断罪イベント365ー第26回 熱が出たので断罪中止です
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
断罪イベント当日。
王都広場の空は、どこまでも晴れ渡っていた。
観衆たちは例によって朝から場所取りをし、カゴいっぱいの焼き菓子や小旗を片手に、今か今かと開始を待っていた。
だが――
「……本日は、王子が体調不良のため、断罪イベントは中止となります」
高らかに読み上げられた侍従の声に、広場は凍りついた。
「えっ」
「また!?」
「いや、まさかのインフル断罪中止!?」
ざわざわ……ざわざわ……
観衆の不満が募る中、
ヒロインの令嬢は淡々と控え室で紅茶を飲んでいた。
「……まあ、気候の変わり目ですものね。
体調管理も大切ですわ」
それから数時間後。
王子の寝室にて――
「……ん、うぅ……喉が……あつい……」
布団の中でうなされる王子。
額には濡れタオル、枕元には白湯の入った器。
そしてその世話を焼いていたのは――
「……お加減はいかがですか、殿下」
なんと元・婚約者の令嬢だった。
「……お、お前……なぜここに……」
「執事長からご指名でしたの。“面倒見のよさで定評がある”と」
「……ぐっ……」
たしかにそうだった。
誰よりも優しく、誰よりも気が利く彼女の手料理は
宮廷でも話題になるほどだった。
まさか、それが今になって自分の看病という形で返ってくるとは。
「お粥を作ってまいります。……お口に合えばよいのですが」
「くっ……なんという屈辱……!」
王子は涙を浮かべながら、
かつて自ら切り捨てた婚約者に、
生姜入りのお粥をあーんされるという罰を受けていた。
◆数時間後(控え室)
「……というわけで、本日の断罪イベントは
急遽中止となりましたが、対象の令嬢には
“看病という名の恩赦”が与えられた模様です」
観衆代表がそうアナウンスすると、広場にいた老婦人がぽつりとつぶやく。
「……あれってもう、逆に罪じゃないかい?」
「“情けが一番効くざまぁ”ってやつだな……」
「つか、王子、うらやま……いや、なんでもない」
◆王子の寝室・夜
「ふぅ……今日はお疲れでしょう。もうお休みになって」
「……あの時、お前との婚約を破棄しなければ、今ごろ……」
「うふふ、殿下。熱のせいで変なことを言ってはいけませんわ」
にこやかに微笑み、彼女は部屋を後にした。
その背中を見送りながら、王子は枕を濡らす。
ざまぁとは、時に温かく、時に塩味である。
インフルには気を付けて下さいね。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m