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さてどうやって攻略するか

 俺に表示されたサブミッション。


 それは《対象と手を繋ぐこと》。

対して、氷に表示されたサブミッション。

それは《対象と結構しっかりめなチューをすること》。


 何てことだ。まさか二人それぞれに異なるサブミッションが現れるなんて。


 俺と氷が屋上にいた時点での時刻は十二時二十七分。そして、現在は二時二十分。すでにあれから二時間ほどの時が経過している。ちなみに、俺のサブミッションはすぐにクリアした。氷が『はい手を握ればいいんでしょうこれでどうよ』と言って、一瞬で氷の命は救われた。


 しかしだ。俺の命は?


 現在は五限の授業、体育の途中である。五限は三時まであるから、クラスが別々の氷とは作戦を立てることすらも叶わない。


 しかも、サブミッションの残り時間から考えた結果、残り時間を超過するタイミングが四時ぴったりであることが分かっている。つまり、突如として俺の命はのこり二時間を切ったわけだ。


 なんなんだ《結構しっかりめなチュー》って。無理だろ! 言い回しもなんか気持ち悪いし! おかげで大好きな体育のバドミントンも楽しめやしない。


 俺はネットで区切られたコートの片方に立ち、降り注ぐシャトルの雨を全て取りこぼし、ストレート負けした。マジでそれどころではないのである。


「ねえ」

「何だ」

「手抜いてる?」

「いや抜いてない」


 対戦相手の山田 百々ももせが俺に文句を言う。しかし、その表情には怒りの色は見えない。


「じゃあ単純に弱すぎるってこと?」

「いやそういうわけでもない」

「じゃあ何なのさ。さっきから天井をチラチラ見て。あそこに挟まってるバレーボールがそんなに気になるかい?」

「え?」


 いやバレーボールなんて見てないんだが......


 目線を上に移すと、確かにボールが天井の隙間に引っかかっている。


 いやでも、挟まってることにも今気づいたし......あ。


 もしかして、俺が視界左上にあるサブミッションの残り時間を確認していたのをそう勘違いしたのか。


 そりゃそうだよな。バドミントンの試合中に、対戦相手があらぬ方向を見つめていて、しかも全力を出してこないんだから不信感も生まれるってもんだ。

 でもな、俺は忘れてないぞ山田。


 お前のせいで俺の放課後が、望んでもない『現代文の清水との勉強会〜問三についての評論的解答方法〜』になってしまったことを。しかもだ、問三は自分でも頑張れば解けたんだ。なんたる時間の無駄。返せ俺の放課後。


「おや? どうしました? やる気になったのかにゃ?」


 ふざけた態度の山田をネット越しに見ていると、何だか元気が出てきた。


 そうだよ、今くよくよ悩んでいても仕方ないじゃないか。そもそも、攻略相手たる氷さんは現在、数学の授業を受けている。どうしようと教室を抜け出すことなどできないんだから、ここは大人しく体育を楽しむべきだ。


 五限が終わってからでも、如何ようにするか試行錯誤するための時間は、十分にある。


 ......いや十分じゅうぶんにはないか。むしろ十分じゅっぷんくらいしか無いか。はっはっは!


 そんなつまらない言葉遊びが脳裏を過ったのを確認し『お、俺意外と余裕あるじゃねーか』と自身の胆力の凄まじさを再確認するのであった。


 俺は、自身の両頬をこちらも両手の平でぱちんと叩き、中途半端な意識を覚醒させ、二回戦目に臨んだのであった......



***



「はぁ.......はぁ......」

「や、やるじゃん綾瀬君......」


 グリースでコーティングされた体育館の床に、俺と山田は二人して寝転がっていた。もちろん、一時の休憩を挟んでいる最中なので、仲良く隣に寝そべってという訳にはいかない。バドミントンコートのネットを挟んでーーー現時点では取得セット数は互いに二ずつなので、あと一回分の戦いを残しているーーー互いへの健闘を、汗をだらだら流しながら体育館の天井に向かって呟き、讃えあうのであった。


 そんな俺たちの様子を見た体育教師、増田が歩み寄ってくる。床に倒れ込んでしまうほどの激闘を果たした俺たちにかけられる言葉は一体どれほどの熱が込められているのか。


「いや驚いたよ。お前たちがこんなにも真剣に取り組んでくれるとは」

「そうでしょうそうでしょう? 特に私。特に私を褒めてくだしゃい......」

「いやお前バドミントン部なんだからこれくらいできて当然だろ......むしろ、何で帰宅部の俺といい勝負繰り広げてるんだよ......」


俺たちの言葉を聞いた山田も続けて話す。疲労と水分不足で、増田の声が遠のいていくようだ。


「本当に驚いた。まさかクラス内最強決定戦の第一回戦で、ストレート負けした二人がここまでの戦いを繰り広げようとは」


やめろ山田、浸ってるんだからそれを思い出させるな。恥ずかしいだろうが。


 と、一足先に息を整えた山田が、きつく結んだボブヘアーのヘアゴムを解き放った。かぶりを振って気合いを入れ直すような仕草を見せている。間違いない、コイツあと一戦を最後までやり切るつもりだ。


俺はもうギブ......確かにもう一ゲーム残ってるけども。


「おっし綾瀬君。最弱王を......決めよーかっ!?」

「やる気なくなっちゃったよ、お前が最弱王とか言うから」

「うぉい! 元からだろやる気ないのは! 私のせいにすんな!」

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読んでくれてありがとうございます


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