クールな幼馴染を攻略せよ!?
俺、綾瀬 木綿は窮地に陥っているところである。
高校二年生たる俺の目の前......具体的には、視界の左上あたりに、こんなものが表示されている。
《幼馴染 雪原 氷を攻略せよ》
この表示は、約五分ほど前に四限の授業が終わり、昼休みに入った時......
その時から、俺の視界左上に出現した。まるでゲームのミッションチャートのようなーーーはじめ、この存在に気づいた時はとうとう俺の頭が壊れたのかと思ったーーー表示がまるでテレビ番組のテロップのようにそこにある。
《幼馴染 雪原 氷》というのは、文字通り、幼稚園時代からの幼馴染のことである。
ここで断言しておこう。俺と氷に限っては、絶対にイチャでラブな展開など訪れない。マジである。高校生になっても一緒に昼食を取るような仲であるが、絶対にイチャでラブな展開など......
「木綿ー。何してんの? 早く屋上、行こーよー」
思考を遮るのは、そう。
「い、雪原 氷......」
「あ、綾瀬 木綿......」
「何だよ」
「いやアンタのマネしただけ」
このふざけたのが雪原 氷である。
校則にギリギリ触れないブロンドの髪色をキープするのにはさぞ苦労しているらしいが、そこまで頑張る理由が何なのかは、何回聞こうと教えてはくれないらしい。
美人でありながらもゲーマー気質という異色の属性を併せ持つ氷は、休日は家に篭りっきりなので、日に焼けない。それどころか、かなり色白だ。それもあって、この奇抜ともいえる金の長髪がよく似合っている。
「昼休み、あと二十分しかないわ。早く行こう」
「あ、ああ」
俺のいる三組の教室へ、お迎えに参上した氷。
周囲からは『お! 夫婦が揃ったぞ』『残り二十分の時間制限があるからこそ燃えるね』『待て雪原! 今日は俺が綾瀬を独り占めする番だぞ』などという冷やかしの声が聞こえてくる。最後のはおかしくない?
しかし、氷はそれらを気に留めることなく、俺の顔色を窺ってこう言った。
「何か、アンタ気分悪そうじゃない? 大丈夫?」
「ん? あ、ああ。さっきの授業寝てたからそう見えるのかもな。あと、画面左上にお前の攻りゃッ......」
「?」
ま、まずい。ちょっと気を抜いていたからって今のはアンマリだ。まだこの表示が俺の脳みそが作り出した幻かも分からないまま打ち明けては、真っ昼間から寝ぼけてる変なヤツだと思われてしまう。
と、その言葉を聞いた氷が一瞬ハッとした顔を見せ、周囲をちらと確認してから、俺の耳元へ顔を近づけてきた。どうやら耳打ちをしたいらしい。意図を汲んだ俺も、顔を氷へ寄せる。
次の瞬間、氷の唇から想像だにしない言葉を聞くこととなったのだった。
「......ねえ。も、もしかしてアンタにも出てるの? 私のイチオシ恋愛ゲーム《戦国武将の心を掴むのは君〜ラブの数は銀河の広大さを持ってしても計り知れぬ〜》の攻略アシスト表示が」
氷はこの言葉をものの五秒ほどで言い切った。早口すぎる。というか何だそれ。
「......その《戦国武将の君の心を阻むのは彼〜銀河の数はラブ・マテリアル〜》っていうゲームのことは全然分からんが、多分出てるな攻略アシスト表示」
「全然違うけどやっぱりそうなのね」
***
「じゃあ、話を整理しよう」
俺と氷は冷静だった。場所は屋上。昼休みの残り時間は十分ほど。
謎の恋愛ゲーのヒロイン攻略アシスト表示が、突如として視界に出現しても、俺たちは至って、冷静であった。
「俺たちの視界の左上......そこにある表示は、二人で完全に一致してるんだな」
「うんうん。互いの名前が入れ替わっていること以外は、同じね。これ何なのすごいワクワクするわ」
間違えた。冷静じゃなくなった者が一人いた。
ーーー俺の方の表示には《攻略対象 雪原 氷》とか《好感度 127》という如何にも恋愛ゲーあるある(氷情報)の項目がしたためられている。
また、基本的な表示の構成としては氷の方も同じようだった。
ちなみに、氷の方に表示されている《好感度》は221らしい。結構高いな。
「しかし、どうも邪魔だな......。こんなのがずっと視界にあったら、生活が不便だ」
厄介なのが、この表示の大きさだ。ゲームの体力ゲージみたいなサイズでは到底ない。
例えるなら......そう、ノート。授業で使用するノートが、目の位置から五十センチほど離した空中に、ずっと固定されているかのような不快感。顔の位置を変えてもずっと着いてくる。
マジでウザい。しかも色合いもピンク色だし、時々ハートマークがちらついてきて、なおさらウザい。
「こ、これどうすりゃ消えるんだ? スマホを見ようにもちょっと顔の右側に持って見ないといけないし」
「そんなの私が知りたいわよ。はぁ〜、攻略する相手がイケメンの先輩とかならまだしもアンタじゃなぁ」
「悪かったな......ん? 待てよ。お前さっき、この表示に似たのが出てくる恋愛ゲーをしたことあるって言ったよな?」
そう、先ほど教室で氷は『もしかしてアンタにも出てるの? 私のイチオシの恋愛ゲーの......』と話した。
つまり、その氷がプレイしているとかいう恋愛ゲームの攻略方法と、この謎の表示を消すための方法とが共通している可能性があるのだ。
「ええ、言ったわ。ま、まさかアンタ......」
「そう。そのまさかさ」
氷も気づいたようだった。
「アンタもついに恋愛ゲーに目覚めたのね? 嬉しいわさっさと私の部屋で攻略の続きをしようよ」
違った。
「いや違う」
「じゃあ何よ」
何故分からないんだ。
「お前の好きな......『親愛なるチャールズ〜銀河を瞬く一瞬の奇跡〜』みたいな恋愛ゲームの攻略アシスト表示と、俺たちの表示とが同じなら、ゲームをクリアする手順と俺たちの表示を消す手順とが同じなんじゃないかと思ってな」
「別に無理してタイトル言わなくていいのよ」
氷は『でも、なるほどね。確かに的を射てる』と指を鳴らした。
「じゃあ早速互いを攻略するわよ」
「何か嫌だなその言い方。でもこの表示をクリアするにはそれしかないか」
「それで、言いづらいんだけど」
「何だ」
「私の恋愛ゲークリア条件と、この表示を消すための条件が同じだと仮定した場合の話だけどね?」
「おう」
「ゲームクリアには『相手に好きになってもらうこと』が必須条件よ」
「無理じゃん」
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