首根っこを取る者たち④…オーストラリア 小話編
✦首根っこを取る者たち④ ― オーストラリア小話編 ―
(南の楽園のデモ行進と日本の若者の沈黙)
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❥第一話 壁の向こうに橋がかかる
アメリカは鉄鋼に50%、自動車に60%、
電子部品に25%の関税をかけた。
同じ週、中国はアフリカ53か国を「関税ゼロ」に。
上海では第7回「国際輸入博覧会」が開催されていた。
「アメリカが世界に壁を作る間に、
中国はアフリカに橋をかけた。」
港のコンテナは止まり、牧場の牛だけが太り続ける。
どちらの船にも積めない羊毛が、風に焼けていく。
壁と橋のあいだで、南の楽園は息を詰めている。
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❥第二話 多国籍DNAの国
先住民アボリジニの憲法上の権利は、
国民投票で61%が反対された。
「平等」を叫びながら、
南国のルーツを否定した。
教室の出席簿には、
インド、ギリシャ、フィリピン、アフリカ…
誰もが“多国籍の血”を持ちながら、
本当のルーツを問われると答えられない。
鏡を見つめた少女が、ぽつりと呟く。
「私の敵は外になんていないわ。
この沈黙の中にいるのよ。」
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❥第三話 メタン排出の国
カルグーリーの坑道は45℃。
マスクもなしで12時間労働。
移民鉱夫が笑う。
「ワシが稼げば稼ぐほど、
地球はどんどん暑くなる。」
この国は毎年2億トンを超える石炭を輸出し、
その半分は中国へ。
口では「対中牽制」。
手では「石炭輸出」。
Z世代は気づいている。
「親父らの成功は、この矛盾の上に立ってる。
これがこの国の現実だ!」
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❥第四話 飢えの楽園
GDP世界12位、平均年収9万AUD(約870万円)。
それでも、5世帯に1世帯が「次の食事が不安」と答える。
「Hope Kitchen」の炊き出しで、
Z世代のボランティアが言う。
「スープを配る私らも、昨日は何も食べてない。」
「それでも私たちは配る。もっと 貧しい人々のために…」
倉庫には缶詰の山。
でも燃料費が高くて“運べない”。
そして、
猫の毛皮が闇市で売れる。
「これ、笑えん現実なんよ。」
「かわいそうだけど、安いから。寒いしね。」
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❥第五話 火の川
2019〜2020年の山火事で、30億匹の動物が死んだ。
コアラ6万頭、カンガルーの群れが灰に沈む。
「山が燃え、海が腐り、空が笑っとる。」
漁師の声は届かない。
海水温は**+5℃**。
赤潮と毒藻、白化したサンゴ礁。
自然の怒りは静かだ。
ニュースは30秒で終わり、広告だけが続く。
川の幸も、海の幸も、山の幸も、
灼熱地獄の中で姿を消していく――。
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❥第六話 橋をかけない国
パレスチナの陰で、
スーダンでは1,290万人が避難民となり、
400万人が国外へ…
国連は「世界最悪の飢餓」と発表した。
シドニーの学生はSNSに書く。
「中国はアフリカに橋をかけた。
僕らはフェンスを立てただけ。」
「この国には橋をかけるお金もないの?」
100万の“いいね”。
その橋の上には、またデモが生まれた。
「パレスチナに自由を!」
「難民に家を!」
しかし、怒りは一本の線にならず、
思想も宗教もバラバラのまま、
炎だけが広がっていく――。
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❥第七話 楽園の裏通り
ゴールドコーストの裏に、
家を追い出された人たちのテント村が並ぶ。
物価+7.8%、家賃+14%、電気代+27%。
年金暮らしの日本人が言う。
「日本円で月15万の年金が、この国では家賃の半分も払えん。
めちゃくちゃな円安 じゃ」
「わしらは、日本の家も売り払ったし、
もう帰るふるさともない。」
「あの日本亡国論、
“海外脱出ブーム”は
一体なんだったんじゃろうな?」
評論家とは何?
『講談師見てきたような嘘をつき』
とはこのことか…?
その南国の楽園では、
**“Welcome to Paradise”**の看板が剥がれ、
白い砂浜に、
焦げたアスファルトの匂いが立ち上っていた。
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❥第八話 黙認の国(Silenced Accounts)
2025年11月、メルボルン。
白昼のネオナチ集会。
ヒトラー式敬礼、黒い旗、そして沈黙の政府。
現地のABCニュースは伝えた。
“Neo-Nazi gathering left unchecked.”
デモ映像を投稿したZ世代のアカウントが、
翌日には削除された。
YouTube、X、Facebook…、
「過激」「扇動」「虚偽情報」のタグを貼られ、
次々と凍結されていく。
「俺らの声は、サーバーごと消されるんか!」
オーストラリア政府は沈黙したまま。
「安全のため」という名の下に、
“正しい怒り”までもが検閲されていく。
「声を出さない国は、息を止められる。
声を出した人は、命を狙われる。」
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❥第九話 デモの国と沈黙の島(Digital Silence)
オーストラリアでは年間900件超のデモが起きる。
SNSは彼らの拡声器だった。
しかし「Secure Voice」監視プログラム導入後、
反体制系アカウントの約12%が閉鎖された。
同じ波が、日本にも押し寄せている。
Xでは社会批判系アカウントが相次ぎ停止。
Facebookは政治投稿を“アルゴリズム外”に追いやり、
ニュースアプリはコメント欄を閉鎖した。
67歳の老人がスマホを見つめてつぶやく。
「声を出さない日本人も、
とうとう息の根が止められる時代が来たのぅ…」
テレビを消し、
カーテンを閉めた息子の部屋を見つめる。
「ワシも、沈黙に慣れすぎたわい。」
「お前のアカウントが閉じたのは、
ワシが声をあげんかったからじゃ…」
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❥第十話 タコのいない祭り(Boiled Octopus)
広島、三原やっさ祭り。
「本日、タコ飯ございません。」
海水温28℃を超え、タコは深みに逃げたという。
屋台の少年が言う。
「おじいちゃん、タコは逃げただけ。
まだ生きとるよ。海が冷めたら戻ってくる。」
老人が笑う。
「そうか? なら、わしも逃げるかのぅ。
茹でダコにされる前になぁ…。」
太鼓の音が鳴り、スマホの画面が光る。
“#声を出せ”――。
Z世代が広島の夜空に投稿した、最後のタグ。
アルゴリズムがそれを消す前に、
67歳の老人が小さく呟いた。
「瀬戸内の海は、
オーストラリアみたいに
まだ熱くなっとらん。」
「お前らの声が出るように、
わしも頑張るけぇ…」
そして笑った。
「茹でられたのは、あんたじゃなくて
わしの方じゃった。」
瀬戸内の海では、タコがまだ息をしている。
ブクブクと、泡の音を立てながら――。




