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アーシェル・ブルー  作者: ニート主夫
第5章

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第2話 海が映す、星の夢

船が進むたび、海面が淡く光った。

それは波に揺れる幕のようで――やがて、仲間たちの「記憶」を映し出す鏡へと変わっていく。


サリヴァンの記憶


最初に現れたのは港の光景だった。

潮の匂い、木造の桟橋、笑い声。若き日のサリヴァンが仲間と網を引き、肩を並べて笑っている。


「……懐かしいな」

その声は、波の音に溶けた。


ノアが隣で見つめる。「これは、あなたの記憶なんですね?」

「ああ。だが――」


彼の言葉が途切れた瞬間、嵐が押し寄せた。

海が唸り、船が転覆し、仲間たちが波に呑まれていく。


幻影の中で、声が響く。

『サリヴァン……お前はまだ、海を信じているか?』


サリヴァンは拳を握りしめた。

「海は奪う。だが、海は与える。……わしはそれを知っている。だから、まだ信じている」


その瞬間、港の景色が金色に光り、幻影は静かに消えた。

リィアが微笑む。

「あなたの海は、私の星と同じ。奪うけれど、導いてくれる」


リィアの記憶


次に現れたのは、焚き火を囲む村の広場。

幼いリィアが語り部の声に耳を傾けている。

星空の下、炎が揺れ、「星詠みのクジラ」の伝承が語られていた。


だが、幻影はすぐに変わる。

「そんなものは夢だ」「星なんて、何も導かない」

大人たちの冷たい声が響いた。


『リィア……お前はまだ、星の歌を信じているか?』


リィアは唇を震わせ、やがてまっすぐ前を見据える。

「星の歌は夢じゃない。人が忘れても、海は覚えてる。だから、私は信じ続ける」


炎が星の光と重なり、銀の光が焚き火の代わりに広がった。

ノアが小さく息をのむ。

「……本当に信じてるんですね」

「信じることが、私の力だから」

リィアの瞳は夜空のように輝いていた。


ノアの記憶


次に映ったのは、少年時代のノア。

星座の本を抱え、夜空を見上げながら笑っている。

「いつか、星の下を旅したいんだ!」


けれど、周囲の声は冷たかった。

「夢ばかり見ても何も変わらない」「お前は選ばれる人間じゃない」


『僕は……選ばれていいのかな?』

少年の声が、波間に響く。


ノアは静かにその幻影を見つめた。

「選ばれるかどうかじゃない。僕は仲間と歩くためにここにいる。

 憧れは、独りじゃなく――みんなと分かち合う光になるんだ!」


少年は微笑み、星座の本を夜空へ掲げた。

海面の蒼が金に染まり、孤独の影が消える。

リィアが肩に手を置いた。

「あなたの憧れは、もう孤独じゃない」

ノアは照れくさそうに笑った。

「ありがとう。みんながいるから、僕は進める」


悠の記憶


最後に、風が甲板を渡る。

悠の胸の奥で、言葉にならない想いがざわめいた。

――守りたい。

――共にいたい。


だがその想いは風に溶け、声にはならなかった。


ふいに、風が形を変える。

現れたのは――女神。

海と風を司る、悠が最初に出会った存在だった。


「悠。あなたの想いは言葉にならなくても、風が運んでいる。

 仲間はその風を感じています」


「……俺は、うまく言葉にできない。でも――風は仲間に届く。

 だから、俺の想いも届いてるはずだ」


女神は微笑み、風が黄金の光を帯びて船を包んだ。

その光は悠の沈黙を力に変える。

サリヴァンが頷いた。

「言葉よりも強いものがある。お前の想いは、わしらを支えている」


海が静まり、波間が星屑の光で満ちていく。

船を包む光は、まるで祝祭の幕のように揺れていた。


女神が悠の傍らに現れる。

「あなたたちの心はひとつとなり、海は祝福を与えました。

 けれど旅はまだ始まりにすぎません。

 次に向かうべきは――《星風の島》。

 そこには風と星が交わる聖域があり、旅人の魂を試す“風の記憶”が眠っています」


水平線の彼方。

霧の中に、淡く光る島影が浮かんでいた。

星屑の風が舞い、まるで空と海をつなぐ門のようだった。


「海が示す島……わしの生涯でも見たことがない。だが、行かねばならん」

サリヴァンが低く呟く。

「伝承にある《星風の島》……本当に存在してたのね!」

リィアの瞳が輝く。

「僕たちが選ばれたなら、必ず辿り着いてみせます!」

ノアは拳を握った。

悠は静かに女神を見つめる。

「風が導くなら、俺たちは進むだけだ」


女神は柔らかく微笑み、しかし瞳に厳しさを宿す。

「悠……あなたには海風の加護がある。

 けれど、試練では使いすぎてはいけません」


悠は息を呑む――

「……なぜだ? 仲間を守れるなら、力を惜しむ理由はない」

「試練は、力で越えるものではなく、心で越えるもの。

 風はあなたを支えるけれど、歩くのはあなた自身です」


悠は静かに頷いた。

「……わかった。力じゃなく、心で進む」


女神は微笑み、風の中へと消えた。

その声だけが残る。

「星風の島で、あなたたちは旅の意味を知るでしょう。それは試練であり、祝福でもある――」


船が進むにつれ、風が強まった。

甲板を駆け抜ける音が、まるで歌のように響く。

やがて風は言葉を持った。


『試されよ……魂を示せ……』


風が皮膚を刺し、呼吸さえ奪われる。

だが、どこか懐かしい響きが混じっていた――。


星屑の光が渦を巻き、船を包む。

その粒は刃のように鋭く、仲間たちを試すように舞い踊った。


「風は敵じゃない! 海の声だ、耐えろ!」

サリヴァンが叫ぶ。

「これは……風の記憶。島へ近づく者を試す歌なのね」

リィアが星屑を見上げる。

「こんな風、初めてだ……でも、僕たちなら越えられる!」

ノアの目が輝く。

悠は風に立ち向かい、声を放つ。

「言葉にならなくても、風は届く。――俺たちの心を示せ!」


光の渦が静まり、海は再び穏やかさを取り戻した。


その中心から、ひとつの光が形を成した。

夜空の欠片をまとった存在――星の精霊。

その瞳には、無数の星座が瞬いていた。


「祝福を受けし旅人たちよ。海はお前たちを認めた。

 だが星はまだ、お前たちの魂を試す。

 星風の島へ至るには、心に宿る光を示さねばならぬ」


精霊が手を掲げると、海面に三つの航路が浮かび上がった。

それぞれの道が、異なる色の光で波を照らす。


蒼の道 ― 《静寂の海》へ至る航路。恐れを映す試練。


紅の道 ― 《逆風の海》へ至る航路。怒りと迷いを試す試練。


金の道 ― 《記憶の島》へ至る航路。過去の影を呼び覚ます試練。


「静寂の海……恐れを映すか。わしは海の恐ろしさを知っている。だが、逃げはせん」

サリヴァンが呟く。

「記憶の島……星詠みの伝承にある場所かもしれない。真実を知る機会になるわ」

リィアの声が震える。

「逆風の海……怖いけど、挑みたい。僕たちの強さを証明したい!」

ノアが拳を握った。

悠は三つの道を見渡す。

「どの道を選んでも試練はある。大事なのは、心をひとつにして進むことだ」


星の精霊が頷いた。

「選べ。お前たちの魂が望む航路を。

 選択こそが、旅の証であり――星風の島への鍵となる」


海は静まり返り、三つの光の道だけが波間に揺れていた。

仲間たちは互いに視線を交わす。

その先にある試練を見据えながら――。


海と星と風が、静かに彼らの決意を見守っていた。

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