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アーシェル・ブルー  作者: ニート主夫
第2章

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第2話 風の行方 ― 碧潮の気配

《シーウィンド号》の帆が穏やかに膨らみ、ゆるやかな風を孕んでいた。

波が船体を撫でるたび、甲板が優しく揺れる。


悠は甲板を磨きながら、ふと振り返る。

海は、ゆるやかな光をまとっていた。


リィラが船の縁に腰をかけ、シロと戯れている。


「だめよ、シロ。ロープに乗っちゃ――」


リィラの指先から小さな風が生まれ、シロをふわりと持ち上げる。

白い羽が光をはね、カモメは楽しげに鳴いた。


「……仲良くやってるみたいだね」


悠が微笑むと、リィラは頬を染めて肩をすくめた。


「えへへ……風と同じで、懐かれちゃったのかも」


悠はその笑顔を見て

光が海面を跳ね、リィラの髪を透かす。

風がその髪をやさしく撫でた。

――その穏やかな光景に、胸の奥があたたかくなるのを感じた。


「この船、ほんとに安定してるのね」


「《海風(ブリーズ)()加護(ギフト)》が。風が味方してくれてる」


悠はマグカップを手に、のんびりと答えた。


「でも、油断はしない。風って気まぐれだから」


リィラは少し考えるように空を見上げた。


「……その“風”がね、少しざわついてる気がするの」


「ざわついてる?」


「潮とぶつかって、流れが乱れてるの。

 ここら一帯の風が、ちょっと迷ってる感じ」


そう言って彼女は胸元から淡い光の板を取り出した。

紙のようで、でも透き通るように輝く――“風の海図”だった。


「見て。ここ、碧潮の流れが分かれてるの」


指先でなぞると、光の線がゆるやかに波打つ。


「普通はまっすぐ進むはずなのに、途中で回り込んでる。

 まるで、何かを避けているみたい……」


悠はその光を見つめながら、そっとつぶやいた。


「碧潮――風と潮が出会う道、か。……いい名前だな

面白い。風にも、気分ってやつがあるのかも!」


悠は肩の力を抜き、穏やかな笑みを浮かべた。


「気分?」


「そう。今日はこっちへ行こうかな、って風の気まぐれ。

 ……でも、気まぐれの先には、何か理由があることが多い」


リィラは目を瞬かせたあと、ふっと笑った。


「あなた、風と話すの上手ね」


「まあ、ちょっとした付き合いがあるからね」


悠は冗談めかして肩をすくめた。


そのとき――シロが急に甲板を飛び立ち、船首へ駆けていく。

甲高い声で鳴き、海の向こうを見つめていた。


「どうした?」


リィラの声に、悠も視線を向ける。


海の彼方、霧の中で何かが揺れていた。

遠く、かすかな鐘の音が風に乗って届く。


「……聞こえる?」


「ああ。鐘の音が聞こえる」


遠くに、白い帆が見えた。

波間に浮かぶ小ぶりな船――その帆には鳥の紋章。


リィラが息をのむ。


「“風の便り”を運ぶ船……海の郵便船よ!」


悠は穏やかな声で笑った。


「へぇ、風まかせの旅にしては、ずいぶんいい出会いだな」


「ふふっ、風が運んだご縁かもね」


《シーウィンド号》は帆を調整し、ゆっくりと郵便船の方へ向かう。

鐘の音が近づき、“風の手紙”が、彼らのもとへ届こうとしていた。


リィラの髪が潮風に揺れる。


「ねえ、悠。――風が、誰かを呼んでる」


悠は穏やかにうなずいた。


「なら、行ってみよう。呼ばれた方へ」


風が鳴り、海が応える。

潮が光をはね返し、帆がふくらむ。


風が舷を叩き、船は碧潮の流れへと身をゆだねた。


――静かに、新しい出会いの方角へと舵を切った。

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