風邪引いた幼馴染は積極的すぎる
幼馴染こと雪原 氷が風邪をひいた。
このことと、昨日の俺が風邪っぴきになってしまい、授業中に保健室へと運び込まれたことは、多分無関係とは言えないだろう。
何せ、俺と雪原は毎日のこと昼休みになれば屋上へと向かい、飯を頬張りながら互いに生じた異変をどうしようかと話し合いを行っていたのだから。
なので、現在雪降る帰り道を一人寂しく下校中の俺には、幼馴染を看病してやる責任がある。とは言っても、氷の家には豪放磊落な母ちゃんが常に居るはずで、わざわざ俺が雪原家の門をくぐる必要は無いのかもしれないが......
***
「こんにちは〜。綾瀬 木綿で〜す」
結局来てしまった。氷の家。
幼い頃は、数えきれないほど訪れた氷の家。赤の軽自動車と、白のファミリーカーがお行儀良く停まっている家の庭には、色々な種類の植物が植えられている。
春頃になれば、おばさんの趣味で見繕われたそれら植物が咲き誇り、ある種のフラワーパークのような様相を呈しているのが印象深いーーー現在は寒さのため、ほとんど枯れてしまっているーーーその庭園は、およそ一般的な小市民が暮らす家に付随したそれのサイズ感を大きく超えている。
簡単に言えば、氷の家は豪邸だ。最後に来たのが中学の時なので、もうその内装やら壁に飾られた豪華絢爛な絵画の内容などの記憶はかなり薄れてしまっている。しかし、それでも『氷の家はヤバい』ということだけは覚えていた。
こんなところにまで趣向を凝らすのかと言いたくなるような来客用チャイムを再度鳴らす。しかし、誰かが出てくる気配はなかった。
「うーん氷以外は外出中なのかなぁ」
その時だった。
二階からかすかに『はぁ〜い』という返事が聞こえてきた。数秒待つと、玄関付近に人影が現れた。鍵のロックが解除され、扉が開くとーーー
そこにいたのは、雪原 氷だった。何やらもこもこのパジャマ姿だ。頬は赤く、頭にはナイトキャップを被っていて、そこからブロンドの髪が垂れている。学校にいる時とは異なるぼさぼさとしたそのヘアスタイルに、何だか氷らしさを感じない......というか、何か様子がおかしい......
「お、おい氷。大丈夫か? 悪い俺の体調不良が移ったのかもしれ......」
「んへへ〜。そんなのどうでもいいんだよ〜」
「誰?」
目の前にいる雪原 氷であるはずの人物は、もしかすると雪原 氷ではないかもしれなかった。
まず、氷はこんなに屈託のない笑顔を見せない。氷は、氷のような表情に氷みたいな氷だからこそ氷なのだ。
しかし、目の前にいるのはーーー
「んん〜っ? どうしたのかな、木綿くんっ?」
「インパクト」
「何がぁ〜? 何がインパクトなの? ねぇ〜」
「ダブルインパクト」
頬に右手の人差し指をあろうことか突き刺し、小首を傾げて俺を見つめる何者かである。
考えられる可能性が、一つある。
風邪による脳へのダメージだ。
というか、それしかないだろう。
ならば、一刻も早く氷の脳をキンキンに冷やしてやらねば。
「おい氷、お前の脳を氷でキンキンに冷やすから、お前の部屋まで行くぞ。わざわざ降りてきてもらって申し訳ないが......」
「えぇ〜。氷、もう歩けない〜」
「だ、大丈夫か? おばさんにおんぶしてもらおう。ちょっと待って......」
家にいるはずの氷の母へ状況を伝えるべく、靴を半分脱いで玄関へと上がろうとしたのだがーーー
「......行っちゃやだ」
俺の右手が、熱く柔らかいものによって握られた。




