名前をつけよう攻略チャートに
「いやぁ、すごいとは思うよ? でも、もうここ一ヶ月は色んなことが起きすぎて、もう何が起きても驚かなくなってきちゃったんだよ」
『かわいそうに』
「慈悲深い目で俺を見るな」
ぷかぷかと浮かんだままの攻略チャートちゃんは、まるで水中を泳ぐような仕草をしながら俺に言った。
『とにかく、ボクだって木綿に表示されているMISSIONを達成させる手伝いをしないと、この世界から消されちゃうんだからさぁ。しっかりしてよね』
「急にすごい事実......」
落ち着いている今だから、このチャートちゃんに色々と聞いておきたいところだ。この視界左上の表示はなんなのか、どうして俺と氷に同時に出現したのか、どうして氷が好きな戦国武将攻略ゲーの仕様と似通っているのか......
『まぁ、一人間の木綿がこの状況を受け入れられないのも、頷けるよね』
「本当にどうなってんだよコレ。視界にずっと映り込んでくるし、これのせいで死角は増えるし。あと命の危険を感じることが増えたし」
普通の高校生はこんな頻度で危機に巻き込まれないって。ほとんどデスゲームだよこれ!
攻略チャートちゃんは黒のドレスをなびかせながら、ふわりと床に着地し、ひと息ついてから俺に向き直った。
『詳細については、まだ話せないんだよ。ごめん。でも、ボクのためにも、そしてさらにボクのためにも、加えてボクのためにも絶対この《バグ》は解決してみせるから......あっ』
「今全部お前のためだったよな。あと、お前いま《バグ》って言ったか?」
『言ってない』
「言ったよな? なんか大事なことなんだろこのおドジちゃんめ。......まあだからと言って俺に何か分かるわけじゃないんだけどな」
《バグ》......
攻略チャートちゃんが思わずこぼした言葉は、ゲームとかプログラムの欠陥を表すものだった。俺の視界に映り込んでいるコレが、攻略チャートちゃんの言うバグなんだとしたら、俺たちはもしかすると仮想の命で仮想の世界を生きているのかしら? とか思った。
どちらにしろ、仮想の俺が死ぬのも嫌だし仮想の幼馴染が苦しむのも見たくない。だから、これからもやることは変わらない。
突如として実体化した攻略チャートちゃんと一緒に......って言いづらいなこの名前。他に良い名前無いのか?
「なぁ、お前の名前呼びづらいからあだ名付けていいか?」
『名前? ......ああ考えたことも無かったなぁ。人間には、名前っていうのがあるんだよね。それも一人に一つずつだっけか。何が良いのかサッパリ分からないけどな』
「いやお前が良くてもコッチが呼びづらくてな......嫌だったら網膜ミートちゃんって呼ぶぞ? いいのか?」
『それだけはやめて』
「だろ? ......そうだな普通に《チャート》でいいか。あだ名というにはちょっと捻りがなさすぎるか」
『ほぼ同じじゃんか......木綿から生まれた存在だから、とかなんかないの?』
「そうだ綿を取って《ワタコ》にしよう。お前は今日からワタコ」
「なんか変なネーミングだな......」
攻略チャートちゃん......じゃなくてワタコさんは窓際まで歩いて行き、突然窓を開け放った。
「うわ寒いっ! 閉めろ寒いからっ!」
「......ワタコねぇ。ワタコか」
「閉めて! 雪入って来てるっひぃぃぃぃ!」
結局、ワタコさんが実体化した理由は分からずじまいであったが、今日話した(?)ばかりであるワタコのことを、懐いてくれる後輩のように感じてしまうのが妙に心地良い俺は、恐らく疲れてるのかもしれなかった。




