メンバー揃い踏み
足をもたもたさせながら舞台裏へと消えていく校長。その姿は、およそ高校を統べる長とは思えぬ情けないそれであった。
俺は、今日何度目か分からないひそひそ声で、ワタコに問いかけた。
「おいワタっこ校長に何したんだよ……ただごとじゃなかったぞあの顔は。もしかしてまた管理者権限使ったのか?」
「いや一日に何回も使えないってばぁ。ボクが使ったのはコレ」
そう言って不敵に笑うワタコの白い手が握っていたのは『カナラズデル 便秘薬』という薬であった。
「お前まさかコレを校長に……」
「いや、あくまでも用法と容量は守ったよ。ただ、校長がかなりの便秘であることを昨日のうちに管理者権限使って調べておいただけで、あとは薬が効くタイミングを計算してプレゼントしただけだからね? 今日が班決めであることも、木綿の鞄に入ってた予定表から把握済みだよ」
「お前……なんか優秀だな」
「当たり前でしょ! ボクは攻略チャートだからね」
ふふんと得意げに笑うワタコは、お世辞ではない俺からの褒め言葉にちょっと嬉しそうだった。コイツ、普通にしてれば可愛いのに『くそが』とか言うもんだからなぁ……
「あと、鞄の中から出てきた『星の彼方のアクセル』とかいうラノベ面白かったよ。どういう訳か、バーコードなんかの類が無かったけど、何処で買ったんだいこんなもの」
「へぇ? そんなラノベ、俺持ってたっけか……」
ん?
コイツ今何て言った?
星の彼方のアクセル? ちょっと待てよ? それさ、それはさ……
それ俺が秘密裏に夜な夜な執筆してるイタタなラノベじゃん。ねえどうして勝手に読むの?
「アクセルが決死の覚悟で隕石に飛び込んで行くシーンは白熱したなぁ。でもどうして、何の脈絡もなくいきなり姫のパンツの話になったりしたのかな?」
「あ、あはは……どどどどうしてだろうなぁ」
「どうしたんだよそんな汗かいて」
「い、いや、いやいやいやいや別別別別に」
「ラップ?」
***
『それじゃあ……班ごとに集まって、まもなく控える修学旅行先での過ごし方を考えましょうっ! Let's go!』
もはや誰だよ校長。
……危うく、ワタっこという噂話拡張マシーンに俺の秘密をバラされてしまうところだった。今のところは、コイツの何処となくバカな部分が幸いしたのか、アクセルの作者が真ん前に座っていることに気づく様子はない。
俺とワタっこは、2-Aの列を抜け出して指定の場所へと移動した。そこは体育館の最後尾で、暖房機器の真下だったので暖を取れそうな快適空間だったもんだから嬉しい。
「うし……こっからが本番だよ? 木綿。この《幼馴染を攻略せよ》の表示は、今のところ時間の制限は存在していない。けれど、いつそれが裏返るか分かんないから、できることならばこの修学旅行中に氷を攻略しちゃおう」
「あのさ……前から気になってたんだけど、攻略ってのは、必ずしも『恋に落とす』っていうことになるのか? それ以外に攻略したことになる判定基準はないのか?」
例えば……氷をゲームのボスに見立てて、戦って勝てば攻略完了……とか。いや仮にそんなものが通用するとしても、戦わないけどね往年の幼馴染と。
「いぃや、それは無いね」
「無いかぁ」
俺たちがそんな話をしていると、班の他メンバーたちが集まってきた。最初に来たのは、やたら最近俺にかまってくる山田 百々瀬。それにくっついてきたドジっ子の月嶋 有栖。
で、最後に雪原 氷パイセン。
今気づいたんだけど、俺以外全員女子じゃないか? これ良いのか? せめてもう一人男子が欲しいところなんだが。




