修学旅行の班決めをしよう
五時間目の英語、六時間目の物理の授業を受け終えた俺は、教室から体育館までの長い距離を移動していた。
修学旅行の班決めの集会に出席するためだ。二年生の雑踏に混じって移動するのは、毎度のことながら骨が折れる。
学年人数がおよそ千人を超えるという規格外な生徒数を持つこの学校は、いかんせんクラス数が多い。
しかしその割に校内の広さはまちまち……という欠点を持っているため、毎度の朝礼前における移動はこのように満員電車にでも乗っているような気分にさせられるのが辛いところだ。
人ごみの中で俺にしがみつくワタコは、さっきからずうっと弱音を吐いている。
「ふぇぇ〜木綿〜押し潰されちゃうよ〜」
「我慢しろってもうちょっとだから……お前が勝手に実体化して、頼んでもないのに転入してきちゃったんだろ」
「こらそんなこと言うな! いてっ今ボクの足踏んだの誰ーっ!?」
「ほら可愛い女の子(自称)の印象が台無しだぞ」
「くそったれめ」
「くそったれとか言うなよ」
しかし流される流される。誰が何処へ向かおうとしているのか分からない。
多分、この雑踏のなかには体育館へ向かわんとしている者だけではなく、トイレに行こうとか自販機へ行こうとか目的を異にする輩が無数に存在している。そのため、人の塊が向かおうとする先が一定には定まらず、このような混乱が発生しているのだろう。
俺のブレザーを引き千切らんとばかりに掴んでいたワタコさんも、今日の朝に管理者権限を用いて成長させたその大人な身体をふりふりさせながら、必死に着いてくる。どうしてこう毎回のように、花火大会へ向かう途中みたいな……祭りみたいな風情を感じなければならないのか。
「なんだよコレ……花火大会行く途中の祭りみたいな感じじゃんかっ」
お。ワタコ気が合うな。俺と全く同じ発想じゃないか。
まあ俺たちは事実上の双子みたいな存在に当たるらしいし、こういうのもそんなに不思議じゃないのか?
「木綿っ……お前よくこんなのに毎回耐えてるな……ボクだったら、とっくに管理者権限のテレポート使って家帰ってるよ」
へぇ……そんな便利なことまでできるのか。朝、ワタコが身体を急成長させた時も思ったが、この管理者権限とかいうの、こんなアホみたいなヤツに持たせておいていいのだろうか。どうするんだコイツが急に魔王みたいなのに憧れ出したら。それこそ世界は終わるぞ。
「って……お前テレポートとかできんのか? それ、使えばいいじゃないか!」
そんな便利機能があるなら、ぜひ今使っていただきたい。ぎゅうぎゅう状態で、かなり苦しいし真冬とはいってもそろそろ暑苦しい。
「いぃや、それはムリなの!」
「どうしてだ?」
「管理者権限の力は……一日に無理しても二回までしか使えないっ! 今日の朝、成長するために使っちゃったから、もう七時間くらい待たなくちゃ……」
「そ、そんな……」
言うほど便利じゃないかもしれない。ワタコの管理者権限。
ん? 何だこの音……いや音楽は。
なんだか何処かで聞き覚えのあるような……
突如として、背後から小さな音で愉快なロックが流れて始めた。そして、その音は少しずつこちらへ近づいてきている。
『……君の……天………満た……は俺……』
途切れ途切れではあるが、確かにその奇妙な音楽は俺たちの雑踏のなかで存在感を増していく。
「何だこの曲……趣味悪っ」
「おいワタコ言ってやるな。誰かの人生を変えた曲かも分からないのに」
「それを差し引いても変な曲だね」
と、大量の人たちが入り混じるこの人ごみで、突然にその曲を流し続ける常識知らずな人間の正体が判明した。
『君の姫たる宿命……あぁ俺は必ずや天下を取ってみせるから……だって誓ったよね君と戦国の世を生きるって……ah……oh……そう俺は秀吉』
「いや豊臣秀吉のキャラソンじゃねーか!」




