東北へ行こう
今回の修学旅行、その目的地はまず岩手だ。
普段は東京にいる俺たちが、都会を抜け出す機会は意外とない。そんな中で、岩手という白銀の世界へ向かう俺たち二年は、ひどくそのテンションを上げていた。
東京から高速道路を使って、バスが移動していく。皆でひとしきり騒いだあとは、今日の早起きのせいもあってかほぼ全員寝入ってしまった。
こんな時、俺は寝ない……というより眠れない。
だんだんと外の景色を構成する色合いが白へと変化していき、ついには道路全体が真っ白に。窓は完全に閉めてあり、さまざまな断熱加工が施されている車内にも肌をつんざくような冷気がそよそよと流れ込んでくる。
俺は冬が好きだ。冬マニアでもある。
こんなことを言うと『冬マニアって何やねん』という関西弁のツッコミが襲い掛かって来そうである。
ただ冬に起きるさまざまなイベント含む、極寒環境が好きなだけだ。
『寒いのが好きなんて変人』と言われたこともあるが、俺からすれば『逆に暑いのが好きなんてネアンデルタール人』とでも言ってやりたいところだ。
こたつはじめ、もこもこな防寒グッズ、機能性バツグンのマフラーなどなどに包まって寒波を塞いだ時の安心感は、ほとんど城郭都市所属の最強兵士部隊に守られてるのと同じような心地良さがあって実に気持ち良い。
……そんな冬グッズを集めることも、俺の立派な趣味であるといえる。
「ふっ……んんっ〜……」
物思いに耽っていると、隣から声が聞こえて来た。ついさっき、バス内レクリエーションをしてから約二十分。一番後ろの席から、バス全体のようすを俯瞰して見る。
早起きゆえか、首がこてんと傾いている者がかなり多い。寝息も多く聞こえてくる。この屋外とは打って変わった暖かい空間で皆気持ちよく寝入ってしまっている……
という状況のなかで、飯を食いすぎて横になり、そのまま一足早く眠りについていたワタコが一足早く起床した。目をこすって辺りをきょろきょろ。二重まぶたをぱちぱちと動かしている。
「よ、おはよう」
「ふぇ……おはよ……」
「お前どれだけ寝るんだよ……もう一時間以上は寝てたぞ」
「そ、そんなに……」
「あぁ」
「……!!?!?!」
俺はこの時、イヤな予感がした。虚ろだった攻略チャートの目が、くわっと見開かれたのだ。
その視線の捉える先は、山沿いを移動しているがゆえに見ることができる白銀の世界。
あぁそうかコイツは初めて見るのかと思い至るも束の間。ワタコは口をあんぐり開け、両手を万歳のかたちに掲げてフリーズしている。なんだその小学生が書く夏休みの絵みたいな姿は。
コイツは、初めて生で見たおとぎ話の世界を目前にし、感動のままに叫ぼうとしている。それだけはやめてくれ、皆寝てるから。バスに間に合わずに迷惑を掛けた上に、さらに安眠妨害までしちゃあマズい。
俺は慌てて、ワタコの顔面にミイラのごとくマフラーを覆った。しかしその状態でも、ワタコの声量を抑え切ることはできなかった(やめてくれマジで)。
「むわあああああああああもごごごごごごごっ!」
俺は、先日の班決めの際に確立した方法こと、ホッカイロを口に詰め込むを敢行した。マジでこの方法は使いたくなかった。ホッカイロがびちゃびちゃになるからだ。
しかし、どうにか作戦が功を奏したようで、その叫びは途中で止まった。
「馬鹿……お前皆寝てるのにっ……」
「ご、ごめんこんなの見たことなくてっ」
「やっぱり、実際に見るのは初めてなのか」
「う、うんうんうんっ」
ワタコに覆い被さったままの姿勢で、ひそひそ話をする俺たち。右隣にいる月嶋は……よかったぐっすり眠っているみたいだ。




