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演劇姫の華麗なる断罪劇 〜悪役令嬢が国外逃亡するそうなので、私が代わりにお前らを断罪します〜

作者: 藤木 葉


「今まで起こしてきた数々の非道。もはや見過ごせん。ローズ・グロウヴナー公爵令嬢、お前との婚約は破棄させてもらう!」


 広々としたホールに、その宣言はやけに響いた。


 眩い輝きを放つクリスタルのシャンデリアの下、キラキラと輝く金髪を振り乱して憤るのはこの国の王太子。

 そんな彼の腕にすがり、不安げな表情を浮かべるのは『聖女』と名高い桃色の少女。


 そんな二人に、否、会場中の全ての視線を受けてなお堂々と立つのは、大輪の薔薇のように美しい一人の令嬢だ。


 今しがた婚約者たる王太子に婚約破棄を言い渡された彼女は、しかし非常に愉快そうに……本当に心の底から愉快で愉快で仕方がなさそうに獰猛な笑顔を浮かべた。


「ええ喜んで。王太子殿下。わたくしローズ・グロウヴナーは婚約破棄を承認いたします」


「……なんだ、やけに物わかりが……」


「そして」


 ウェーブのかかった長い黒髪を背中に払う。対峙する二人に紫眼を輝かせ、威圧するように手に持った扇子をパンッと音を立てて閉じる彼女に、会場の全てが釘付けになる。


 どこまでも苛烈で、どこまでも苛辣で、どこまでも華麗な公爵令嬢。ローズ・グロウヴナー。


 王族よりも王らしく、見るものを傅かせるオーラを放ち、若くして社交界の頂点に立つ次期王太子妃にして悪役令嬢───



───を()()()私、クレア・レイストン男爵令嬢は、内に秘めたる怒りと憐憫を燃え上がらせて、ローズ・グロウヴナーのように美しく唇を裂いて見せた。






()は、汚された()()()()の名誉を取り戻すために、今より貴方がたを断罪いたします」







 さあ御覧じろ。遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。


 これから始まるのは、世にも奇妙な美しき悪役令嬢による断罪劇────。








◇◆◇










 私の名前はクレア・レイストン。しがない貧乏男爵家の末娘令嬢だ。

 私は本日、3年間通った貴族学園を卒業する。


 木端な男爵令嬢ながらも友人にも恵まれ、真面目に勉学に取り組み、全力で部活動に勤しみ大満足な結果を残し、特に大きなトラブルに巻き込まれることもなく平凡に学園を卒業する。




 ───と、今日の朝までは、いやなんだったら遂3分前まではそう信じて疑っていなかったのだが。




「……あ、あの?グロウヴナー様?私に何か御用ですか……?」


 何故か私は、この学園の頂点である公爵家のご令嬢、ローズ・グロウヴナーの手によって壁に追い込まれていた。



 ローズ・グロウヴナー公爵令嬢。

 王族の次に偉い爵位第一の公爵家のご令嬢である彼女は、高貴な血筋と、類い稀な美貌、教師顔負けな頭脳、そしてその苛烈な性格を持ってこの学園を支配する頂点様だ。


 教師達ですら頭が上がらない彼女は常に姦しい取り巻き達を率いており、気に食わない者はだれであろうとその厳しすぎる口調で叩きのめす。

 唯我独尊を地で行く傲慢ちきな性格ゆえ、彼女はいつの間にか陰ながら『悪役令嬢』と呼ばれていた。


 同じ貴族ながらもほぼ平民と言っても差し支えない下級貴族である我が家と、かの公爵家では比べるのも烏滸がましいほどに家格に雲泥の差があり、正直申し上げて全く住む世界の違う方だ。こちらから声を掛けることすら不遜な存在である。


 私と彼女の共通点は貴族学園の同級生という点だけ。この後行われる卒業パーティーにおいても壁際の花間違いなしの私と違い、彼女は主役として華々しく会場の真ん中で微笑むことであろう。

 私にとってローズ・グロウヴナー公爵令嬢とは、火の粉のかからない遠目から眺め色々と()()にさせてもらうくらいが丁度いいご令嬢……の筈だったのだが。


 何を思ったか彼女は今、学園の敷地内ながらも人気もなくほこりっぽい打ち捨てられたような小さな礼拝堂の中で、怯える男爵令嬢こと私に壁ドンしていた。


「……グ、グロウヴナー様……?私、何か粗相でも……?」


 ウェーブのかかった艶やかな黒髪、王族に連なる者の証明である紫瞳を持つ女は、無言でじっと私を睨むように見つめている。間近に迫るその現実とは思えないような美貌と恐怖に思わず喉をごくりと鳴らした。


 今までこの悪役令嬢に痛い目を合わされた令嬢たちは数知れず。そして最終日に自分もそこに仲間入りを果たしてしまうらしい。

 3年間この悪役令嬢に目を付けられることなく平凡に学園生活を送れていたのに、最後の最後に捕まってしまったのか。不運すぎる。なんの罰なんだこれは。なんとか見逃してくれないだろうか。


 本当ならば私は今頃、今日で会うのが最後になる愛しの人に「これからも貴方と共に居たい」と今まで秘めてきた想いを伝えて、万が一上手くいけば薔薇色の幸せ生活を迎えていた筈なのに……。

 愛しいミルクティー色の髪をした彼を思い出しよよよっと泣き崩れたくなるが、そんなことをすればこの苛烈な悪役令嬢に頬を張られるのは自明の理。ぐっと涙を堪える。


 そんな私を上から下まで眺めまわすローズ・グロウヴナーは、遂にその老若男女問わず万人を虜にする蠱惑的な唇を開いた。


「やっぱり、お前しかいないわ。────お前、今日からわたくしにおなりなさい!」


 ローズ・グロウヴナー公爵令嬢は、そう言って冷たい白魚の手でがっしりと頼りない私の手を掴んだ。


「……………は?」


 わたくしになる、わたくしになる……?たわしになる……?うん?なんて?

 言われた意味が分からずぽかんと呆ける私の前に、ずいっと美の女神のような顔が迫った。

 その顔はまるで待ち望んでいたプレゼントを手渡された子供のように輝いており、ついぞ学園生活の中では見たことがなかった表情に喉が引き攣る。


「いい?クレア・レイストン。お前は今日からわたくし……ローズ・グロウヴナー公爵令嬢として生きるのよ。わたくしが国外逃亡するにはそれしか方法はないわ!」


「…………え、は、はぁ!?わ、私がローズ・グロウヴナー公爵令嬢!?何仰ってるんです!?しかも国を出る!?冗談ですよね!?」


 たっぷり時間をかけて思考し、言われた言葉をゆっくり咀嚼し飲み込んで───そしてようやくとんでもないことを言われていることに気が付いた私は、驚きと突拍子の無さと意味不明さに絶叫した。


 わわわ私が悪役令嬢ローズ・グロウヴナーになる!?しかも次期王太子妃が国外逃亡!?いったい私は何に巻き込まれようとしている!?


「冗談でこんなこと言う訳ないでしょう?わたくしは今日これから愛しい人と他国で結婚するためにこの国を出ます。でも王太子の婚約者が他の男と駆け落ちしたなんて知れたら大変なことになるでしょう。だからほとぼりが冷めるまでお前が影武者をなさい」


「何言ってんの!!??」


「うふふ、2時間後にあの方が迎えに来てくれる手筈なのよ。それまでに色々済ませてしまいましょうね。はあ、あっちの国に行ったら何をしようかしら……」


 うっとりとこれからの愛の逃避行に思いを馳せるローズ・グロウヴナー。驚愕のあまり敬語が行方不明になったがしかしそれどころではない。私は貴族社会の常識も礼儀も全てかなぐり捨てて、目の前のとんでも令嬢に詰め寄った。


「グロウヴナー様!?目を覚まして下さい!私なんかに貴女の影武者なんて務まりません!国を出るだなんて愚かな真似お止めください!そもそもなんで私なんです?私はただの男爵令嬢……」


「それは勿論、声よ」


「はい!?声!?」


「そうよ。癪だけれども、お前とわたくしの声はとても似ているでしょう。だからお前じゃないとダメなのよ。……まさか自覚がなくって?このわたくしの美声と瓜二つという天にも昇るような幸運に恵まれたのに、そのことに気付いていないだなんてお前……ふざけるのも大概になさい!」


「……っ、……っ!」


 何が勿論なのだ、ふざけているのはお前だろ、という言葉を何とか鋼の自制心で飲み込む。


 いやまあ確かに一度だけ、そう確かあれは入学式の最中だったか……一緒に入学した友達に『新入生代表のグロウヴナー様のお声ってクレアに似てるわね』と言われたことはある。

 しかし言われたのはその一回限りだ。たまたま少し声質が似ているだけだろう。


 それだけなのに何故影武者なんてことになるのだ。前々からぶっ飛んでいるとは思っていたが、この公爵令嬢恋に現ぬかしすぎていよいよ頭のネジ全部飛んだんじゃないのか。


 大体声だけが似ていたって、顔も背格好も何もかも私たちは違うのだ。名案でしょう、と得意げに胸を張るたびに主張するボリューミーなそれを恨みの籠った胡乱気な眼差しで見つめる。

 するとローズ・グロウヴナーはその視線の意味を正しく受け取ったらしい。怪しく笑った彼女は懐をまさぐった。


「逆よ、逆。声だけはどうにもならないからお前じゃなきゃいけないのよ」


「声、だけ……?いや何を仰っているか分かりませんが、私にはやはり無理で……」


「ごちゃごちゃとうるさいわね。お前演劇部でしょう。無理だなんだという前に、わたくしという素晴らしいモデルを演じれることに感謝しなさい」


 傲岸不遜な言葉に呆気に取られる。凄まじいまでの自信家なセリフに驚いたのもそうなのだが、まさかあの天下のローズ・グロウヴナーが私のような木端な男爵令嬢を認知して、しかも所属していた部活まで知っていたことに驚いた。


 同級生であるものの、彼女とは接点は何もない。私なんかの存在を是認しているとは思いもよらなかった。


「ほら、手を出しなさい」


「わ、は、はい!?」


 驚愕と喜びに近い何かを噛みしめる私に、有無を言わさない声色で手を差し出すローズ・グロウヴナー。私は咄嗟にその細い指に自分の手を載せた。


 すると何を思ったか、彼女は懐から取り出した短剣で私の人差し指をバッサリと容赦なく切り裂いた。


 ぶしゃ、と結構な勢いで吹き出る血しぶき。何が起きたかわからずたっぷり十秒血が指から流れる様子を見ていた私は、突然痛み出した傷に絶叫した。


「ぎゃあああ!?痛ああああっ!?」


「喚くんじゃないわよ」


 血も涙もボッタボッタ流す私の正面でチッと舌打ちをした悪役令嬢は、そのまま自身の指も同じ短剣で切り裂いた。

 そして訳も分からず混乱する私の腕を引っ張って、壇上に置かれていた古ぼけた鏡に私の指をぐいっと拭う。鏡面に血の筋が走った。


「ぐ、グロウヴナー様、一体何を……」


「『我が身を映す鏡よ、今ここに顕現せよ。虚構と現実を織り交ぜ、鏡の中の我が姿を彼の者に』」


 自らも鏡の上に指を滑らせたローズ・グロウヴナーは歌のようなものを口ずさんだ。なにを、と私が疑問を口にするよりも前に、私たちの血によって汚された鏡からカッと光が放たれる。


「う、わ……っ!?」


 余りの眩しさに掴まれる腕とは反対の腕で顔を覆った。キイイン、と何かが空高く響くような音も聞こえる。


 ……しばらくして、音と光が止んだ。代わりにローズ・グロウヴナーの歓声が礼拝室に響く。


「やった、やったわ!成功よ!ほら御覧なさいクレア・レイストン……いいえ、ローズ・グロウヴナー!」


「も、もう……なんなの一体……」


 眩い光と脳に響くような高音のせいでガンガンと痛む頭に眉を顰めながら、恐る恐る目を開ける。

 すると喜色満面の笑顔でローズ・グロウヴナーが私に血を塗りたくった鏡とは別の鏡を差し出してきた。

何が何やら、という心境で思わずそれを受け取り、何とはなしに鏡の中を覗き込んだ私はまたしても言葉を失った。


 地味で目立たない茶髪とは打って変わって光を纏って輝くぬばたまの黒髪。平凡な青い瞳とは比べ物にならないほどに気品を湛えた紫瞳。男を魅了する蠱惑的な唇に、荒れ一つない白い肌。


 目の前にいるローズ・グロウヴナー公爵令嬢と全く同じ顔が、鏡の向こうから私を睨みつけていた。


「……は?え?ぐ、グロウヴナー様のお顔が、え?」


「もうわたくしったら本当に天才ね!失われた古代魔術の完全復元に成功するなんて!」


「はい?古代魔術?」


「ええそうよ!これはね、術者の姿を対象者にそのままそっくり映す『写し見の術』。失われた技術もわたくしの手に掛かればこんなものだわ!おーっほっほっほ!崇め称えなさいローズ・グロウヴナー!」


 嬉しそうに大はしゃぎでくるくるとその場で回るローズ・グロウヴナー。ぺたぺたぺた、と顔を触ると鏡の中の美しい凶悪顔も同じ動きをする。

 はっと目線を下げれば、そこにはクレア・レイストンには無い豊かな双丘が───。


「…………ええええええええええーーーー!?」


 手渡された鏡と踊る彼女を交互に見て、そして私はようやく、今自分が何を施されたのかを理解して、いつもより細く見える喉から絶叫を迸らせた。






◇◆◇







「はあ……」


「ローズ様。どうかなさいましたか?ご気分が優れないので?」


「……なんでもないわ」


 『写し見の術』なる使用用途が悪用以外見当たらない謎の古代魔術を掛けられ、姿がそっくりそのままローズ・グロウヴナーになってしまった私は、口から魂が抜け落ちそうな心境で着たこともない高級なドレスを纏い、そして乗ったこともない高級馬車の中で揺られていた。


 あの後、混乱絶頂で腰を抜かす私に『ローズ・グロウヴナーとして生きる為のマニュアル本』と大量の資料を手渡した本物のローズ・グロウヴナーは、ほんの僅かな演技指導を私に施した後本当に『愛しいあの方』との逃避行に旅立っていった。


 人目に触れないようフードを目深に被り「近況はこまめに連絡なさい」と私に遠距離通信用の魔道具を押し付けていった悪役令嬢の恋する笑顔が忘れられない。


 なんでこんなことに、本気か、嘘だろう、マジで言ってんのか……気を抜くと怨嗟のようなものが出てしまいそうで、思わず豪奢なドレスの端をぎゅう、と握って堪える。


 何故ローズ・グロウヴナーとして生きていくことを強制された私が、早速真紅のドレスを纏って公爵家の家紋が入った高級馬車に乗っているのか────それは去っていったローズ・グロウヴナーから仰せつかった第二のミッションを遂行するためであった。







「ところでお前、王太子に擦り寄るあの薄汚い平民のことは知っているでしょう?」


「薄ぎたな……プ、プリシラ嬢のことですか?」


 礼拝堂から出る前に着替えろと押し付けられた予備の制服と、大量の紙の束、そしてマニュアルという名のローズ・グロウヴナーの手記を手に呆然自失とする私にローズ・グロウヴナーはそう問いかけた。


 彼女が言う薄汚い平民とは、去年特待生枠で入学してきた一学年下の女子生徒、プリシラ・エルマーのことだろう。


 ピンクブロンドの髪を持つ彼女は、貴族にしか現れないとされる魔力を平民という身分でありながら発現させ、特例でこの貴族しか通えない学園に入学してきた特待生だ。

 しかも彼女の持つ魔力は、遥か昔この国を他国の侵攻から救ったとされる『伝説の聖女様』と同じ、滅多に顕現しない類稀な光属性の魔力であり、伝説の大聖女の再来として卒業後は聖女を信仰する教会に次期聖女として召し上げられる事になっている。


 可愛らしい女の子なのだが、しかし少々媚が過ぎるきらいがある為に個人的に苦手で、あまり近づいたことはない。

 まあそもそも学年が違うので関わる場自体が少ないのだが。


 そんな彼女は、ひょんなことから王太子様と顔見知りとなり、いつしか王太子の側近たち交えて常に行動を共にするようになっていた。

 その仲睦まじい姿は全生徒が目撃している。色んな意味で有名な女子生徒なのだ。


 そして噂では、その王太子に近寄る平民をよく思わない王太子の婚約者たるローズ・グロウヴナーが彼女を陰湿にいじめていた、らしい。


 私はその現場を見たことがある訳ではないのだが、噂によるとある日は取り巻きたちと一緒にプリシラ・エルマーの制服を破って踏み躙っただとか、噴水に落としただとか、階段から突き飛ばして大怪我させたとか……。


 未来の国母がそんなみみっちいことするか?と正直眉唾であったのだが、しかしながら周囲は苛烈すぎる『悪役令嬢』ならばさもありなん、と誰もその噂に意を唱えることはなかった。

 そしてその狼藉は、どうやらプリシラ・エルマーと懇意にしていた王太子を筆頭に高位貴族のご子息たちの耳に入ったようで、公衆の面前で彼女は王太子の側近たちに詰められていたのも有名な話である。


 存じておりますと頷くと、ローズ・グロウヴナーは徐に私に手渡した書類の束を指さした。


「あの女、学園中でわたくしにいじめられているとと吹聴しているようだけれども、それは全て虚言だわ。それはわたくしの潔白の証拠、あの女の言っていることが虚言であると言う証言や物的証拠を記したものよ。今日の卒業パーティーまでに覚えなさい」


「はい?な、なぜです?」


「あの女、今日の卒業パーティーでわたくしを潰すためにあること無いこと言って弾劾を始めるつもりだからよ。そしてあの阿呆太子も便乗してわたくしに婚約破棄を言いつけてくるでしょう。あの阿呆、天才であるこのわたくしに劣等感しか感じていないから。これ幸いに『可憐なるプリシラ・エルマーを虐げた悪女ローズ・グロウヴナーとの婚約は破棄し、心優しきプリシラと婚約をする』とかなんとか言うわ」


「え?婚約破棄?」


「お前、そのわたくしが用意した資料をもってあの馬鹿どもを叩きのめしなさい。何が何でもローズ・グロウヴナーの名に傷をつけるんじゃないわよ」


 カツン、と彼女のトレードマークたる赤いパンプスの踵が石造りの床を叩く。呆然とローズ・グロウヴナーを見上げていた私はその音ではっと我に返った。

 そして何てこと無いように告げられた言葉に絶句する。


 王太子が平民と婚約?何を考えているんだあの王太子殿下は?

 国家の象徴たる王家に入る血というのは、厳選に厳選を重ねられる。勿論厳選対象は貴族家だ。平民から選ばれることは天地がひっくり返ってもあり得ない。


 中でも王家の血縁関係のある公爵家は王家に次ぐ血統の尊さを持っているおり、その公爵家の令嬢たるローズ・グロウヴナーは(苛烈すぎる性格にさえ目を瞑れば)血統の高貴さ、見目、頭脳その他諸々を鑑みて最も王家に嫁ぐに相応しい存在だ。現在の貴族家の年頃の令嬢達を見ても、彼女以外に相応しい令嬢はいない。

 そんなことは政治とは全く縁遠いこの貧乏男爵家の末娘である私ですら理解している。


 なのに、王太子殿下はそんな彼女を貴族たちの前で非難し、聖女といえども生まれはただの平民であるプリシラ・エルマーを娶るつもりだと?国を揺るがすつもりか?最悪の場合他国から攻め入られる口実にもなりうる問題だ。

 あまりの話の大事さに顔が青ざめる。


「い、いいのですかそれで!?」


「いい訳ないでしょう」


 思わず声を荒げた瞬間、私の体はバンッと勢い良くつかれたローズ・グロウヴナーの手によって再び壁際に追い込まれた。余りの勢いに「ヒィッ!?」と喉から引き攣った音が出る。


「別にあの阿呆に未練は無いわ。この国の王太子妃という立場にももう興味はないし、グロウヴナー公爵家がどうなろうと知ったこっちゃない。でもね、わたくしはわたくしの名が『平民如きに蹴落とされた美しき公爵令嬢』という不名誉極まりない内容で歴史に残ることだけは許せないわ!」


「じ、自分で美しいって言ってる……」


「そんな事態にならないよう、お前はその証拠をもって全力でこのローズ・グロウヴナーの名を死守しなさい。失敗したら命はないと思うことね」


「……ええと、グロウヴナー様は……プリシラ様をいじめていないのですか?」


「する訳ないでしょう。わたくしは暇じゃないの。愛しいあの方に近寄る雌ならまだしも、あんなノータリン王太子に媚びへつらう女をわざわざ手間暇かけていじめるなんて時間が勿体なくてよ」


 雌て、ノータリンて。とんでもない暴言にギョッと目を剥く。ふん、と鼻を鳴らしたローズ・グロウヴナーは腕を組んでカツカツと礼拝堂の床をヒールで叩いた。


「ただし、いくら相手にならない小物だと言ってもわたくしの名を汚すことだけは許さないわ。絶対にあの女を不敬罪で牢屋にしょっ引きなさい」


「せ、責任が重すぎますが……!?」


「成功すれば王太子妃としてこの国で一番贅沢な生活ができるわよ。お前の好きなローストビーフも食べ放題ね」


「何故私の好物をご存じで?そ、それに私は王太子殿下と結婚なんて……」


 ちくん、と僅かに痛んだ胸に眉を顰める。結婚なんてしたくない。私は、私には好きな人がいるのに。


 しかしローズ・グロウヴナー公爵令嬢は悪役令嬢だ。木端な男爵令嬢の葛藤など鼻で笑い、自らの要求を押し付ける。


「あんなノータリンでも顔だけは極上よ?上手く尻に敷けばいいじゃない」


「本気で言ってます……?」


「ええ。まあ乗り気じゃないのなら別にいいけど。振りたきゃ振っていいわよ。その代わり公衆の面前で土下座をさせて、みっともなくわたくしに許しを請わせた上で振りなさいね」





 ─────「無茶言うんじゃねえよ」という私の正直な思いは、人を殺しかねない極上の笑みによって飲み込まされたのだった。


 そんなこんなの経緯を経て、とりあえず呆然としてもしょうがない、とヤケクソの心境で手渡された資料諸々を読み込むこと一時間。なんとか概要と重要なところくらいは頭に入った所で、ローズ・グロウヴナーを探しに来た公爵家の侍従たちによって私は公爵家へと引き摺られていった。


 そして今、完璧に着飾った美貌の公爵令嬢ローズ・グロウヴナーとして、私は卒業生と高位貴族の親類が参加する卒業パーティーのその会場たる学園へ取って返すべく馬車に揺られているということだ。


 それにしても公爵家って凄い、たかが卒業パーティーの準備に使用人が30人くらい来て私一人を飾り立てるのだから。私の家とは比べ物にはならない。私の家は片手で数えられるくらいしか使用人がいないので、パーティーの準備は自分一人でやっていた。

 いやぁ人に裸晒すの恥ずかしかったなぁ……まあその体は今や絶好のプロポーションを持つローズ・グロウヴナーのものなのだが。


 ははは、と乾いた笑みを浮かべる。準備だけで疲労困憊だが、しかし何も始まっていない。げんなりしながらも、取り合えず会場につくまでの間に弾劾に向けてローズ・グロウヴナーが集めた資料を読み込んでおこう、と資料の束を再び手に取った。


 向かいに座る侍従に見えないように気を付けながら、日付順に並ぶ捏造されたいじめに関する反論物証を頭に叩き込む。

 元々脚本を覚えるのは早い方だ。これを『いじめをしていない証拠』として覚えようとしたら大変だが、『脚本』として覚えれば何とかなる気がする。

 即興劇だと思い込め。大体の流れを掴んでおいて、あとは要所要所で大事なワードを差し込むような感じを意識して……。


「ローズ様。到着いたしました」


「え、もう?」


 集中して読み込んでいたので、馬車が止まったことに全く気が付かなかった。

 こうなったらもう降りなくてはいけない。まだ少し不安が残る心持で資料を纏め、侍従に手渡し御者のエスコートで馬車を降りる。真摯な御者に思わずお礼を言いそうになったが、しかし高飛車お嬢様悪役令嬢様たるローズ・グラウヴナーは一々侍従に礼など言わない。

 ぐっと唇を噛みしめて私は背筋を伸ばした。


「あら?アーロン様は?」


 アーロンとは、件のノータリ……ローズ・グロウヴナー公爵令嬢の婚約者である王太子殿下の名前である。

 あのサラサラとした金髪の王子様の姿が見えない。


 いや腐っても天上人たる王子様なので、居たら居たできっとド緊張していただろうけど。居ないことに少々内心でほっとしつつも、きょろ、と卒業パーティーの会場である学園の大広間前で辺りを見渡す。


 クレア・レイストンには無縁の話ではあるのだが、婚約者がいる場合、会場入りする前に婚約者と落ち合い共に入場するのが一般的だ。

 結構時間ギリギリになってしまったため、てっきりアーロン王太子殿下を待たせてしまっていると思ったのだが。


 まだいらっしゃっていないのだろうか。そう思っていると、会場から出てきた女子生徒二人組がヒソヒソと話している声が聞こえた。


「ねえ。殿下、あの子と一緒に入場してたわよね?」


「ええ……あの子まだ二年生よね?なんで三年生の卒業パーティーに……っ!」


 私の視線に気づいた女子生徒が息を呑む。そのまま青い顔で「ごきげんよう」と足早に立ち去ってしまった。


 その言葉に全てを察する。アーロン王太子殿下はあろうことか婚約者で主役のローズ・グロウヴナーを差し置いて、卒業生でも何でもないプリシラ・エルマーをエスコートしているらしい。


 未来の国母たる婚約者を蔑ろにし、平民と共に姿を現すその行いが如何に臣下を動揺させるか。どうやら王太子殿下はご理解されていらっしゃらないらしい。 なるほどノータリン、と私は不敬であるがローズ・グロウヴナーの言葉に心の中で深く同意してしまった。


「ローズ様……」


「一人で入場するわ。……お前、わたくしが合図をしたらその資料を持ってきなさい。いいわね?」


「え?は、はい」


 ああごめんなさい、こんな高飛車な言い方してごめんなさい、命令してすみません……と内心で侍従に土下座しながら私は前を向いた。


 そびえ立つ大きな扉を睨みつけ、息を吸い、ゆっくり吐く。


 たかが一介の男爵令嬢が、かのローズ・グロウヴナーに成り代わっているなんてバレたら、そして本物のローズ・グロウヴナーは既に国外に出ており、私が不本意ながらもその逃亡に加担したなんて知れたら、きっと私は極悪人として処刑されてしまう。

 それだけは嫌だ。生きる為に私は何としてでも()()()()としてこの場を切り抜けなくてはならない。もう泣き言を言っている場合ではなくなった。死ぬ気で演じろ、と気合いを入れるように拳を握りしめる。


 ───それと、もう一つ死ぬ気で演じなければならない理由がある。


 入場しない主人を不思議そうに眺める従者が持つ資料を振り返る。

 捏造されたいじめに対する資料を読んだ。ことここに至るまでの彼女の半生が綴られた日記を読んだ。

 父と母と兄と、そして王太子殿下と彼を取り巻く人間が彼女にしてきた仕打ちを知った。


 全てを知った私は───ローズ・グロウヴナーへの同情と、周囲への怒りを抱いた。


 私は無性に腹が立っていた。


 決してローズ・グロウヴナーは善人ではない。高飛車だし怖いし、人の話聞かないし、とんでもない無理難題押し付けてくるし、指に剣突き刺してくるし。

 プリシラ・エルマーにはしていないだけで、他のご令嬢方には厳しい言葉も言うし、気に食わなければ頬を張ることもある。

 だけど、と拳を握る。


「……彼女の尊厳を踏みにじるお前らの方が、よっぽど悪党だ」


 全く関係ない私に全てをおっ被せたのはどうかと思わないでもないが、しかし彼女が『愛しいあの方』を選んでこの国から逃亡する道を選んだことに納得するくらいには、私は同情と怒りを覚えていた。


 だから。


「……貴女として生きます、とは口が裂けても言えませんけれど」


 同情しちゃったから、怒ってしまったから、演技に必要な同調を得てしまったから────今この瞬間くらいは、私は気高い公爵令嬢を演じて、貴女の汚名を濯いでみせましょう。


 開いた扉の前に佇む私が浮かべた笑みは、きっとかの悪役令嬢、ローズ・グロウヴナーそっくりな笑みであった。






◆◆◆







「……まあ、ローズ様ですわ。まさかお一人で……?」


「ああ、お労しい……殿下も何を考えていらっしゃるやら」


「だが、彼女はあのプリシラ嬢に酷いことしていたという話ではないか。だから殿下にも愛想を……」


「ですがあの娘は平民で……」


 嗚呼うるさい。社交界ってこんなにうるさかっただろうか。


 いつもはしがない貧乏男爵令嬢として仲の良い令嬢方と壁の花として会場にひっそりと添えられていた私だが、しかし今日は背筋を伸ばし胸を張って会場のど真ん中を闊歩していた。


 多数の視線に晒される。

 好奇、興味、嘲笑、義憤───どうってことないな。演劇コンクールのあの審査員たちの厳しくて冷たい目に比べたら、ぬるま湯のような刺激しか感じない。うるさいだけだ。


 いつかの社交界で見た()()()()の笑顔を思い出して、にこりと声のした方へ視線を向ける。絶世の美女の流し目に当てられた観客共は皆一様に押し黙った。


 貴族学園の卒業パーティだが、会場には卒業生以外にも卒業生の親類の姿もある。まあ最も親族まで出席しているのは高位貴族くらいだが……会場を練り歩きながら周囲を観察していると、甲高い声が背中に掛けられた。


「ローズ様……あの……」


「皆様ごきげんよう。……あら、そのドレスいいじゃない。似合っていてよ」


「あっ、ありがとうございます……っ!」


「ローズ様の本日のお召し物も素敵ですわ!」


 おずおずと近寄ってきた取り巻き立ちに、()()()のように話しかける。すると彼女らはほっと安堵を混ぜ込んだ笑みを浮かべた。

 恐らく王太子に明らかに蔑ろにされ、ローズ・グロウヴナーが不機嫌に癇癪を起こすのではないかと怯えていたのだろう。

 取り巻きにまで怯えられるとはどんだけ高飛車わがまま女王様なんだ……と苦笑いしそうになる。


 裾に掛けて真紅から濃赤へとグラデーションしたドレスをふわりと揺らし、自信満々な表情で周囲を圧倒する。血色のドレスに映える黒髪が一筋肩から胸に零れ、豊満なそれに男共の目が釘付けになる。

 普段はとても感じない下卑た視線に、しかし臆するなと自らを叱咤した。


 笑え、勝気に。敵などいないと、自分こそが頂点であると思い込め。

 わたくしはグロウヴナー公爵家が娘。ローズ・グロウヴナーだ。この場において上から数えた方が早いくらいに高貴な女で、この場の主役だ。


 カツン、とヒールが鳴る。彼女の象徴であった赤いハイヒールが床を叩くたびに視線が集まる。


 そうだ、わたくしを見ろ。目を逸らすな、ここは舞台で、お前らは皆この劇の観客だ。主役から目を離すな。


 明確な意思を宿した目で、わたくしは背後を振り返った。


「わぁ、ローズ様のドレス綺麗ですねぇ。でもちょっと露出多くありませんかー?」


 視線の先にいたのは、甘い甘い角砂糖のような女。

 美の象徴と称されるわたくしとは対照的な、可愛さや可憐さに自身の持つ魅力を全振りした女。ピンクブロンドの髪を揺らす彼女は、無邪気な子供のような顔でわたくしを見上げた。


 途端、会場中が静まり返ったような錯覚を覚える。きゃっきゃっと燥いでいた取り巻き達が息を呑み、次いで敵意の籠った視線を女に向けた。


 冷えた空気を感じ取った者たちが、わたくしと()()の間から逃げるように道を開ける。


「……卒業生じゃない生徒が紛れ込んでいるようね」


 目の前に現れたそれに、嫌そうに顔を顰めたわたくしは手に持っていた扇子を広げた。話す気はない、と言う様に口元を隠すが、しかしピンク色のドレスを纏ったそれは全く意に返した様子もなくふわふわと笑った。


「アーロン王太子殿下に招待されたんですよ。在校生代表として挨拶してくれないかって」


「……あら、殿下。エスコートにいらっしゃらないから迷子になっていらっしゃるのかと思いました。心配していましたのよ?どこにいってらしたの?離れるときはちゃんと言付けをしてから離れてくれませんと」


 それ────プリシラ・エルマーの言葉を無視して、彼女の背後から歩み寄ってきたアーロン王太子殿下に皮肉を飛ばす。わざと小さい子供に言い聞かせるように言うと、会場のどこかから小さく噴き出すような音が聞こえた。


「……ローズ・グロウヴナー。不敬だぞ」


「まあ!不敬だなんて。婚約者を心配するのがいけない事ですの?」


 甘いマスクと度々令嬢淑女の間で称される金髪碧眼のノータリ……失礼、アーロン王太子殿下にはて?と首を傾げる。その態度も気に食わない様子の王太子殿下は、苦々し気に顔を歪めた。


 あらあら、まだわたくしは仮にも婚約者よ?そんな顔向けたら駄目じゃない。ちゃんと演じなきゃ。本心丸見えの演技なんて落第も落第、一次選考落ち間違いなしだ。完璧な王太子の姿を見せなきゃこの後が不利になっちゃうよ?


「ローズ様、またそんな意地悪を……っ!なんでそんなことばかり言うのですか?」


 角砂糖のような甘ったるい声が響く。意地悪?社交界式に婚約者の勝手を咎めていただけだが。

 しかし私と王太子殿下の間に割って入ってきたプリシラは、まるで健気なヒロインのような涙目で私を睨みつけた。


「ローズ様が私を嫌っているのは分かっています!私がローニーにばっかり頼ってしまっているから……でもっ!それは彼の優しさで!」


「お前に発言権を与えたつもりは無いわ。控えなさい」


 ぴしゃりとプリシラの言葉を遮る。


 この女、二年も貴族学園に通っていたくせに基本的な貴族の礼儀も知らないのだろうか。仲の良い者同士でない限り、身分が下の者は上の身分の者が話しかけるまで話しかけてはならないというのは常識も常識であるというのに。

 ましては図々しくも『ローズ様』だなんて。傲慢高飛車悪役令嬢ではない私ですら呆れる礼儀作法のなってなさにため息が出る。


 しかも今王太子殿下のことを『ローニー』と呼んだか?婚約者でもないくせに、こんな公式に近い場で王太子殿下を愛称予呼び?

 親密アピールのつもりなのかもしれないが、こと貴族社会においてそれは悪手である。礼儀がなっていないというレッテルを自らに貼っているようなものだ。 現に見物客と化した周囲の貴族たちはプリシラの言葉に眉を顰めている。


 ああなんてお粗末。本当にこの女貴族学園に通う生徒なのか?平民だとしても郷に入れば郷に従うのが常識だと思うのだが。

 そしてその愛称呼びに満更でもなさそうな王太子殿下に失望を覚える。別に私はローズ・グロウヴナーの取り巻きでも信奉者でも何でもないが、余りの幼稚さに思わずローズ・グロウヴナーの苦労を偲んでしまった。


 わたくしが発した厳しい言葉にびくりと大げさに肩を震わせる女。その華奢な肩を、わたくしの婚約者であるはずの王太子殿下が支えるように抱きしめた。


「お前……っ!何様のつもりだ!プリシラはお前と仲良くなろうと……」


「殿下こそどういうおつもりで?婚約者ではない女と密着するなんて不貞行為ですわよ。それにわたくしは礼儀も場も弁えない女と仲良くする気なんてございません」


「この……っ!」


 正直これはローズ・グロウヴナーの言葉ではなく私の本音であったが、しかし今の私はわたくしであるので、真顔な内心は隠して心底バカにしたような顔で顎を上げた。

 すると王太子殿下は顔を真っ赤にして憤る。感情をまるで律せられていない様子にあらまあ、とわざとらしくため息をついた。


「いいだろう、本当は父上から認可を取ってから言うつもりだったが、今ここで宣言してやる!今まで起こしてきた数々の非道、もはや見過ごせん。ローズ・グロウヴナー公爵令嬢、お前との婚約は破棄させてもらう!」


「……」


「そして、私は新たにここにいる彼女……平民ながらも王家に匹敵する魔力量を誇り、かの悪女からの虐げにも耐えてきた心優しき聖女、プリシラ・エルマーと新たに婚約を結ぶ!」


 わたくしに指を突きつけたアーロン王太子殿下は、そう高らかに宣言した。

 彼に寄り添うプリシラ・エルマーは、困ったように眉を下げながらも健気に王太子の隣に並び立つ。


 ざわざわと騒めきだす会場の中心において、悪女と指をさされたわたくしはしかし喚くこともなく真っすぐに対峙する彼らを見つめた。


「ええ喜んで。王太子殿下。わたくしローズ・グロウヴナーは婚約破棄を承認いたします」


「……なんだ、やけに物わかりが……」


「そして」


 取り巻きに囲まれていたわたくしは、王太子殿下の言葉を遮るようにカツンと真っ赤なパンプスの踵を鳴らして一歩前に出た。



 ───その顔に、場を圧倒する壮絶な笑顔を浮かべて。



 ぞく、と気圧されたようにアーロン王太子殿下が一歩後ずさる。

 ぐっと唇を引き結んだプリシラ嬢を抱く腕の力が怯えたように強まったのが見えた。


 頬に手を当て口を三日月に裂く。無礼にもわたくしに向けられ続ける指を扇子でぐい、と引き下ろした。 ダンスでも踊っているかのように軽やかに、わたくしは王太子殿下の目の前に立ちはだかる。


 ふふ、と笑う。誰かが生唾を呑む音がやけに舞台に響いた。


「私は、汚されたわたくしの名誉を取り戻すために、今より貴方がたを断罪いたします」


「は……?」


 にっこりと微笑んで小首を傾げると、王太子殿下とプリシラ・エルマーは呆気に取られたような顔をした。彼らの目を覚まさせるように、わたくしはパンッとその白魚のような手を打ち鳴らし合図を出す。


 すると、間髪入れずグロウヴナー公爵家の侍従が会場入りする前に手渡した資料の束をもって傍に控えた。

 その束の上数枚を手に取って高らかに読み上げる。


「……5月11日午後4時頃。学園に予備として置いてあった制服をローズ・グロウヴナーによってズタズタに引き裂かれた。ローズ・グロウヴナーはその際『平民のくせに貴族の中に混ざろうだなんて、身の程知らずも大概になさい』と言い捨てた。……内容に相違はございませんわね?プリシラ・エルマー?」


「……っ」


 ねえ?とプリシラ・エルマーに同意を求める。しかし彼女はハッと息を飲むだけで言葉を発しない。

 おかしいわね。この内容、そこの阿……アーロン王太子殿下を含む貴方のオトモダチ達にさめざめと泣きながら伝えていたらしいじゃないの。その通りですと言いなさいな。なんでそんなに青ざめた顔をしているの?


 まるでわたくしがこの事を知っているのが都合悪いとでも言うようね?


「そ、そうだ!なんだ、今更自らの罪を認めたと……」


「───同時刻、ローズ・グロウヴナーは王妃様主催のお茶会に出席中。学園は終日欠席しており、その日王宮を辞したのは19時過ぎである。王妃様及び友人のレイブン伯爵令嬢を筆頭に多数の証言あり」


「…………は?」


 阿呆面で呆ける麗しの王子様ににっこりと笑いかけてやる。プリシラはすぐに状況の悪さを悟ったのか、青い顔で震え始めた。

 続けて次の証拠品も読み上げる。


「6月2日、朝7時30分頃。教室に向かう階段を上っている最中、すれ違いざまにローズ・グロウヴナーがプリシラ・エルマーを突き飛ばした。プリシラ・エルマーは右足に全治2週間の怪我を負う」


「……そうだ。彼女はあの日、お前に突飛ばされたと……」


「同時刻、ローズ・グロウヴナーは教員棟のオルマン教授の研究室にて論文作成について師事を請うており、プリシラ・エルマーが落ちた階段がある学習棟にはいなかった。オルマン教授とその助手の証言あり」


「う、嘘だ……」


「7月26日、午後15時頃。手洗いの最中、突如上から水を掛けられた。慌てて個室を出ると、特徴的な黒髪の女生徒の他、複数の女生徒が慌てて走り去っていくのが見えた。また、去り際女生徒の一人が『ローズ様』と黒髪の女生徒に声を掛けるのが聞こえた」


「…………」


「同日、ローズ・グロウヴナーは王宮にて王太子妃教育を行っていた。講師ならびに王宮の侍従、騎士他多数の証言あり……それで殿下?もう一度伺いますが、彼女がいじめられた証拠というのは、彼女の言以外に勿論おありなのでしょうね?わたくしはわたくしが潔白であるという証拠がございますが」


 そう言ってわたくしは資料を全てばら撒いた。ヒラヒラと舞う大量の紙の向こうで呆然とする王太子殿下に、そして憎々し気にわたくしを見るプリシラと観客に向かって言い放つ。


「どうぞ、ぜひ手に取ってご覧になって?彼女の仰るわたくしの罪と、わたくしが集めた彼女の罪。どちらが皆様の目を惹くかしら?」


 くすくす、くすくすと笑う。どこまでも上品に、どこまでも酷薄に。

 ねえ、プリシラ・エルマー?貴女もどうぞご覧になって。


 宙を舞う書類の向こうのプリシラは、普段の愛らしい顔からは想像もできないほどに憎しみの籠った目でわたくしを睨みつけた。

 おお怖い怖い。全く殿下ときたら、どうしてこんなあからさまな表情にとんと気づかないのだろうか?


 いや違うか。観客が知りたくない所を見せない技能に彼女が長けているという話なのか。なんていうことだ、つまりプリシラ・エルマーはある意味演劇の才能に満ち溢れているということじゃないか!もっと早く知りたかった、演劇部に勧誘したのに……いや嘘です。こんなみっともない嘘しかつけない大根役者いらないや。


 肘を抱いて体をしならせる。床に落ちた反証資料の数々が観客達の目に触れ始める。


「な、なんだこれは……『ローズ・グロウヴナーに噴水に突き落とされたというものの、実際には自ら落ちていたのを見た生徒がいた』?自演じゃないか……」


「『自分の教科書を破ってごみ箱に捨てているのを見た』……まあ、なんて……」


「う、嘘です!本当に私はローズ様にいじめられていて……っ!」


「しかし、これらには全て誓文が……」


 いち早く気付いた観客の言葉に微笑む。

 そう、ローズ・グロウヴナーの用意した証拠品には全て誓文と呼ばれる魔法のサインが入っている。

 この誓文とは、鑑定士と呼ばれる魔法使いによって嘘偽りないかを精査したという証明のサインだ。彼ら鑑定士が使用する真偽魔法の前では何人たりとも嘘はつけない。


 最も、真偽魔法の使い手はかなり少ないために誓文を入れるには一枚当たり目玉が飛び出る金が必要なのだが……流石は公爵家ご令嬢である。


 まあつまるところ、彼女が被ったというローズ・グロウヴナーによる被害は全て自作自演ということがバレてしまったということだ。

 必死にプリシラ・エルマーが違うと言い募るが、しかし誰もその言葉にうなずく者はいない。誰も彼もがプリシラ・エルマーを厳しい目で見つめていた。


 ちなみに彼女の自作自演を目撃した人達は、プリシラ・エルマーやそのオトモダチ達に脅されていた為に今まで黙らざるを得なかったらしい。

 それを知ったローズ・グロウヴナーは今回の証拠集めの折、そんな彼ら彼女らの元に自ら足を運び、彼らの身辺の保護と、王太子含む高位貴族の子息達を掌握しローズ・グロウヴナーに取って代わろうとするプリシラ・エルマーを失脚を誓った。


 彼女の手記には「被害者である彼らを責めることはできない。責められるべきはあの女と阿呆太子、貴族の本分を忘れた馬鹿な男達と、そしてそれを諌められなかったわたくしだわ」と目撃者達を許す旨が書かれていた。


 たとえ悪役令嬢と謗られようとも、臣下を庇護し慈しむ国母たらんとしたわたくしの高潔な意志を改めて思い知り、ゾクゾクとした何かが背筋を這う。

 しかしそれはおくびにも出さないように表情を作りながら、もうさっそく反論もできないくらいにショックを受けている王太子殿下に更に追い打ちをかけるべく口を開いた。


「さて、わたくしの無実が明らかになったところで……ひとつ、殿下にご忠告差し上げます。殿下がどのような女を婚約者に選ぼうがわたくしは知ったこっちゃございませんが、その野良犬だけはお辞めになったほうがよろしいですわね」


「……………理由を」


「ローニー!だめ、聞いちゃ……っ!」


「なにせ、複数の男性と関係を持ってらっしゃる疑いがございますので」


 再び会場内が静まり返る。焦った顔のプリシラ・エルマーが王太子殿下に縋りつきわたくしを睨むが、しかしわたくしは気にせずドレスのポケットから一つの赤い宝石を取り出した。

 指でつまんで観客にも見えるように翳してやる。


「こちら、音を保存する魔道具ですわ。たまたま……ええ、本当にたまたまなのですが、わたくしの従者がこの魔道具の起動チェックを行っている最中に、思いがけない音声の保存に成功いたしましたの。大変興味深い内容でしたので、皆様も是非お聞きになってくださいな」


 そういって魔道具を起動させる。静まり返った会場内に、若い女の声と男の声が響いた。


『……プリシラ、しかし君はアーロン殿下の……』


『サシウス、私は本当は貴方が好きなの……でも殿下が……』


「サシウス……?何故彼と、プリシラが……?」


 絶望したように顔の色を無くす王太子殿下。サシウスとは王国騎士団団長のご子息の名前だ。貴族学園に通うわたくしと私の同級生で、王太子殿下と共にプリシラ・エルマーと懇意にしていた。

 何故でしょうねぇ?と王太子殿下を憐れむように頬に手を添える。面白いくらい狼狽える彼が面白すぎて吹き出しそうだ。


 サシウスの姿を探す王太子殿下だが、卒業生であるにもかかわらず彼は何故かこの卒業パーティーの会場にはいない。

 代わりにこの演目を離れた場所から観察していたサシウスの父である騎士団長が怒りに顔を真っ赤にしていた。


『お願いサシウス。私は貴方と一緒に居たいの。どうか卒業式の後、私と一緒に───』


「やめて!こんなの捏造です!ローニーお願い、信じないで……っ!」


「し、しかしプリシラ……」


「ローズ様!なんでこんな酷いことするんですか!?あんまりです!」


 音声を遮るようにプリシラ・エルマーが叫ぶ。もはやその声に甘さは無く、絹を裂くような叫びであった。荒い息を吐き、今にもわたくしに飛び掛からんばかりに憤る女を鼻で笑う。


「酷い?何が?」


「こんな有ること無いこと吹聴するような真似……!いくらローニーの心が私に向いているのが悔しいからと言って!」


「どの口が言うのかしら。それに申し上げているでしょう?わたくしは婚約破棄に賛成でしてよ」


 そう言って更にドレスのポケットから複数の宝石を取り出す。黄色と水色の宝石を指で挟んで顔の横に翳して微笑む。


「捏造だと言うのであれば、こちらも一緒に確認しましょうか?ダイマ商会商会長ご子息、ランド・ダイマ様と、エルスラン教教皇のご子息イリアル・エルスラン様との睦言の記録もございましてよ?」


「〜〜〜〜〜っ!!」


「そ、そんな……」


 今度こそはっきりと会場の全ての目がプリシラ・エルマーに向いた。

 顔を赤くして歯噛みするプリシラ・エルマーの顔にはいつも浮かべている天使のような優しげな微笑みは皆無。節操も無くあっちもこっちもだなんてなんて……嫌だわ、『聖女』の名が泣きますわね。同じ女として余りにもみっともなくて鼻で笑ってしまう。


 怒りに震えるプリシラ・エルマー。

 そして彼女の裏切り行為に、愛に生きていた盲目の王太子殿下はついに膝を折った。うわごとのように、愛する女の名前を呼び続けている。

 その無様で情けない姿に思わずふんと鼻を鳴らした。


 不意に、会場の外で待機させていた筈のグロウヴナー公爵家の騎士がわたくしの背後に跪いた。「何かしら?」と静かに問うと、騎士はそっとわたくしの耳に面白い情報を囁く。


 ───ああ、なんてこと。本当にそんなことになるなんて。素晴らしいな、ローズ・グロウヴナーは。


 報告を聞いた私は、彼女の完璧すぎる手腕に口角を釣り上げる。

 正面でへたり込むアーロン王太子殿下は、歓喜に打ち震えるわたくしの顔を見てびくりと怯えたように瞳を揺らした。


「ご苦労様。きっと殿下もお話を聞きたがるでしょうから、そのまま拘束しておきなさい」


「い、一体何を……」


「いえいえ、そう大したことではございませんわ。今しがた、ちょうど話に上がった生徒複数名を我が公爵家の護衛騎士が取り押さえたというだけですから」


「はあ!?」


 チラリ、と傍らの護衛騎士を伺うと、ハキハキとした彼は「ご報告します!」と会場内に響き渡る声で今しがたあった出来事を口にした。


「先ほど、毒物らしきものを所持していたランド・ダイマ様と、控室にてローズ様の荷物を漁っていたイリアル・エルスラン様、そして公爵家の馬車に危険物を取り付けようとしていたサシウス・セジーア様を拘束いたしました!三名ともプリシラ・エルマー様より指示されたと供述しております!」


 会場内で悲鳴が上がる。公爵令嬢、および公爵家への明確な攻撃意思のある行動に会場内は大混乱に陥った。出来すぎた展開にほくそ笑む。


 何という素晴らしいタイミングだろうか。ローズ・グロウヴナーは断罪の最中や前後に、プリシラ・エルマーのオトモダチであり信奉者である彼らが何か行動を起こすことも予想していたようで、あらかじめ手を打っていた。

 彼女は護衛騎士に馬車や手荷物、そしてわたくし自身に目を光らしておくように厳命しておいたのだ。

 

 まさか危険物……爆弾を馬車に取り付けるほどとは思わなかったけども。なんという先見の目、そしてなんと優秀な騎士達だろうか。


 わたくしは怯えたように自らの腕を抱きしめ、プリシラへと非難の籠った眼差しを向ける。


「これは許されることではなくてよ。プリシラ・エルマー?」


「違います!私はそんな恐ろしいことお願いしていません!」


「拘束された三名は『これが成功すれば、プリシラは私を選んでくれる』と言っているらしいけれど?関係無いとしらばっくれるのは無理があるんじゃなくて?」


「ぷ、プリシラ……?本当に、本当に君が……?」


「ちが……っ!」


「静まれ」


 突如、厳かな声が会場に響く。ハッと周囲の観客が壇上を見上げると、そこにはいつの間にやらこの国の最高責任者たる国王陛下が立っていた。

 その傍らにはローズ・グロウヴナーの父であるグロウヴナー公爵も妻と息子を伴って無表情で立っている。


 その姿に慌てたように皆その場に跪く。言葉を遮られ顔を歪めるプリシラと、呆然自失の王太子殿下も渋々その場に跪いた。

 会場の中心に立つわたくしも背筋を伸ばして淑女の礼を取る。


「ローズ・グロウヴナー。今の話は真か?」


「はい、陛下。グロウヴナー公爵家の名に懸けて、全て真実であると申し上げます」


「そうか……」


 疲れたように眉間をもむ陛下は、大きくため息をつき、そしてこの騒動の中心人物であるプリシラ・エルマーへと冷たい一瞥を投げかけた。


「未来への国母へどのような感情を抱いていたのか……事情を詳しく聞く必要があるようだ。彼女を別室に連れていけ」


「っ!へ、陛下!お待ちください、私は何もっ!」


 必死に抵抗するプリシラだが、しかし陛下の目には既に彼女は映っていない。王城の騎士たちによって後ろ手に拘束されたプリシラ・エルマーは顔を怒りで鬼のように歪めて絶叫した。


「ローズ・グロウヴナー!!絶対に許さない!殺してやる!私の幸せを邪魔しやがって!殺す!お前、お前がああああっ!!」


「プ、プリシラ……」


 掛けられた手錠をガチャガチャと鳴らし、唾と怨嗟を巻き散らす。その顔に可憐さなどもはや微塵もない。変わり果てた愛おしい女の顔に王太子殿下は顔の色をなくした。


 騎士達の拘束から逃れようと暴れる女に、しかしわたくしはカツカツと靴音を鳴らして歩み寄る。近付かないように制止する騎士の手を無視して、その醜い顔に扇子を当てた。

 く、と顎を持ち上げて上を向かせる。涙やら何やらでぐちゃぐちゃに濡れるその顔をじっくりと眺め、そして口の端を上げた。


「無様ね、プリシラ・エルマー?まさに野良犬のようじゃない?似合っているわよ」


「こ、の……っ!!ローズ・グロウヴナーああああああっ!!」


「無礼者、わたくしの名をそんな薄汚い口で呼ぶんじゃないわ。……お前、わたくしを誰と心得ていて?」


 笑う。壮絶に、壮烈に、不敵に。支配者のごとく、偉そうに、美しく、獰猛に。


 わたくしは公爵令嬢ローズ・グロウヴナー。

 この国の貴族令嬢の頂点にして、身の程知らずのお前を地獄に叩き落とす悪役令嬢だ。


「くくく、ふふ、あーははははっ!あーっはっはっはっ!愉快で仕方がないわ!滑稽だわ!どいつもこいつも愉快愉快愉快!」


 誰も彼もわたくしに注目しろ。脳に焼き付けろ、瞼の裏でも思い返せ。この美貌を、苛烈なまでの生き様を!!


 プリシラ・エルマーの怨嗟の絶叫とわたくしの高笑いが会場に響き渡る。

 やがて怨嗟の声は分厚い扉に阻まれ聞こえなくなり、会場はしん、と静まり返った。


「……っ、ぁ、ああ……」


 側近が捕まり、愛しのプリシラは引きずり出され、一人となったアーロン王太子殿下。彼は味方を探すように必死の形相でギョロギョロと会場中に視線を巡らし始めた。


 しかしながら大半のものは関わり合いたくないと言わんばかりにそっと目を逸らすか、もしくはチラチラと嘲りと侮蔑を含んだ視線を投げるばかり。

 父親である国王陛下ですら自分の姿を視界に入れていれずに瞑目していることに気づいた彼は、ただ一人、真っ直ぐに自分を見つめる紫眼に気付いた。


 ビクリと身を震わせ───そしてまるで媚び諂うかのように、へらりと引き攣った笑みを浮かべる。


「……ろ、ローズ……?なあ、なんで、こんな……」


「…………」


 じっと王太子殿下を見つめる。床にへたり込み、弱々しくわたくしへと手を伸ばす彼に、わたくしは笑みを消してことりと首を傾げた。


「なんで?なんでだと思いますか?王太子殿下」


 最愛の支えを失い、無様なまでに力を失った彼にわたくしは歩み寄り、その襟ぐりを掴み上げる。

 怯えと悲しみが綯い交ぜになった表情に怒りが込み上げ、クッと喉が鳴った。


「貴方がわたくしを蔑ろにしたからですわ。わたくしは何度も、何度も何度も何度も貴方に申し上げました。この国の頂点に立つ者としての責務を、威厳を、節度を持てと。貴方の一挙手一投足は臣下に多大な影響を与えると。……わたくしを見てと、何度も申し上げましたわ」


 私はお前が彼女に何をしてきたか知っている。


 王太子妃教育でローズ・グロウヴナーが辛い思いをしている中、あの女と遊び惚けいていたことも。


 何かにつけてローズ・グロウヴナーとプリシラ・エルマーを比べては「お前は可愛くない」と言い放ち、プリシラが作ったお菓子を褒めるからわたくしも、と作ってきたら「お前の作ったものなど何が入っているか分からない」と言って目の前で捨てたことも。


 側近達と共に、虐めなどしていないと言い募るローズ・グロウヴナーを地面に引き倒し「薄汚い悪女」と罵ったことも。


 お前がローズ・グロウヴナーの誕生日に何の贈り物もせず、代わりにプリシラ・エルマーへ花束を贈り挙句あの女と一夜を共にしていたことも。


 お前だけじゃない。

 会場をぐるりと見渡す。


 陛下の近くに控えるグロウヴナー公爵夫妻を見つめる。

 お前らは助けを求めるローズ・グロウヴナーを無視していたくせに、会えば「成績が落ちている」だの「ヴァイオリンのコンクールで最優秀を獲ったのなら次はピアノね」だの、必死に努力する彼女を褒めることもなく自分の装飾品のように扱った。


 その隣の兄を見つめる。

 優秀なのだからと言って、自分の仕事である領地経営の殆どを彼女にやらせていた。そのくせ、利益が出れば自分の手柄だと誇っていた。


 共に学園を卒業する令嬢たちを見つめる。

 気に食わないプリシラ・エルマーを虐めてはすべての罪をローズ・グロウヴナーに押し付けていた。


 わたくしを取り巻く貴族たちを見つめる。

 毒婦だと、平民如きに王太子殿下を奪われた悪女だとバカにした。


 そして、クレア・レイストン()を憎む。

 ローズ・グロウヴナーと同じ場にいたにも関わらず、他の有象無象と同じように彼女を『悪役令嬢』と見ていた。


 ローズ・グロウヴナーは悪役令嬢なんかではない。

彼女は、悪役令嬢に()()()()()のだ。


 誰に?

 父に、母に、兄に、学友に、社交界の貴族に、プリシラ・エルマーに、王太子に。

 そしてクレア・レイストンに。


 彼女は愛されたかっただけなのに、それらしいというだけで悪役にされた。悪役令嬢という役を押し付けられた。


「……ねえ、殿下。悪役は一体どちらでしょうね?」


「ひ、い……」


 誰も彼も私をローズ・グロウヴナーだと信じて疑わない。なんでだと思う?


 それはクレア・レイストンがローズ・グロウヴナーを毎日見ていたからだ。


 凛と背筋を伸ばして歩く姿も、女王のように偉そうに足を組む様子も、悪役令嬢だと誹られても自分を見失わずに真っすぐに立つ姿も。

 間違っていたら間違っているとハッキリ口にして、決して自分を曲げないその高潔な生き様すらも。

 毎日見ていた。私はそんな彼女に魅せられていた。


 彼女のような生まれながらの主役に、演じなくても熱烈に観客の目を惹きつける主役な彼女に憧れていた。

 だから『私』は『わたくし』を演じられる。


 でも彼女はもういない。彼女はこの国を捨てた。みんな彼女の努力を認めず、悪役を押し付けたから。悪役だからと彼女の尊厳を踏みにじったから。

 だから捨てられた。お前も、アイツらも、私も。


 ざまあみろ。


 私が覚える悲しみと怒りとやるせなさ、そしてわたくしが抱く怒りによって、口元が笑みの形に歪む。


 だから私はせめてもの罪滅ぼしをする。

 ローズ・グロウヴナーに押し付けられた役は、()()()()()()()()()私が代わりに演じて魅せましょう。


 苛烈で、苛辣で、華麗な公爵令嬢に憧れていた私は、わたくしの笑みをもって愚かな王太子殿下を断罪する。



 複雑な感情を宿す目に晒された婚約者だった男は、まるで幽鬼にでも出会ったかのように喉を引き攣らせ、そし大衆の前にも関わらずその頭を床に擦り付けた。


「ローズ!私が悪かった!許してくれ!」


「……王族たるもの、そんな姿を臣下に見せるのはよろしくないのではなくて?」


「王族じゃない、一人の男としての誠意だ!どうか許してくれ!」


 必死に頭を下げ続ける王太子殿下。なんてみっともない。恥も外聞も投げ捨てたその行為に壮絶な展開に言葉を失っていた観客達が騒めき始める。

 きっとこのままでは爵位第一位である公爵家に目の敵にされ、最悪の場合王太子の地位を下ろされると悟ったのでしょうね。悟るのがあまりにも遅すぎるけれど。


 滑稽で滑稽で、くすりと笑いが零れる。

 愚かな王太子殿下はその笑みを慈悲だと勘違いしたのか、喜色を浮かべた顔を上げる。

 そんな愚か者に、わたくしはにっこりと微笑んでやった。


「許しませんわ。一生そこで地に頭を擦り付けていなさい」


 ごめんなさいね。私、憧れのローズ・グロウヴナーから言われているの。

 『公衆の面前で土下座をさせて、みっともなくわたくしに許しを請わせた上で振りなさいね』って。


 ひらりと舞うように王太子殿下から離れたわたくしは、すがすがしい気持ちで言い放った。


「もう一度申し上げますわ、アーロン王太子殿下。わたくしローズ・グロウヴナーは、婚約破棄を承認いたします」


「……っ!ローズゥゥッ!!」


 カッと羞恥で顔を赤くした王太子は拳を握った。そしてそのままわたくしに向かって振り上げる。


 ああ殴られる。しかしまあここで殴られておいた方が哀れなヒロインとして上手く退場できそうだ。

 即興劇としてこの茶番に興じていた私は、驚いたような表情を作りながらもどこか冷静な気持ちで迫る拳を眺めていた。


 きゃああっ!とどこかの令嬢が叫ぶ声が響く。焦燥感が滲む大人たちの制止の声が聞こえる。

 わたくしの名を憎々し気に叫ぶ王太子殿下の声が聞こえて、そして────








「────そこまでだ」


 握られた拳が頬にぶち当たる寸前、何者かが王太子の腕を掴んで止めた。


 次いで、深い染み渡るような声が耳朶を打つ。恐る恐る顔を上げて何が起きたのかを確認した私は、演技も忘れて目を見開いた。


「アーロン王太子殿下。流石に見苦しいですよ。落ち着いてください」


 背の高い、藍色の髪をもつ男だ。わたくしに背を向ける彼は、顔を真っ赤にする王太子殿下からわたくしを守るように立ちはだかっている。


 ぽかんと見上げる。まさか庇われるとは思っていなかったというのもそうだが、目の前に居る男の正体に気が付いてしまったがゆえに。


 わたくしの演技を忘れた私は、震える声でここにいる筈のないかの男の名前を呼んだ。


「……オズワルド皇太子殿下……?」


 肩越しにわたくしを振り返る彼は、髪と同色の瞳を優し気に細めて見せた。


 オズワルド皇太子。隣国である帝国の皇位継承権第一位を持つ皇子様だ。

 凛々しいお顔と男女問わず分け隔てなく優しく慈悲深い彼は世界各国の令嬢方の注目の的である。


 確かに彼はわたくしと私と同い年ではあるが、しかしこの国の貴族学園に通っていない彼が何故この王国の貴族学園の卒業パーティーに参加している?


 混乱状態のまま立ち竦んでいると、皇子様はアーロン王太子の腕を離して恭しくわたくしの跪いた。

 そして焦がれるような目でわたくしの右手を取る。


「確認を。今しがた、貴女はこちらにおわすアーロン王太子殿下との婚約は破棄されましたね」


「……ええ。間違いなく」


「ローズッ!お前は……っ」


「ならば───ローズ・グロウヴナー公爵令嬢。どうか私の妃になってはいただけませんか。ずっと貴女に恋焦がれておりました」


 今も尚喚く王太子の言葉をバッサリ無視したオズワルド皇太子殿下は、そう言って取った右手の甲に唇を落とした。


 先程わたくしが殴られかけた時よりも姦しい悲鳴が会場内に響く。何を言われているのか理解できず呆けてしまう。


 同じく固まるアーロン王太子。そして下から、まるで捨てられた子犬のように潤む瞳で見上げてくる絶世の美男子ことオズワルド皇太子殿下。


 懇願するような目を向けられた私は───









「お断りいたします」


 ゾワッと肌を羽毛立たせて、その手を払った。


 途端、先ほどまでの喧騒が無かったかのようにシーンと会場は静まり返る。

 耳が痛いほどの静寂にようやく我を取り戻した私は、慌ててわたくしとしての言葉を取り繕った。


「……い、今しがた婚約破棄したばかりの令嬢に間も置かず求婚だなんて、少々はしたないのではなくて?わたくしはあの野良犬のように誰彼構わず尻尾を振るような安い女ではありませんわ!」


「は、はしたない……?」


「ええ。庇ってくださったのは感謝いたしますけれど、たかが下郎の拳から守っただけでわたくしがほだされると思ったら大間違いでしてよ?皇太子殿下」


 ふん、と豊満な胸の下で腕を組んだわたくしは、未だに子犬のような顔で見上げる皇太子殿下の視線から逃げるようにつんっと顎を上げた。

 周囲の貴族たちがまたもや焦ったように騒めく。どういった経緯でここにいるかは知らないが、彼は他国の貴賓だ。公爵令嬢とは言え王族でもない一令嬢が折角のご厚意……というかご好意を無下にするなんて、と非難のような声が上がった。


 しかしわたくしは絶対にこう言うし、私的にこういう男はちょっと、いやかなりNGなので素の言葉が出てしまった。

 しょうがないだろう、私の好みは懇願系じゃなくてちょっと意地悪ながらもぐいぐい引っ張ってくれる系男子なのだから!


 言い訳を重ねながら内心で冷や汗をだらだらと流すわたくしこと私。しかし一切おくびに出すことなく跪く他国の皇子様に扇子をビシリと突きつけた。


「わたくしこう見えてモテますの。婚約者が居なくなったと聞けば、きっと国中……いいえ、世界中から求婚が相次ぎますわ。でもわたくしもうこんな尊厳を踏み躙られるような婚約はこりごり」


 ギロリと再びへたり込んだ王太子を睨みつける。少なくともわたくしも私もこんな男はもうごめんだ。紫眼の睨みを受けたアーロン王太子はビクッと肩を跳ねさせた。


「次の婚約者は厳選に厳選を重ねるつもりでしてよ。碌に話したこともない殿方にそう簡単になびくと思わないでくださいな」


 婚約破棄された身なので傷があると敬遠する貴族も勿論いるだろうが、しかしローズ・グロウヴナー公爵令嬢の価値はたかが一度の婚約破棄、それも全く当方に瑕疵が無い婚約破棄で地に落ちるほど低くない。

 むしろ明日から我こそはとこぞって釣書が送られてくることだろう。


 勿論この皇太子殿下はそれが分かっているから一歩先んじる為に今この場でわたくしに求婚をしたのだろうが、しかしどんなに条件が良くてわたくしを庇ってくれたような男であっても快諾はしない。

 何故ならわたくしが選ぶ側であるということを明確にこの男に、そして国中に分からせてやらねばならないからだ。


 まさかこんな痛烈に断られると思っていなかったのか、オズワルド皇太子殿下はポカンと口を開けて呆けている。そんな間抜け面でさえ美しいだなんて、ローズ・グロウヴナーといい美人というのは本当にずるい。私のものかわたくしのものか分からないため息を一つこぼす。


 しかしまあ、もういい頃合いだろう。劇も終盤、いつまでも役者が舞台にしがみついてちゃみっともない。華麗に美麗に退場すべく、わたくしはふわりとドレスを揺らした。


「そも、自己紹介もしていない間柄で求婚も何もないでしょう?」


 笑う。残忍に、酷薄に、美しく。

 さあ幕引き、足に力を入れろ。


 カツンと赤いヒールを打ち鳴らしたわたくしは、成敗した悪役と、観客、そして新たに登場したヒーローの視線を搔っ攫って、令嬢の模範たる美しいカーテシーと披露した。


「爵位第一位、グロウヴナー公爵家が娘、ローズ・グロウヴナーと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」


「……フィオル帝国皇位継承権第一位、オズワルド・フィオルだ」


「あら、いいお名前ですわね。わたくし貴方の国の歴史が大好きですの。是非お時間あるときにお話し聞かせてくださいませんこと?」


 どこまでも偉そうに。苛烈に、苛辣に、そして華麗に。跪く藍色の皇子様に手を差し伸べたわたくしは、にこりと笑みを浮かべる。


「まずはお友達として、ですけれど」


「……ははは、大層魅力的なお誘いだ。こちらこそ、大変聡明と名高い貴女のお話を是非伺いたい。この後お時間はあるかな?」


「まあ、情熱的ですわね。よろしくてよ」


 無礼だと誹ることもなくクックッと喉で笑ったオズワルド皇太子殿下は、立ち上がって腕を差し出してきた。ダンスでも踊るようにくるりと彼の隣に控えたわたくしは観客達に一礼する。


「それでは皆様ごきげんよう。またお会いできる日を楽しみにしておりますわ」


 ローズ・グロウヴナー公爵令嬢はそう言って華麗に歩き出す。

 一歩一歩優雅に、自らの足で。


 気圧された観客達による人垣が左右に割れる。さながら花道のようなそこをヒーローと共に並び立って歩いていく。

 カーテンコールは生憎と無いのでね、さあこの瞬間も目に焼き付けろ。


 ローズ・グロウヴナーの為に開け放たれた扉の前で、最後に一礼。


 ゆっくりと顔を上げたわたくしは、きらびやかな会場に向けて、美しく獰猛で畏怖を覚える私が大好きな笑みを浮かべた。








──悪役令嬢による、悪役断罪劇。これにて終幕──








◇◇◇





「…………ぶっはあああ。し、死ぬかと思った……」


 閉められた扉の向こうで、ローズ・グロウヴナーの演技をやめた私はへなへなとその場に崩れ落ちた。


 よかった、本当に良かった。成功して本当によかったぁ……。失敗したらどうしようかと思った。

 緊張が解け今更ながらにドレスの重量がのしかかってくる。うう、お腹を締め付けるコルセットが苦しいよう……。


「いい演技だったよ。クレア・レイストン」


「あ、ありがとうございます。今まで死ぬほど演技はしてきましたが、こんな緊張する演技は初めて……」


 平然と掛けられた労わりの声にへにゃりと顔を上げて、ようやく私は隣に人がいることを思い出した。

 自分を見下ろす藍色の皇子様の顔を見てサーっと顔面から血の気が引いていく。慌てて立ち上がった私は今更ながら扇子をパンッと開いては動揺で強張る顔面を隠した。


「いっ今のは!知り合いの下級貴族の真似をしただけですわ!だだだだ断じてわたくしの素とかそういうことでは!!」


「……ぶふっ」


 ローズ・グロウヴナーとして必死に取り繕うとする私に、しかし正面の皇子様は突如噴きだした。


 くっくっくっと体を震わせて笑いの衝動を堪えるオズワルド皇太子殿下。まるで皇子様とは思えない行動に扇子を広げた状態で固まる。

 唖然とする私に、彼は涙が滲む目を拭いながら振り返った。


「ご、ごめん……もう演技しなくていいよ。全部知ってるから」


「………は?」


「はあ、傑作だね。……お疲れ様、クレア・レイストン。やっぱり君の演技は最高だ」


 当然のごとく私の正体を言い当てられる。先ほどまでのキラキラしい皇子様然とした様子は消え失せ、年相応の表情を浮かべる彼。

 どこか見覚えのあるその表情に何故か僅かな胸の痛みを感じつつ我に返った私は、わあわあと混乱のまま詰め寄った。


「な、なんで!?なんで私がクレア・レイストンだって知っているんですか!?写し見の術解けてます!?えっていうかなんで皇太子殿下が私みたいな木端な男爵令嬢のことをご存じで!?いやあああ待って処刑コースうううう!?」


「落ち着いて落ち着いて。ちゃんと説明するよ」


 とりあえず、と彼が乗ってきたという馬車に誘導された私は、真紅のドレス姿のまま彼の対面に腰かける。

 そして皇子様らしからぬ動きで足を組んだ藍色の皇子様はなんてことない様子で私に衝撃的すぎる事実を告げた。


「まずは自己紹介を。私はフィオル帝国皇位継承権第一位、オズワルド・フィオル───を()()()、セオドール・バウアーだ」


 そう言って彼が腕輪を一撫ですると、その相貌が変化していく。


 夜空のような藍色が消え失せ、代わりに現れたミルクティー色の髪にこげ茶色の瞳をした彼は、悪戯が成功した子供のような表情でウインクをした。


「勿論君は()のことを知っているだろう?クレア先輩?」


「……え、は、な、な……セ、セオくんんんんんんっ!?」


 突如目の前に現れたのは、私が所属していた演劇部の後輩。

 そして────卒業式の後に、想いを伝えるべく会いに行くつもりであったクレア・レイストンの意中の男であった。




◇◇◇





 ガタゴトと揺れる馬車の中。にこにこと笑うセオドール・バウアーの言葉を反芻しようやく飲み込んだ私は、ローズ・グロウヴナーの美しい顔をこれでもかと顰めて痛む頭に手を当てた。


「つ、つまり……セオくんの正体は、帝国の貴族子息で、オズワルド皇太子殿下の影武者で、工作員として王国学園に潜入してて、私と同じく写し見の術が掛けられてて」


「うん」


「グロウヴナー様の恋人とは実は本物のオズワルド皇太子殿下で、帝国は才媛ローズ・グロウヴナーを皇太子殿下結婚相手として迎えたいと思ってて」


「うんうん」


「卒業と同時にローズ・グロウヴナーを確保しつつ、大手を振って皇太子殿下と結婚できるように私を使って婚約破棄騒動を起こさせた、と……?」


「その通り。まあ婚約破棄自体はアーロン王太子殿下がアホ……失礼。ノータリ……んんっ、少しばかり頭が足りないお陰で帝国にが何することもなく勝手に起きてたんだけどねぇ。工作員としてやること無くて楽な仕事だったよ」


 今頃ローズ・グロウヴナーとオズワルド皇太子殿下は帝国に戻ってイチャコラしてるところだろうね───なんて平然と語る好きな人に私は手に持った扇子をギリギリ握りしめた。

 そしてカッと目を見開き、ローズ・グロウヴナーもかくやという気迫でセオくんに詰め寄る。


「陰謀じゃないの!!そんなとんでもないことにこんな木端な男爵令嬢を巻き込まないでよおお!!」


「ローズ・グロウヴナーは明日から次期王太子妃として王城に住まいを移す予定だったからね。流石に王城から次期王太子妃を誘拐するのは骨が折れる。というわけで万が一婚約破棄が失敗したときの為に、今日のうちに彼女の身柄だけでも帝国に移しておく必要があったんだよ。でも婚約破棄は必要、だから影武者が必要だったんだ」


「何それ……。待って、婚約破棄が失敗してたら私は本当にローズ・グロウヴナーとして、王太子妃として一生を生きる羽目になってたの……?」


「ははは、それは多分うちの主人も()()()()も許さないだろうねぇ。だから最悪君の身柄とローズ・グロウヴナーの所属を正式に帝国に移すため、帝国は王国に戦争を起こすことも視野に入れてたと思うよ?ローズ・グロウヴナーに偉業を打ち立たせて、適当に『聖公女』とか肩書きを与えた上で『世界の宝たる聖公女に対する数々の非道、許すまじ』とか言って聖戦仕掛けるとか」


「陰謀じゃないの……っ!!」


 自分の演技で戦争が回避されたという事実に眩暈を覚える。あの場で万が一にもトチってたら王国終わってた。


 ローズ・グロウヴナーの恋人らしいオズワルド皇太子がおわすフィオル帝国は、世界一の国土を誇る大国であり、芸術大国であり、そして世界有数の軍事国家なのだ。

 平和ボケ小国である我が王国じゃけちょんけちょんにされるのは目に見えている。将来あのノータリ……愉快な王太子殿下が国王となることも考慮するととても勝ち目はない。壮大すぎる話にガクブルする。


「とまあそんな訳で、俺の最後の任務は無事婚約破棄が承認された後、ローズ・グロウヴナーと我が国の皇太子が良い仲であると見せつけ、虎視眈々と王太子の後釜の座を狙う男共を牽制すること……だったんだけど、それだけは失敗に終わっちゃった。誰かさんのせいで」


「……っ」


 軽いノリで戦慄く私の手を取り、再びその手に唇を寄せるセオくん。手袋越しに感じる柔らかい感触に今度こそ赤面するものの、しかし次の瞬間自分がとんでもないことをしでかしてしまったことに気づきザアッと顔色を青くした。


「そ、そうだ!グロウヴナー様とオズワルド皇太子は本当に恋人なのよね!?それなのに私、大勢の前でオズワルド皇太子を振っちゃ……っ!!!」


 ヒイイッ!何してんのバカ!バカ私!!あのまま「助けて下さってありがとう。わたくしも好きです♡」とか答えてれば、めでたく周囲に二人を恋人同士だと見せつけて大団円だったのに!なに自分の趣味趣向で皇太子まで振っちゃってるの!?っていうか皇太子振るって何!?不敬も不敬だわ!どうしよう実はこの馬車処刑場に向かってたりしない!?


 再びあわあわと大慌てで狼狽える。そんな私をじっくりニコニコと心ゆくまで観察していたセオくんは、たっぷり時間を置いてから満足した顔で「大丈夫だよ」と口を開いた。


「あれは君が正しい。あそこでローズ・グロウヴナーがぽっと出の皇太子に惚れてたら、それこそ王太子と聖女の二の舞ではないかと後ろ指指されるところだった。すんなり行き過ぎていても『逆に公爵令嬢も不貞行為を働いていたのではないか』とめざとい考えをする輩もいただろうしね。いやぁ俺たちの認識が甘かったよ。ローズ・グロウヴナーは何にも靡かない絶対的な才援であると周囲に見せつけるには最高の演出だったよ。流石演劇姫だね」


「う、うう……処刑されない……?」


「されないされない。むしろ皇太子は『ローズと大手を振って初々しいデートしまくれる良い口実ができた!』って喜ぶよ」


「そう……?」


 くっくっ喉奥で笑うような音にとりあえずほっと胸を撫で下ろす。そしてふと、私は先程のセオくんの言葉に疑問を覚えて顔を上げた。


「……ねえ、そう言えばさっき君の身柄って言った?才媛グロウヴナー様を欲しがるのは分かるけど……なんで私も?国のお偉いさんからしたら私なんて……それにその演劇姫ってなに?」


 私が口にした当然の疑問に、しかしセオくんは驚いたように目を瞬き、そして困ったような笑みを浮かべた。


「私なんて?バカ言っちゃいけないよクレア先輩……いや、『演劇姫』クレア・レイストン。我が帝国は、そして君の主人となる才媛ローズ・グロウヴナーは君も欲しいのだから」


「は?」


 足を組んでにっこりと笑うセオくん。しかしその笑みは今まで見てきた先輩を慕う後輩のものではなく、圧倒的高みに立つ絶対強者のそれで。

 知らずゾクリと背中が震える。悪寒のようなものを覚えてむき出しの二の腕を思わず摩った。


 困惑する私にセオくんはぐっと顔を寄せた。その焦げ茶色の瞳に飲まれて、私は思わずごくりと喉を鳴らす。


「稀代の悪役令嬢ローズ・グロウヴナーを完璧に演じられる『演劇姫』クレア・レイストン。君の名はもはや世界各国に知れ渡っているんだよ」


「はい?」


 言われた言葉の意味がうまく飲み込めず、素っ頓狂な声をあげて首を傾げる。セオくんは私の様子に「相変わらずだね」と苦笑し、そして続けた。


「実は俺はね、殿下の影武者兼工作員兼、君のスカウトマンとしてこの国に来たんだ。是非とも帝国という大きな舞台で、君の輝く演技を見せてほしい。君の演技はもはや天武の才という言葉ですら足りないくらい素晴らしいからね、どうか一緒に帝国に来てくれないだろうか。」


「へ?」


 予想だにしない言葉に目を瞬かせる。しかしセオくんは構う様子はない。澱みない言葉が馬車の中で踊る。


「君が大好きなローズ・グロウヴナーと共に帝国に来てくれるのなら、帝国は君に世界一の舞台を用意すると約束するよ。君の大事な家族にも高位貴族相当の待遇を用意するし、それに……」


「いや待て待て待て!セオくん何言ってるの?!私はそんな大層なもんじゃなくて、ちょっとばかし演技が得意な木端な男爵令嬢……」


「各国出資の演劇コンクールで、プロ押しのけて最優秀主演女優賞を取った君がただの木端な男爵令嬢な訳ないだろう?」


 とんでもない過大評価だと彼をの言葉を否定するも、彼が告げられた私の実績に、ぐぬ、と口を引き結んで押し黙った。


 彼が語る各国出資の演劇コンクールとは、世界中からプロ・アマ問わずに演劇に興ずる団体が集まる世界で一番規模の大きい演劇コンクールだ。

 そしてこの夏、私は王国の貴族学園演劇部として『レプリラリア妃の悲劇』という演目でコンクールに参加し、そこで大変名誉なことに最優秀主演賞をいただいた。


 輝かしい成績を残せたお陰で、卒業後の就職先として色んな劇場からお声がけいただいたのも確かだが、しかしながらそれは共に劇を創り上げてくれた演劇部のみんなが居たからで、私一人で成し得たものでは無い。

 私一人だけなんて余りにも申し訳なく、そして余りにも恐れ多い上、卒業後は領地で兄の仕事を手伝うつもりだったので「演劇はもうしない」と全て辞退してしまっていた。


 だからまさか自分がそんな世界で注目されていたなんて全く気付いていなかった。露ほども想像していなかった展開に馬車の座面の上でオロオロとひたすらに狼狽える。

 そんな私に、セオくんはふふ、と優しく微笑んだ。


「審査員満場一致の最高得点を取った君の演技は、皇帝陛下からもお褒めのお言葉が上がったくらいだよ」


「!!!??!こ、皇帝陛下!?」


「帝国は世界一の芸術大国だからね。君を欲する声は多いよ。帝国中……いいや世界中を虜にした君だからこそ、君はローズ・グロウヴナー公爵令嬢の影武者に抜擢された。あれがローズ・グロウヴナーの独断だと思ったかい?君が彼女の影武者として今日の婚約破棄騒動を、断罪劇を遂行することは最初から確定事項だったんだよ」


「う、嘘でしょ……!?」


「残念ながら君はね、今日一日ずっと帝国の手の平だったのさ」


 そう言って微笑むセオ君の顔は優しいが、しかしながら、お前に逃げ場はないと目で語っていて。


 知らないうちに外堀を埋められてた私は、自らを取り巻く環境が一夜にして一変してしまった事を悟って呆然とするのだった。







◇◆◇







「クレア。お前、今日わたくしにおなりなさい」


 どっかで聞いた台詞だな、とぬばたまの黒髪を櫛で梳いていた私は、正面の鏡越しに自らの主人をジトりと睨みつけた。


「………ローズ様。今日はどこへ行くおつもりで?」


「もちろん、オズ様とデートよ!」


 「だからこの間買った街歩き用のドレスを出してちょうだい」と微笑むのは、どこまでも苛烈で、どこまでも苛辣で、どこまでも華麗な悪役令嬢───


 ───ではなく、夫であるオズワルド・フィオル皇太子を心の底から愛しているフィオル帝国皇太子妃、ローズ・フィオル様だ。


 ともすれば視線だけで人をも殺せそうな程に鋭い紫瞳を恋する小娘のごとく緩ませるローズ様に、皇太子妃専属侍女たる私、クレア・レイストンは盛大なため息をついた。


「今月何度目ですか。しかも今日は貴女様の生家から使者が来る日でしょう。貴女様が対応しないで誰が……」


「だから、お前が対応すればよろしいわ」


 鏡越しに信頼の籠った眼差しを向けられ、ぐむっと唸る。

 この目に弱い自覚がある私は早々に自分の負けを認め、はーあああと肩を落とした。


「もうローズ様よりローズ様のこと知ってる気分ですよ、私……」


「影武者の責務が全うできている証ね」


「ああもう、本当にこの人は……」


 二人きりである事をいいことに、主従とは思えないほどに気安く言葉を交わす。


 あの婚約破棄騒動から5年。私達の間柄は、ただの同級生から、主従に、友達に、そして───憧れの人とファンという間柄に変化を遂げていた。







 あの馬車の中で一夜の断罪劇の裏側を告げられた私は、セオドールによってほぼ問答無用な感じで帝国へと、そして帝城へと連れて行かれた。


 そこで私を待ち受けていたのは、ひと足先に帝国へと連れてこられていた状況がさっぱり読めずに混乱し倒すレイストン家一同と、本物のオズワルド皇太子、そしてその隣で顔を真っ赤にして何故か憤っているローズ・グロウヴナーだった。


「ヒッ!?え、えっと……ぐ、グロウヴナー様……?」


 何故か私を睨みつけ、ぷるぷる怒りに打ち震えるローズ・グロウヴナー。

 断罪劇はちゃんと成功させてきたんですが!?と焦り倒す私に、カツカツとヒールを鳴らして歩み寄ってきた彼女は、その手を大きく上げて私の頰を打ち据え───るのではなく、侍従を呼びつけ色紙を持って来させ、私にすっと静かに差し出した。



 そして言った。

『サイン寄越しなさい』と。


 マジで訳が分からなかった。これ数時間前に私のこと壁ドンしてた悪役令嬢ですか?と、鳩が豆鉄砲喰らった顔で笑いを噛み殺すセオドールと、爆笑するオズワルド皇太子を見比べた。


 そこで更に驚きの新事実が発覚した。

 なんとローズ・グロウヴナーは、クレア・レイストンのファンだったのだ。


 サイン色紙を抱きしめて喜びと羞恥で死にそうになっているローズ・グロウヴナーの頭を撫でるオズワルド皇太子によると、あの各国出資コンクールに観客として参加していたローズ・グロウヴナーは、私の演技を見ていたく感銘を受けた、らしい。


「凄まじい興奮具合で君の演技を褒め称えていてね、『同い年なのにすごい、天才だ』と言っては君が過去出演した演劇のパンフレットを全て揃えて毎日のように繰り返し眺めていたんだよ」


 と、語るのはローズ・グロウヴナーに口を塞がれそうになっているオズワルド皇太子。

 彼は威厳も何もなくぴょんぴょん飛び跳ねては自分の口を抑えようとするローズ・グロウヴナーを抱き込んでは微笑ましそうな顔で続けた。


「そんな訳でね、ローズは君に自分の影武者をやってもらいたかったみたいなんだ。訓練を受けてる人間じゃないから無理だよって言ったんだけどね、『演劇姫』ならできるからって聞かなくて……」


「オズ様!!!もういいですから!!」


 顔を真っ赤、どころか涙目になりながら赤裸々に全てを語るオズワルド皇太子にローズ・グロウヴナーはわちゃわちゃと飛びかかった。優雅さの欠片もないその行動に、そして今し方告げられた内容にぽかんと惚ける。


「……グロウヴナー様。私の演技……見てくれてたんですか……?」


「……っ」


 悔しげに唇を引き結ぶローズ・グロウヴナーは、私の問いにギリギリと音が聞こえるほど歯を食い縛り、そして黒髪をばっさーっと払って私を指差した。


「クレア・レイストン!!この度の断罪劇での立ち回り、見事だったわ!褒めて遣わすわ!その上で次期皇太子妃たるわたくしが命じます。わ、わたくしの影武者として、そして専属侍女としてわたくしに一生仕えなさい!!拒否権は無いわ!」


 ───そう、どこまでも『悪役令嬢』らしい事を言い放った彼女は、しかしとても『悪役令嬢』らしく無い羞恥と期待に塗れた真っ赤な顔で、そう命令を下したのであった。








「それで、今日はどちらへ行かれるので?」


 もうあの日から5年か、と『映し身の術』がかけられた腕輪を撫でながらローズ様に尋ねる。

 より美しく、より思慮深く、それでいて幸せそうに微笑むようになったローズ様は、今日つけるアクセサリーを吟味しながら楽しそうに答えた。


「映画館よ。『演劇姫』の新作を見に行こうと思ってね」


「……」


 ビシリと固まる。


 才援であるローズ様が作成した映像記録の魔道具を用いた『映画』なる娯楽は、僅か3年で帝国を始めとした全世界中に普及された。


 本来演劇といえば、劇場に赴いて演者がその場で公演を行うのを観劇するものであったが、これを映像記録として魔道具に保存する事で、いつでもどこでも、魔道具さえあれば見られるようになったのだ。


 映像記録魔道具───『映画』の登場により、演劇の幅はぐっと広くなった。後付けで効果や効果音を入れたり、劇中歌を入れたり、視点を変えて見たり。

 まさに演劇界における革命が起きたと言っても過言では無かった。


 そして、そんな主流となった映画およびその映画を放映する映画館で今一番人気を誇っているのは───


「『演劇姫の華麗なる断罪劇』よ。わたくしも監修したのだからしっかり出来は見ておかなくてはね」


 ニマニマと含み笑いを浮かべるローズ様。あえてそう口にするそのいやらしい笑みに、皇太子妃専属侍女と演者の二足の草鞋を履く私はカッと頰を染めた。


「なっ、ちょ……っ!!ローズ様!?」


「ふふふ、皇太子妃の仕事は頼んだわよクレア。セオドールと一緒だからいいでしょう?」


「そう言う話じゃないです!!」


 櫛を片手にワナワナと震える私から逃げるように鏡台から降りるローズ様。悪戯をした子供のような表情で逃げ惑う皇太子妃を止めるべく飛びかかろうとした、その時。


「ローズ?準備はできたか?」


「オズ様!できましたわ!」


「あっちょ、こら!」


 夫婦共用の扉から顔を覗かせたオズワルド皇太子にローズ様が駆け寄る。そしてその後ろにさっと隠れてはふふんと勝ち誇った顔をした。


「オズ様、今日の映画楽しみですわね」


「そうだな。誰も彼も素晴らしい映画だったと言うからなぁ。特に演劇姫の熱の入った演技が素晴らしいと……」


「殿下……!!」


 うんうんと満足気に頷く藍色の皇太子の言にぐぬうううっと唸る。するとその更に後ろからひょっこりとミルクティー色の髪が見えた。


「オズワルド様、ローズ様、あんまり揶揄うとクレアキレますよ」


「おっと、もう今日の公務は放棄すると言われたら困るな。このくらいにしておこう」


「じゃあね、頼んだわよクレア。失敗したら承知しませんからね」


「……行ってらっしゃいませ」


 助け舟を出してくれた影武者仲間に感謝の眼差しを、唯我独尊夫婦に疲れた眼差しを向けながら一礼する。

 王族専用の隠し通路から城下へと繰り出していった二人の背中を見送って、ふう、とため息をついた。


「……疲れたわ、朝から……」


「とか言うけど楽しそうじゃないか、クレア先輩」


「……」


 ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべるミルクティー色の髪の男───オズワルド皇太子殿下の影武者であるセオドール・バウアーの言葉に、私は否定も肯定もせずに目を逸らして腕輪を撫でた。


 途端に自らの容貌が変化する。ウェーブのかかった黒髪、気品溢れる紫瞳、真っ赤に熟れた果実のように湿やかな唇。


 ローズ・フィオル皇太子妃と瓜二つの姿になった私は、バサリとその長い髪を片手で払ってセオドールを睨みつけた。


「全く、嫌味ったらしいわ。貴方の方が実年齢上だったのに未だに先輩だなんて言って」


「わお、その姿で罵倒されると威力が段違いだ」


 ひゅーと口笛を鳴らすセオドールを更にキツく睨む。すると降参とばかりに両手を上げた彼も、その容貌をオズワルド皇太子殿下のものへと変じてみせた。


 そしてそのまま、オズワルド皇太子殿下がローズ様へとするように、するりと私の腰をするりと抱いた。


「それじゃ行こうか、ローズ」


「ええ、オズ様」


 口元には勝気な笑みを、紫瞳には情熱的な輝きを。

カツ、とヒールを打ち鳴らして、私は───クレア・レイストンは、今日も大のファンであるローズ・フィオル皇太子妃を演じて魅せるのだった。



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◾️モンスターテール〜アンデッドモンスター、勇者から世界を守るため『勇者侵攻対策おもてなし本部』を設立する〜』

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挿絵(By みてみん)



◾️コンビニでたまに会う人と100話後に××××する話

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現代恋愛もの。トラウマ持ちのイケメンと酒豪系OLがいつも行くコンビニでとある事件に巻き込まれ仲良くなっていく話です。

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