「い、言っちゃだめ言っちゃだめっ......!」

「マシュマロ」

「へ?」

「百々瀬ちゃんのそのポケットに入っているマシュマロで手をうとう」


買収? この人、山田が俺に隠そうとしている何らかのことを盾に、買収しようとしてる?

山田が俺に何をしたのかは知らんが、気の毒に、山田。

山田が一筋の涙を流しながらマシュマロをのっちゃんに差し出した。何だこれ。


「よろしい。約束は守ろう、百々瀬ちゃん」

「私のマシュマロ......」


マシュマロの外紙を雑に剥がして、口に放り込んだのっちゃん。その豪放磊落な仕草と、美しい見た目がちぐはぐで、まるで生きるトリックアートだ。

それをはむはむしながら、のっちゃんは俺にまたも向き直った。後で食おうとしてたのか知らんが、お菓子を奪われた山田は泣いている。


「綾瀬っち、何か悩みごとでもあるの? ここに運ばれてきてから一時間半......ひどくうなされていたけれど?」

「そ......そうそうっ! 綾瀬君、戦国武将とキスする夢見てたでしょ絶対! だってさ、ぐっすり眠っているかと思えば、急に顔をしかめながら『や、やめろ徳川ッ......うわああああああああああ!』って言って悶えてたし」

「徳川も出てたのか」


と、ここで俺は重大なことを忘れていることに気づいた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも......俺、マジで重要な何かを失念しているような気がするんだよな......」


頭をこねくり返して、その行方を探す。

十秒ほど考えて、そいつはすぐに出てきてくれた。


「むぎゃあああああああああああ! ま、まずい《時間》んんんんんんんんっ!」

「ぬわあああああああああ! 何急に! んんんんんんんんん!って何!?」

「び、びっくりさせないで綾瀬っち。んんんんんんんんん!って何よ」

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読んでくれてありがとうございます


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